ガンダムSEED LEGACY   作:shuda

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PHASE-008「それぞれの居場所」

C.E.100.06.19――。

 

05.29の極東統合基地襲撃から、およそ三週間。

その間にも、コスモ・オラクルによる攻撃は終息するどころか、

むしろ激しさを増していた。

 

06.13。

 

06.18。

 

いずれの日も、極東統合基地へ向けた奇襲攻撃が確認されている。

 

しかし、その二度の襲撃も、コンパス地上部隊・ザラ隊――

シュダ・ザラとアリシア・クラインを中心とする迎撃によって撃退され、

敵部隊は全機撃墜された。

 

人的被害は最小限。

基地機能にも重大な損傷はない。

 

だが、その戦果とは裏腹に、一つの事実が各国首脳部の危機感を高めていた。

 

コスモ・オラクルの攻撃対象が、

明確にコンパス地上部隊へ集中している――という事実である。

 

さらに06.04には、オーブ国内で過激派組織の活動が発覚。

関係者は逮捕されたものの、その背後関係はなお調査中。

 

これら一連の事象は偶然ではない。

 

そう判断するには十分すぎる材料が揃っていた。

 

 

----------

 

プラント。

アプリリウス市。

コンパス本部。

総裁執務室。

 

静かな室内には、資料をめくる音だけが響いていた。

机に座るのは、コンパス総裁――キラ・クライン。

 

第二次連合・プラント大戦、そしてアコード戦争を戦い抜き、

現在は軍人としてではなく、コンパス全体を統括する立場となった人物である。

 

彼は戦場から距離を置いた今もなお、

世界の平和維持という最前線に立ち続けていた。

 

向かい側には、プラント国防委員長イザーク・ジュール。

 

ザフトを率いる最高責任者であり、

最高評議会議員も兼任するプラント国防省の頂点だった。

 

互いに長い付き合いとなった二人は、机を挟んで資料へ視線を落としている。

 

イザーク

「……やはり、3回目も極東か」

 

イザークが静かに口を開く。

 

キラ

「05.29、06.13、06.18。すべて地上部隊狙いだね」

 

キラも資料から目を離さず、小さく頷いた。

 

イザーク

「宇宙部隊への陽動もほとんど確認されていないな」

「06.04の過激派摘発も考え合わせれば……」

 

キラ

「うん。」

 

キラは一枚の資料を手に取る。

 

キラ

「コスモ・オラクルの標的は、極東基地かオーブ、少なくとも地上」

 

イザーク

「……そうだな」

 

キラは静かに答えた。

 

イザークが一瞬間を置いて口を開いた

 

イザーク

「それともう1つ………アリシア・クライン」

 

05.29でアリシアが見せた重複SEED発動での、

覚醒と言ってもいいような操縦と反応速度、

そして、機体スペックを越える機動力

 

イザーク

「お前にも解らんのか」

 

キラ

「うん。……あの子自身も、自覚できてない。」

 

室内が静まり返る。

 

イザーク

「シュダの戦闘能力も上がっていると聞いている、」

「今まではザラ隊で撃退出来ているが……」

 

キラ

「うん。だから今日ここに呼んだんだ」

 

イザーク

「つまり、ザフトも関わる案件…ということか」

 

キラは静かに資料を閉じて話を続ける。

 

キラ

「クレア・ザラをコンパスへ移籍させて欲しい」

 

イザーク

「クレアを地上に降ろすのか?」

「それならアスランに言って、サクラをコンパスに移せばいいだろう」

「何度かザラ隊への協力をしているというのは聞いている」

 

キラ

「一時的にセフィリアには、ザラ隊へ合流してもらう」

 

イザーク

「クライン隊はどうするつもりだ?」

 

キラ

「ミリアとクレアでジュール隊として宇宙部隊は再編………どうかな」

 

イザーク

「俺に聞くな!バカモノ!」

 

キラ

「そうだね(汗)」

 

イザーク

「だが、まだアイツには隊長なぞ、務まらんぞ」

 

キラ

「大丈夫だよ。セフィリアにもよく話には聞いてるし」

 

イザーク

「隊長と副官は大きく違う」

「貴様もその椅子と現場隊長の違いを、何度も経験してきたはずだ」

 

キラ

「うん。でも……」

 

キラの紫の瞳が深く、深く拡がる

 

イザーク

「………ディアッカにもちゃんと連絡しておけよ」

(SEEDを持つ者…か)

 

----------

 

C.E.100.06.20。

 

プラント。

国防省。

国防委員長執務室。

 

静かな執務室の扉をノックする音が響く。

 

クレア

「失礼します」

 

