ガンダムSEED LEGACY   作:shuda

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PHASE-013「夕凪の約束」シーン2/3

オーブ――。

 

シュダとアリシアは、リニアに乗って首都オロファト市街地へやって来た。

アリシアが「行ってみたい」と願った場所。

それは軍港でもフェリー港でもない。

ただ、自然のままに広がる浜辺の海だった。

 

浜辺は賑やかな商業地を抜けた先にある。

人混みを避けるように二人はリニアからバスへ乗り継ぎ、静かな海岸へ向かった。

 

バスに揺られる車内。

窓から差し込む午後の日差しの中で、アリシアは少しだけ眠たそうに目を細めていた。

 

シュダ

「疲れたか?」

 

アリシア

「大丈夫」

「久しぶりにゆっくりして、気が緩んでるだけ」

 

シュダ

「お前、休みでもほとんど基地に居るだろ」

「たまには気ぃ抜いといたほうがいいんだよ」

 

アリシア

「……わかった」

 

やがてバスがゆっくりと停車する。

海岸沿いには古い民家が並び、その向かいには高い堤防が続いていた。

扉が開くと、ほのかに潮の香りが流れ込んでくる。

 

シュダ

「こっちだ。アリシア」

 

堤防の一角には、海へ降りるための階段が設けられていた。

二人はゆっくりと階段を上り、堤防を越える。

 

その瞬間――。

 

アリシアは思わず目を見開いた。

視界いっぱいに広がる、果てしない浜辺。

どこまでも続く青い海。

寄せては返す波の音。

鼻をくすぐる濃い潮の香り。

まだ六月だというのに、夏を思わせる強い陽射し。

 

そして――。

 

その景色の隣には、シュダがいた。

 

プラントで育ったアリシアが知る浜辺は、人工的に造られたものだけだった。

こんな本物の海を見るのは初めてだった。

 

以前、サクラへ向かって言った言葉。

『別だから』

あの時は、自分でもその意味を理解できていなかった。

シュダは、自分にとって『別』の存在。

それが何という感情なのかまでは、まだ分からない。

 

それでも――。

 

アリシアは少しだけ、その意味を理解した気がした。

 

シュダ

「いいだろ?ここ」

 

アリシア

「……うん」

 

シュダ

「昨日の雨のせいで、ちょっと波がキツいから」

「海に入るのは辞めといたほうがいいけどな」

 

アリシア

「見てるだけでいい」

 

海を――なのか。

それとも、シュダを――なのか。

海風に髪を揺らすシュダの横顔を見つめながら、アリシアは静かに立っていた。

 

シュダ

「海が見たいって言ってたけど」

「こんなので良かったか?」

 

アリシア

「うん」

「良かった」

 

しばらく二人は何も話さず、波の音だけを聞いていた。

やがてシュダが口を開く。

 

シュダ

「他には?」

「行ってみたいところあるか?」

 

アリシア

「……」

「シュダの家は?」

「ここから近い?」

 

シュダ

「まあそうだな」

「歩いたらちょっと遠いけどな」

 

アリシア

「そこから見える?」

 

そう言って、堤防の上を指差した。

 

シュダ

「んーー」

「ギリギリ見えるかもな」

 

二人は堤防へ上り、高台から住宅街を見渡す。

 

シュダ

「あー、あれだな」

「あのグレーの二階建ての家」

「見えるか?」

 

アリシア

「うん」

「……誰も居ないの?」

 

シュダ

「そうだな」

「母さんもあまり帰って来てないみたいだし」

「クレアはザフトに入ってからプラントに引っ越した」

「……オヤジは……知らねえな」

「ほとんど家に居た記憶がない」

 

アリシア

「……そう」

 

少し間を置いて、再び尋ねる。

 

アリシア

「サクラの家も近い?」

 

シュダ

「ああ」

「3軒隣だな」

「サクラんとこは庭が広いから、すぐ解ると思う」

 

アリシア

「あの白い家?」

 

シュダ

「そうそう」

「今日も時間があったら帰ろうかなとも思ってたけど」

「特に用も無いしな」

「どうせ、誰も居ねえし」

 

何度も口にする言葉。

 

『誰も居ねえ』

 

父・アスランとは距離がある。

妹・クレアとも、今では離れて暮らしている。

母・メイリンも仕事で忙しい。

 

ザラ家には、誰もいない。

その言葉は、アリシアの胸にも静かに残った。

 

自分もまた、姉セフィリアと比べられ続けた。

ザフトへ進んだ姉とは違い、自分は逃げるようにオーブ軍へ入った。

 

『誰も居ない家』ではない。

 

自分から家を出たのだ。

だからこそ、シュダの何気ない言葉が胸に刺さった。

 

