吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる 作:光の道筋
ということで、俺たちはマスタールームを出て隠し通路を見に来た。新しい壁は僅かな隙間すら無く、完璧に塞がっている。見ただけで新築だとわかる綺麗さだ。そのせいで周囲の床や壁、天井から浮いている。
「ピカピカですね。明らかに怪しいです」
「全然見えないのだけれど、綺麗なのに怪しいの?」
「怪しいところは冒険者がぶっ壊してくるんじゃないですか? 多分ですけど」
「汚さないとな」
「苔スライムでも投げておきましょうか」
「こっち側はこのままでもいいんじゃないか。どうせ冒険者が来ることはほぼないんだろうし」
「それもそうですね。反対側を汚しましょう」
反対側へ行くには、隠し通路を通らなければならない。階段を降りると、そこには1人が四つん這いになってようやく通れるほどの、狭く細い道があった。想定していたよりも狭い。太った人や筋肉質な人では通り抜けるのは難しそうだ。
「狭いな」
「私通れますかね」
「イレーネさんが通れないくらいなの?」
「ギリギリですかね……」
イレーネが隠し通路へ四つん這いで入っていく。肩が壁を擦っているが、なんとか通ることはできそうだ。俺もその後に続いて隠し通路へ入る。子どもの体なら壁に触れることもない。
隠し通路内は煉瓦造りではなく、ゴツゴツとした岩肌となっている。ただ岩盤をくり抜いただけではこうなってしまうようだ。
俺の後ろにはネクロアが続いている。骨が岩肌に触れる音が隠し通路の中に響いた。俺たちは3人で一列になり、先へ進んでいく。ダンジョンというより洞窟を探検しているような気分だった。
「……長くないですか?」
「もうすぐ出口だと思うんだけど」
「灯りが欲しいわ」
「ダンジョンの整備もしないといけないな」
「それも魔物創って魔力を増やしてからですね」
「先は長いわね」
魔力がなければ何も創れない。まだやりたいことは山ほどある。ダンジョンの整備はもちろん、俺やイレーネ、ネクロアの強化、そしてマスタールーム内も住みやすい環境にしたい。快適に暮らせるダンジョンを作るには、まだまだ時間がかかりそうだ。
隠し通路を進んでいくと、イレーネが足を止めた。彼女の体で前方が見えない。
「どうした?」
「出口です。でも鉄格子があって」
「あ、それ横にずらして開けれる」
「横に……お、開きました」
鉄と岩が擦れる音が聞こえる。隠し通路から出ていくイレーネの後に続く。狭く息苦しい道を抜けると、そこには4畳半ほどの空間が広がっていた。床には1mほどの長さの鈍く光る針が一面に敷き詰められている。イレーネはその針の隙間に立っていた。天井は高く、およそ5mほどはありそうだ。ここが落とし穴か。
「なかなか高いですね」
「落ちたら助からなそうだな」
「ここ登るんですか?」
イレーネの視線の先には壁があり、そこには上へ登るための足場のような凹みがいくつも刻まれている。俺が取り付けたものだ。登れないことはないだろうが、いかんせん途中で足を滑らせて落ちないか不安になる。
「登れるかな」
「登ってみますか」
「マスター」
振り返ると、ネクロアが隠し通路から出てきたところだった。もう暗闇に目が慣れたのか、彼女は俺の目をしっかりと見つめている。
「お、ネクロアも来たか。今からイレーネが登るんだってさ」
「イレーネさん頑張って」
「頑張るほどじゃないですよ。これくらい簡単です」
イレーネが壁を登っていく。俺を転生させてから筋力が衰えたらしいが、意外と苦戦していない。1番上まで登ると、天井に片手を伸ばして押した。
「お、おもっ」
イレーネが懸命に天井を押す。天井の蓋は少しずつ開いている……気がする。どうやら相当重いらしい。今にも凶悪な針へと落ちそうでハラハラしてしまう。
「イレーネ! 落ちるなよ!」
「そんな間抜けなことは……しま……せんっ!」
天井が僅かに開き、イレーネはその隙間に身体を滑り込ませた。だが、途中で身体が挟まってしまう。彼女は身体を捩りながら上へと進んでいく。やがて完全に抜け出すと、大きな音を立てて天井が閉まった。
