吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる   作:光の道筋

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眷属の強化

 いずれ攻めてくる冒険者に備えよう。ならばやるべきことは1つ。まずはマスタールームに帰らなければ。

 

「よし! マスタールームに帰るぞ!」

「ええ。帰りましょう」

「ストップ! その前にいいですか!」

 

 足を1歩だけ進めたところでイレーネに止められた。彼女は冒険者たちの氷像を指差しながら、眉間に皺を寄せている。

 

「あれ、どうするんですか」

「そのままでもいいんじゃないか? 害がある訳でもないだろ」

「邪魔ですよ。私、人間の顔見たくありませんし」

「イレーネさんは吸血鬼よね? でも人間と同じような顔でしょ? それでも見たくないの?」

「リリィ様、こいつぶっ殺していいですか?」

「駄目に決まってるだろ」

「お前、助かりましたね。リリィ様の慈悲に感謝しなさい」

「感謝するわ」

 

 2人は出会ったばかりだというのに仲が悪い。イレーネは魔物と人間を差別しているし、ネクロアも煽るような発言をする。ネクロア本人にそのつもりがあるのかは分からないが、どうにも相性は悪そうだ。

 

「それでイレーネさん、この人間たちをどうすればいいの?」

「こいつらの姿が見れなくなればいいんです」

「分かったわ」

 

 ネクロアは手を開き、氷像へと向ける。その手を握り締めた瞬間、氷像は砕け散った。冒険者の血肉が飛び散り、内臓が地面に散乱する。香ばしい血の匂いがダンジョン内に漂った。地面に散らばった血肉へ、苔スライムたちが群がっていく。

 氷像を砕いたネクロアは膝に手をつき、疲労困憊といった様子を見せていた。

 

「グロ……」

「はぁ……はぁ……これでいいかしら……」

「ありがとうございます。今のだけで魔力が

枯渇しかけちゃってますね」

「瞬間魔力量だけ増やしたからな。ネクロア、歩けるか?」

「だ、大丈夫よ……これくらい……何ともないわ……」

「暗くて見えづらいだろ。手繋ごう」

「あ、ありがとう……」

 

 ネクロアと手を繋ぐと、彼女はフラフラと歩き出した。ネクロアの追加ステータスは全て瞬間魔力量に振っている。その結果、魔法を1回行使しただけで疲れ切ってしまうらしい。

 もう1度ステータスを振ることはできるのだろうか。ダンジョンマスターは魔力を消費して何度も強化できるのだし、魔物にも同じことが可能なのではないか。俺はマスタールームへ向かう途中、イレーネに尋ねた。

 

「魔物の強化? できませんよ」

「あれ? できないんだ」

「はい。強化可能なのはダンジョンマスターだけです。魔物が強くなるにはコツコツ努力するしかありません」

 

 魔物は強化できないのか。だったら最初に振るステータスが重要になりそうだ。

 

「そうなのね。イレーネさん、お互い頑張りましょ」

「くっ……ですね。徐々に強くなっていきましょう。元の能力に戻るには何年かかることやら……」

 

 イレーネの表情が曇る。彼女が昔は強かったという話は嘘くさく、あまり信じていなかったが意外と本当なのかもしれない。

 マスタールームに戻ったら、どれくらい魔力が貯まってるか確認してみよう。クロネアが冒険者を6人殺したから、それなりの魔力が貯まっていそうだ。

 

 増えすぎて足の踏み場にも困る苔スライムを避けながら、マスタールームへと戻った。ネクロアと並んでベッドに腰掛ける。イレーネはその後ろで、気だるげにベッドへ寝転んだ。

 魔力の貯まり具合を確認すると、4800ほど蓄積されていた。これは大きい。この魔力でさらに防衛を固められる。

 ついでに、何かスキルや魔法でも会得してみようか。俺自身の強化もダンジョンコアを守るのに役立つ。

 

「マスター、何してるの?」

「覚えられる魔法とスキルを見てるんだ。でも、習得には一定以上のステータスが必要みたいでな」

「まずはステータスを強化した方がいいですよ。弱い魔法やスキルを覚えても、あまり効果はありませんし」

 

 うーん。なら、まずは全てのステータス評価をⅤにしようかな。〈膂力〉〈耐久力〉〈免疫力〉〈持久力〉〈瞬発力〉〈器用〉の評価がⅠだから、これらのステータスを上げていこう。

 その後も取得可能なスキルやステータスを眺めていると、気になるスキルを発見した。〈眷属強化〉。これなら、イレーネとネクロアを強化できるかもしれない。

 

「イレーネ、眷属強化ってどんなスキルだ? これなら──」

「えっ!? 何ですかそれ!?」

 

 寝ているイレーネに話しかけた。すると彼女は勢いよく飛び起き、俺に寄りかかりながらスキル欄を覗き見始めた。

 

「うっ!」

「まってまって! そんなスキルあるんですか!  すご! 取りましょ取りましょ! 強化しましょ!」

「イレーネさん落ち着いて。声がでかいわ」

「ネクロアも頼んでください! このスキルたったの3000で取得できますよ! 絶対取るべきです!」

「マスター、どうするの?」

 

 ネクロアがじっと俺の目を見つめる。現在の蓄積魔力は4800。3000の消費は重い。イレーネとネクロアが強くなるのは嬉しいが……一気にそこまで使ってしまって大丈夫なのか?

