機動戦士ガンダムSEED LEGACY C.E.100 作:shuda
C.E.100.07.06
帰路につくラムレザルの大艦隊が、インド洋へと差しかかった頃。
歓待という非日常は終わりを告げ、各国は再び、それぞれの日常へと戻っていく。
タケミカヅチ改もまた、通常の巡回警戒航路へと復帰していた。
シルヴィア
「あーーー。また退屈な仕事の始まりねぇ」
サクラ
「ぼやいてると、また怒られるよ」
シルヴィア
「やっぱり私も『王女』とかやってみたいなあ」
サクラ
「アンタが王女だったら」
「国民が迷惑するわよ」
シルヴィア
「失礼ね。どういう意味よ」
サクラ
「そういう意味よ」
シルヴィア
「でもさ」
「思ってたより普通だったよね」
サクラ
「そう?」
「アタシにはすごく威厳があるように見えたけど」
シルヴィア
「そんなの服装とか仕草でどうとでもなるわよ」
サクラ
「そうかなぁ」
「あっ。でも、笑った顔は可愛い女の子って感じがしたかも」
シルヴィア
「……アンタと一緒で、低身長で巨乳だしね」
サクラ
「なにそれ」
「バカにしてる?」
シルヴィア
「してないわよ」
「ある種のステータスだって言ってんのよ」
サクラは納得がいかないといった表情で、じっとシルヴィアを見つめる。
そんな視線など気にも留めず、シルヴィアはニヤニヤと笑っていた。
シルヴィア
「それよりもさ」
「明日」
「コンパス行くんでしょ?」
サクラ
「そうね」
「ラムレザル第三連王関連の連絡とは聞いてるけど」
シルヴィア
「そんなのどうでもいいのよ」
シルヴィアは人差し指をサクラへ向ける。
シルヴィア
「わかってんの?」
「明日よ? 明日」
サクラ
「……誕生日」
「でも、シュダの誕生日じゃなくて私のよ?」
「どうにも出来ないじゃない」
シルヴィア
「違うわよ」
「そんなの、あくまでもきっかけ」
「あとは、その巨乳使って何とかしなさいwww」
サクラ
「またバカにした!」
シルヴィア
「ごめん、ごめん」
笑いながら謝るシルヴィアに、サクラは頬を膨らませる。
だが、その胸の奥では。
『誕生日』
という言葉だけが、静かに残り続けていた。
C.E.100.07.07
極東基地。
食堂近くの通路。
この日、07.07はサクラ・ホーク・アスカの誕生日だった。
しかし、本人はそんなことを意識する間もなく、オーブ軍連絡係としての任務を遂行していた。
リュウタ
「これはサクラ三尉」
「お久しぶりですね」
サクラは姿勢を正し、素早く敬礼した。
サクラ
「シモンズ中佐、おはようございます」
リュウタ
「今日は久しぶりの連絡係ですか?」
サクラ
「はい」
「先日のラムレザル第三連王来訪の詳細連絡です」
リュウタ
「……なるほど」
リュウタは静かに頷く。
リュウタ
「つまり、ラムレザル連王の訪問はオーブだけではなく」
「コンパスにも関わる案件だった……」
「ということですか」
サクラ
「おそらくは……」
「詳細はアスカ指揮官に伺ってください」
リュウタ
「わかりました」
「ご苦労様です」
サクラは軽く会釈すると、そのまま指揮官執務室へ向かった。
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極東基地内、指揮官執務室。
コンコン──
サクラは扉をノックし、室内へ入る。
サクラ
「失礼します」
「オーブ軍所属、サクラ・ホーク・アスカ三尉」
「連絡係の任務に伺いました」
シン
「ああ」
「入ってくれ」
サクラは書類をシンへ手渡した。
父と娘。
本来ならそう呼び合う間柄。
だが今、この部屋にいるのはコンパス極東基地指揮官と、オーブ軍連絡将校である。
互いに私情を挟むことはない。
シンは受け取った書類へ視線を落とした。
シン
「………………」
静かな時間が流れる。
やがて一枚一枚確認を終えたシンは、小さく息を吐いた。
シン
「おいおい……」
「なるほどね」
「そういうことか」
再び書類へ目を落とし、内容を整理する。
そして顔を上げた。
シン
「わかった」
「サクラ三尉」
「いつも助かる」
「ありがとう」
サクラ
「いえ」
「失礼しました」
踵を返そうとした、その時だった。
シン
「あーー、ちょっと待ってくれ」
サクラ
「?」
シン
「……サクラ」
仕事ではなく、父親としての表情になる。
シン
「お前、シュダとはどうなってる」
サクラ
「え!?」
シン
「この前な、母さんに聞いたんだ」
「シュダとアリシアがオーブの街でデートしてた」
「ってな」
サクラ
「……それは……アタシも知ってる」
シン
「何してんだよ、お前」
サクラ
「だって!」
「アリシアが誘ったって聞いたし」
「シュダも乗り気だったらしいし」
「そんなのアタシに止められないもん」
「ってか、アタシが知ったのもセフィリアに聞いたのが初めてだったし」
「それも二人が出掛けた後だし」
シン
「はぁーー……」
シンは大きく溜息をついた。
娘の恋愛相談など、本来なら自分の役目ではない。
それでも、放っておけなかった。
シン
「お前、今日誕生日だろ」
サクラ
「……うん」
シン
「せっかくのタイミングで、ここに来たんだ」
「ちょっとは頑張ってみろ」
サクラ
「それは……シルヴィアにも言われた」
シン
「シルヴィアって……」
「お前が仲良くしてる」
「ノイマンさんとアグネスのとこの子か」
サクラ
「そう」
シン
「まあ」
「俺が言えるのはそれだけだ」
少しだけ笑う。
シン
「いいな」
「そのまま何もせずに帰んなよ」
サクラ
「……わかってるよ……」
シン
「あー、それと」
シンの表情が更に優しくなった。
シン
「ルナ……母さんが、明日の休みはちゃんと帰って来いって言ってたぞ」
「メイリンも呼んでパーティするらしい」
「俺も早めに帰るけど」
「お前も早めに帰るようにしろよ」
サクラ
「……わかった」
サクラは静かに頷くと、一礼して執務室を後にした。
誕生日。
シルヴィアにも、シンにも背中を押された。
それでも、サクラの胸の中にある不安は、まだ消えることはなかった。