吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる 作:光の道筋
最強の魔物とは言ったものの、状況に応じた向き不向きがある。現在求めているのは、10人以上相手にも戦える力だ。そういえば、イレーネが「魔法は複数人を相手にする場合に有効」と言っていた気がする。まさに今がその時だ。
「創るのは魔法主体の魔物の方がいいか。そしたら冒険者たちを一掃できるんじゃないか?」
「うーん、個人的には魔物系の魔物は好きじゃないんですが……使い捨てなら十分ですね!」
「使い捨て?」
「とにかく! 魔法なら冒険者を一網打尽に出来ますよ!」
「使い捨て」という言葉について深く考えたいところだが、そんな時間はない。冒険者たちは着々と捜索を進めている。ダンジョンコアに辿り着くのも、もはや時間の問題だ。
魔法を扱う魔物とは誰だろうか。カタログを見てもさっぱり分からない。これもイレーネに尋ねるしかないか。
「イレーネ、魔法を使う魔物ってどれだ?」
「一応、全ての魔物が魔法使えます! その中でも魔法向きの奴は……リッチですかね!」
「リッチ……この骨の魔物か」
「そうですそうです! 創ったことはないんですけど、魔法が得意だったはずです!」
リッチ、古びた服を纏った骸骨だ。骨だけで動けるのか? 絶対に肉が付いていた方が強い気がする。骨だけでは動きが鈍そうだ。
「これ、肉は付けれるのか?」
「基本的に想像した通りの姿になるので、肉も付けれると思いますが……どうしてそんなことを?」
「骨だけより強そうじゃない?」
「確かに! 筋肉が無い生物なんて弱いに決まってますよ! 肉付きリッチにしましょう!」
「やっぱそうだよな。早速創るか」
イレーネも俺と同意見だった。骨だけの生物なんてありえない。肉も付けてしまおう。
人間の姿になっているリッチをイメージすると、円柱状の立体的な図形が現れた。このステータスとスキルを魔法特化にしよう。
「範囲魔法は……フロストノヴァ。これでいいかな」
「いいんじゃないですか? 冷気の衝撃波を放つ魔法ですね。冒険者なんて簡単に凍らせちゃいますよ」
「後はステータスか。〈瞬間魔力量〉に多く振ったら火力が上がるだろ」
「ですね。あ、あと特性で〈幼少〉を選んでください」
「え? なんで?」
「創る魔物を子どもにすると消費魔力が少なくなるんです。その分、火力を上げまくりましょ」
「それはいいな。火力特化だ」
特性を〈幼少〉にし、さらに〈瞬間魔力量〉を増やしていく。蓄積されていた魔力は全て使い切った。リッチが子どもの姿になるなら、俺と同じくらいの身長になるのだろうか。
鏡で見た自分の可愛らしい顔を思い出すと、思わずニヤけてしまいそうになる。果たしてリッチはどんな顔なのか。
口角が上がるのを我慢していると、まるで大きな卵のような光の球体が出現した。球体はほぼ俺と同じ高さだ。
「お、リッチが出来上がっていきますね」
「めっちゃ光ってる。なんだこれ」
「ステータスやスキルに魔力を使うと光るんです。ほら、出てきますよ」
球体にひびが入る。そのひびは徐々に広がっていき、光の殻が剥がれて消え去っていく。
現れたのは一人の少女だった。古びた黒い服を纏い、銀色の長い髪は膝のあたりまで伸びている。
そして何より、その顔だ。俺に……いや、リリィにそっくりだった。目の色こそ赤ではなく銀だが、それ以外はほとんど同じと言っても過言ではない。一見すると普通の少女だ。しかし、両手は骨と化しており、彼女がただの人間ではなくリッチであることを示していた。
「…………あなたがマスター? よろしくね」
少女は無表情のまま首を傾げて、俺の目を見つめる。彼女の瞳に戸惑っている自分が映っていた。
「えっ!? リリィ様と同じ顔ですよ!?」
「……同じになっちゃったな」
「可愛いですね!」
「ねえ……わたしは何をすればいいの? 何をしてほしいの?」
「冒険者が攻めてきてるんだ。撃退してほしい」
「そう。分かった」
少女の表情は変わらない。モニターに触ると、彼女の姿は消え去った。次の瞬間、少女はダンジョンコアの前に立っていた。
少女はキョロキョロと辺りを見渡す。そして慎重な足取りで進み始めたが……その先は壁だ。扉は別方向にある。
すると、人骨に躓いて少女が転んでしまった。この調子で冒険者まで辿り着けるのか?