 

「3000の消費は……ちょっとでかいな」

「いやいやいや! 3000で私の本来の力が戻るなら安いもんですよ! ネクロアもそう思いますよね!? ね!?」

「イレーネさんの本来の力なんて知らないわ」

「ネクロアも強くなれるんですから話合わせてください! リリィ様いいでしょ!? お願いします!」

 

 イレーネが鬼気迫る勢いで俺の肩を揺さぶり続けた。どうしても〈眷属強化〉を取得してほしいという気持ちが伝わってくる。

 正直、昔のイレーネがどれくらい強かったのかは気になる。ネクロアも強くなるのだし、必要経費だと割り切って取得するのもありか。

 

「分かった。取得するよ」

「いいんですか!? やった!」

「マスター、本当にいいの?」

「うん。2人が強くなったら助かるしな」

「ありがとうございます、お優しいリリィ様!」

「ふふ、いいってことよ」

 

 イレーネが背後から抱きつき、そのまま頭をわしゃわしゃと撫でてきた。舐められてる気がしないでもないが、親愛の証だと受け取っておこう。

 

「それじゃあ取得するぞ!」

「はい! しちゃってください!」

 

 〈眷属強化〉を取得する。3000も消費したんだ。イレーネとネクロアは相当強くなってくれるだろう。しかし、2人の様子がおかしい。あまりにも静かだ。隣ではネクロアが首を傾げている。頭にハテナでも浮かんでいそうだ。

 

「どう? 強くなった?」

「さあ……よく分からないわ」

「よく分からない? イレーネは?」

「…………」

「イレーネ?」

 

 イレーネの返事が無い。彼女は黙ったままベッドを降りる。そして俺とネクロアの前に立つ。イレーネは手を何度か開閉し、屈伸を始めた。

 

「イレーネさん、どうしたの? 何か変わった?」

「……なんにも変わってません。本当に取得しましたか?」

「したよ。スキル欄見てみるか?」

「見ます見ます。スキルの説明も読みましょう」

「あ、そういえばちゃんと読んでなかったな」

 

 勢いに任せて取得してしまったから、スキルの概要も把握していない。きちんと確認しておこう。3人で俺のスキル欄を見ると、そこには確かに〈眷属強化〉の文字があった。

 

「取得してますね」

「だろ? ええと説明は……」

 

 〈眷属強化〉。スキル保有者の眷属にダンジョンに蓄えられた魔力を消費することで、ステータスやスキル、魔法、特性を習得させることが可能になる。

 どうやら、このスキルを取得しただけで即座に強くなるわけではないらしい。眷属もダンジョンマスターと同じく、魔力を消費して成長できるようになるということだろう。

 

「凄くいいスキルじゃないですか! こんなのがあったんですね!」

「知らなかったのか?」

「初めて知りました! 眷属なんて全然生み出したこと無いので!」

「でも今すぐ強くはなれないわ。マスター、それでも大丈夫?」

「まぁ……将来的には役立つから……3000……3000か……」

「……大丈夫じゃなさそうね。」

 

 魔力は残り1800。この魔力で、再び訪れるであろう冒険者に備えなければならない。足りるだろうか……。いや、足りるかどうかの問題じゃない。たとえ足りなくても、やるしかないんだ。

 

「マスター、これからはスキルの説明ちゃんと読んだ方がいいわ」

「そうだな……気をつけるよ」

「リリィ様! 新しく魔物創りましょ! 魔物!」

「防衛のためにか?」

「はい! あと魔物創れば、そいつから魔力徴収できるじゃないですか! そしたらステータス強化もできますよ!」

 

 イレーネの目が輝いている。初めて会った時と同じくらいの輝きだ。元の強さに戻れるのが相当嬉しいらしい。

 

「イレーネさん、悪いけどわたしは反対だわ」

「む、産まれたばかりの魔物に何が分かるんですか」

「ダンジョンについては一通り頭に入ってるわ。魔物よりも罠を創るべきよ」

「どうしてそう思うんだ?」

「わたしがいるじゃない」

 

 ネクロアは自身の胸に骨の手を当て、僅かに口角を上げた。あまり表情は変わっていないが、彼女なりのドヤ顔をしているように見える。

 

「確かに。ネクロアの魔法強かったしな」

「でしょ? マスターはわたしが守るわ。他の魔物なんて必要ないもの」

「でもネクロアは眷属じゃないですか。魔力徴収できませんよ。しかも魔法一発で疲れちゃうし。やっぱ魔物創りましょう」

「イレーネさん」

「はい、なんでしょう」

「魔物差別はよくないわ」

「真っ当な反論だと思うんですが……」

 

 イレーネの反論は間違っていない。彼女が自身を強化したいだとか、魔物差別といった考えを抜きにしても正論だった。

 

「マスター、こんな性格の悪い人の話は聞かなくていいわ。罠を創りましょう」

「どこが性格悪いんですか。創るのは魔物しかありえません」

「罠よ」

「魔物です」

「マスター、どっちにするの?」

 

 ネクロアとイレーネに詰め寄られる。罠と魔物、どちらを創るべきか。いや、二人の圧に押されているとはいえ、必ずどちらかを選ばなければならないわけではない。

 要は冒険者をダンジョンコアまで辿り着かないようにすればいいんだ。それならば……策はある。残り魔力が心許ないが、それも何とか解決できるだろう。




次回、ダンジョンを改造していきます。
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