シリウスシンボリの受難   作:大豆ビル

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第1話

「あん?……そりゃどうも。ありがとうよ」

 オグリキャップの突然の訪問にシリウスシンボリは訝しげな態度を隠さなかった。

「これはプレゼントだ。受け取ってほしい」

 そんなシリウスの態度を意に介さずオグリはラッピングされた平たい箱を渡した。

「一応礼は言っておくが……なんなんだ急に? 寮も違うのにわざわざ」

「ああ。今日がキミの誕生日だとさっきルドルフに聞いたんだ。寮は違うが友達の誕生日だからな。中身は栗最中だ。美味しいぞ」

「友達、ねえ」

 オグリから出たその言葉をシリウスは意外に思った。学年は同じだがデビューの時期が違い同じレースを走ったのも二回だけだ。ルドルフが最近オグリにお熱だから絡む機会が増えたが、友達と思われているとは。

 もっとも、ルドルフが誰かを一方的に気に入るのも珍しいので、シリウスもオグリの人となりに興味があった。

「せっかく祝いに来た友人を立ち話だけで返すほど私も薄情じゃない。少し遊んでいけよ」

 シリウスはオグリを部屋に招き入れた。

「シリウス、生徒会のガサ入れか?……オイオイこりゃとんだVIPのお出ましだ」

「おっオグリじゃーん! お主もワルよの~」

 部屋の中ではナカヤマフェスタとゴールドシップが雀卓を囲んでいた。後ろ手に何かを隠していた二人はオグリを見てホッとしたようだった。

「遊びに来た。よろしく頼む」

「そこの空いてる席に座ってくれ。オグリ、アンタ麻雀は打てるか?」

 シリウスが聞いた。

「ああ。故郷でお正月に近所の人と打っていたからな」

 一応聞いただけで本当に打てると思っていなかったシリウスは、トランプを取り出す手を止めた。

「へえ……面白い。怪物のお手並み拝見といこうか。三麻にも飽きてきたところだ」

「それは良いけどこの局はどうするんだ?」

 ナカヤマが言った。

「やめだ。どうせお前ら私がいない間にイカサマ仕込んでたんだろうが。見なくても分かる。手牌に違和感がある」

 シリウスが伏せていた手牌を見ると、牌自体は変わっていないが筒子の丸が全てゴルシの顔になっていた。ナカヤマとゴルシがニヤニヤとシリウスの反応を見ている。

 シリウスは何も言わず牌の表面を握力で削り取った。一筒が白に生まれ変わる。ナカヤマは腹を抱えて崩れ落ちた。

「ああー! ゴルシちゃんのプリティフェイスを轟盲牌しやがって!」

「色味を合わせてやったんだ。お前の顔面を削ってやっても良いんだぞ」

 片付けろ、とシリウスが言うとゴルシはゴルシ牌を回収してどこかにしまった。

「じゃあ今の半荘の移動はナシで良いな? どうせ大して動いてなかったんだ」

 シリウスが言って、他の二人が同意した。ナカヤマが帳簿に横線をいくつか引いたのが見えた。

「麻雀でお金を賭けているのか? 良くないぞ、それは」

 オグリが言った。

「安心しろって! 賭けてんのはコイツだからよ!」

 ゴルシとナカヤマは後ろ手に隠していたにんじんを取り出した。

「何の変哲もない、謎の古物商に持っていくと買い取って貰えたりもしないにんじんさ。可愛いもんだろ?」

「なんだにんじんか……すまない、早とちりをした」

 オグリは胸をなでおろした。

「まあ、それでも生徒会のうるさ方に見つかったら文句をつけられるだろうがな。どうする? ルドルフに言うか?」

 シリウスは試すように言った。

「キミが言って欲しくないなら言わないよ」

「そうかい。友達思いで助かるよ」

 ゴルシが本物の筒子を戻し、洗牌を始めた。場決めや洗牌、山積みとオグリはぎこちないながらもこなし、シリウスは感心した。

「私はにんじんを持っていないが大丈夫か?」

 オグリが言った。

「ああ。じゃあとりあえず私のにんじんを三十本貸してやる。ナカヤマ、借にんじん分は帳簿に書いといてくれ。レートは千点でにんじん一本だ。にんじんが足りなかったら一万点で飯一回奢りで端数だけにんじんでも良い。他は特に私たちだけのローカルルールなんかはないから普通に打ってくれ」