「いけました! 余裕です!」
「全然余裕じゃなかっただろ!」
「そ、そんなことありません! 降りるんで離れてください!」
天井越しにイレーネの声が聞こえる。するとドンドンと天井が叩かれ、勢いよく天井が開かれた。
「うわっ!」
「なんか開いたわ」
「落とし穴はちゃんと作動しそうですね!」
「……これ、落とし穴が開いた時に登ってたら落とされないか?」
「……落ちますね」
危険すぎる。もしタイミングが合ってしまえば、それだけで即死だ。誰だこんな通り道を創り出したのは。ダンジョンから出るだけで命懸けじゃないか。
「ま、大丈夫ですよ! マスタールームで冒険者がいるか確認できますし!」
「いつか事故る気がする」
「死ぬときは死ぬんで! 気にしても無駄です!」
「無駄なことはないと思うわ」
「うるさいですねぇ! 降りますからね!」
イレーネが落とし穴を降りてくる。底に到達したと同時に天井が閉まった。
「おかえり」
「ふぅ、罠の確認はこれくらいでいいですかね?」
「よさそうだな。改善点はあったけど概ね設計通りだし」
「ではマスタールームに戻りましょう! 魔物作成です!」
「あ、わたし創る魔物について頼みたいことがあるのだけれど」
「頼みたいこと? なんだ?」
「マスタールームで話すわ」
ネクロアの顔は無表情で、感情が読み取れない。頼みたいこととは何だろう。新しく創ってほしい魔物でもいるのだろうか。
俺たちは隠し通路を引き返す。マスタールームに戻ると、テンションが上がっているイレーネがネクロアに尋ねた。
「お前、何を頼みたいんですか?」
「そもそもね、魔物創るのは反対なのよ。何故ならわたしがいるから」
「はぁ。そんなくだらない意見なら無視しますよ」
「だからね、せめて話せる魔物を創ってほしいわ」
「理由はなんですか」
「コミュニケーション取れた方がいいじゃない」
ネクロアの返答を聞いたイレーネが深いため息を吐く。さっきまで高まっていた彼女のテンションがすっかり下がってしまった。
「しょうもない。リリィ様、こいつの話は無視しましょう」
「そうか? コミュニケーション取れたら便利だろ」
「そんなことありません。魔物が賢いと面倒なんですよ」
「わたしは面倒じゃないわ」
「お前は黙っててください。昔、私も賢い魔物を創ったんですよ。そしたら反乱されるわダンジョンから出てくわで大変だったんです」
それはお前が酷い扱いをしていたからじゃないのか、とは言わなかった。反論すれば、倍になって返ってきそうだ。ここは適当に頷いておこう。
イレーネの話から分かったのは、魔物はダンジョンマスターに必ず従うわけではない、ということだ。そう考えると、ネクロアが今のところ俺に従ってくれているのは不思議に思える。
「じゃあネクロアはどうして俺に従ってるんだ?」
「創造主だから、かしら」
「それだけ?」
「そうよ? これが普通でしょ?」
「こいつはここのダンジョンに関する知識しかない産まれたばかりの赤ん坊なんですよ。だからこんな考えなんです」
「……わたしを馬鹿にしてるのかしら」
「してませんって。赤ん坊なのは事実でしょう」
ネクロアがイレーネを睨む。こいつら、相性が悪すぎるだろ。たった3人しかいないんだ。せめて表面上だけでも仲良くしてくれ。人間関係なんて多少の我慢で成り立っているものだ。
「仲良くしろよ。だったら沢山繁殖できて話せる魔物なら、2人とも納得するんだな?」
「その魔物、気持ち悪くないですか」
「吸血鬼だって繁殖できて話せるだろうが」
「それを言われたら何も言えないのですが」
「ネクロアは? これでいいな?」
「わたしは構わないわ」
うん。納得したようだし、この方向で創ろう。
沢山繁殖できるとなると……虫か? 虫なら短期間で大量に増やせる。餌にもそれほど困らないだろう。
「イレーネ、虫系の魔物っているのか? 虫なら繁殖しやすいだろ」
「いますよ。でも……」
「でも?」
「話せる虫って気持ち悪くないですか」
