吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる〜最強ダンジョンを作って美少女眷属と引き篭もりたい〜 作:光の道筋
画面に映っている冒険者は着実に歩みを進めている。ダンジョンがどれくらい広いのかは知らない。しかしイレーネの慌てようからして、やがてダンジョンコアに辿り着くのだろう。
早くイレーネの血を飲んで吸血鬼の力とやらに覚醒しよう。頭がおかしくなってる自覚はある。生き血を飲むなんて人として有り得ない行為だ。それでもやらなければ。
あの孤独で冷たい死はもう2度と味わいたくない。死の直前は受け入れていた筈なのに、蘇ったら死ぬのが怖くなってしまった。俺は生きる為に、他人の血を飲むのだ。
「イレーネ! 血を飲ませてくれないか! 頼む!」
「はい! この血、すべてリリィ様のために捧げます!」
へたり込んでいるイレーネに近づく。彼女の肩に手を添えて首筋に歯を立てた。
心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。決心したつもりでも、まだ緊張しているのか。ここで止まっていても意味がない。意を決してイレーネに噛み付いた。理性が警鐘を鳴らしている。しかし、その警告すら血の香りに溶けて消えた。
「あっ……」
一口飲み込んでみると、それは今まで口にしたものとは比べ物にならないほど美味だった。甘さでも辛さでもない。喉奥を痺れさせるような、説明できない旨味。これを飲むために蘇ったと思えるような味だ。
血は喉を通り、体内に送られる。腹の底が熱くなり、熱は全身に広がった。足の先から頭のてっぺんまで、自分の体をハッキリと認識できる。
イレーネの鼓動がやけに鮮明に聞こえた。まるで生まれ変わったような気分だ。過去の体は偽物で、現在が本物の体。そう確信する。俺はたった今から、吸血鬼になったんだ。
「リリィ様……そんなに夢中になるなんて……♡」
「す、すまん!」
慌ててイレーネから離れた。彼女の息は荒くなり、目は恍惚としている。反射的に離れてしまったが、まだ飲み足りない。あの無上の味をもう一度味わいたい。あれが生き血。こんなに美味しいものだとは思ってもいなかった。
「ふぅ……さぁリリィ様! 吸血鬼の力が覚醒しましたか!? 私に見せてください!」
「え? そ、そうだったな。どうすればいいんだ?」
「まずは指先を噛んで血を出しましょう! 血を操るんです!」
「よし分かった。やってみる」
そうだ。吸血鬼の力に覚醒する途中だったんだ。すっかり頭から抜け落ちていた。一旦生き血のことは忘れよう。気を取り直して右手の人差し指を噛む。僅かな痛みと共に、指先から血が流れた。
「流血も体の一部だと思ってください! まずは浮かせてみましょう!」
「浮かせる……おぉ! 出来た!」
指先からポタポタと流れている血が浮き上がる。既に床に落ちた血も浮き、まるで重力を失ったかのようだ。
「その調子です! 次は攻撃してみましょう! 血の刃を作って飛ばしてください!」
浮かせた血を小刀へと変形させる。その小刀を勢いよく、誰もいない空間へと飛ばした。小刀は赤い軌跡を描いて飛び、床に触れた瞬間に血へと還った。ある程度離れていると操作不可能なようだ。
「いいですね! これで冒険者を撃退しましょう!」
「冒険者はこっちに向かってるのか?」
「順調にダンジョンコアへ進んじゃってますね。ここのダンジョンは迷路になってるので時間を稼げてますが、もうすぐ到着します」
「も、もう来るのか! ダンジョンコアの前で待ち構えないと」
いつの間にかダンジョンコアが壊されていたら冗談で済まない。そんな悲劇を避けるために、マスタールームを出て冒険者を待ち構えよう。
「リリィ様! マスタールームからはダンジョンコアがある部屋にしか出られません! この画面を触ったら出れます!」
ダンジョンの様子を監視カメラのように映している画面の1つに、ダンジョンコアが映っているものがあった。ここを押して早く転移しないと。
「もちろん私も行きます! 共に戦いましょう!」
「え? でもさっきはザコって言ってなかったか? 実は強いのか?」
「いえ、魔法も使えない上、筋力も人間と同程度まで落ちました! それでも肉壁にはなれます!」
「いや危ないだろ。俺1人で行くよ。イレーネが死んだら嫌だし、ここで待っててくれ」
「うっ、は、はい……畏まりました……」
無理やりにでもついてくると思ったが、あっさり納得してくれた。イレーネも死にたくないのだろう。画面に触れた瞬間、視界が歪んでダンジョンに転移した。部屋の中にはダンジョンコアと狼の死体、俺が蘇った場所だ。
窓は無く、大きな両開きの扉が1つだけある。扉とダンジョンコアの間に立ち、いずれこの部屋に来るであろう冒険者に備えた。説得したら冒険者たちは帰ってくれるだろうか。血を操作できるようになったが、人を傷つけたいわけじゃない。
可能ならば穏便に済ませたい。冒険者だって安全が第一のはずだ。
