雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
「ちょっとママァ! 夜のパトロール行くなら、まずは手をつなぐところから始めないと!」
「アンタがあまりにも泣きわめくから諦めて手をつなぐのを許してたけど、プロになってからもはおかしいでしょ! 離しなさいよ!」
アングラヒーロー事務所の玄関先で、『ギャル仕様黒セーラー服』に身を包んだ光己が、自身の腰に全力でしがみつく控えめ女子を必死に剥ぎ取ろうとしていた。
「うわぁぁん! プロになってもママは私のママだもん! 離れたくないよぉ! 一緒にお手繋いで歩くのぉ!」
「おいコラそこの騒がしいコンビ!! 事務所の入り口でギャーギャー内輪揉めしてんじゃねえ! 近所迷惑だ、とっととパトロールに行ってこい!!」
デスクの奥から社長の怒鳴り声が響き、二人は背中を押されるようにして夜の街へと送り出された。
「もー! アンタのせいで社長に怒られちゃったじゃん! そうでなくてもこないだのでイライラしてるんだからね……! 」
「ご、ごめんねママ……。でも、ママが迷子になるといけないから……ね?」
「なるか!ママじゃないっつーの! 同級生!」
光己は深く溜息をつきながらも、夜の繁華街へと足を進めた。
ネオンが妖しく輝く歓楽街。派手なセーラー服に包んで歩く光己と、それにぴったりと寄り添う控えめ女子。その独特すぎる情報量の多さに、路上のキャッチや黒服たちが目を丸くする。
「あれ、こないだの新人ヒーローじゃん! ……え、横にいるの……妹さん?」
「ママァー! やっぱり夜の街は男の人の視線がギラついてるよぉ…」
控えめ女子が光己の腕をギュッと掴んで叫ぶ。
「え……ママ? あの若いお姉ちゃんが子連れパトロールかよ……」
「いや、妹?ママって呼んでるぞ……。あの格好で子持ち? 情報量が多すぎて脳がバグるわ……」
若々しくエネルギッシュな光己が
「今パトロール中だからまた今度ねー♥」
と軽いギャル調であしらう横で、彼女を「ママ」と呼ん慕う同級生。あまりにもミスマッチで不条理な光景に、周囲の黒服たちは呆気に取られたまま二人を見送るしかなかった。
「とりあえず繁華街は異常なしね。次は通学路のほうを確認すしよっか」
「家に帰ってない子がいないかとか、不審者がいないか見回らないとね」
二人が静まり返った公園に差し掛かると、街灯の影にあるブランコに座って、不気味に周囲を伺う一人の男を発見した。
「ねえちょっと何してんのー? こんな時間にー?ウチらから見たら完全に怪しい不審者なんだけどー?」
光己がコスチューム時のギャル口調で声をかけると、男はニチャアと粘り気のある嫌な笑みを浮かべ、立ち上がった。
「うん?僕はお母さんになってくれる幼女を探しているだけだよ。キミたちは……」
男は二人を舐め回すように値踏みし、吐き気を催すような言葉を吐き出した。
「そっちの子は、僕の好みからはちょっと外れてるけど……合格だねぇ! 僕のお母さんにしてあげてもいいよ! ……でも、そっちのお姉さんの方はパスで。ちょっと……いや、かなり歳がいってるからね。そんなハレンチな格好をして若作りしても誤魔化せないよ。ババアは趣味じゃないから」
「うわぁ……気持ち悪……。ちょっと生理的に無理なので、ママ…みっちゃんが捕まえてください」
「こんなときだけみっちゃんって!てかママじゃないっつーの! 同級生でしょうが! ウチが歳いってるってマジ何よ!? ウチへのディスり方ガチで失礼すぎなんだけど! ミッキー❤は永遠の17歳だゾ❤」
「うわ、キツ……。自分で永遠の17歳とか言っちゃうの痛すぎでしょ。同級生ならそっちの子もババアじゃん……。僕、ババアアレルギーなんで…」
その不躾な一言に、光己の怒りが完全に沸点を超え、ドスの利いたマジギレが爆発した。
「――あぁん? 誰がババアだってコラ。もういっぺん言ってみろよクソ生ゴミが」
「ひっ……!?」
光己のギャルペルソナが完全に剥がれ落ち、凄まじい迫力で男を睨みつけたその顔は、のちの息子にそっくりそのまま受け継がれるブチ切れフェイスだった。それまで「ママ」と甘えていた控えめ女子は、一瞬で顔面を蒼白にさせて数歩後ずさり、本能的な恐怖にガタガタと震えだした。
(う、うわぁ……ガチでキレてる……! ママ、普段あんなにブリブリギャルやってるのに、キレたら普通に口の悪いチンピラじゃん……。こ、これからは絶対に怒らせないようにしなきゃ……!)
