ガンダムSEED LEGACY   作:shuda

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PHASE-007「潮風の彼方」

C.E.100.06.12――。

 

オーブ連合首長国国防本部所属強襲機動戦艦《タケミカヅチ改》は、

予定されていた哨戒任務の終盤を迎えていた。

穏やかな陽光が甲板を照らし、潮風が制服の裾を優しく揺らす。

 

緊迫した戦場とは無縁の、束の間の日常。

 

その甲板では、二人の女性士官が機体整備後の最終確認を終えようとしていた。

 

サクラ

「これで終わりかな?」

 

ヘルメットを抱えたサクラが、大きく背伸びをする。

 

隣では、同じく作業を終えたシルヴィア・ノイマンが、

端末を確認しながら頷いた。

 

シルヴィア

「うん。カゲロウも異常なしね。予定どおり報告できそうよ」

 

シルヴィア・ノイマン。

 

タケミカヅチ改配属小隊の二尉であり、ハーフコーディネイター。

 

シルヴィア

「私もあなたみたいに専用が欲しいわ」

 

サクラ

「アンタは最新のカゲロウ任されてるじゃない」

 

シルヴィア

「何言ってんの。しょせん量産機じゃないのよ」

 

二人は柵にもたれながら、海を眺める。

平穏だからこそ交わせる他愛ない会話。

 

やがてシルヴィアが、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

シルヴィア

「……ところで、あなた」

 

サクラ

「ん?」

 

シルヴィア

「最近どうなのよ?」

 

サクラ

「何が?」

 

シルヴィア

「何がってシュダくんよ。私と同い年だっけ?」

 

その一言で、サクラの肩がぴくりと動いた。

 

サクラ

「な、何よ急に!」

 

シルヴィア

「分かりやすいなぁ」

 

サクラ

「違うってば!」

 

シルヴィア

「違わないでしょ?」

 

くすくすと笑うシルヴィア。

 

シルヴィア

「違う。って何が違うのよ。ちゃんとアプローチしてるの?」

 

サクラ

「してないわよ!」

 

シルヴィア

「私だったら、さっさと言っちゃうけどなぁ」

 

サクラ

「そんな簡単じゃないって」

 

シルヴィア

「幼馴染ゆえにってやつ?」

 

しばらく言い合った後、サクラは小さくため息をついた。

 

サクラ

「……でも」

 

シルヴィア

「でも?」

 

サクラ

「尊敬はしてるよ。」

 

少しだけ頬を赤くしながら続ける。

 

サクラ

「強いし、コンパスに出向した時は、ちゃんと部下として見てくれるし……。」

 

シルヴィア

「うん」

 

サクラ

「そういう人だから」

 

シルヴィアは優しく笑った。

 

少し間があり。

 

シルヴィア

「あなたも大変ね」

 

サクラ

「だからそういうんじゃないって!」

 

少し離れた場所で休憩していた一般兵たちの会話が、

潮風に乗って聞こえてきた。

 

一般兵A

「聞いたか?」

 

一般兵B

「ああ、イリュリア連王国の話だろ?」

 

一般兵A

「ラムレザル様が正式に王位へ就かれたって」

 

一般兵B

「若い連王だって聞くけど、国民からの信頼は厚いらしいな」

 

一般兵A

「これからイリュリアも変わるかもしれないな」

 

二人は自然と顔を見合わせた。

 

サクラ

「イリュリア連王国……。」

 

サクラが小さく呟く。

シルヴィアも頷いた。

 

シルヴィア

「まだ新しい国よね。」

 

サクラ

「うん。旧ユーラシア連邦にできた新しい国家って聞いたことある。」

 

イリュリア連王国。

 

新たな統治体制のもとで成立した国家であり、

三人の連王によって国政が担われる体制を採っている。

その一人が、ラムレザル・レトランジュ・ベルローズ。

 

20歳で第三連王として、正式に王位へ就いたばかりの若き王族である。

 

サクラ

「20歳で王様かぁ……」

 

シルヴィア

「私たちとあまり変わらない年齢なのにね」

 

サクラ

「想像できないね」

 

シルヴィアはフザケながら言った。

 

シルヴィア

「私は王妃がいいかもねぇ」

 

二人は思わず苦笑した。

 

しばらくの沈黙。

 

シルヴィアが端末を閉じる。

 

シルヴィア

「…報告……行こっか」

 

サクラ

「うん」

 

二人は甲板を後にし、艦橋へ向かった。

艦橋では、ソウマ・トダカ一佐が航行状況を確認していた。

 

タケミカヅチ改艦長。

 

故トダカ海将の息子でもあるその男は、

父を思わせる落ち着いた雰囲気で艦橋全体を見渡していた。

 

サクラ

「失礼します」

 

シルヴィア

「作業終了しました」

 

二人の報告に、ソウマは穏やかに頷く。

 

ソウマ

「ご苦労だった、機体状況は?」

 

サクラ

「問題ありません」

 

シルヴィア

「カゲロウも全項目正常です」

 

ソウマ

「わかった」

 

ソウマは静かに端末を閉じて、艦橋に居る全員に告げる。

 

ソウマ

「間もなく哨戒を終了する」

「本艦は予定どおり国防本部へ帰港する」

 

艦橋のオーブ軍兵

「ハッ!」

 

-------

 

タケミカヅチ改はゆるやかに針路を変更した。

艦橋前方のモニターに、オノゴロ島沿岸が徐々に映し出される。

青く澄んだ海の向こうには、

国防本部の巨大な軍港が広がっていた。

 

ソウマ

「各部署、帰港準備に入れ」

 

