クリムゾンフェイスの漆黒のウイングが展開する。
シュダ
『シュダ・ザラ、クリムゾンフェイス、出る!』
ラグナロクデスティニーに続き、クリムゾンフェイスが勢いよく雨空へ飛び上がる。
その直後、ようやくアブソリュートのOSが起動を完了した。
セフィリア
『セービングフェイズシフト装甲、送電開始』
グレーの装甲が順に発光し、白とピンクの機体色へと染まっていく。
セフィリア
『セフィリア・クライン、アブソリュート、出撃します』
アブソリュートは急上昇し、先行した二機へ追いつく。
雨の中の戦闘がはじまる。
セフィリア
『シュダ』
『現場指揮はあなたです』
『どう動きますか』
シュダ
『アリシアは右! 俺は左を堕とす!』
アリシア
『了解』
ラグナロクデスティニーが敵集団の右側へ飛び込む。
同時に、クリムゾンフェイスも左側へ一直線に突撃した。
セフィリア
『私への指示は無いんですか!?』
シュダ
『お前は少佐だろ! 勝手にやれよ!』
言い終わるより早く。
クリムゾンフェイスの日本刀が敵機を一刀のもとに斬り裂く。
次の瞬間。
凄まじい閃光が走った。
ドーーーーーーン!!!!
敵機は爆発四散する。
通常のバッテリー動力機では考えられない規模の爆発。
アリシア
『……やっぱり』
敵は回避するどころか、自ら斬撃へ飛び込んだように見えた。
アリシアの予測は正しかった。
シュダ
『だったら、一気に行くぞ!』
クリムゾンフェイスが日本刀を臍眼に構える。
その瞬間、複数の分身体が一斉に飛び出した。
かつて、デスティニーSPEC2がブラックナイツとの戦いで披露した、実体を持つ分身。
クリムゾンフェイスはシュダのSEED発動に呼応して、使用出来るように調整されていた。
1機の分身が刀を振るい。
1機の分身が脚部ビームブレードで敵機を蹴り裂き。
更に1機が逆手の刀で切り上げる。
3機の敵機が同時に爆発し、分身体が吸い込まれるように本体に戻っていった。
その戦いぶりは、かつてのシンを彷彿とさせる荒々しさだった。
セフィリア
『………』
アブソリュートは両翼を大きく広げ、空中で静止する。
セフィリア
『ドラグーン……全基射出』
4枚の翼から19基ずつ。
計76基のドラグーンが一斉に射出される。
さらに左腕のシールド一体型ドラグーンが展開。
ビームブレードを形成し、アブソリュートの正面へ配置された。
主兵装である大鎌にも紫色のビーム刃が走り、アブソリュートは優雅に構える。
空一面を覆うドラグーン群が、アブソリュートを中心に円陣を描いた。
セフィリア
『……舞います』
クラシック音楽の指揮者のように、大鎌を静かに振るう。
その動きに合わせ、シールドドラグーンを除く76基が一斉に敵へ襲い掛かった。
敵機は30機以上。
それを遥かに上回るドラグーンの群れ。
セフィリア
『重力下でも使える第三世代ドラグーンは……』
『やはり、こういう時に便利ですね』
花びらが舞うようにドラグーンが空を駆け巡る。
直後。
複数の敵機が立て続けに爆散した。
大多数の敵機を圧倒的な火力で殲滅する。
それこそが、アブソリュートの開発コンセプトだった。
しかし。
2機の敵機がドラグーンの包囲網を突破する。
1機がアブソリュートの背後に回り込んだ。
セフィリア
『……』
前面へ展開していたシールドドラグーンが瞬時に反応。
ビームブレードが敵機を真っ二つに切り裂いた。
更に1機が、シールドドラグーンの防御から外れた、アブソリュートの前面に突撃する。
セフィリア
『私に鎌を使わせるのは………シュダ以来ですね』
構えたビーム大鎌を振り降ろす。
縦に裂かれた敵機に閃光が走り大きな爆発を起こす。
アブソリュートは……。
無傷。
数秒前に敵機を両断したシールドドラグーンは、すでに前面へ復帰し、ビームシールドを展開していた。
キラを彷彿とさせる操縦技術。
ラクスを思わせる冷静な判断力。
セフィリアが『天然のスーパーコーディネイター』と称されるだけの理由がそこにあった。
突然、アブソリュートのコックピット内に警告音が鳴り響く。
ドラグーン1基、損傷。
セフィリア
『!?』
接近した2機へ対処中だったとはいえ。
特攻という単純な攻撃の旧式モビルスーツ相手に、ドラグーンが損傷を受けるなど、セフィリア自身は考えもしていなかった。
シュダ
『邪魔だ! セフィリア!』
クリムゾンフェイスは、自らの進路を塞いでいたドラグーンを、脚部の脛に装備されたビームブレードで蹴り飛ばしていた。
セフィリア
『何をしているんですか!?』
アリシア
『姉さん、邪魔』
『他のところをやって』
ラグナロクデスティニーで、大剣の腹でドラグーンを1機弾き飛ばしながら言った。
セフィリア
『何を勝手な!?』
シュダ
『敵でもないのにウロチョロさせるな』
『邪魔なんだよ』
セフィリア
『特攻だと判明したのなら』
『私がドラグーンで全機撃墜した方が危険も少ないです』
シュダ
『言っただろ』
『俺とアリシアで十分だ』
その頃、低空からは極東基地所属のモビルスーツ部隊が続々と戦場へ向かってきていた。
セフィリア
『そういうわけにはいきません』
アブソリュートのドラグーンが1機の敵機へビームを放つ。
同じ敵機へ、クリムゾンフェイスも日本刀を振り下ろした。
次の瞬間――
ドーーーーーーン!!!!
