異世界トラックの運ちゃん   作:ぷに凝

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橋本は女子高生を轢く

「昨日はすごかったな」

 

 突然、女神が現れたり。

 

 人を轢いて欲しいって依頼されたり。

 

 でも、楽しい時間はもう終わり。今日からは通常営業だ。

 

「おはようございます」

 

 事務所の扉を開けた。

 

「あっ、おはようございますハシモトさん」

「先輩うっす」

 

 女神のユフィさんと、後輩の金田が。

 

 UNOをやっていた。

 

「なんでいるんです?」

「いますよそりゃ。あ、カネダさんUNOって言ってないです」

「終わった!」

 

 バッと宙に舞うカード。

 

 親父が死んだ時と同じ光景だった。

 

「さて、ハシモトさんも来たので。早速轢きに行きましょう」

「そんな“善は急げ”みたいに」

 

 どこの国に轢殺を善とする文化があるというのだろうか。

 

 あぁ。だけど、そもそもユフィさんは女神だから国どころか住んでる世界が違う。

 

「ユフィさんの住んでた世界では、人を轢くのってそんな重い罪じゃなかったり?」

「何言ってるんです? 交通事故を軽く見ちゃダメですよ」

「至極真っ当」

 

 正論を、言われてしまった。

 

 運転手なのに。

 

「ともかくハシモトさん。今日は一日付き合って貰いますので」

「いや、無理ですよ?」

「? 恋人も友達もいないですよね?」

「仕事ですよ?」

 

 社会人とは、そういうものです。

 

 女神とは違うのです。

 

「金品です」

「本日はどちらへ行かれますか? ゴッデス」

「先輩」

 

 ユフィさんが懐から、徐に金の延べ棒を取り出した。

 

 俺は平伏した。

 

「ダメっすよ、取引先との約束反故にしちゃ」

「金田よぉ」

「カネダさんよぉ」

「いや、これは私が正しいでしょ……」

 

 金田、お前は本当に。

 

 そういうところだぞ。

 

「今日はそこまで仕事多くないんで。早めに終わらせて残り時間を充てるってのでいいですか?」

「構いませんけど……いいんですか?」

「いいんですか、とは?」

「まだ引き受けてもらったわけでもないのに」

 

 そういう認識はあったんですか。

 

 常識が通じないイカレ野郎かと思ってましたが。

 

「まぁ、一応、轢いてしまったので」

「罪滅ぼし?」

「そうですね」

「得しましたね」

 

 何が?

 

「じゃあ、さっさと仕事終わらせて、グイッといきましょう」

「いきますか」

 

 グイッと。

 

「お酒の話ですよね?」

「飲酒運転は違法ですよ?」

「知ってますけど?」

 

 この人、たまに俺のこと運転手だって忘れてるな。

 

 まぁ。

 

「今日も一日、安全運転でいきましょう」

 

 

「終わりました」

「早いですね」

 

 午前11時45分。

 

 本日分の全ての配達業務が終了した。

 

「いつもこんなに早いんですか?」

「今日は仕事が少なかったので。道も空いてたし」

「なるほど」

「仕事が少ないのはいつもですが」

「なるほど」

 

 うちは、そんなに繁盛してないんです。

 

 従業員、2名だし。

 

「ハシモトさんが暇なお陰で、私は助かります」

「暇で良かったです」

「そんな暇な橋本さん、これを見てください」

 

 暇な俺、女神のスマホを凝視。

 

「この子は?」

「今から轢きに行きます」

「犯行予告?」

「転生予告です」

 

 映っていたのは、学校の制服を着たポニテの女子高生。

 

 この制服は、何度か見たことあるな。

 

「白根鈴さん。私立里川高校の3年生。学校ではバレーボール部のキャプテンとして知られる彼女ですが、大のラノベ好きであり自身をモデルにしたキャラを主人公にした作品を、三作品ほど小説サイトに投稿しています」

「ちょっと?」

 

 車を走らせながら、聞こえてくる情報においおいと待ったをかける。

 

「ユフィさん、プライバシーの侵害では」

「でも、面白いじゃないですか」

「面白いつったか今?」

 

 出たぞ、上位存在しぐさ。

 

「彼女は強い転生願望を持っています。そういう子は、飛ばしやすいんです」

「でも、本人に許可取ってないんですよね?」

「許可取った上で転生させる展開って、あんまなくないですか」

 

 まぁ、少ないけど。

 

 それは創作の話であって。

 

「あっ、居ました。白根鈴さんです」

 

 指差した方向を見ると、なるほど。

 

