吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる〜最強ダンジョンを作って美少女眷属と引き篭もりたい〜   作:光の道筋

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ダンジョンマスター

 白に染まっていた視界が晴れる。いつの間にか俺とイレーネは、とてつもなく広い空間にいた。白い平坦な床がどこまでも続く。壁は見えず、どれほど広いのか想像もつかない。

 

 目の前には高級そうなベッドと浴槽が置かれている。そして、目についたのは空中に浮いた幾つもの画面。画面には薄暗い煉瓦の道が表示されていた。おそらくダンジョン内の様子を映しているのだろう。

 画面内の道には大きな獣の死体が放置されていた。それもほぼ全ての画面に。ダンジョンでは普通の風景なのか。

 

「うわっ、なんだこの場所」

「リリィ様! ここがマスタールームです!」

「すごく広いな。ここでダンジョンマスターってやつになるのか」

「おっしゃる通り! 今は私がダンジョンマスターなので交代しちゃいましょう!」

 

 イレーネの前に新たな画面が現れ、彼女はそれを操作し始めた。ダンジョンマスターになるのは構わないが、具体的な仕事内容はまだ聞かされていない。

 もし強制的に孕まされるようなことがあったら最悪だ。ダンジョンマスターになる前にきちんと仕事内容を確認しておこう。

 

「ひとつ聞いていいか? ダンジョンマスターになったら何をするんだ?」

「ダンジョンの運営をしてもらいます!」

「俺が運営する必要あるのか? イレーネがダンジョンマスターのままでいいだろ」

「そんなことありません! やはりリリィ様にはダンジョンの王が相応しいかと!」

 

 嘘くさい。初対面なのに王に相応しいとか分かるわけないだろ。何か裏がありそうだ。それとも本当に慕ってるだけ? それは無いだろ。子ども産ませようとしてきたし。

 

「それにダンジョンコアが壊れたらリリィ様は死んでしまいます。ご自身がダンジョンマスターになって守る方が安心するのでは?」

「ん!? ちょ、ちょっと待て! 俺が死ぬ!?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた。死ぬとは何の話だ。せっかく生き返ったのに、また死ななきゃいけないのか。

 

「ダンジョンコアから生まれたものはですね、コアが壊れたら全て無くなっちゃうんです」

「それと俺が何の関係があるんだ」

「リリィ様はダンジョンコアから生まれたんです! 正確には、私が魔力を用いて創り出しました!」

「……は?」

 

 イレーネは無垢な笑みを浮かべながら語る。嘘を吐いている様子ではない。彼女の言葉が真実ならば、俺はダンジョンと一心同体だ。死を避けるためにはダンジョンコアを守らないといけないのか。それも、一生。

 そうなると、イレーネの言う通りダンジョンマスターになった方がいいのかもしれない。この胡散臭い女に命を預けるのは嫌だ。

 

「リリィ様! ダンジョンマスターになるってことでいいですか!?」

「……わかったよ。ダンジョンマスター、やるよ」

「ありがとうございます! このボタンを押せばダンジョン権限を譲渡できるらしいです! さぁ押してください!」

 

 イレーネの前に浮かんでいる画面を覗くと、赤く丸いボタンが表示されている。安っぽいUIだ。マスタールームの雰囲気にまるで合っていない。もっとカッコよくできそうなのに。

 

「じゃあ、押すぞ」

「はい! 押しちゃってください!」

 

 恐る恐るボタンを押すと、俺とイレーネの体が激しく光り始める。光は次第に弱まり、やがて何もなかったかのように消え去った。

 これでダンジョンマスターになったのだろうか。体に違和感はない。ダンジョンマスターになれたのか疑わしい。イレーネは首を傾げている。彼女もよく分かっていないようだ。

 

「これでいいのか?」

「どうなんでしょう……私も初めてなので……あ! ダンジョンの力を使えばダンジョンマスターになってるのか判明しますね!」

「ダンジョンの力か。全く使える気がしない」

「簡単です! メニューを出したい、と念じてみてください!」

 

 イレーネの指示に従い、メニューを出そうとしてみる。直後、眼前にメニューウィンドウが現れた。

 メニューウィンドウにはカタログのような一覧が表記されている。幾つか分類があり、家具や衣服、さらには魔物という欄もあった。このカタログから注文でもするのだろうか。

 

「なんか出てきたな」

「ダンジョンマスターの特典の1つ! 魔力を消費して好きなものをなんでも生成できちゃいます!」

「なんでも……? もしかして俺も……?」

「そうですよ! この特典を使って生成しました! ここに載っていなくても想像したものなら大体作れます!」

「どうして俺を作ったんだよ……」

「吸血鬼の王族を増やしたいからです!」

 

 こいつはサイコパスかマッドサイエンティストだ。そうじゃないとイレーネの無垢な狂気に説明つかない。彼女がダンジョンマスターを辞めて正解かもな。ダンジョンマスターを続けてたら俺のような被害者が続出してしまう。

 

「試しに何か作ってみません? 何でも作れますよ」

「吸血鬼以外を作ろう。消費される魔力ってのはどこにあるんだ?」

「ダンジョンコアに蓄積した魔力が消費されます。蓄積量は右下に載ってますね」

「ええと、どれどれ……魔力は78だな」

「リリィ様のために全て消費したので少ないですね。全消費してからちょっとだけ貯まってます」

 

