雄英高校の闇、伝説の性癖・尊厳破壊ヒーロー『ミッキー』   作:青梅子

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何の為にゴム製品を使う

 そうして「超高機能一般人偽装セーラー服」へとコスチュームを改修し、初めて挑んだ実戦訓練の授業が、無事に終了した。

 さすがに毎日顔を合わせているクラスメイト相手に「迷子の一般人」というハメ殺しの芝居は通用しなかったが、サポート科が計算した通り、黒を基調としたセーラー服のロングスカートは夜闇や建物の影と同化し、さらに布の広がりによって歩行時の足の運びを周囲から完全に隠蔽することで、隠密ヒーロー直伝の『暗殺歩法(ステルス・ステップ)』の隠蔽率を跳ね上げるという絶大な機能性を発揮したのだった。

 ――しかし、みっちゃんは、この日の授業中には一度も『ディープ・グライド』のピストンを駆動させることはなかった。

 いくら訓練とはいえ、うぶな女子高生としての最後のプライドが邪魔をしたのだ。

 さすがに毎日顔を合わせるクラスメイト相手に、あの最悪の尊厳破壊技(カンチョー)をぶち込むことだけは人道的に耐えられない。

 そのため、今日の授業では「音もなく背後を奪う」という位置取りのテストだけで、一度もゴムキャップを消費しないままチャイムを聞いたのである。

 授業の終了を告げるチャイムが鳴り響き、クラスメイトたちがガヤガヤと更衣室へと引き上げていく中、みっちゃんは一人合同武道場の片隅に残り、驚くほど真剣な表情で「装備のメンテナンス」を行っていた。

 彼女の両腕には、肘から手首にかけて、のちの爆豪勝己のグレネード籠手とシルエットレベルで酷似した、不骨でマッシブなドラム型のタンクが鈍く光っている。

 指先へのゴムキャップ(使い捨て指サック)の装着は、実戦での素早い連射性能を考慮し、タンク内の高圧ピストンと連動した『機械仕掛けのカートリッジ式』になっていた。

 トランプのカードをリテイナーに補充するように、タンク側面の細いスリットへ、あのオカモト工業から支給された『業務用・特級薄膜仕様』のゴム製品を、複数枚カチカチと装填(リロード)していく必要があるのだ。

 

「……はぁ。あんな命がけの思いをして、クラスのみんなから必死に隠し通したっていうのにさ……。なんでまた自分でカバンの奥底に仕込んで、わざわざ学校に持ってきてリロードしてなきゃいけないのさ……。私のバカ……大人たちのバカ……」

 

 みっちゃんは誰もいない道場の静寂に向かって、ブツブツと悲哀全開のぼやきを漏らしていた。

 一晩中悩んで守り抜いた社会的尊厳を、授業のために自ら危険地帯(学校)へと再搬入せざるを得なかった己の境遇に、猛烈な理不尽さを感じていたのである。

 

 ヘニョッ、カチッ、ヌルッ、カチッ……。

 

 静かな道場に、金属の冷たい駆動音と、あの独特な光沢のパッケージに包まれた極薄ゴム製品が擦れ合う、生々しく柔らかな音が規則正しく響く。

 黒いセーラー服姿のみっちゃんは、冷徹なまでに隙のない完璧な手の動きでその補充作業を繰り返していた。

 それは彼女にとって、人生で初めて触るゴム製品だった。

 うぶな15歳の少女であり、本来ならぎこちない手つきになって然るべきはずの初体験。

 しかし、お弁当を抜き取った際にも発揮された、血筋たる「持ち前の圧倒的な器用さと天性のセンス」が、ここでも最悪の形でバグを起こしていた。

 天賦の才能のせいで、初めて扱うはずのアイテムであるにもかかわらず、まるで何千回も実戦(意味深)を潜りぬけてきた熟練のプロのように、一切の無駄がない神速の手つきでシュルシュルとリロードが完了していくのだ。

 

(……待って、私。なんで人生で初めて触る製品なのに、こんなに『アレ』をはめ込む手つきが最初から手慣れてるんだろう……。何この悲しい才能……)

 

 己に流れる天才の血筋に、みっちゃん自身が思わず涙を流して虚無に陥る。

 

……カチッ「よし、リロード完了。これで次の実戦訓練は、何人来ても連続でイけるわね……」

 

 みっちゃんが指先をパシィンと鳴らし、誰もいない空間に向かってポツリと呟いたその一言が、扉の向こうの男子生徒の耳に届いた。

 ――そう、たまたま授業の片付けを終えて、道場の扉の隙間からその様子を覗き込んだヒーロー科の同級生男子の衝撃は、彼女の比ではなかった。

 わずかながらの日光が差し込む薄暗い道場。

 さっきまでの激しい訓練で少し着崩れた黒いセーラー服姿の、まだうぶで華奢なはずの■■が――どう見ても『あの夜の大人のゴム製品』にしか見えない四角いパッケージを、初めてのはずの年齢(15歳)でありながら、信じられないほどに手慣れた指先のタッチで、機械内蔵のスティック部分へとシュルシュルと大量にリロードしている姿。

 男子生徒の脳内で、言葉にならないほどの巨大な衝撃波が走った。

 真相を一切知らない思春期真っ盛りの彼の頭は、そのあまりにも破廉恥で、あまりにも過激なビジュアルの破壊力に、一瞬でキャパシティをオーバーした。

 

(なんで……■■のヤツ、さっきの実戦訓練の授業では一回もあの腕の武器を使わなかったのに、なんで今、誰もいないところで、あんなヤバそうな『アレ』を大量にセットしてチャージしてんだ……!?)

 

(あのゴツい腕の装置、まさか『アレ』を自動で指先にセットして、これから(・・・)本番で使うためのカートリッジなのか……!? っていうか、あの手慣れすぎてる熟練の手つきは何なんだよオオオ!!! 15歳のくせに、普段から一体どれだけ『アレ』を扱い慣れてるんだあいつはァァァ!!!)

 

 とんでもない大誤解。しかし、絵面があまりにも完璧な大人の装備にしか見えないが故に、男子生徒の脳は跡形もなく焼き尽くされていく。

 そして極限の恐怖に達した時、先ほどみっちゃんが放った

 

「連続でイけるわね」

 

という不穏な独り言の記憶が、最悪のパズルピースとして脳内でカチリと噛み合ってしまった。

 

(連続でイけるって何がだよオオオオオオ!!! どんな恐ろしい連続戦闘を想定してんだあいつはァァァ!!!)

 

 男子生徒は自身の股間を強く押さえ、顔面を火花でも散りそうなほど真っ赤に染めながら、足音を立てないようにガタガタと震えてその場から敗走するしかなかった。

 のちに、この「初めてのはずなのに、天性のセンスのせいで最初から異様に手慣れている」という、みっちゃんの無駄のない合理的なリロードの手の動きは、息子である爆豪勝己へと引き継がれ、彼が戦闘中にも冷静に籠手を操作し、大爆発への装填を行うあの最高にクールなモーションへと昇華されることになる。

 だが、その最高に格好いいリロードのルーツが、まさか「母親が女子高生時代に、天性の器用さのせいでゴム製品の補充がプロっぽくなってしまい、同級生男子の脳をぶっ壊していた時の動き」だとは、現代の誰も知る由はない。

 自分の知らないところで、ビュー前にもかかわらず、裏社会ではなく「クラスメイトの男子」の性癖を破壊してしまったみっちゃんは、業務用パッケージのゴミを丁寧に回収しながら、次なる実戦に向けて静かに牙を研ぐのだった。

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