「分かった。それで構わない」

 親がシリウスに決まり、第一打で中を切った。南家のオグリは理牌の最中だった。

「ん……これは……」

「おい、アンタの番だろ。早くツモれよ」

「いや……その必要はないみたいだ」

「あ? 何を──」

 オグリが手牌を倒した。

「ロン。三万二千」

「──何ぃ!?」

「すっげー! 流石オグリパイセンだぜ!」

「やってくれるな。これがスーパースターのツキの太さか」

 はしゃぐ二人を横目にシリウスはオグリの手牌を確認した。

「いや……チートイドラドラで六千四百だろ。人和はローカルルールだ。うちじゃ採用してない」

「え、ローカルルールだったのか。すまない、故郷でしかやったことがないから知らなかったんだ」

 オグリは肩を落とした。

「んだよシリウス。折角すげえモン見れたんだからいいじゃんかよー」

「そうそう。人和はローカルルールでもメジャーな方だろ。会長みたいにお堅いんだな」

「あぁ!? 誰が誰に似て誰だって? ナカヤマ、にんじん三十二本で帳簿つけとけ」

「了解。オグリはシリウスへの借にんじんが消えてプラス二本ってことになるな」

「良いのかシリウス? 私は六千四百点で構わないが……」

「良いから次の半荘だ」

「さて勝つのはどっちの“スター”か……賭けるかゴルシ?」

 ナカヤマが言った。

「よっしゃあ! はらたいらさんに三千点!」

「ククク……狂気の沙汰ほど面白い……!」

 シリウスは楽しそうに洗牌するオグリを見つめた。

「無礼るなよ。私だって最も運のあるウマ娘の一人の筈だ……!」

 

 

 翌日の朝、オグリが食堂に行くとシンボリルドルフが声をかけた。

「おはようオグリ。いい朝だね。奇遇なことに私も今から朝食なんだ。一緒に食べても構わないかな」

「いや二十分くらい待つのは奇遇とは言わんやろ……おはようさんオグリ。起こしても起きひんから先に来とったで」

 隣で既に食事を終えているタマモクロスが言った。

「おはようタマ、ルドルふぁ……ルドルフ」

 あくびを嚙み殺してオグリが言った。

「ああ。ところで今日は君の誕生日だね。おめでとう。あまり凝ったものではないがこれを贈らせてくれ」

 ルドルフは小さな包みを渡した。

「ありがとう。大事にする」

「ウチは部屋に置いとるから後でな」

「ありがとう。楽しみだ」

「ということは……私が君にプレゼントを渡した一着ということになるのかな。無論、だから何というわけでもないが」

 尻尾を揺らしながらルドルフが言った。

「ああ、いや……シリウスからこれを貰った」

 オグリはポケットから何やら紙を出した。

 その紙は、『手料理ご馳走券』という文字と共にシリウスのサインが書かれている、十枚綴りのチケットだった。

「そうか、それは……良い物を貰ったね。おめでとう」

「ああ、ありがとう……ふわあ」

 オグリは今度こそ大きなあくびをした。

「何や眠そうやな。昨日もウチが寝るまで部屋に帰って来んかったし、どこ行ってたんや?」

「昨日はシリウスの誕生日で、一緒に遊んでいたんだが……もう一回もう一回と帰してくれなかったんだ。門限が過ぎてしまったから寮長が寝る時間までシリウスの部屋で過ごしてから戻った」

「ほう……シリウスの部屋では何を?」

「すまない、秘密だから言えないんだ……ご飯を取って来る。ふわあ……」

 もう一つあくびをかますとオグリはカウンターに向かった。

 タマモがそーっとルドルフの顔を見ると、そこには何の表情も浮かんでいなかった。

「あー……とりあえずメシ取りに行ったらどや」

「今は何も喉を通る気がしない」

「さよか」

 触らぬ神に祟りなし。どうせトランプでもやっていただけだろうと思いつつ、タマモは成り行きに任せることに決めた。

 数秒後、遅めの朝食に来たシリウスとナカヤマ、更にゴルシも加わり食堂に混沌が顕現することとなった。

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