アリシア

「中心街に行ってみる」

 

シュダ

「中心街?」

「商業地だから人多いぞ?」

「大丈夫か?」

 

アリシア

「私が守ってる街を見てみたい」

 

シュダ

「……なるほどね」

「わかった」

「行くか」

 

アリシア

「うん」

 

二人は再びバスへ乗り、オロファト中心街へ向かった。

少しずつ陽が傾き始める。

平日の夕方。

それでも商業地区には多くの人が行き交い、買い物や談笑を楽しんでいた。

 

シュダとアリシアは目的も決めず、テナントが立ち並ぶ通りをゆっくり歩く。

 

アリシア

「昨日もアカツキ島で戦闘があったのに」

「みんな気にしてない?」

 

シュダ

「オーブは昔からそういう国ではあるけどな」

「まあ、戦争なんて俺らも産まれる前だし」

「平和ボケって言うのか?」

「そんなところだろ」

 

アリシア

「私達がちゃんと守ってるから?」

「気にしなくてもいい……」

 

シュダ

「そうだな」

「この日常を、俺達が守るんだ」

 

アリシア

「私も守りたい」

 

その瞳には、新たな決意が宿っていた。

 

その時――。

 

???

「シュダ?……ともしかしてアリシア?」

 

聞き覚えのある明るい女性の声に、二人は同時に振り返る。

そこには、大きな買い物袋をいくつも抱えたルナマリアと、メイリンが立っていた。

 

ルナマリア

「何してんの?」

「こんなとこで」

 

メイリン

「シュダ、あなたまたそんな髪ボサボサにして」

「アリシアも久しぶりね。こんにちは」

「というか、シュダ!あなた怪我してるじゃないの」

 

シュダ

「母さん!?」

「おばさんも!?」

 

ルナマリア

「おばさん言うな」

 

アリシアは静かに頭を下げた。

 

アリシア

「……こんにちは」

「怪我は打撲と擦り傷だけです」

「全治1週間と聞いています」

 

シュダ

「母さんも休みなのか?」

 

メイリン・ザラ。

ルナマリアの妹であり、アスランの妻。

そして、シュダとクレアの母でもある。

 

ルナマリア

「私がね」

「セールだからって無理やり休ませたのよ」

 

メイリン

「お姉ちゃん強引だから」

「大した怪我ではないなら良かったわ」

 

ルナマリア

「アリシアも確かコンパスなんだっけ?」

 

アリシア

「……はい」

「シュダの部隊です」

 

皆、幼い頃から面識がある。

特にシュダとクレアは、幼少期をシンとルナマリア夫婦に預けられていた時期もあり、ルナマリアは実の叔母のような存在だった。

 

ルナマリア

「相変わらずねぇ、アリシアは」

「セフィリアは?」

「元気にしてるの?」

 

アリシア

「……多分」

 

今の姉妹の関係を、ルナマリアはまだよく知らない。

その空気を察したメイリンが、さりげなく会話を切り替える。

 

メイリン

「ほら」

「お姉ちゃん、もう行こう」

 

ルナマリア

「えーー」

「もうちょっと甥っ子とアリシアとも話したいのにーー」

 

メイリン

「じゃあね、アリシア」

「シュダ。あんたは次帰ってくるなら前もって言いなさい」

「お母さんがちゃんとご飯用意しとくから」

 

シュダ

「ああ」

「でも、そういうのはもっと帰ってないオヤジに言えよ」

 

メイリン

「お父さんは……」

「落ち着いたら家族四人で食事でもしましょう」

 

シュダ

(母さんもオヤジも、そんな暇ないだろ……どうせ)

 

シュダ

「わかった、わかった」

 

その横で、アリシアは静かに会釈をした。

 

アリシア

「………サクラより五月蝿い」

 

シュダ

「ふっ……そうだな」

 

二人が並んで歩き去っていく。

その後ろ姿を、ルナマリアとメイリンは微笑みながら見送っていた。

 

ルナマリア

「ねえ、メイリン」

「あの子達って付き合ってんの?」

 

メイリン

「知らないわよ」

「そんなこと」

 

ルナマリア

「おかしいなぁ」

「私はてっきり、シュダはウチのサクラだと思ってたんだけど」

 

メイリン

「サクラは、お姉ちゃんほど強引じゃないからでしょ?」

 

ルナマリア

「誰が強引よ」

 

そう言い返しながらも、小さく笑う。

 

ルナマリア

「でもまあ……」

「シンに似てて」

「ウジウジするとこあんだよね……あの子」

 

メイリン

「私は、シュダの……」

「ああいう女性を寄せ付けるところ、本当に嫌」

「アスランさんそっくり!!」

 

ルナマリア

「ふふっ、言えてる」

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