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C.E.100――。
戦争は終わった。
少なくとも、世界はそういうことになっている。
二十五年前、オルフェ達アコードによる最後の戦乱も終結した。
ロゴスは歴史の闇へ沈み。
ブルーコスモスは壊滅。
世界があれだけ躍起になって探していた、
ブルーコスモスの残党を先導していたミケール大佐。
最近になって解ったことだが、アコード戦乱の際に
彼らの放った核によってすでに他界しており
実際のところ、ブルーコスモスは文字通り
ミケール大佐の思想という亡霊によって活動が続けられていた。
ナチュラルとコーディネイターは、ようやく共に歩き始めた――。
……そんな風に、誰もが“思いたかった”。
だが。
火種は消えない。
人は、
あまりにも簡単に、憎しみを遺してしまう。
世界は今もなお、薄氷の上にある。
静かな海に見えるだけだ。
その下では、
まだ誰かが剣を研いでいる。
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PHASE-001「紅蓮の継承者」
C.E.100.05.29
初夏の風が吹く晴れた空。
オーブ連合首長国。
アカツキ島。
コンパス極東統合基地、訓練空域。
白煙を裂き、深紅の機体が加速する。
深紅と黒を基調にした重装甲。
鬼神を思わせる鋭角的シルエット。
右手に装備された日本刀型実体剣の風切り音が聞こえる。
――ZGMF-X808/HY666
《クリムゾンフェイス》。
コンパス地上部隊所属、ザラ隊隊長機。
デスティニー系の発展機。
超近接戦闘へ特化した、純粋な“斬るため”のモビルスーツ。
最大の特徴は、
搭乗者の剣術を極限まで再現するため設計された、
666箇所にも及ぶ異常な関節駆動機構だった。
ザラ隊隊長「はぁぁぁぁッ!!」
振り抜かれた刀が、ドラグーン1基を一閃で両断する。
しかし次の瞬間。
上空から降り注いだ光線が、クリムゾンフェイスの肩部を掠めた。
ザラ隊隊長
「またかよッ……!」
コクピット内で、青年が舌打ちする。
19歳だが、まだ感情が顔や言葉に出やすい。
赤みがかった黒髪に鋭い赤の瞳は彼の性格を物語っていた。
シュダ・ザラ。
オーブ軍からコンパスに移籍したシュダは、
コンパス地上部隊のエースとして、ザラ隊の隊長を務めていた。
ザラ隊……
この時代になっても"ザラ"と言えば知らない者など居ない。
シュダの父はアスラン・ザラ。母はメイリン。
アスラン・ザラの名声は、
シュダの祖父にあたるパトリック・ザラの汚名をすでに掻き消していた。
???
『被弾判定です、シュダ』
通信越し。
落ち着いた女性の声。
???
『これで私の13連勝ですね』
シュダ
「っせぇな……!」
まったくもって、両親とは似ても似つかない口の悪さだ。
シュダが睨みつけた先。
白とピンクを基調にした、
優美な機体が空中に静止していた。
大きな鳥が空を羽ばたくような翼。
周囲を漂う77基のドラグーンはさながら、抜け落ちた羽根のようだった。
――ZGMF-SX737P/A
《アブソリュート》。
コンパス宇宙部隊所属、クライン隊隊長機。
フリーダム系列の到達点とも言われる、超高機動殲滅型モビルスーツ。
???