 確かに黒髪ポニテの、スポーツウーマンって感じの女子高生。

 

「橋本さん! 行きましょう!」

「いやいやいやいや」

「行って! 行って! ほらアクセル踏んで! ギア上げて!」

「行きませんよ」

 

 楽しんでないか? この女神。

 

「死んじゃったらどうするんですか?」

「私が転生させますから、大丈夫ですよ?」

「そういう話じゃなく」

 

 心の準備が。

 

 出来てないっていうか。

 

「一回、彼女と話をしてもいいですか?」

「ナンパですか?」

「違いますが」

 

 舐め腐んなよ。

 

「転生するってことは、この世界からは消えるんですよね?」

「そのようになりますね」

「家族とか、友人、恋人とも離れ離れになっちゃうじゃないですか」

 

 まだ、18歳の少女に対して。

 

 それをするのは酷な話だと思う。

 

「だから、ちゃんと意思を確認したくて」

「なるほど、わかりました。ですが一つ条件があります」

「なんですか?」

「話し合いの結果、許可が得られたら」

 

 ユフィさんはくるりと振り向いて。

 

 サファイアの瞳を輝かせた。

 

「ちゃんと、手抜かりなく轢くこと。いいですね?」

「……わかりました」

 

 俺は頷き、トラックから降りた。

 

「白根鈴さん。ちょっとお話いいですか?」

「もしもし警察ですか」

「待って待って待って」

 

 歩道を渡る彼女に近づいて話しかけると、初手で警察に通報される。

 

 偉いんだけども。正しいんだけども。

 

 流石に偉すぎるからちょっと待って欲しい。

 

「白根さん、お初にお目にかかります」

「……綺麗。女神様ですか?」

「はい。女神をやっております。ユフィとお呼びください」

「なんでも話を聞きます」

「あらあら」

 

 警戒する彼女をなんとか宥めようと必死になっていると、ユフィさんが出てきて一発で解決した。

 

 顔が良いってのは、残酷だよな。

 

「ふふん」

 

 なんかこっち見てドヤ顔してるし。

 

 お前、個人情報盗み見て「面白い」とか言ってただろ。

 

「私たちは、異世界転生業務を請け負っている者です」

「異世界転生!?」

「はい。白根さんを異世界にご招待致したく、本日は伺いました」

「行きたいです! 異世界!」

 

 即答かい。

 

「しかし、ご家族やご友人などは」

「今、連絡します! ……大丈夫みたいです!」

「いやいやいや」

 

 そんな「明日遊び行ってもいい?」みたいな連絡じゃあるまいし。

 

「大丈夫です。前々から、もし私が異世界に行ったら後はよろしくって周りには言ってたので」

「どんなリスクヘッジ?」

 

 そんなケース、普通は想定しません。

 

「決まりですね。では橋本さん、やっちゃいましょう」

「いいのかなぁ」

 

 なんだか釈然としないけど。

 

 

「準備できましたー!」

 

 場所を移し、少々広めの駐車場。

 

 周囲に車は少なく、人もいない寂れた空間。

 

「転生にはうってつけですね」

「この駐車場を設計した人も、まさかこう使われるとは思ってなかったでしょうね」

 

 フロントガラスの向こうに見えるのは一人の女子高生。

 

 彼女は笑顔でこちらに手を振っていた。

 

「行きますよ」

 

 クラッチペダルを踏み込み、シフトレバーを2速に。

 

 足を引いて半クラッチで、アクセルを踏み込んだ。

 

「ありがとうございます」

 

 衝突の直前、彼女の口がそう言葉を紡いだのが。

 

 見えた気がした。

 

 光が視界を埋め尽くす。

 

「!」

 

 ブレーキを踏んで、気づくと。

 

「行っちゃいましたね」

 

 彼女の姿はどこにも無くなっていた。

 

「これで、異世界転生したんですか」

「はい。初めての転生業務、お疲れ様でした」

「実感ないですね」

 

 もっと、後味の悪いものと思っていたが。

 

 意外とあっさり終わるものだ。

 

「白根さんは今、異世界に?」

「はい。彼女の希望通りの異世界に転生させましたよ」

「そうですか」

 

 不思議なものだ。

 

 ついさっきまで話していた彼女が、もうこの世界のどこにもいないなんて。

 

 まぁ、彼女がそれを望んでいて。

 

 幸せになれたなら、それでいいのだろう。

 

「女性冒険者向けの、エロトラップダンジョンの世界ですね」

「……」

 

 やっぱりよくない気がしてきた。

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