扉を開けたのはクレア・ザラだった。

規律正しく一礼すると、執務机の前まで歩みを進める。

 

クレア

「クレア・ザラ少尉、参りました」

 

イザーク

「ああ」

 

イザークは書類から視線を上げる。

 

イザーク

「座れ」

 

クレア

「はい」

 

クレアは姿勢を崩さずソファへ腰掛けた。

呼び出された理由は分からない。

 

しかし、国防委員長直属の呼び出しである以上、

重要な任務であることだけは理解していた。

 

イザークは一枚の辞令を手に取る。

 

イザーク

「本日付で、お前を一時的にコンパスへ出向させる。」

 

クレア

「……え?」

 

思わず声が漏れる。

 

クレア

「コンパス……宇宙部隊ですか?」

 

イザーク

「ああ。そうだ」

「コスモ・オラクルによる一連の活動を受けて、コンパスの戦力強化」

「キラ・クライン総裁、直々の依頼だ」

 

クレア

(……コンパス)

(ということは……)

(やっと……)

 

胸が少しだけ高鳴る。

 

クレア

(やっと姉様と同じ部隊に戻れる)

 

何度も何度もコンパスへの移籍願いを申請しては、

却下され続けていた。その数6回。

 

そう思った、その直後だった。

 

イザーク

「なお…セフィリア・クラインは一時的に地上部隊へ合流とのことだ」

 

クレアの思考が止まる。

 

クレア

「……え?」

 

理解出来ない。

上げられて落とされた。

そんな絶望のような感情。

 

返事の無いクレアをよそに、イザークは話を続けた。

 

イザーク

「それによって宇宙部隊のクライン隊は再編、」

「ミリア・ジュールが一時的に隊長となり、ジュール隊として運用、」

「お前はその副官だ」

 

クレア

「…………。」

 

クレアの沈黙はまだ続く。

 

クレア

(そんな……。)

(やっと一緒になれると思ったのに……。)

 

胸の奥が少しだけ沈む。

もちろん命令である以上、不満を口にするつもりはない。

 

それでも。

 

ほんの少しだけ期待してしまっていた自分がいた。

 

イザーク

「どうした?」

 

イザークが問い掛ける。

 

イザーク

「娘が隊長では不服か?副官では納得出来ないか?」

 

クレア

「えっ!?」

 

クレアは勢いよく顔を上げた。

 

クレア

「い、いえ!」

「そんなことは決して!」

「私は、その……!」

 

慌てて言葉を探す。

顔がみるみる赤くなっていく。

 

イザークはその様子を見つめると、小さく口元を緩めた。

 

イザーク

「冗談だ」

「お前の個人的な感情には気付いてはいる、」

「だが、お前はそんな私情に流されない」

「だから、今までもコンパスMS査察官を任せていた」

 

セフィリアを敬愛し、シュダの妹であるクレア。

本来ならそんな関係性のクレアを、いくらモビルスーツ整備技術が高くても、

コンパスMS査察官にはしない。

だが、クレアであれば任務を全うする。

イザークはそう確信していた。

 

クレア

「……」

 

クレア自身もそうだが、イザークが冗談を言うなど、

ほとんど全ての人が見たことはなかった。

 

それ自体が珍しかった。

 

クレアはスッと立ち上がり。

 

クレア

「……ありがとうございます」

「クレア・ザラ少尉、一時的コンパス出向命令、謹んで拝命します」

 

イザーク

「話は以上だ」

 

クレア

「失礼します」

 

廊下に出ても、クレアは颯爽と歩く。

 

クレア

(入れ違い……か)

 

思わず苦笑して、小さく呟いた。

 

クレア

「仕方ないよね……」

 

軍人である以上、命令は絶対。

それは幼い頃から理解している。

それでも、少しだけ残念だった。

そんな想いを胸にしまい、クレアは新たな任務へ向け歩き始めた。

 

----------

 

コンパス宇宙機動旗艦――アリエルス。

 

ブリッジでは通常航行が続けられ、

艦内も戦闘時とは異なる穏やかな空気に包まれていた。

 

その一角にある休憩スペースでは、

ミリア・ジュールとセフィリア・クラインが向かい合って座っている。

湯気の立つカップを手に、束の間の静かな時間を過ごしていた。

 

セフィリア

「最近、地上が騒がしいですね」

 

セフィリアが小さく呟く。

 

ミリア

「そうね」

 

ミリアも頷いた。

 

ミリア

「計3回の極東基地奇襲に、オーブ市街地での武装した過激派」

 

セフィリア

「ええ」

 

ミリア

「二人とも怪我はないみたいよ」

 

セフィリアは安心したように息をついた。

 

