極東基地内。
医務室。
シュダは軍医と軍看護師から処置を受けている。
その隣では、アリシアが静かに様子を見守っていた。
医務室の窓には、大粒の雨が絶え間なく打ち付けている。
窓を流れる雨筋をぼんやりと眺めながら、シュダは何となく外へ視線を向けていた。
軍医
「少しテレビのボリュームを上げてもいいか?」
シュダ
「あっ、ああ。いいっすよ」
軍医がリモコンを操作すると、静かだった医務室にニュース番組の音声が流れ始める。
アナウンサー
『先程、オーブ国内にて出された緊急避難勧告の続報です』
『衛星軌道より未確認のモビルスーツ部隊がアカツキ島へ奇襲』
『現在はコンパスのモビルスーツ部隊により』
『全て迎撃され、事態は収束したとのことです』
ニュースキャスター
『最近になって、これで4度目ですね』
『やはりコンパスかオーブ軍への』
『攻撃や牽制と見て間違いないのでしょうか』
コメンテーター
『一連の襲撃はコスモ・オラクル』
『との話もあるようですが、世界規模の宗教です』
『対応は慎重になっているようですね』
ニュースキャスター
『続いて国外のニュースです』
画面が切り替わり、各国の映像が映し出される。
アナウンサー
『先日、正式に王位を継承されたラムレザル第三連王ですが』
『継承以来、来年のG4への参加が噂されています』
『本年度は、カイ第一連王が参加されており』
『来年はレオ第二連王かとの話もあるようですが』
『一般ではラムレザル第三連王が参加されるのでは』
『と噂になっているようです』
ニュースキャスター
『オーブ国内では、ラムレザル第三連王の来訪なども』
『一部の政府関係者で話されているようですね』
コメンテーター
『継承して間もないですからね』
『オーブだけではなく、プラントや大西洋連邦への来訪も』
『近々行われるかもしれませんね』
アナウンサー
『一方、大西洋連邦首都ワシントンでは』
『連邦設立120年の式典が実施され』
『ヴァーノン大統領が融和政策を発表し』
『国内外で話題となっています』
コメンテーター
『ここ20年大きな戦争は起きていませんからね』
『大西洋連邦としては、そろそろプラントとの関係を』
『良好にしたいといったところでしょう』
ニュースが一区切りつくと、軍医は静かにテレビの電源を切った。
再び医務室には、雨音だけが響く。
シュダ
「王位とかG4とか式典とか、世界は呑気なもんだな」
軍医
「彼らは政治家だ。我々のような軍人ではないよ」
シュダ
「政治と戦いは無関係ってことっすか」
軍看護師
「そうではないわ」
「戦いを大きくしないためにも」
「今、世界の政治が大切なのよ」
シュダは納得し切れない様子で、小さく肩をすくめた。
シュダ
「そうっすか」
「攻撃してくる奴らに政治なんて関係ねえと思いますけど」
アリシア
「攻撃には意味がある」
短く、しかし迷いのない言葉だった。
軍医
「そう」
「人種、エネルギー、領土、食料、宗教」
「人も動物も攻撃することには意味があるんだよ」
その言葉を聞き、シュダは少しだけ考え込む。
そして静かにアリシアへ視線を向けた。
シュダ
「……なあ、アリシア」
「お前はなんで、さっき『力』を使ったんだ?」
アリシアはすぐに答えた。
迷いはなかった。
アリシア
「シュダが危なかったから」
その一言だけだった。
しかし、それ以上の理由は必要なかった。
軍看護師
「守りたかったのね」
「その乙女心も戦いね」
アリシア
「……乙女心……?」
聞き慣れない言葉に、小さく首を傾げる。
その仕草に、軍看護師は思わず笑みを浮かべた。
軍医
「君達の両親方も守るために戦い」
「今もなお、軍上層部や政治家として」
「守る戦いを続けている」
シュダ
「………………」
軍看護師
「さあ、終わったわよ」
「しばらくは安静にしていなさいよ」
シュダ
「ありがとうございます」
処置を終えたシュダは立ち上がる。
その隣へ、アリシアも静かに並んだ。
二人は医務室を後にする。
廊下へ出ると、窓を叩いていた雨音は少しだけ弱まっていた。
キラ。ラクス。カガリ。
アスラン。メイリン。
シン。イザーク。ディアッカ――。
数多の英雄達が守り抜いた世界。
そして今もなお、その世界を守り続けている。
シュダは――。
アリシアは――。
セフィリアは――。
英雄の子供達は、それをただ継承し。
ただ守る定めとして、モビルスーツに乗っているのか。
答えはまだ出ない。
それでも彼らは戦い。
傷を負い。
迷いながらも前へ進み続ける。
世界は回り。
彼らの想いもまた巡っていく。
彼らと世界が共鳴し。
彼らと同じように、世界もまた静かに動き続ける。
気付けば、雨はもう――止んでいた。