 今は真っ裸だから服を創りたい。カタログを見ると、服はどれも魔力がかかる。高級品は1000以上、最安の『農民の服』は10。とりあえずこれでいいか。

 

「じゃあ貯まってる魔力を使って『農民の服』を創ってみるよ。どうやったら創れるんだ?」

「イメージしたら創れますけど……その服はやめません? 可愛くないです」

「だって安いし」

「安くてもダメです。こっちにしましょう。魔力75で創れますよ」

 

 イレーネが指さしたのは黒いゴスロリ。確かに可愛い服だ。でも蓄積量は78だからギリギリの消費になってしまう。

 

「これ買ったら残り魔力3じゃん。なるべく残しておいた方が安心しないか?」

「これくらい平気ですよ! ダンジョンマスターになった記念に、パーッと使っちゃいましょ!」

 

 そういうものか。ダンジョンマスターになったのは全く喜ばしくないし、むしろ最悪の気分だが、その気分を晴らすのに丁度いいかもしれない。可愛い服を着てみたいとかじゃないけどね。うん。決してそんなことはない。

 

「……よし! 創っちゃうか! ゴスロリ!」

「ふーっ! いっちゃいましょう!」

「イメージすればいいんだよな!? いくぞ!」

 

 気合いを入れて黒いゴスロリをイメージする。次の瞬間、俺は黒いゴスロリに身を包んでいた。うわ、本当に出来た。まるで魔法みたいだ。いや、実際に魔法と同じような部類なのかな。

 くるりと回って足元を見る。装飾が付いた黒い靴が可愛い。回ると膝丈ほどのスカートがひらひらと舞って可愛い。

 

 一生ダンジョンと共に生きなければならないのは最悪だが、ダンジョンマスターというのは良いものかもしれない。女の子になったのもいいな。イレーネ、ありがとう。お前はサイコパスなんかじゃないよ。

 

「あ! リリィ様! ノリノリなところ申し訳ありませんが緊急事態です!」

「全然ノリノリじゃないけど、どうした? 何があったんだ?」

「冒険者が侵入してきました! ダンジョンコアがピンチです!」

 

 イレーネが慌ただしく騒いでいる。ダンジョン内が映っている画面を見ると、真剣な面持ちで歩いている男が3人いた。

 彼らは短剣を持ち、革鎧を着ている。これを撃退するのが俺の仕事か。失敗したら俺が死んでしまう。

 

「ダンジョンマスターの出番だな。罠はあるのか? それか魔物とか」

「罠は管理がめんどくさいので創ってません! 魔物は最近全て殺しちゃいました!」

「そんなことある?」

「長くなるので説明は後で! 早く何とかしないと! どうしようどうしよう!」

 

 イレーネは俺より慌てている。頭を抱えて歩き回っていた。理由は不明だが、そんなに強いなら彼女が冒険者を撃退すればいいんじゃないか?

 我ながら名案だ。早速イレーネにダンジョン内へ戻ってもらおう。

 

「イレーネ、冒険者をやっつけてくれないか。魔物を殺せるぐらい強いんだろ?」

「む、無理です! 今の私じゃ冒険者に勝てません!」

「え、なんで」

「リリィ様を膨大な魔力で創ったからです! ダンジョンの魔力で足りない場合、ダンジョンマスターの能力が代償になります!」

「つ、つまり? どういうこと?」

「今の私はザコです! う、うぅ……私の努力の結晶が……」

 

 イレーネはへたり込み、泣き出した。泣きたいのは俺の方だ。なんで生き返ってすぐに死にそうになってるんだ。俺はもう死にたくない。

 どうすれば冒険者を撃退できる。残りの魔力で罠や魔物、武器のいずれかを創るか? いや、それも不可能だ。魔力が3しかない。誰だよ。ノリノリでゴスロリ創った奴。……俺だよ。何やってんだよマジで。

 こうなったら俺自身の力で何とかするしかない。でも、まともに喧嘩したこともないんだ。冒険者に勝てる自信は全くない。

 

「俺がやる。説得して帰ってもらえたらいいけど、できなかったら気合いと根性で冒険者に勝つ」

「さ、さすが伝説の王族です! その力を見せてください!」

「いや、俺は全然強くないんだ。多分返り討ちにされる」

「え!? 魔法は!? 吸血鬼の力は!?」

「どっちも使えない」

「そ、そんな……な、なら! 今ここで、吸血鬼の力を覚醒させましょう!」

 

 覚醒……? そんなの出来たら苦労しない。吸血鬼である自覚すらないんだぞ。特殊な力なんて全く使えない。でも、頑張って覚醒させるしか生きる道はないのか。

 

「どうすればいいんだ? どうやったら覚醒できる?」

「古より伝わる吸血鬼の覚醒方法! それは! 同種の血を飲むことです! 私の血を飲んでください!」

 

 イレーネはそう叫ぶと、首を傾けて首筋を強調した。 そこから血を飲めということか? 俺は生き血を飲まなければならないのか?




次回、生き血を飲みます。冒険者とも戦います。
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