シュダとアリシアは、カフェ『セレーネ』を後にした。
夕暮れの柔らかな陽射しが街を黄金色に染め、店の扉が静かに閉まる。
マリュー
「またね」
「シュダくん。アリシアちゃん」
ムウ
「お前ら、セフィリアとも仲良くしてやれよ」
「アイツだって、ほんとはお前らと……」
マリュー
「ちょっと」
「そういうことは、彼ら自身で……ね」
ムウ
「……そうだな」
シュダ
「なんすか」
「気になるじゃないっすか」
アリシア
「………」
マリュー
「まあまあ」
「気にしない、気にしない」
「ほら。街に行くんでしょ?」
シュダ
「あー、そうだった」
「つい長居しちまったな」
「行こうぜ。アリシア」
アリシア
「うん」
シュダ
「じゃあまた」
「マリューさん。ムウさん」
シュダは振り返りながら軽く手を振る。
その隣でアリシアは、いつものように丁寧に深く頭を下げた。
その時だった。
???
「待たせたな」
「やっと思い通りのコーヒー豆に仕上がったよ」
不自由な片足で器用に台車を押しながら、一人の隻眼の男がカフェへ姿を現した。
マリュー
「あら」
「バルトフェルドさん」
アンドリュー・バルトフェルド。
かつてザフト軍の士官として戦場を駆け、キラとの激戦で大きな負傷を負いながらも、その後は一貫してラクスを支え続けてきた男。
退役した今は、自らの夢でもあったコーヒー農園を営み、穏やかな日々を送っている。
バルトフェルド
「ん?」
「さっきのは……シュダとアリシアか?」
ムウ
「ああ」
「休みでデートなんだとさ」
バルトフェルド
「まあ……そうだな」
「これからアイツらも、大変になりそうだしな」
ムウ
「そうそう」
「少しくらい羽を伸ばしとかないとね」
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シュダとアリシアがオロファトの中心街へ到着した頃――。
その遥か上空。
静かに宇宙(ソラ)を巡航するコンパス宇宙部隊旗艦《アリエルス》の傍らでは、新たな主力部隊として編成されたジュール隊の二人が、実戦さながらの戦闘訓練を行っていた。
ミリア
『相変わらず、奇抜な戦い方するわね』
クレア
『奇抜ではありません』
『効率的と言ってください。隊長』
クレアの駆るナイトメアジャスティスには、6基のドラグーンが装備されている。
しかし、それらは一般的なビーム射撃兵器ではなかった。
ミリア
『隊長っての、慣れないから辞めてよね』
『剣が飛んでくるドラグーンなんて』
『ちょっとズルくない?』
そう言いながらも、フリューゲルフリーダムはクレアの放ったソードドラグーンを、流れるような機動で次々と回避していく。
クレア
『隊長は隊長です』
『なら隊長も、ドラグーンを改良すればいいじゃないですか』
同時に、ナイトメアジャスティスもまた、10基のドラグーンから放たれるビームの雨を紙一重で潜り抜けていく。
ミリア
『いやよ』
『使いにくいそうだし』
『そもそも誰が改良すんのよ』
クレア
『そうですか?』
『便利ですよ』
『グリップがあるので、手で持っての運用も出来ますし』
『必要なら私がやりますよ』
1基のソードドラグーンを左手で掴み取る。
右手にはガンブレードタイプの剣。
双剣を構えたナイトメアジャスティスは、一気にフリューゲルフリーダムとの距離を詰めた。
ミリア
『急に近接戦に持ち込むなんて』
『ほんとズルい』
『嫌よ。奇抜な形状にされるじゃない』
そう言いながらも、その表情には余裕がある。
長槍を巧みに操り、一定の間合いを保ったままクレアの接近を許さない。
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アリエルス艦内。
ブリッジ。
オペレーター
「艦長」
「あの二人、喋りながら踊ってません?」
ユーリ
「まったく……」
ユーリ・アレクセイ艦長は、小さく息をつくと二人へ通信を開いた。
ユーリ
『ミリア大尉。クレア少尉』
『遊んでないで、真面目にやりなさい』
ミリア
『やってますよー。艦長』
クレア
『当たらないんです!本当に!』
二人の戦闘データを見つめながら、ユーリは静かに思案する。
そして結論を出した。
ユーリ
『………わかりました』
『では、たった今から近接戦闘は禁止です』
『互いに最低五十メートルの距離を維持しなさい』
クレア
『え!?』
『私の機体は近接仕様……』
ユーリ
『……わかりましたね。クレア少尉』
クレア
『……了解しました』
ミリア
『なにそれ!?』
『いきなり有利になったんだけど』
再び訓練が始まる。
フリューゲルフリーダムは十分な距離を保ち、十基のドラグーンによる遠距離攻撃へと切り替えた。
クレア
『くっ!!』
一見、防戦一方に追い込まれたかに見えたナイトメアジャスティス。
しかし、その機体は鋭い反応速度でビームをかわし続けると、今度はソードドラグーンを一斉にフリューゲルフリーダムへ向けて放つ。
ミリア
『やっぱりやるわね。クレア』
迫るソードドラグーンを長槍で次々と叩き落としながら、ミリアは笑みを浮かべた。
ユーリ
『そこまでです!!』
『両機とも帰艦しなさい』
二機が減速し、アリエルスへ向けて進路を変える。
ユーリ
「さすがは、あのフリーダムとジャスティスの」
「後継機を任されている二人ですね」
ミリア
『はぁ……はぁ……』
クレア
『ふーーっ』
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アリエルス艦内。
ブリッジ。
オペレーター
「艦長」
「いまのって、どういう意図だったんですか?」
ユーリ
「昨日の極東基地への奇襲は、モビルスーツによる特攻だったと聞いています」
「つまり、近接戦闘は危険です」
オペレーター
「なるほど……」
「だから遠距離戦での訓練を」
ユーリ
「ああ」
「問題はなさそうですね」
訓練を終え、帰艦していく2機を静かに見つめながら、ユーリは胸中で独り言を漏らす。
ユーリ
(それよりも、あの二人の連携……)
(他者から見れば、まるでダンスに見える)
(それほどまでに息が合っているということです)
一拍置き、ユーリは静かに目を細めた。
(セフィリア少佐……)
(もしかすると、あなたの戻る場所は――)
(無くなるかもしれませんよ)