乗員たちが一斉に持ち場へ散っていく。

サクラとシルヴィアも敬礼すると、それぞれ帰港準備へと移る。

ほどなくして、タケミカヅチ改は国防本部軍港へ静かに接岸した。

 

-------

 

オーブ連合首長国国防本部。

 

最上階に設けられた司令官執務室。

大きな窓の外には、今まさに帰港を終えたタケミカヅチ改の姿が見えていた。

 

その様子を眺めながら、アスラン・ザラは静かに腕を組む。

 

アスラン

「無事に戻ったようだな」

 

カガリ

「タケミカヅチ改か?」

 

アスラン

「ああ」

 

少し後方には、

護衛任務として同行しているソル・デ・フラガが静かに立っている。

 

室内には、しばし穏やかな時間が流れた。

 

カガリ

「それで、例の連中はどうだった?」

 

アスランは手元の資料へ視線を落とした。

 

「取り調べは続けているが……結果は変わらないな」

 

カガリ

「全員黙秘のままか………」

 

アスラン

「ああ………」

 

短く答える。

 

………沈黙

 

アスラン

「コスモ・オラクルの構成員であるのは間違いないんだが、」

「名前も目的も話さない」

 

カガリ

「バイオメトリクスは?」

 

アスラン

「もちろん掛けたが、名前、ID、傭兵歴、大したものは出てきていない」

 

カガリ

「だが、オロファトの住宅街で武装していた事実はある」

 

アスラン

「しかし、それだけだ」

 

カガリも静かに頷いた。

 

カガリ

「実際にテロを起こした証拠はない……か」

 

アスラン

「その未遂容疑すらもな……現時点では」

 

アスランは資料を閉じた。

 

カガリ

「未遂の証拠も確認できない以上、これ以上拘束を続ける法的根拠がない」

「近いうちに釈放せざるを得ないだろう」

 

執務室に短い沈黙が落ちる。

 

ソルが静かに口を開いた。

 

ソル

「歯痒いですね」

 

アスラン

「余計に危険性を感じる……」

 

ソル

「ですが、法は感情では動きません」

 

カガリは苦笑した。

 

カガリ

「昔から変わらないな。」

「平和になればなるほど、守るべきルールも増える。」

 

アスラン

「それが………国家だからな」

 

アスランも小さく笑みを浮かべる。

 

ソル

「だからこそ、焦って判断するわけにはいかない……というわけですね」

 

カガリがアスランへ向き直った。

 

カガリ

「……あの件はどうなっている?」

 

アスラン

「例の会議の件だな」

「予定どおり進めている、すでに出席の意向は一部から届いている」

 

カガリ

「そうか……」

 

長い沈黙…………

 

25年以上にわたり代表首長として国家を率い続ける彼女は、

積み重ねられた経験を感じさせる落ち着きを纏いながらも、

その眼差しは若き日の意志を失ってはいなかった。

 

空気を変えるようにカガリが微笑む。

 

カガリ

「アイツらの様子はどうだ?」

 

アスラン

「シュダは………よくやってくれているようだ」

「相変わらずセフィリアをライバル視しているようだがな」

 

苦い顔をしながらアスランは言った。

 

カガリ

「それは、"お前にも"じゃないのか?」

 

アスラン

「俺は……ライバルですらないさ」

 

ソル

「…………………」

 

沈黙……

 

カガリ

「クレアは?」

 

アスラン

「ああ、この前シンに話しに行った時に、たまたま会ったよ」

「呼んだら"なんですか?司令官"って言われた」

 

カガリ

「まったくお前は………」

「なんで子供達に優しくしてやれないんだ」

 

アスラン

「ああ………シンにも同じこと言われたよ」

 

空気を変えようとソルが会話に入る。

 

ソル

「クレアはやはり、モビルスーツ整備技術が、」

「他者よりも圧倒的に優れているようですね」

 

ソルが続ける。

 

ソル

「シュダ自身も剣のキレが上がっているように思えました」

 

アスラン

「アイツに剣術を始めさせたのは……メイリン…だな」

 

ソルが"しまった"といった顔をして、カガリが話を変える。

 

カガリ

「セッセフィリアは?話は聞いてないのか?」

 

ソル

「彼女がコンパス宇宙部隊に就いてから、」

「宇宙の治安は確実に向上したようです」

「……もっとも、"名前"と"名声"が轟いているというのもありますが」

 

アスラン

「アリシアも急速に成長しているようだな」

 

カガリ

「頼もしいな。」

 

カガリは満足そうに頷いた。

 

カガリ

「サクラは?今帰港したタケミカヅチ改に乗ってるんだろ?」

 

アスラン

「ああ。コンパスから譲渡された機体にも慣れてきたようだ」

「……シュダや俺と違って、シンもサクラも頻繁に家に帰ってるようだしな」

 

ソルが沈黙し、カガリが深い溜息を付く。

 

ソル

「彼女は真面目ですね」

 

アスラン

「真面目過ぎるくらいにな」

 

アスランが苦笑する。

 

アスラン

「責任感は強い……ただ、」

「自分より仲間を優先する癖がある」

 

カガリ

「そこは今後の課題だろうな」

「でも、それもサクラらしい」

 

カガリは窓の外を見つめた。

 

港では帰港した兵士たちが慌ただしく動き始めている。

 

それぞれの日常があり、それぞれの未来がある。

 

その未来を守ることこそ、

自分たち大人の役目なのだと、改めて胸に刻みながら――。

 

静かな午後の陽光が、司令官執務室を優しく照らしていた。

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