機動戦士ガンダムSEED LEGACY C.E.100 作:shuda
サクラ
(アイツ……どこに居るんだろ)
(食堂かな)
シンの執務室を後にしたサクラは、食堂へ向かおうと廊下を歩いていた。
その時だった。
???
「ハッ!」
???
「ヤッ!!」
ドンッ!!
聞き覚えのある声と、身体がぶつかる鈍い音が訓練所の方から響いてくる。
サクラは自然と足を止め、そのまま訓練所へ視線を向けた。
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極東基地内、訓練所。
シュダ
「痛ってーーー」
「相変わらず素手だとアリシアには勝てないな」
アリシア
「シュダが弱すぎるだけ」
剣術を主戦術とするシュダは、実のところ素手での格闘戦はあまり得意ではない。
対するアリシアは、複数の体術を修得している近接戦闘の専門家。
武器を持たない勝負では、最初から勝敗は見えていた。
サクラ
「稽古中?」
シュダ
「いや」
「そろそろ終わろうかと思ってたとこだ」
「お前は?」
「久しぶりに連絡係か?」
サクラ
「そう」
「アタシも今、終わったところだけどね」
アリシア
「…………」
短く視線が合う。
その瞬間。
サクラには、アリシアの視線がいつもより少しだけ冷たく感じられた。
それが気のせいなのか、本心なのか。
サクラには判断がつかなかった。
シュダ
「ちょうどいいや」
「これから飯なんだけど」
「お前も食ってけよ」
「いいだろ? アリシア」
アリシア
「……どっちでもいい」
シュダ
「?」
「どっちでも?」
「まあいいや」
「ちょっと着替えてくるから待っててくれ」
サクラ
「わかった」
シュダ達が訓練所の奥へ向かう。
その背中を見送りながら、サクラは誰にも気付かれないよう、小さく心の中でガッツポーズをした。
まさか。
シュダの方から食事に誘ってくれるとは思ってもいなかった。
サクラ
(でも……)
(アリシアも居るんだよね……)
嬉しさと緊張が入り混じる。
素直には喜びきれない自分がいた。
しばらくして、着替えを終えたシュダとアリシアが訓練所から戻ってきた。
シュダ
「待たせたな」
「じゃあ、行こうぜ」
サクラ
「うん」
自然とサクラは二人の後ろへ下がる。
並んで歩く二人の背中が、どこか出来上がった空気をまとっているように見えた。
シュダ
「動いたから肉食いてぇな」
アリシア
「私はサラダでいい」
シュダ
「だから肉食えっての」
アリシア
「昨日食べた」
シュダ
「いやwww今日も食えよ」
二人のやり取りは、いつものように自然だった。
サクラは笑うことも、話に入ることもできず、ただ後ろを歩く。
その時。
ふとシュダの耳元に視線が止まった。
サクラ
「あれ?」
シュダ
「ん?」
サクラ
「シュダ」
「そのピアスって無くしたんじゃなかった?」
シュダ
「お前もかよ」
「この前はコウタにも同じこと言われたんだよ」
苦笑しながら耳に触れる。
シュダ
「そんなに前に持ってたのと似てるかなぁ」
「これはアリシアが買ってくれたんだよ」
サクラ
「!?」
「……アリシアが?……」
シュダ
「ああ」
その言葉に、サクラの視線は自然とアリシアへ向く。
だがアリシアは振り返ることもなく、何も答えなかった。
ただ静かに歩き続ける。
シュダ
「そういや」
サクラ
「?」
シュダ
「サクラ」
「お前、今日誕生日だよな」
その瞬間。
アリシアの耳が、わずかにピクリと動いた。
サクラ
「う……うん」
アリシアがシュダへピアスを贈った。
その事実だけがサクラの頭を支配していた。
今のサクラにとって、自分の誕生日などどうでもよかった。
シュダ
「悪りぃ」
「何も用意してねえや」
「また今度、なんか買って渡すよ」
サクラ
「あ……ありがとう」
その時。
急にアリシアが足を止めた。
シュダ
「ん?」
「どうした?」
アリシア
「……なんでもない」
再び歩き出すアリシア。
しかし、その胸の内には小さな波紋が広がっていた。
アリシアは、シュダの誕生日を知らない。
そして、自分自身の誕生日すらシュダへ伝えたことがなかった。
サクラとアリシア。
二人は同じ時間を歩きながらも、まったく違う理由で、言葉にできない敗北感を抱いていた。
サクラ
「あのさ」
シュダ
「ん?」
サクラ
「アタシ、ちょっとオーブ軍の用事思い出したから」
「やっぱり帰るね」
シュダ
「そうなのか?」
「まあ仕方ねぇな」
「ちゃんと飯は食えよ」
サクラ
「わかった」
サクラは笑顔を作ってその場を離れる。
そして二人から見えなくなると、小走りで駆け出した。
……オーブ軍の用事など無い。
ただ、この場から逃げたかった。
これ以上。
二人を見ていることが、耐えられなかった。
――この時。
アリシアとサクラは、一度も直接言葉を交わすことはなかった。
互いの存在は認識している。
互いに意識もしている。
その沈黙に、シュダだけは最後まで気付いていなかった。
サクラがオーブ軍へ戻り。
シュダとアリシアは、いつものように食堂で食事を取っていた。
その時。
シュダの端末へ着信が入る。
画面には『シン・アスカ』の名前が表示されていた。
シュダ
「ウッス」
シン
『!?』
『「ウッス」じゃない』
つい先程までサクラと話していたこともあり、その軽すぎる返事にシンは一瞬だけ眉をひそめた。
だが、すぐに指揮官として気持ちを切り替える。
シン
『アリシアも側に居るか?』
シュダ
「ああ」
「ウサギみてぇに人参ポリポリ食ってるよ」
アリシアは人参スティックをくわえたまま、じろりと横目でシュダを睨んだ。
シン
(ったく……サクラのやつ)
(いったいコイツの何が良いんだ?)
そんな考えが頭をよぎる。
しかし、それを表に出すことはなかった。
シン
『……食事中か』
『なら終わってからでいい』
『悪いが二人とも執務室まで来てくれ』
シュダ
『また俺らに任務かよ』
『シンさん、ちょっと俺らに頼りすぎじゃねえ?』
シン
『自惚れるな!!』
珍しく、シンの怒声が通信越しに響いた。
シン
『お前らだけじゃない』
『他にも仕事は振っている』
一拍置き、さらに強い口調で続ける。
シン
『わざわざセフィリアを地上に降ろした意味を、もう一度よく考えろ!!』
それは上官としての叱責。
責任者としての叱責。
そして。
育ての親としての叱責だった。
そこに、サクラのことは一切関係ない。
純粋に、部隊を預かる指揮官としてシュダを戒めたのである。
シュダ
「すいませんでした」
以前、シンは言っていた。
『お前達を低く評価しているわけじゃない』
だが、キラの判断でセフィリアが極東基地へ配属された。
戦力強化。
その言葉の裏を返せば。
――地上部隊、特にザラ隊だけでは戦力が足りない。
そう受け取ることもできる。
その現実を、シュダはこれまで意識しないようにしてきた。
だが今。
シンの叱責によって、その事実を改めて突きつけられた。
調子に乗っていた。
その自覚はある。
だからこそ、言い返す言葉は何一つなかった。
珍しくシュダは、自分自身の未熟さを素直に受け止め、静かに反省していた。