C.E.100.06.22
コンパス地上部隊極東統合基地では、今日もいつもと変わらないやり取りが繰り広げられていた。
シュダ
「まだ治んねえのか?」
工具を指先でくるくると回しながら、コウタは呆れと苛立ちを隠そうともせず答えた。
コウタ
「バカ言うな。毎回毎回、無茶苦茶な使い方しやがって」
「あーーー! またコードが焼き切れてるよ!」
アリシア
「シュダは少し雑」
冷静な分析だった。
コウタ
「少しじゃないっすよ」
シュダは納得がいかない様子で首を傾げる。
シュダ
「なんでラグナロクデスティニーは壊れねえんだよ」
アリシアは淡々と答えた。
アリシア
「私はシュダより丁寧」
コウタ
「見習え」
相変わらずの空気が流れる中、基地内放送が鳴り響く。
基地内放送
『シュダ・ザラ大尉、アリシア・クライン中尉』
『至急、指揮官執務室へお願いします』
『繰り返します。シュダ・ザラ大尉――』
コウタ
「お前、またなんかやったのか」
疑いの眼差しがシュダへ向けられる。
シュダ
「ハアー? やってねえよ…………多分」
アリシア
「……叱責」
呆れたような一言。
シュダ
「いや、アリシア。俺なんもやってねえだろ」
アリシア
「行けば解る……」
コウタ
「クリムゾンフェイスは治しとくから、さっさと行ってこい」
シュダとアリシアは指揮官執務室へ向かった。
ビーーーッ
シュダがチャイムを鳴らすと、すぐに中から大きな声が返ってきた。
シン
「来たか。入ってくれ」
執務室へ入ると、シンは山積みになった書類へ次々とサインをしている最中だった。
シン
「悪いな。バタバタしてて」
シュダ
「俺、またなんかやらかしました?」
思い当たる節はない。
それでも、とりあえず自分から聞いてみる。
シン
「?……ああ、今日はそういう話じゃない」
「というか、お前」
「また、なんかやったのか」
シュダ
「やってねえよ」
「とりあえず聞いてみただけだ」
シンは小さく溜息をつき、本題へ入る。
シン
「一言で言えば、人事異動の連絡だ」
アリシア
「人事異動……」
その言葉を聞いた瞬間、アリシアの胸に小さな不安がよぎる。
――まさか、シュダと別の隊になるのでは。
シン
「まずはシュダ、お前の妹のクレア」
「ザフトからコンパス宇宙部隊に、一時的な出向という形で移籍してもらう」
シュダ
「クレアを?」
アリシア
「………………………」
アリシアはわずかに眉を寄せ、黙って続きを待つ。
シン
「ああ」
「でだ。宇宙部隊は再編」
「ミリアが隊長のジュール隊となる」
「クレアはその副官だ」
「すでに20日付でクレアはアリエルス乗艦」
「ミリアは今日付で正式に部隊長に就任だ」
「明日には連携訓練なんかも始まるだろうな」
シュダ
「へーーー。ミリアさんが隊長か」
アリシア
「……姉さんは?」
シュダ
「そうだよ」
「セフィリアはどうなるんすか?」
シンは一度静かに目を閉じると、浅く息を吐いてから口を開いた。
シン
「そこが、お前らと関わりが深い話だ」
シュダもアリシアも、何も言わず次の言葉を待つ。
わずかな沈黙――
シン
「セフィリアは一時的にザラ隊に同行」
「書類上は上級士官の同行だ」
シュダ
「……俺が勝手ばかりやるから見張りっすか」
『セフィリアはザラ隊に同行』その言葉を聞いた瞬間、アリシアは大きく目を見開いたまま動きを止めた。
シン
「心配するな」
「俺はそこまで、お前を低く評価していない」
シュダ
「冗談っすよ……でも、つまり」
アリシア
「……襲撃頻度の高いココの戦力強化」
シン
「そうだ」
「クライン総裁からの直接指示だ」
アリシア
「……パパの指示……」
シュダ
「またサクラ借りればいいじゃないっすか」
シン
「今のところ襲撃ポイントがココだってだけで」
「あくまでもオーブの領内だ」
「オーブの立場としても、毎度毎度コンパスが撃退しました、では」
「国としても、国軍としても立つ瀬がない」
「オーブも領海内と領空内の巡回を強化している」
シュダ
「なるほどね」
「いろいろ大変っすね、オーブも」
アリシア
「……いつからですか」
少しだけ落ち着きを取り戻したのか、アリシアが静かに尋ねる。
シン
「書類上は今日だが、シャトルの到着は明日だ」
シュダ
「アイツが隊長っすか」
どこか不貞腐れたように聞く。
シン
「いや、現場での指揮はお前に任せる」
「アリシアとの連携も仕上がっているしな」
アリシア
「多分……作戦の立案や責任」
シン
「正解だ」
シュダ
「つまり、俺とアリシアは今まで通りにやって」
「責任はセフィリア持ち」
シン
「だからといって勝手ばかりするなよ」
シュダ
「わかってるって」
アリシア
「私はシュダにしか従わない」
シン
(お前ら二人とも、セフィリアが隊長だって言っても)
(どうせ、そうやって言うこと聞かねえだろ)
(だから俺が昨日)
(キラさんとディアッカさんに頭下げて、何とか上級士官の同行にしてもらったんだよ)
(お陰様で、この申請書類と訂正書類の山だ)
シュダ
「シンさん?」
シン
「あ? ああ、なんでもねえ」
「とにかく明日の朝にはセフィリアが到着する」
アリシア
「………」
何かを考え込むように俯くアリシア。
シン
「……」
シンもまた、三人の関係を知らないわけではなかった。
シン
「話は以上だ」
指揮官執務室を後にしたシュダとアリシア。
廊下を歩くアリシアは、なおも無言だった。
考え込んでいるのか。
それとも、悩んでいるのか。
シュダ
「……大丈夫だ。隊長は俺だ」
アリシア
「……うん」
また――姉と比較されるかもしれない。
苦手な姉。
セフィリアのザラ隊への同行は、アリシアにとって。
大切なプライベートな領域へ踏み込まれるような、そんな感覚だった。