凄まじい爆発がクリムゾンフェイスを飲み込む。
シュダ
『うわぁーーー!!』
至近距離で爆発を受けたクリムゾンフェイスは姿勢を崩し、そのまま海面へ向かって落下していく。
アリシア
『シュダ!!』
その瞬間。
アリシアの左目の瞳が金色へと染まった。
――重複SEED、発動。
アリシア
『もういい』
『姉さんは下がって』
『私が全部やる』
セフィリア
『え……!?』
ラグナロクデスティニーが空中で静止する。
シュダ
『くっ! ダメだ……姿勢制御出来ねぇ』
アリシア
『姉さんはシュダの落下を止めて』
アリシアの口から、機械のように淡々と演算結果が紡がれていく。
アリシア
『全周囲敵性反応二十七、脅威度マッピング完了』
『最短殲滅ルート生成。未来予測三・二秒先に固定』
『運動予測アルゴリズム再構築。フィードフォワード制御更新』
『メタ運動野パラメータ最適化。姿勢制御リミッター解除』
『慣性補正最大。全関節駆動レスポンス更新』
『パワーフロー近接戦闘モードへ再配分。核融合炉出力最大許容域』
『パルマフィオキーナ高密度収束。実体剣共振同期』
『連続斬撃シーケンス生成。迎撃演算開始』
『殲滅まで予測時間六・八秒――』
シュダ
『ア……アリシア?』
アリシア
『迎撃を開始……殲滅します』
ラグナロクデスティニーが動いた。
一機。
二機。
三機――。
巨大な実体剣が閃光となって敵機を両断し、続けざまにパルマフィオキーナが敵機を内部から破壊していく。
爆発。
閃光。
爆発。
一分の隙もなく、無駄もなく。
油断も、躊躇も、慈悲も存在しない。
ただ最も効率的な手順だけを選び、機械的に敵を戦闘不能へ追い込んでいく。
それはまるで、屠殺場で淡々と稼働する機械のようだった。
アブソリュートは落下するクリムゾンフェイスへ急降下し、辛うじて受け止める。
セフィリアは視線を上げ、ラグナロクデスティニーを見つめた。
セフィリア
『……アリシア』
『これが……重複SEEDの力……』
シュダ
『痛ってぇ……』
ラグナロクデスティニーの大剣が最後の敵機を真っ二つに斬り裂く。
ドーーーーーーン!!!!
敵機は爆散し、戦場は静寂に包まれた。
ラグナロクデスティニーは大剣を肩へ担ぎ、海面近くまで降下したアブソリュートとクリムゾンフェイスを静かに見下ろしている。
その姿に、セフィリアはわずかな恐怖を覚えた。
シュダ
『アリシア! ……っつ!痛って』
『アリシア! 大丈夫か!?』
アリシア
『…………………!? シュダ!?』
『大丈夫?』
シュダ
『バカ』
『お前が大丈夫かって聞いてんだ』
アリシア
『……大丈夫』
通信ウィンドウに映るアリシアの左目は、いつものグレーへ戻っていた。
ラクス・クラインによく似た、穏やかな瞳。
再び発動したアリシアの重複SEED。
そして、かつての父――キラ・クラインを思わせる、一瞬での機体設定変更能力。
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極東基地。
指揮官執務室。
シンは窓際に立ち、戦闘の一部始終を静かに見つめていた。
シン
「キラさん……ラクスさん……これは……」
「ただ事じゃないですよ……」