ミリア

「完全に地上が狙われているわね」

 

ミリアは静かにカップを置く。

 

セフィリア

「シュダとアリシアは大丈夫でしょうか……」

 

ミリア

「大丈夫よ。見たでしょ。サクラの協力もあるし」

 

ミリアは穏やかに笑った。

 

ミリア

「心配なのは分かるけど、あの二人は簡単にはやられない」

 

セフィリア

「はい。」

 

セフィリアも少しだけ笑みを浮かべた。

 

その時。

端末から着信音が鳴る。

艦内通信ではなく、外部回線。

 

モニターへ映し出された名前を見たミリアは少し驚いた。

 

ミリア

「ディアッカさん?」

 

通信を接続する。

画面にはコンパス士官服姿のディアッカ・エルスマンが映し出された。

セフィリアやミリアよりも何年も前に、ザフトからコンパスへ移籍し、

宇宙部隊をまとめる統括指揮官の立場にある人物。

飄々とした性格は今も変わらないが、その立場には確かな責任が伴っていた。

 

ディアッカ

「よう。」

 

ディアッカはいつもの調子で軽く手を上げる。

 

ミリア

「何かありましたか?」

 

ディアッカ

「ああ、本来はこっちまで呼ぶのが正しいんだけどな」

「急な話でな。通信で悪い。」

 

ディアッカは表情を少し引き締めた。

 

ディアッカ

「正式な辞令だ」

「コスモ・オラクルへの対応強化で戦力配置を変更する。」

 

セフィリアも姿勢を正す。

 

ディアッカ

「セフィリア・クライン」

 

セフィリア

「はい」

 

ディアッカ

「明日より、お前は一時的に地上部隊へ異動」

「ザラ隊に合流してもらう」

「異動といっても、上級士官の同行ってのが書類上の名目だ」

 

セフィリア

「……了解しました」

 

少し驚きながらも即座に返答する。

 

ディアッカ

「ミリア・ジュール」

 

ミリア

「はい」

 

ディアッカ

「クライン隊を一時的に再編」

「明日より、ミリアを隊長としてジュール隊を編成する」

 

一瞬だけ沈黙が流れる。

 

ミリア

「了解しました」

 

ミリアも迷いなく答えた。

 

ディアッカ

「それと。」

 

ディアッカは資料のページを1枚めくり。

 

ディアッカ

「ザフトからクレア・ザラが一時的にコンパスへ出向」

「ジュール隊の副官として配属する」

 

セフィリアが目を丸くした。

 

セフィリア

「クレアが……」

 

ディアッカ

「そういうことだ」

 

ディアッカは肩を竦める。

 

ディアッカ

「細かいことは後で正式に書類が届く」

「通信で悪いが、取り急ぎ伝達だけ先にな」

 

セフィリア

「了解しました」

 

ミリア

「了解です」

 

二人が敬礼すると、ディアッカも軽く敬礼を返した。

 

ディアッカ

「じゃあ頼んだぞ」

 

通信はそこで終了した。

静寂が戻る。

セフィリアは少し複雑そうな表情を浮かべた。

 

セフィリア

「クレア……入れ違いですか」

 

ミリア

「何?もしかして寂しいの?www」

「姉様、姉様って呼ばれて迷惑がってると思ってたけど、」

「まんざらでもない感じ?www」

 

ミリアがケラケラ笑っている。

 

セフィリア

「!?私は…クレアが、少し残念に思っているかもしれないかと」

 

ミリアは笑い顔をスッと戻して。

 

ミリア

「でも、まさかセフィリアを地上に…とはね」

「今、ちょうど地上は…って話してたとこに異動か」

 

二人は互いに小さく頷いた。

 

ミリア

(私が隊長ね〜〜あんまり向かないとおもうんだけどね、そういうの)

 

通信終了から数分後。

艦内通路では、乗員達が慌ただしく行き交っていた。

その中を、一人の男が歩いてくる。

 

レイヴン・ヴァレンタイン。

 

ザフト所属士官であり、現在はコンパスとの連絡任務を担当している。

 

レイヴン

「ちょうど良かった、クレア・ザラ少尉の一時的移籍の話は聞きましたか?」

 

セフィリア

「はい。先ほど伺いました」

 

レイヴン

「ちょうど私も正式な書類をユーリ艦長に届ける任務でして」

「ミリア・ジュール大尉の部下になるとのことで、」

「私は直属の上官ではありませんが、ザフトとしてご挨拶をと思いまして」

 

ミリア

「それはご丁寧に。ありがとうございます」

「大丈夫ですよ。元々クレアと私はセフィリアの部隊でザフトに居ましたし」

 

