極東基地内。
指揮官執務室。
セフィリア
「失礼します」
シン
「悪いな。呼び出して」
シンは軽く片手を上げ、セフィリアを迎えた。
セフィリア
「いえ。ご要件は……」
「私のザラ隊への独断指示の件でしょうか?」
シン
「独断? あー、司令部の指示無しでのモビルスーツ発進か?」
「タイミング的にはギリギリセーフだ」
「そもそも、ザラ隊の指揮権はお前に委ねているからな」
「お前が判断したのなら、それで構わない」
セフィリア
「承知しました。ありがとうございます」
胸の内にあった緊張が少しだけ解ける。
しかし、シンの表情はすぐに真剣なものへと変わった。
シン
「聞きたいのはアリシアについてだ」
「お前……どう思う」
セフィリアも表情を引き締める。
セフィリア
「カタログスペックを越える性能の真相はわかりました」
「あの子……アリシアは戦闘中にOSを書き換えて、即時対応しています」
シン
「それは俺も通信で聞いていたから理解出来ている」
「あの独り言だろ?」
セフィリア
「はい」
短い沈黙が流れる。
シンは腕を組み、ゆっくりと言葉を続けた。
シン
「それよりも、そのOS書き換えをやってのけたアリシア自身だ」
「端的に言うが、お前にも出来るか?」
セフィリア
「出来ます……ただし戦闘中にあそこまで瞬時には不可能です」
「それもたった7秒足らずで、あれだけの数の敵機を堕とすとなると」
「私ならアブソリュートでなければ出来ません」
天然のスーパーコーディネイターと言われるセフィリアですら。
事前のOS書き換え。
多数のドラグーンを有するアブソリュート。
その全てが揃っていても、同じ戦闘は再現出来ない。
それほどまでに、アリシアの力は規格外だった。
シン
「だよな」
「やっぱり重複SEEDか?」
セフィリア
「私はそう考えますが、断定は出来ません」
「重複SEED自体も、科学的な根拠はありませんし」
シン
「SEEDだって、実情としては不明瞭だからな」
長年戦場に立ち続けてきたシンですら、その本質を知る者ではない。
だからこそ、軽々しく結論は出せなかった。
セフィリア
「ラグナロクデスティニーのコンセプトは」
「アリシア専用のカスタムだと伺っています」
シン
「ああ」
「開発も設計もコンパスとはなっているが」
「詳細は俺にも知らされていない」
セフィリア
「OSにも遺伝や神経といった文言が表記されています」
「やはり、そういった特異な能力に関係したシステムなのでしょうか」
シンは窓の外へ目を向ける。
雨は相変わらず降り続いていた。
シン
「もしかすると……だな」
「まあ、今日の事はさすがに大事になりそうだ」
「今度キラさんにも聞いてみるよ」
セフィリア
「わかりました」
シン
「で、アイツはどうだ? 負傷したようだが」
セフィリア
「シュダはアリシアが医務室に付き添いました」
「見たところ大きな怪我などは無いようです」
シンは苦笑する。
答えは聞く前から分かっていた。
シン
「どうせアイツ」
「大丈夫って言ってんだろ」
セフィリア
「はい」
「片足を引き摺って、頭から血を流して言っていました」
シン
「アイツの『大丈夫』は信用するな」
セフィリア
「どういう意味ですか?」
シン
「どんな事態でも、大丈夫か?って聞いたら」
「アイツは『大丈夫』としか返さねえ」
「父親と一緒だよ」
「そういうとこ」
その言葉に、セフィリアは思わず笑みを零した。
セフィリア
「そうですか……」
「では、今後は彼に『大丈夫か?』とは問わないように心掛けます」
クスクスと笑うセフィリアを見て、シンも肩の力を抜くように笑った。
シン
「話はだいたい解った」
「一応、報告書も上げておいてくれ」
セフィリア
「わかりました」
「本日中に提出しておきます」
一礼すると、セフィリアは静かに執務室を後にした。