吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる 作:光の道筋
黙って考え込んでいた俺が口を開く。イレーネとネクロアは俺の言葉を待っていた。
「どっちも創ろう。罠と魔物、どっちもだ」
「マスター、優柔不断はよくないわ」
「それだと魔力が足りなくて全部は創れませんよ。考え直してください」
「ごめん。言葉が足りなかった。順序立てて説明するから」
即座に反対された。どうやら説明が足りなかったらしい。順を追って説明しよう。
「まず、ダンジョンコアへの道を塞いじゃおう。4部屋くらい残して、壁を建てるんだ」
「わたしたち閉じ込められるのかしら」
「隠し通路で通れるようにしようと思う。イレーネ、この案ってどうだ?」
「うーーん。隠し通路次第ですかね……簡単には見つからないようにしたいです」
イレーネは顎に手を当てて思案している様子だ。もちろん、その辺りも考えてある。
「地下通路にしよう。2.5層目みたいな」
「いいですね。出入り口はどうします?」
「それなんだけど、落とし穴の底に繋げたらバレにくいんじゃないか? 落ちた先にはでっかい針置いてさ」
「落ちた人間は死にますしね。それなら……って違ーう!」
いきなりイレーネが大声を上げた。彼女は頬を膨らませ、地団駄を踏んでわざとらしく不満を表現していた。ネクロアはそんなイレーネを見てため息を吐いた。
「はぁ……どうしたのイレーネさん」
「真面目に相談に乗っちゃいましたけど、なんで罠創るんですか! 魔物創りましょうよ!」
「マスターはわたしを選んだのよ」
「あ"ぁ!?」
ネクロアが俺にぴったりとくっつく。とんだ勘違いだ。別にどちらかを選ぶなんて話はしていない。
「違う違う。どっちも創るって言っただろ」
「でも絶対魔力足りませんって!」
「足りるよ。苔スライムを殺せばいい」
「……へ? 殺しちゃうんですか?」
「うん。予想以上に増えてるからな。多少殺しても問題ないんじゃないか」
「確かに…….それなら足りるかもしれません!」
苔スライムが持つ魔力は100。10体倒すだけで1000もの魔力になる。幸い、苔スライムは今も増え続けている。しばらくは間引くだけで魔力を稼げそうだ。
「魔物はどんなの創りますか!? やっぱ強いのですか!?」
「繁殖しやすいのがいいけど……それは後で決めよう。先に壁とか隠し通路とか創らないか」
「まぁ……それでもいいでしょう! ネクロアもこれでいいですね!?」
「ええ。異論ないわ」
「では早速、苔スライムを殺しにいきましょう! 先行ってますね!」
イレーネはすぐさまマスタールームから出ていく。やる気に満ち溢れているな。俺とネクロアはベッドに座ったまま取り残されてしまった。ネクロアはまだ俺にくっついている。
「イレーネさん張り切ってるわ。そんなに殺すのが楽しみなのね」
「そうなの……かな? 俺たちも行くか」
「ええ。行きましょ」
ネクロアと共にマスタールームを出ると、イレーネはせっせと苔スライムを踏み潰していた。潰れた苔スライムは水風船のように破裂し、黄緑色の液体を撒き散らす。イレーネの周囲の床は、その液体でべっとりと濡れていた。
「あはは! これ結構面白いですよ!」
「汚いわ」
「意外と簡単に死ぬんだな」
「2人も手伝ってください! 1人じゃ大変です!」
「うん。手伝うよ」
ぶよぶよと蠢く苔スライムを踏み潰してみる。あっさり絶命するかと思ったが、苔スライムは破裂しなかった。俺の足がその身体をすり抜けてもなおゆっくりと動き続けている。
「死なねえ」
「マスター、わたしも殺せないわ」
ネクロアも俺と同じく苔スライムを殺せないらしい。そんな俺たちを見たイレーネが話しかけてきた。
「あ、内臓狙ってくださいね。内臓以外踏んでも意味ないです」
「内臓? スライムに内臓があるのか?」
「スライムにも脳とか肺があるんです。丁度中心なんで分かりやすいですよ」
俺の足は苔スライムの中心からずれていた。しかし、内臓など目に見えない。本当にあるのだろうか。半信半疑で苔スライムの中心めがけて足を振り下ろす。次の瞬間、苔スライムは水風船のように破裂した。
「うわっ!」
「おっ、上手くできましたね。その調子です」
イレーネがにっこりと笑う。こいつ、分からないことは親切に教えてくれるし、意外と面倒見もいいんだよな。一々ウザいところや差別的な発言さえ直せば、普通に性格が良い奴に見えるのに。
苔スライムの倒し方のコツを一度掴んでしまえば、その後は順調だった。ネクロアも苔スライムを倒せるようになり、三人で次々と殲滅していく。