『まだやりますか?』
モニターへ映る少女はヘルメットを外したその表情は、
漆黒のロングヘアを揺らしながら"もう無理でしょう"とでも言いたそうだ。
透き通るような白い肌に紫の瞳。
それは彼女の持つ遺伝子そのものを表していた。
セフィリア・クライン少佐。
シュダ
「……今日はやめだ」
シュダの階級は大尉、つまりセフィリアの方が階級は上、
しかもセフィリアは20歳、年上だ。
にも関わらず、シュダのこの態度、この口調。
規律に厳しく真面目なセフィリアが、これをただ黙認しているわけではない。
その大きな理由の1つは、互いの両親達の関係性にあった。
セフィリアの母はラクス・クライン。
そして、父は……旧姓キラ・ヤマト。
現在は政治的、家柄的な理由から、クライン家の婿養子となり、
キラ・クラインと性を変えていた。
互いに幼い頃から何度も顔を合わせている。
性格的にもシュダが今更敬語で話すとは思えない。
セフィリア
『そうですか』
セフィリアは、少し安心したように微笑む。
それがまた、シュダの神経を逆撫でする。
勝てない。
一度も。
模擬戦績は〇勝13敗。
しかも毎回、あと一歩届かない。
コンパス宇宙部隊クライン隊隊長。
ザフト入隊前の士官学校時代から、
天才。
最強。
と言われ、その両親ゆえに、
"天然のスーパーコーディネイター"とさえ言われていた。
現在は極東基地へ長期滞在中であり、
シュダ達地上部隊との合同演習のため地上へ降りてきていた。
セフィリア
『でも、前よりかなり速くなっていました』
『斬撃後の隙も減っていました』
『ただ、踏み込みに力が入りすぎて、攻撃のタイミングが読めてしまいます』
本気で言っている。
セフィリアは慰めやお世辞を言うような、
薄っぺらい言葉を口にはしない。
ましてや、憐れみや煽りなんて感情は持ち合わせてすらいない。
幼い頃から誰よりも優れ、常にトップの成績を納めた彼女にとって、
そんな感情や言葉はまったく意味を持たなかった。
シュダ
「慰めなんかいらねぇよ」
セフィリア
『慰めではありません。事実です』
嫌味が無い。まったく。
だから余計に腹が立つ。
セフィリア・クラインは、そういう女だった。
---
コンパス極東統合基地。
モビルスーツ格納庫。
着艦したクリムゾンフェイスから、蒸気が噴き出す。
コクピットハッチが開き、ヘルメットを外しながらシュダが降り立った。
???
「お疲れ、シュダ」
格納庫に響く明るい声だ。
振り向けば、赤髪の少女が手を振っていた。
快活な笑顔。
サクラ・ホーク・アスカ。
短くした制服のスカートに短めの赤髪は、かつての母を彷彿させた。
オーブ軍所属の三尉ではあるが、
二名編成のザラ隊へ、出向扱いの少尉待遇で、
作戦ごとに派遣されることが多かったのだが、
"オーブ軍からの指示"としかシュダは聞かされていない。
サクラ
「また負けたんだ?」
シュダ
「お前も、うるせぇよ」
シュダよりも1つ若い18歳。
自分のことを棚に上げて"生意気"とは言わないが、
とにかく"ウルサイ"。
サクラ
「13連敗?…だっけ?」
シュダ
「数えてんなよ」
サクラ
「あははっ」
サクラは楽しそうに笑う。
昔からそうだった。
シュダが不機嫌な時ほど、妙に距離を詰めてくる。
そんなサクラがシュダにとっては、"ウルサイ"存在であった。
"昔から"というのも、俺は幼い頃、
両親の仕事の都合で(主にオヤジの)、シンのオッサン夫婦に預けられていた。
そんなわけでサクラとは幼馴染だった。
だから、軍も違えば階級も俺が上なのだが、
サクラの俺に対しての態度に俺はもちろん、誰も咎めることはなかった。
シュダ
「そもそもなんでコンパスに居るんだよ」
「作戦があるなんて、俺は聞いてねえぞ」
サクラ
「なによ!アタシにはちゃんと"オーブ軍コンパス間の連絡係"」
「っていう大事な任務があるの!」
サクラがザラ隊に協力支援するようになったのは最近のことだった。
確かに彼女には"オーブ軍コンパス間連絡係"という職位があった。