「いやまぁ……気持ち悪いけど……」
「マスター、わたしは賛成よ。虫系の魔物ならわたしの地位も脅かさないわ」
自分で提案しておいてなんだが、意外にもネクロアは賛成らしい。魔物というのは、虫に抵抗感を抱かないものなのだろうか。
「こいつ、リリィ様の愛人枠狙ってますよ。気をつけてください」
「なんで愛人になんだよ。そんなことより、どの種類の虫にする?」
「え、本当に虫にするんですか」
「気持ち悪い以外に問題がないなら虫でいいだろ」
「くっ……そうですね……魔力も増やしやすいでしょうし……」
「よし。なら虫だな」
渋々ながら了承してくれた。俺も話す虫は嫌だが、魔力を増やすため、そしてネクロアの要望を叶えるためにこうなってしまった。
カタログを開き、虫系の魔物を確認してみる。
蜘蛛や蝶、ムカデなど、地球にもいそうな生物が載っている。色鮮やかなものや角が生えているものもいるが、大まかな姿は地球の生物とそれほど変わらなそうだ。
「どれにしよう」
「ダンジョンで生きていける奴にしましょう。蝶とか蜂とかはすぐに死にそうです」
「一番賢そうな魔物がいいわ」
「賢い虫なんているのか?」
「わからないわ」
「私も知りません。虫に興味が無いので」
2人とも賢い虫を知らないようだ。もちろん俺も知らない。会話できるくらい賢い虫ってなんだよ。そんな虫存在するのか?
話せるかどうかは置いておいて、ダンジョンに生息できるかで考えてみよう。ムカデや蝿なら、この環境でも生きていけそうだ。後は……蟻も大丈夫だろう。
うん。蟻なら、なんとなく賢そうな気がする。
「蟻はどうだ? 賢そうだろ」
「そうなんですか?」
「わからないわ」
「……まぁいいや。蟻を創るからな」
「蟻なら簡単に死ななそうでいいですね」
「わたしも異論ないわ」
魔物を作成する画面に移る。隠し通路を創る前は7100ほどあった魔力が、今は2000まで減っていた。ダンジョンの拡張は魔力の消費が多いとイレーネは言っていたが……まさか、ここまで消費するとは。これでは頻繁にダンジョンを拡張することはできなさそうだ。
蟻1匹を創るのに500の魔力が必要らしい。まずは1匹だけにしよう。問題なければ、後で増やせばいい。ステータスの強化やスキルの取得はせず、蟻を創造する。真っ白な床の上に、ぽんと黒い蟻が現れた。
だが、俺の知っている米粒ほどの大きさではない。体高は俺の腰ほどまであり、鋭い顎がこちらを向いている。感情を感じさせないその顔は、ただの虫とは思えないほど恐ろしかった。
「うっ……」
「おっ、こいつが魔力生成くん2号ですか」
「話せるのかしら」
イレーネとネクロアは全く怖がっていない。だが、俺は正直怖い。蟻が巨大になるとこんなにも不気味なのか。
ネクロアが躊躇せずに近づいて蟻に挨拶する。しかし蟻は挨拶を返さない。むしろ警戒して離れていった。
「失礼ね」
ネクロアが走って蟻を追いかける。蟻も負けじと速度を上げ、ネクロアから逃げていく。コミュニケーションが取れているとは到底思えない。
「話せなさそうですね」
「やっぱ虫とは会話できないか」
「……マスター、創り直すわよ」
追いかけるのを止めたネクロアがこちらに戻ってくる。創り直すのは何の問題も無い。けど、創り直して話せるようになるのだろうか。
「創り直すのはいいけど、話せるとは限らないぞ」
「話せるようになるわ。わたしみたいな人型にすればいいのよ」
「人型の蟻?」
「そうよ」
「ますます気持ち悪くなってないですか」
「そこ、うるさいわ」
人型の蟻。ダンジョンならば可能だろう。昔やったゲームにそういう種族がいた。その種族をモチーフにすれば創れるはずだ。
「よし! 創るか! 人型の蟻!」
「ええ。創りましょう」
「うわ……正気ですか……」
「イレーネさん、よかったわね。友達が増えるわよ」
「んなもん要りませんよ……はぁ……リリィ様が決めたなら何も言いませんけど」
イレーネは心底乗り気じゃなさそうだ。それでも創ってしまおう。大きい蟻よりは人型の蟻の方がマシだ。やっぱ見た目は重要だな。
次回、人型の蟻を創ります。