レイヴンも頷く。

「はい。それは私も伺っておりました」

「しかし、そうなるとセフィリア・クライン少佐は…」

「昇進ですか?やはり」

 

セフィリア

「いえ。私は地上の部隊に合流という辞令が出ています」

 

レイヴン

「……え?地上ですか。私はてっきりクライン少佐の実践であれば昇進かと」

 

レイヴンが驚いている。

 

レイヴン

「……なるほど、コスモ・オラクルの最近の動きに併せて」

「ということですか」

 

レイヴンは静かに答えに辿り着いた。

状況と辞令の全てを聞けば誰もが簡単に答えに行き着くだろう。

 

レイヴン

「私はザフトですので、クレア・ザラ少尉の移籍しか聞いていませんでしたが」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

セフィリア

「はい。パ……クライン総裁からザフトへ依頼されたとのことです」

 

ミリア

「………」

 

レイヴン

「そうでしたか」

「それでは、私は艦長に連絡に伺います」

「ミリア・ジュール大尉。ザラ少尉をよろしくお願いします」

 

ミリア

「はい。もちろんです」

 

ミリアは笑顔で答えた。

レイヴンは早足で艦長室へと歩いて行った。

 

廊下に残ったセフィリアとミリア。

 

セフィリア

「………少し緊張しています」

 

ミリア

「あなたが?」

 

セフィリア

「シュダと、アリシアと上手くやれるでしょうか」

 

ミリアは『なるほどね』という顔で答えた。

 

ミリア

「だったら」

「休みでも合わせて、アリシアと食事くらい行ってきたら?」

 

セフィリア

「えっ?」

 

セフィリアが目を丸くする。

 

セフィリア

「私が…アリシアと」

 

ミリア

「妹…なんでしょ。大事な」

 

セフィリア

「ええ」

 

ミリアはその言葉を聞き、小さく笑みを浮かべた。

 

ミリア

「『仕事』としての連携も大事だけど、誘ってみなさいよ」

 

セフィリアは困ったように笑う。

 

セフィリア

「そうですね。頑張ってみます」

 

ミリアは優しく微笑んだ。

 

その笑顔の裏で、自身の胸中にも新たな決意が芽生えていた。

 

ミリア

(私が……隊長。私もちゃんとしないとね)

 

ジュールの名を受け継ぐ軍人として。

そして、一人の隊長として。

今回の配属と昇進は、一時的とはいえ、その覚悟を形にする最初の一歩になる。

 

ミリア

「じゃあ私達も異動の準備しましょうか」

 

セフィリア

「そうですね。私は荷物も全部纏めないと」

 

セフィリアはミリアへ一礼すると自室へと向かった。

すれ違う乗員達が軽く敬礼を交わし、セフィリアも微笑みながら応える。

いつもと変わらないアリエルスの日常。

 

だが、自分にとっては明日を境に環境が大きく変わる。

 

セフィリア

(地上部隊……。)

(シュダとアリシアとの任務……)

 

自然とそんなことを考えながら歩いていると、

不意に賑やかな音声が耳へ入った。

 

食堂の開いた扉の奥で、多くの乗員が昼食を取っている。

壁に設置された大型テレビでは、ニュース番組が流れていた。

 

画面には式典の映像。

多くの来賓。

整列する儀仗隊。

そして新たな王として紹介される若き姿が映し出される。

 

ニュースキャスター

『続いてのニュースです』

『本日、イリュリア連王国で王位継承式典が執り行われ、』

『ラムレザル・レトランジュ・ベルローズ殿下が正式に王位へ就かれました』

『今後はイリュリア連王国と各国との連携強化が期待されます。』

 

ニュースキャスターの声が食堂へ響く。

 

その映像を見つめながら、セフィリアは足を止めた。

 

セフィリア

「ラム……」

 

小さく呟く。

懐かしさにも似た感情が胸をよぎる。

 

しかし、それ以上考えることなく再び歩き始めた。

やがて廊下の奥へ、その姿は消えていく。

 

-------

 

誰も知らない薄暗い部屋。

窓もなく、僅かな照明だけが空間を照らしている。

一人の男が静かに立っていた。

その表情は闇に隠れ、姿を確認することはできない。

 

謎の男性の声

「……セフィリア・クライン」

「地上へ向かうか」

「これで計画は、また一歩前へ進む」

 

男は机の上へ置かれた一枚の資料へ視線を落とした。

そこには複数の人物名。

 

――シュダ・ザラ。

――アリシア・クライン。

――セフィリア・クライン。

 

謎の男性の声

「すべては予定どおり」

「私もそろそろ……………」

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