控えめ女子が心の中で平伏するのを余所に、光己は容赦なく言葉を叩きつける。
「言われなくてもハラワタん中身にぶち込んでやるわ!クソが……! 永遠の17歳をコケにしたそのクソ腐った根性、一生消えないトラウマにして完全にぶっ壊してやる!!」
逃げようと身を翻した男の視界から、光己の姿が一瞬で消え去る。
光己は、予備動作なしで、すでに男の完全な死角――真後ろへと滑り込んでいた。
ギャル口調の仮面を完全に放棄した光己の指先が、男のお尻の最深部を正確に捉える。
「くたばれ!変態ロリコン野郎!!!」
トスッ!!!
『ディープ・グライド・カスタム』を装着した光己の、摩擦係数ゼロの指先が深く突き刺さり、同時に超高純度グリセリンが直腸内部へと高圧で強制注入された。
「ひぎゃあ!??!?!?!」
男の口から、人間とは思えない裏返った悲鳴が飛び出す。
物理的な傷は一切ない。しかし、直腸へダイレクトに強制注入された「200ml/s」の超高圧グリセリンにより、男の脳内は未曾有の強烈な決壊信号によって一瞬でジャックされた。
「あ、あ、が、あ……ッ! ぬ、ぬおおおおおおおおっ!?」
男は白目を剥き、お尻を両手で必死に押さえながら、生まれたての小鹿のようにガタガタと膝を震わせて地面に転がり落ちた。個性の発動や立っていることすら不可能な猛烈な腹痛が、男の精神を無慈悲に蹂虙していく。
「し、尻が……割れる……ッ! あ、あああ……母上……お母さん……ママァァァ……ッ!!」
冷や汗を滝のように流しながら、譫言のように母親を求め始める男。
「ママ……助けてぽんぽん痛いのぉ……お母さん……マ、マ……あ、あ〜〜〜っっっ!!!!」
その瞬間、男の堤防が決壊した。
肉体的には無傷な一撃でありながら、対象の社会的・精神的な尊厳を跡形もなく完全崩壊させる地獄絵図。男はそのまま白目を剥いて完全に行動不能になり、泡を吹き、ピクピクと痙攣しながら地面へと突っ伏した。
「ふぅ……。誰がババアだ?クソが!」
光己はふんぞり返り、衣服の繊維をパツパツに張らせながら、特製の指サックを脱ぎ捨てた。
「さ、さすがママ! 正義の鉄槌、めちゃめちゃ格好よかったよぉ……」
「だからママじゃないってば。……さ、とっとと警察呼んで引き渡すわよ。汚いから近づかないでおこ」
数十分後、公園の周囲は、深夜とは思えないほどのおびただしい赤色灯の光で埋め尽くされていた。
当初は通報を受けてパトカーが一台、のんびりとやってきただけだったのだ。しかし、ブランコの前で繰り広げられていた「あまりにも常軌を逸した尊厳崩壊現場」を目の当たりにした最初の警察官が、恐怖のあまり無線で「大至急の応援要請」を絶叫。その結果、ただ一人の変態を確保するためだけに、今や何台ものパトカーがサイレンを鳴らして公園を完全包囲するという、異様な大騒ぎに発展していた。
「あ、の……ミッキーさん。この男なんですが……さっきから何を話しかけても、これしか喋らなくて……。一体何があったんですか?」
応援に駆けつけた無数の警察官たちがドン引きする中、困惑した一人が男の顔を覗き込む。男はよだれを垂らしながら、虚ろな目で警察官を見つめ、満面の笑みで口を開いた。
「チャーン!」
「え?」
「ハーイ! バブー、バブー、チャーン!!」
完璧に精神の核を破壊され、イクラちゃん状態でしか意思疎通ができなくなった男。
「うわぁ……。マジかよ……。おい、救急車もだ! あと現場に清掃班を大至急回してくれ!」
パトカーがずらりと並ぶ包囲網の横目に簡単な事情説明後、光己はスタスタと事務所への帰路についていた。
「……何がババアアレルギーよ。あのクソ生ゴミ、マジでふざけやがって。ウチのどこがババアなんだよ。だいたいさぁ、アンタがいつでもどこでもウチを『ママ、ママ』って呼ぶから、周りの連中に子連れとか変な勘違いされるんでしょうが!!」
(ひ、ひえっ……! 完全に私に飛び火してきたぁぁ!! ママ、まだ般若みたいな顔してディープ・グライド・カスタムをこっちに向けてるよぉ……! )
「ねえ?聞いてんの? ――」
「わ、私が奢るから!! 帰りにコンビニ寄って、ママ……じゃなくてみっちゃんの好きなもの何でも買って帰ろうよ! ね!? スイーツでも何でも好きなだけカゴに入れなよ!!」
「……はぁ? ……まあ、アンタの奢りなら、今回は許してあげなくもないけど。一番高いやつ選ぶからね」
夜の通学路に、光己のようやく落ち着いたブツブツ声と、控えめ女子の安堵の溜息が響き渡る。
初めて見た爆豪勝己に受け継がれるマジギレフェイスに、本気の恐怖を感じた控えめ女子ではあったが、奢り発言にとりあえず溜飲を下げた光己の怒りが治まるまでは、みっちゃんと数年ぶりに呼ぶ控えめ女子なのだった。
ちょっと、特許申請の準備しなきゃいけないかもしれないことがありますので、2〜3日空きます。