ダンジョンコアのある部屋を出て廊下へ向かい、さらに各部屋にいる苔スライムも片っ端から潰していった。そうして先ほどネクロアが冒険者を肉塊にした場所まで来たところで、俺たちは足を止めた。
「これくらいでいいかな」
「いいんじゃないでしょうか。マスタールームに
戻りますか」
「もう服がぐちゃぐちゃだわ……」
靴や服は苔スライムの体液まみれだ。ダンジョンの床にも黄緑色の体液がべったりと飛び散っている。マスタールームに戻ってすぐに靴と服を脱いだ。魔力がもったいないので新たに創ることはせず、はたいて体液を落としていく。
「きったね」
「服脱がなくてもよくないですか? パッパと払っちゃいましょうよ」
「それで取れる?」
「大体は」
イレーネが服に付いた体液を軽く手で払う。多少の汚れは気にならないのか、服に体液が残っていても平然としていた。
その横ではネクロアが無言のまま、古びた黒衣と黒革のロングブーツを脱いでいた。彼女が全裸になると、その異形の姿があらわになる。頭部や胴体は人間の子どもと変わらない。だが、肩から先の腕は骨だけだった。
「……そんなに見られると恥ずかしいのだけれど」
「ご、ごめん」
「肉があるリッチは珍しいですからね。ジロジロ見てしまう気持ちは理解できますよ」
肉のあるリッチではなく、骨の腕を持つ人間として見ていたのだが……まあいい。勘違いさせておこう。服についた汚れを手で払い、再び身に着ける。さて、ダンジョン改造に取り掛かろう。元々ダンジョンには1800の魔力があったが、現在は7152に増えている。1800から約5300も増えたのか。
苔スライムの魔力は100だから、53体分の魔力を得たことになる。端数の52は、生きている苔スライムから徴収したものだろう。
「けっこう増えてるな!」
「これだけあれば足りそうですね!」
「それで何から創るのかしら」
「壁からかな。それ創ったら隠し通路だ」
カタログには壁も載っている。ダンジョンの立体地図があり、好きな場所に壁を建てられるようだ。サイズや色、材質も決められる。しかし、隠し通路というものは存在しなかった。
「イレーネ、隠し通路って創れるのか?」
「ダンジョンを拡張すればいいんじゃないでしょうか。一定範囲の物質を消失できるんですよ」
イレーネはそう言いながら、画面の操作を指示してくる。その指示に従って操作していくと、ダンジョンの拡張という項目が現れた。そこには、ダンジョン全体が3Dで表示されている。どうやらこの立体地図を動かして拡張していくらしい。
「ここでダンジョン拡張できますね。ま、これは後にしますか」
「だな。先に壁を創ろう」
ダンジョンコアのある部屋から出て、左右に2部屋ずつ、合計4部屋を確保する。これらの部屋は魔物の飼育にでも使おう。壁の材質は煉瓦造りにして、周囲との違和感がないように整える。あっという間に壁が出来上がった。
「壁が生えたわ。早いわね」
「後は隠し通路ですか」
「うん。創っちゃおう」
壁が完成し、行き止まりとなった箇所に下り階段を設置する。そこから先は一本道を創っていき──
「ちょっと待ってください!」
「ん? どうした?」
「道もっと狭くしません? 四つん這いで通れるくらいにしましょうよ」
「それ、不便じゃないかしら」
「不便ですね。でもダンジョンの拡張って消費魔力が多いんですよ。節約しませんか?」
「まぁ隠し通路だから狭くてもいいけど……」
「節約した分は魔物作成に使いましょう!」
消費する魔力は少ないに越したことはない。魔物を増やして強くなりたいというイレーネの提案に乗るのは癪だが、否定する理由もない。ここは素直に従うとしよう。
階段から細い道を伸ばしていく。ある程度進んだところで、落とし穴を作成した。隠し通路は落とし穴の底へと繋がっている。登り降りできるよう、側面には取っ手も取り付けた。
後は、カタログに載っている棘を底に設置し、上に乗ると落下する蓋を仕掛けた。隠し通路に入られたら嫌だから、鉄格子を……いや、これが動かせるように溝を作ろう。
ダンジョン拡張画面で溝を作り、カタログから鉄格子を創った。
「なんか色々やってるわね」
「これで完成ですか?」
「完成だ。これで上手くいくといいんだけど」
ちゃんと作動するのか心配だ。隠し通路もどれくらいの広さか分からない。
「確認しに行きましょ」
「いえ、その前に魔物を創りましょう!」
「そんなの後でいいわよ」
「1秒でも早く創った方がいいですって!」
「わかったわかった。喧嘩すんなよ」
「では魔物創りますか!」
「隠し通路の確認した後な」
「えー!」
イレーネはいじけているが、そんなことは無視だ。心なしか、ネクロアは嬉しそうな表情をしている。隠し通路と落とし穴を確認した後、魔物作成に移ろう。
次回、新たな魔物を創ります。