機動戦士ガンダムSEED LEGACY C.E.100 作:shuda
その日の午後――。
極東基地の遥か地下深く。
ターミナル秘密ドック。
静まり返った秘密ドックで、ソルは一人の女性へ軽く頭を下げた。
ソル
「メイリン顧問、ご無沙汰しています」
メイリンは肩をすくめ、小さく苦笑する。
メイリン
「私たちがここで顔を合わせるってことは」
「良くないことが起こってるってことなのよねえ」
そう言うと、小さくため息をついた。
メイリンは情報顧問という立場でターミナルに所属している。
元々ターミナルは、ラクスの父シーゲル・クラインを陰から支えるために設立された組織だった。
しかし現在では、オーブ、プラント、スカンジナビア王国、そしてコンパス。
国家や組織の垣根を越えて情報と技術を共有する、世界規模の秘密組織へと姿を変えていた。
ソル
「そういえば、先日お互い任務中でしたが」
「息子さんに会いましたよ」
メイリン
「あら?」
「私も偶然、昨日オロファトで会ったのよ」
「まさかアリシアが一緒だったわ」
ソル
「私も会ったのはオロファトでしたが」
「またザラ隊がオロファトに?」
メイリン
「それがね」
「二人で休みを取って、オロファトにいたのよ」
どこか嬉しそうに話している。
しかし、その笑顔には母親らしい複雑な感情も混じっているように、ソルには見えた。
ソル
「シュダがアリシアとですか」
「意外ですね」
「サクラもアリシアも、シュダには特別な想いがあるとは感じていましたが」
「てっきり行動を起こすのはサクラかと思っていました」
メイリン
「やっぱり、あなたは気付いてた?」
「サクラはねえ」
「姉さんも言ってたけど、あんまりガツガツ行かないタイプだから」
ソル
「でも、シュダはアスランさんに似て鈍感ですからね」
メイリンは思わず吹き出した。
メイリン
「そうなのよ」
「モテるくせに鈍感なの」
「アスランさんそっくり」
今度は逆に怒っているようにもソルには見えた。
ソル
「私は案外、シュダ自身はセフィリアではないかとも思っています」
メイリン
「え? そうなの?」
「セフィリアにはしばらく会ってないけど」
「へぇーー」
「シュダも意外なところへ行くわね」
ソル
「まあ、私のただの勘ですけどね」
メイリンは意味深に笑う。
メイリン
「あなたの勘は、ご両親と一緒で無碍にはできないもんなあ」
少し間を置き、今度は悪戯っぽく尋ねた。
メイリン
「ところで、あなたはどうなの?」
ソル
「私ですか?」
一瞬だけ苦笑を浮かべる。
ソル
「私は『こんな身体』ですから」
「なかなか、そういう浮いた話はありませんよ」
ソルはコーディネイター第三世代の性的特性ではなく、ナチュラルでありながら偶然にも両性具有として生まれた。
普段の生活では周囲にも自然と受け入れられ、本人もそれを必要以上に気にしてはいない。
だが、恋愛となれば話は別だった。
本人にとっても、それは決して簡単な問題ではない。
もっとも、メイリンからこうした話題を振られること自体を、不快に思うことはなかった。
そしてメイリンも、それを理解している。
メイリン
「今はコーディネイターにも多い問題になってる」
「アリシアもそうだし、確かエターナルセカンドの艦長や」
「ザフトのハインライン隊長もそうでしょ」
「あなたなら全然大丈夫だと思うわよ」
ソル
「まあ、縁があれば……というところですかね」
メイリン
「相談なら私が乗るわよ」
少し楽しそうに笑うメイリンに、ソルも穏やかに笑みを返した。
ソル
「世間話はこれぐらいにして、メイリンさん」
「カガリ代表からの封書です」
「即時開封するようにとのことです」
そう言って封筒を差し出す。
メイリンは表情を引き締めると、すぐに封を切り、中身へ目を通した。
メイリン
「………これ」
「半分、あなた宛ね」
ソル
「なるほど」
「それで即時開封ということでしたか」
封書には、カガリからの短い指示が記されていた。
『07.02までソルを貸す』
『すまないが、協力してイリュリア連王国』
『特に第三連王ラムレザルの周辺を調べて欲しい』
『必要であればモルゲンレーテも使ってくれて構わない』
ソル
「これはこれは」
「モルゲンレーテの兵器も使い放題ですか」
メイリン
「さすがにアカツキやエターナルは必要ないでしょうけど」
「キャバリアーのミラージュコロイドは必要になりそうね」
「時間がないわ」
「早速お願い」
「キャバリアーには、ターミナルから3名スタッフを出すわ」
ソル
「わかりました」
アカツキ島海底部。
ターミナル海底カタパルト。
深海へと続く巨大なカタパルト。
静かな格納庫で、アポカリプスストライクへキャバリアーが慎重に装着されていく。
機体各部のロックが次々と固定され、出撃準備が整った。
ソル
「やれやれ」
「たった一週間での調査とはねえ」
「隠密移動での往復時間を入れたら、実質4日しかないじゃないの」
ぼやきながらも、ソルは迷いなく操縦桿へ手を伸ばす。
コックピット内へ電子音が響く。
『General Unified Networked Dynamic Analysis Matrix-system』
システムが順次起動し、各モニターへ正常を示す表示が流れていく。
メイリン
『ORB-X117アポカリプスストライク、システム起動確認』
『発進、どうぞ』
ソルは深く息を吸い、静かに応えた。
ソル
『ソル・デ・フラガ、アポカリプスストライク、出るぞ!』
発進と同時に、キャバリアーがミラージュコロイドを展開。
機体は光を歪ませながら、その姿を海中へ溶け込ませていく。
誰にも気付かれることなく。
アポカリプスストライクは、深海の闇へ静かに消えていった。