C.E.100.06.20
漆黒の宇宙を背景に、一隻の高速戦闘旗艦が静かに航行していた。
ザフト宇宙戦闘旗艦――エターナル・セカンド。
プラント防衛任務を担う最新鋭艦であり、多くの精鋭たちが所属する旗艦でもある。
ディアッカからコンパスへの移籍辞令を受けたクレアは、自身の所属艦であるエターナル・セカンドへ戻り、MS格納庫で移籍の準備を進めていた。
???
「相変わらず、荷物も綺麗に整理されてるな。お前らしい」
ハインライン隊を率いる若き女性隊長――ヴィルヘルム・ハインライン。
クレア
「隊長には負けますよwww」
???
「それはクレアに同感です」
レニー・アマルフィ少尉。
クレアと同じハインライン隊に所属する隊員であり、年齢はサクラと同じ。どこかサクラに雰囲気が似ている少女だった。
クレアとは士官学校時代からの親友でもある。
クレア
「逆にレニーは、もう少し整理したほうがいいですよ」
ヴィルヘルム
「それは私も同感だwww」
レニー
「私は隊長やクレアみたいなモビルスーツバカじゃないんですよwww」
ヴィルヘルム
「モビルスーツといえば、今やコンパスはザフトやオーブの技術が集約されている組織だからな」
「私も興味はある」
クレア
「そうですね」
「パイロットの特性に合わせた専用機が多いので、機体ごとに個性があって面白いですよ」
「特に姉様のアブソリュートは、あれだけの数のドラグーンを完璧に制御するOSに設計されていて……」
「しかも、あの美しい翼のしなやかなフォルムを維持しつつ――」
クレアの説明が熱を帯び始めたところで、レニーが面倒くさそうに手を振った。
レニー
「あーーー!もういい、もういい!」
「あなたがセフィリア少佐大好きなのは十分わかったから!」
「っていうか、隊長のアクシオムだって、アルバートさんの独自設計なんですよね?」
ヴィルヘルム
「そうだな。あれは父がOSから設計まで全て手掛けた」
クレア
「確かに……あんな変態仕様の機体、コンパスにもありませんね」
ヴィルヘルム
「お前もナイトメアジャスティスの設計では相当拘ったじゃないか」
「私の意見なんて、ほとんど聞かなかっただろう」
クレア
「私の戦闘スタイルに合わせるなら、あれが一番理に適っていたんです」
レニー
「ほんと、あの時は大変でしたよ」
「毎日毎日、隊長とクレアが機体のことで喧嘩ばっかりしてて……」
ヴィルヘルム
「それでも最後は押し切って、完璧な機体に仕上げたからな」
「大したものだよ、本当に」
腕を組みながら、ヴィルヘルムは感心したように頷いた。
レニー
「私は量産機のレギオンが一番好きですね」
「万能で安定していて、一番使いやすいです」
クレア
「レギオンは確かに万能な量産機ですが、もっとレニーの戦闘タイプに合わせてですね――」
(また始まったよ……)
レニーが心の中で苦笑した、その時だった。
エターナル・セカンド艦長の声が会話へ割って入る。
エターナル・セカンド艦長
「お前ら、自機の自慢話もいいが、クレアの移籍準備の邪魔するなよ」
クレア
「艦長!」
エターナル・セカンド艦長――クラウス・アイマン。
34歳という若さで艦長を任された実力者であり、かつてザフトで名を馳せたミゲル・アイマンの弟でもあった。
クラウス
「まっ、移籍って言っても一時的な出向だからな」
「お前の旗艦は、これからもエターナル・セカンドだ」
クレア
「はい。ありがとうございます」
レニーが少し茶化すように笑う。
レニー
「艦長、暇なんですか?」
「わざわざ格納庫まで来て」
クラウス
「バカヤロー。暇なわけあるか」
「クレアを見送りに来たんだよ」
ヴィルヘルム
「ちょうど良かった、艦長」
「先日のエターナル・セカンドの新しい装甲案についてなんですが……」
ヴィルヘルムとクラウスは、そのまま二人で話し込み始めた。
レニー
「でもさ、艦長も言ってたけど、仮に本当にコンパスへ移籍したとしても」
「私もヴィルヘルム隊長も、クレアの仲間だからね」
クレア
「はい」
「どこにいても、レニーとは友達です」
その笑顔を見て、少し寂しげだったレニーの表情にも自然と笑みが戻る。
ヴィルヘルム
「コンパスのMS査察は私が引き継ぐ」
「向こうで会うこともあるだろう」
レニー
「ひーーー」
「隊長の査察、厳しそう」
クラウス
「クレアよりはマシじゃないか?」
ヴィルヘルム
「でしょうね」
「コンパスの整備士たちは、今頃怯えていることでしょう」
クレア
「なんですか、それ」
「まるで私が鬼みたいじゃないですか」
少し頬を膨らませながら、クレアが抗議する。
ヴィルヘルム
「まあ、ほどほどにな」
「……そろそろ時間か」
その言葉に、クラウスは表情を引き締めた。
それに応えるように、クレアも背筋を伸ばす。
クラウス
「クレア・ザラ少尉!」
「コンパスへの一時的出向移籍」
「お前らしく、しっかり務めを果たしてこい!」
クレア
「はい!」
クレアは、いつものように力強く敬礼した。
ヴィルヘルム
「成果を期待している」
静かな声だったが、その言葉には確かな信頼が込められていた。
レニー
「ミリア大尉によろしくね」
笑顔で手を振るレニー。
クレア
「はい。ありがとうございます」
クレアは軽く一礼すると、ナイトメアジャスティスのコックピットへ乗り込んだ。
整備員たちが最終確認を終え、発進準備が整う。
クレア
「ナイトメアジャスティス、システム起動」
見慣れた起動画面が点灯し、蒼いモニターが一斉に輝き始める。
モニター
『Generalized Utility Neural Development Adaptive Matrix-system』
クレア
「機体状態、正常。スーパーデュートリオンエンジン臨界」
「ドラグーン及び各兵装、クリア」
「ヴァリアブルフェイズシフト装甲送電開始」
「出力安定。全システム、オールグリーン」
オペレーター
「ナイトメアジャスティス起動を確認」
「カタパルトへ移行します」
「発進シークエンス開始」
「リニアカタパルト正常。発進タイミングをパイロットへ譲渡します」
クレア
「了解」
「クレア・ザラ、ナイトメアジャスティス、行きます!」
リニアカタパルトに火花が走る。
次の瞬間、ナイトメアジャスティスは勢いよく射出され、青白い光の尾を引きながら宇宙へ飛び立っていった。
格納庫から、その姿を静かに見送る三人。
彼女の旗艦艦長であり、「仲間」であるクラウス大尉。
何度もモビルスーツのことで言い争いながらも、互いを認め合ってきたヴィルヘルム隊長。
そして――クレアのザフトでの親友、レニー少尉。
ナイトメアジャスティスの進路は、コンパス宇宙部隊戦闘艦アリエルス。
ミリア大尉――ジュール隊との合流が、彼女を待っていた。