独立した組織であるコンパスであったが、
創設当初よりオーブ軍とザフトからの移籍組が多く、
いまだにコンパスはオーブとプラントと、密接な関係を持っており、
双方の視察も兼ねてか、コンパスとオーブ軍、ザフト間で、
連絡係の行き来が行われていた。
シュダ
「だったら早く執務室行けよ」
サクラ
「はいはい、行きますよ。行けばいいんでしょ」
文句を言いながらサクラが格納庫から出ていくと、
それに呼応するかのように、反対側の通路の扉が開いた。
肩までのピンクの髪を揺らしながら、静かな足音が響く。
異質な空気を纏った、小柄な少女が格納庫に入ってきた。
黒の制服はさらに、その異質感を増大させるようだった。
アリシア・クライン。
16歳。クラインの性
年齢からも解るようにセフィリアの妹だ。
重複したSEEDを持つ彼女は、
スーパーコーディネイター第二世代と呼ばれていた。
同じ"スーパーコーディネイター"の二つ名を持つ姉妹だったが、
姉のセフィリアとは対照的な異質の存在。
まるで光と影を、そのまま人にしたような2人。
アリシア
「……シュダ」
小さく、儚い声。
シュダが振り返ると、アリシアは目の前に居た。
サクラとは2つしか歳は違わないが、
軍人には似つかわしくない細く小柄の少女。
それは、彼女の先天性的な特徴からなのかもしれない。
アリシアはターナー症候群でノンバイナリーだった。
シュダ自身も最近になって初めて聞かされたのだ、
どうやら、家族以外にはほとんど知るものは居ないらしいが、
アリシアに限らず、今では珍しいことではなかった。
シュダ
「どうした?」
アリシア
「任務だって」
シュダ
「テロか?」
アリシアは小さく頷く。
アリシア
「大洋州連合東部」
シュダ
「近いな……またコスモ・オラクルか」
アリシア
「うん…多分」
コスモ・オラクル。
エヴィデンス01――“羽クジラ”を神格化した、新興宗教武装組織。
近年では各地で旧式のMSによるテロを繰り返し、
コンパス最大の対処対象となっていた。
アリシア
「でも、今回はちょっと変」
アリシアが呟く。
アリシアのこういった勘は鋭い、
理由はシュダ自身も理解出来てはいないが、
アリシアの、勘は頼りにしていた。
シュダ
「変……か、お前が言うならなんかあるな」
アリシア
「わからない……」
その瞬間。
格納庫全体へ警報が響き渡った。
基地内放送
『コンディションレッド発令!総員第一戦闘配備!』
『所属不明機接近!パイロットはモビルスーツにて待機してください』
シュダ
「まさか!?ここに来やがったのか!?」
基地内放送
『光学望遠に視認、機体装甲部にコスモ・オラクルの紋章を確認!』
『ジン、ウィンダム、グフなど17機確認!』
『1機大型の熱源を感知……ザムザザーです!』
『ザラ隊は即時発進!3機にて迎撃に当たってください』
シュダ
「おいおい、マジでここに攻めて来てんのかよ!敵さん本気か?」
「ん?3機?サクラも出るのか?」
サクラ
「ちょうど今、司令からコンパスザラ隊への作戦支援の命令が来たとこ!」
連絡係の業務に指揮官執務室に向かっていたサクラだったが、
警報を聞いて戻ってきたようだ、すでに自機に向かって走り出している。
その前にはアリシアが。
アリシアは放送で"コスモ・オラクル"と聞こえた時点で走り出していた。
その姿を、白い制服を着た絵に描いたような上官
セフィリアが格納庫上層ブリッジから見下ろしていた。
その隣には、銀紫の超ロングヘアを揺らす、長身の綺麗な22歳。
セフィリアの部下となるクライン隊の女性。
ミリア・ジュール大尉。
ミリア
「セフィリア、私達は?どうするの?」
セフィリア
「命令は出ていません。ザラ隊に任せます」
セフィリアは静かに答える。
紫の瞳の奥で、セフィリアは何かを見ていた。
アリシア…シュダ…コスモ・オラクル…
それはセフィリア自身にも自覚はなかった
セフィリア乗機のアブソリュートは、
その綺麗な白い翼を畳んで、飛び立つ時を待っていた――。