「転んじゃったけど大丈夫か?」
「目ぇ見えないんですかね? さっきは目が合ってたんですけど」
「目が見えない……? あ! 暗闇で見えないんだよ! 俺たちが見えてるのは吸血鬼だからだろ!?」
「そ、そういえばそうでした! どうしましょう!?」
「案内するしかない! 行ってくる!」
「私も行きます!」
急いでマスタールームから出て少女の元に向かう。少女はちょうど立ち上がったところだった。足音に気づいたのか、振り返ってこちらを向く。
「……マスター?」
「あ、うん。ダンジョンマスターだ。こっちは見えてるか?」
「……見えないわ。でも安心して。冒険者はわたしが倒してくるから」
少女はいきなり走り出す。それも壁に向かって。案の定勢いよく壁にぶつかった。
「うぐっ!」
「アホなんですかね。扉はそこに無いですよ」
「案内するよ。一緒に行こう」
「…………ありがとう。マスターは優しいのね」
「冒険者が来るから急ごう。ほら、行くぞ」
骨の手を掴み、扉を開いて廊下へ出る。微かに、冒険者たちの足音と会話が聞こえてきた。いつ冒険者と出くわすか分からない。慎重に進もう。
「マスター、わたしに名案があるのだけれど」
「名案? 何でも言ってくれ」
「結論から言うと、そこの女を囮にするわ」
「あ!? 今なんて言いました!?」
「うるさっ」
イレーネはカッとして叫ぶ。一方、少女は毅然とした態度で、真っ直ぐにイレーネと向き合っていた。
「あなたを囮にすると言ったのよ。わたしは暗くて見えないし、マスターにやらせる訳にもいかないでしょ」
「うぎっ、うぎぎぎぎ……」
「反論したくても出来ないんだな」
「わ、分かりましたよ! やればいいんでしょやれば! 囮くらい余裕ですよ!」
「やってくれるのね。あそこの曲がり角におびき寄せてほしいわ」
「魔物ごときが私に指図しないでください! 行ってきます!」
そう言うと、イレーネは駆け出していった。意外に素直だ。囮になろうとして、間違って冒険者に殺されてしまわないだろうか。少し心配になる。
「マスター、あの人を囮にしてもよかったのかしら」
「大丈夫じゃないか? イレーネなら心配ないと思う。多分」
「そう。イレーネさんというのね」
「そういえば自己紹介もまだだったな。俺はリリィだ。よろしく」
「マスターの名前はリリィさん、覚えたわ」
少女はコクコクと頷いた。表情は無表情のままだ。しかし、気のせいかもしれないが、気合を入れて張り切っているような雰囲気が感じられた。創造した魔物に名前はあるのだろうか。少女に聞いてみよう。
「君のことはなんて呼べばいい? 名前はあるのか?」
「無いわ。リッチでも、お前でも、好きに呼んで」
「名前が無いのか……じゃあ自分自身で名前を決めたらいい」
「わたしはマスターに決めてほしいわ」
「えっ? 俺?」
「ええ、そうよ。創造主に名付けて貰いたいわ」
「自分で決めた方がよくないか?」
「マスターが決めて」
少女の意思は固い。名前……どうしようか。人に名付けた経験は一度もない。緊張してきたな。リッチという種族名を元にしたいが、何も思いつかない。何か可愛い名前はないのか。
すると、遠くから叫び声と大勢が走る音が聞こえてきた。その音はどんどん近づいてくる。
「──さい! 本当に勘弁してください!」
「逃すか! さっさと観念しろ!」
「助けて! あの! 早く助けに来てください! 聞こえてますよね!?」
「仲間がいるらしい! 気をつけろ!」
イレーネの必死な叫び声が聞こえる。涙ぐんだその声はダンジョン内でよく響いた。彼女は囮の役目をきちんと全うしているようだ。
「……何故声に出してしまうのかしら。あの人は正真正銘のアホね」
「アホって言われたの根に持ってる?」
「持ってないわ。ただの事実よ。わたしが全員倒すから、マスターは休んでていいわよ」
「お、それは楽でいいな」
戦わなくていいなら、それに越したことはない。この少女がどれほど強いのか、見させてもらおう。足音がさらに近づく。少女が戦闘態勢に入り、俺はその横に立った。
「助けて! 助けて!」
見るからに疲れ果てたイレーネが曲がり角から現れ、すぐさま俺の後ろに隠れた。直後、冒険者の集団が走ってくる。彼らは俺とリッチの少女の姿を見て、驚いたように足を止めた。
「なっ! まだ魔物が──」
「フロストノヴァ!」
冒険者たちが驚いたのも束の間、少女は手をかざして魔法を放った。冒険者たちは一瞬で氷漬けになり、冷気が立ち込める。壁や床までもが凍りつき、吐く息は白く染まった。
「おお!」
「あ……」
「お、おい! 大丈夫か!?」
冒険者が撃退されたという安堵と同時に、少女が地面に倒れた。俺は急いで駆け寄る。どうやら気を失っているだけのようだ。
これは魔法の代償なのか。今のうちに避難させよう。冒険者たちは彼女が全員凍らせたのだから、ひとまず安全だ。
「う、うわああああ! み、皆! 生きてるよな!?」
「な、なんだ!? 魔法使いがいるのか!?」
曲がり角の奥から人の声が聞こえた。まだ生き残りがいるようだ。残りは俺がやらなくてはならない。
指先を噛んで血を滲ませ、戦闘の準備を整える。いつでもかかってこい。全員、返り討ちにしてやる。
次回、少女(リッチ)を眷属にします。
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