雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』 作:青梅子
「うわー、見てよこれ! スマホの画面に収まりきらないんだけど! マジで映えの暴力じゃん!」
「ミツキ、早く写真撮りなよ! 溶ける前に!」
プロヒーローとしての多忙な毎日を過ごしていたミツキ達。そんな彼女たちは久しぶりに旧交を温めていた。思ったよりも出会いがないなどの愚痴を語りながら、とあるものの到着を待っていた。
そのとあるものとは……とある有名なスイーツ店で【予約必須の超映えデカ盛りスイーツ】だった。
ミツキは友人たちと、山盛りのホイップクリームやカラフルなトッピングが乗った【予約必須の超映えデカ盛りスイーツ】を前に、スマホを構えて大はしゃぎしていた。
ミツキにとっては、可愛くて美味い最高のエンターテインメントだ。
だが、そんなキラキラした空間に、ボサボサ頭の冴えない新聞記者がぬるりと現れ、冷や水を浴びせる。
「ヤレヤレ、まさかプロヒーローがこんな張り子の虎をありがたがって写真に収めているなんてね。ついてきなよ。本物の『デカ盛り』というやつを食べさせてあげるよ」
「……は? 誰このおじさん、空気壊す天才?」
「おじさん…」
「まぁまぁ、山岡さん」
ミツキたちが半信半疑で指定された場所に連れて行かれると、そこにはすり鉢サイズの丼の上へ不自然にそびえ立つ【唐揚げタワー】があった。
一個一個が子供の拳大はある唐揚げが、ピラミッドのように積み上げられている。
「ふふん、どうだいお嬢さんたち! これが本物のデカ盛りメニュー、唐揚げタワー丼だ!」
「すごーい! 山岡さんだっけ?これ食べていいの!? いただきまーす!」
茶色い揚げ物の山に、ミツキは獰猛な肉食獣の如きスピードで食らいつく。
だが、その瞬間、重厚な足音と共に凍りつくような眼光の老人がのっそりと姿を現した──海原雄山である。
「フン……相変わらず程度の低いメシをデカ盛りと言っているのか士郎ッ!!」
「な、何ぃ!? 雄山、なぜここに!」
雄山はフッと鼻で笑うと、ミツキが半分ほど食い散らかした唐揚げタワーの「中身」を冷酷に指差した。
「このような、千切りキャベツで中心部をせこせこと『かさ増し』しただけの紛い物を『デカ盛り』と称して差し出すとはな! 片腹痛い! 揚げることで体積をごまかし、中身はスカスカのキャベツタワーではないか!」(諸説あります)
「な、何っ……! 雄山、お前は何も分かっていない! これは単なるかさ増しなんかじゃない!」
山岡が悔しげに言い返す。
「唐揚げという脂っこいものをこれだけの量食べるんだぞ。立体感を維持するためだけじゃない。途中でキャベツを噛み締めたときのシャキシャキとした食感と、その水分で口内をリフレッシュさせ、最後まで飽きずに食べ進められるようにといえ計算されたものだ!」
「フン、貴様のその計算とやらが浅ましいというのだ!」
雄山は一喝し、一歩前に出た。
「味の濃さに怯え、中身をスカスカのキャベツで誤魔化す。そんなものはデカ盛りに対する甘え、ただの逃げだ! 本物のデカ盛りを見せてやる。もって来いッ!!」
雄山の合図とともに運ばれてきたのは、漆黒の巨大な鉄皿。
そこに鎮座していたのは、圧倒的な質量を誇る【極厚カットのタレ焼き肉】と、黄金色に輝く【山脈のごときメガ盛りチャーハン】のツインタワーだった。
茶色茶色茶色…野菜など一切排除された、視覚だけで血管が詰まりそうな純度100%のエネルギー。
雄山は腕を組み、その圧倒的な質量の前で堂々と言い放った。
「いいか士郎! デカ盛りとはな、炭水化物とタンパク質、脂質の『逃げ場のない暴力』なのだ!! 胃袋に一切の妥協を許さず、ただひたすらに栄養素の過剰摂取を強いる! これこそが、食う者の生命力を試す真のデカ盛りであるのだ!」(諸説あります)
そのあまりにも暴力的なビジュアルと雄山の熱弁を前に、一緒に来ていた栗田ゆう子がハラハラした様子で、しかし容赦のない正論をポロッと口にした。
「え、ええっ……? でも海原先生、それってただの茶色いドカ食い気絶部というか……栄養バランスが崩壊した男の料理、デブの食事なんじゃ……」(諸説あります)
控えめ女子・ギャル子・普通女子
(それな!!!!!)
心の中で一斉に栗田に激しく同意する友人一同。
だが、そんな引き気味の空気を完全に置き去りにして、ミツキはチャーハンと焼き肉を同時にスプーンで強引にすくい、口へ放り込んだ。
「…………」
ミツキはピタリと動きを止め、無言で咀嚼を続ける。
あまりの静けさに、山岡や栗田、友人たちが
(……どうなんだ?)
と唾を飲み込んだ、その瞬間。
「これに比べたら、山岡はんの唐揚げタワーは……カスや……! サラダや!!!」
「な、なんだとーーーっ!?」
絶叫する山岡。
さきほどまであれほどありがたがって喰らっていた唐揚げタワーを、一瞬にしてただの「生野菜」へと罵倒せしめる、あまりにも残酷な宣告。
だが、その暴言とは裏腹に、ミツキの目からはボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちていた。
口いっぱいに広がった雄山の言葉通りの「逃げ場のない暴力」に脳の処理能力を破壊され、もはや感情の制御すらままならず、ただひたすらに、泣きながらチャーハンを貪り食っていたのだ。
(……ッ!! 熱い, 濃い, 美味い……ッ! 胃袋に一切の妥協を許さず、ただひたすらに栄養素の過剰摂取を強いてくる……! これこそが、食う者の生命力を試す真のデカ盛りや……!!)
(諸説あります)
「ハーーーハッハッハ!! 見たか士郎! 所詮貴様のデカ盛りに対する認識はその程度のものということだ!」
高笑いする海原雄山と、地面に両手をついて絶望する山岡。
(……炭水化物とタンパク質と脂質。違いは、千切りキャベツがあったかどうかだけ……。あんなに激しくいがみ合っていても、この二人はやっぱり、血の繋がった親子なんだわ……!)
いつの間にか始まっていた究極のデカ盛りVS至高のデカ盛りの親子対決を、少し離れたところから死んだ魚のような目で見ていた面々は、静かにこう呟くのだった。
『いや。そうはならんやろ。』
尚、どちらも問題なく完食した模様。