何もしていないと頭の中の独り言が止まらない。不安を紛らわすために、指先から流れる血を球にしたり刃にしたりと弄んだ。いつの間にか時間が過ぎ、足音が扉の向こうから近づいてくる。
とうとう冒険者が来てしまったか。心臓の鼓動がどんどん加速していった。扉が開かれる。先頭に立ち、松明を持っている男と目が合った。彼の後ろには2人の男。全員が俺を見て驚いているようだ。
「おっ! やっと生きてる奴がいたな!」
「可愛い子ですね……迷子でしょうか」
「つまらない冗談はやめろ。羽が生えてる人間がいるか? おそらく魔物だ」
羽? 俺に羽が生えてるのか? 思わず背中を見ると、肩甲骨のあたりから蝙蝠のような黒い羽が生えていた。
「おいおい! ダンジョンコアがあるじゃねえか! さっさとぶっ壊そうぜ!」
「ここまで長かったです。何回迷ったことか」
「お前が勝手に進むからだ!」
「あなたのせいですよ」
「喧嘩はやめるんだ。早く壊して地上に戻るぞ」
冒険者は呑気に会話している。俺なんて眼中にないみたいだ。敵だとすら思われていないらしい。
「ダンジョンコアを壊すのはやめてくれ。このまま帰ってくれないか」
「あ? うるせえよ。殺さないでやるから黙ってろ」
「それじゃ駄目なんだよ! ダンジョンコアが壊れたら俺も死ぬんだ!」
「ん? なるほど。君はダンジョンコアから生まれた魔物なのか。それは残念だったな」
冒険者たちの意思は変わらない。このままでは殺される。同情でも引けないものか。
「こんな可愛らしい女の子を殺すのか? 心は痛まないのか?」
「確かに……ちょっと可哀想ですね……」
「騙されんな! ぶっ壊したら冒険者ギルドがたんまりと報奨金くれんだよ! 忘れたのか!」
「わ、忘れてません! 僕もお金が必要なんです!」
「そういうことだ。悪いが壊させてもらうよ」
こいつらは人の心を持っていないらしい。身勝手な金銭欲で殺そうとしやがって。徹底的に抗ってやる。
先頭の男が長閑に散歩してるかのような気軽さで歩いてくる。後ろの2人はニヤニヤと笑ったままで動こうとしない。
「じゃあな」
「くっ……!」
短剣の横振りを辛うじて躱す。尻餅をつき、その隙に腹を思いっきり蹴飛ばされた。俺は吹っ飛び、背後にあるダンジョンコアに背中がぶつかって止まる。
ダンジョンコアは固定でもされているのか、微動だにしない。腹よりむしろ、背中のほうが強く痛んだ。
「はっはっは! あまり苛めんなよ! 可哀想だろ!」
「長引かせても苦しませるだけか。楽にしてやるよ」
冒険者たちは薄笑いを浮かべながら俺を見下ろしていた。このままだと殺されてしまう。俺は殺人なんてしたくない。だけど、殺されるのはもっと嫌だ。俺の手を血に染めてでも、生き抜いてやる。
指先からの血だけでは少ない。既に流れている血を操って傷を増やす。血の刃は右腕を傷つけていく。指先から手へ、手から二の腕まで、幾つもの切り傷が痛みを伴って生まれた。
「何してんだコイツ?」
「わからないな。自傷行為か? 魔物特有の儀式かもしれない」
「気味が悪いですね……止めをさしましょう」
「いや、待て。なんだこれは……」
右腕からの流血を1つの球体に纏めていく。血の球体は宙に浮き、直径30cmほどになった。視界が霞み、耳鳴りが起こる。最後の力を振り絞り、俺は立ち上がった。
「最後の忠告だ。もう帰れ。そうすれば殺さないでやる」
「笑わせんな! ふらついてんぞ! 強がってんじゃねえ!」
「妙な魔法に少々驚いてしまったな。君がここから勝てるとでも思っているのか?」
「……後悔するなよ」
冒険者たちは一歩も引かなかった。ならば、俺も容赦はしない。血液の塊から無数の小刀を産み出す。その小刀を先頭の男に飛ばし、まるで雨のように降り注いだ。
「ぐっ!」
「なっ! なにっ!?」
男の全身を切り裂き、身体を赤く染め上げる。彼は小さなうめき声をあげて地面に倒れた。
「……え?」
「おい! 大丈夫か!? 」
「う……うわああああああ!」
「ま、待て!」
1人は倒れた男に寄り添い、もう1人は動転して俺に向かってきた。そいつの足を血の糸で絡めとる。男は勢いよく転び、顔面を地面にぶつけた。
「うぎっ!」
無防備な背中と頭を小刀で突き刺していく。突き刺すたびに男の体が痙攣し、次第に動かなくなった。球体にした血はこれで尽きた。だが、地面には大きな血溜まりが広がっている。
全ての血液を集め、槍状に変形し硬化させた。その槍を残った1人へと狙いを定める。
「キース……ギシア……」
「お前で最後だ」
「ひっ! ゆ、許してくれ! 俺が悪かった! ダンジョンコアは壊さない! 俺だけは殺さないでくれ!」
男は平伏し、裏返った叫び声で命乞いする。許してくれ、だと? お前らが先に殺そうとしてきたんだ。殺される覚悟がなかったとは言わせない。
「頼む! 頼む!」
「もうお前の声は聞きたくない。耳障りだ」
「言うことは何でも聞──」
後頭部に槍を突き刺し、男の言葉が止まる。これで全員殺した。安堵とともに疲労感が押し寄せる。
血を失いすぎてしまった。全身が異常に重い。立つことも出来ず、地面に倒れた。そして、俺の意識は暗闇へと沈んだ。
リリィは吸血鬼の力に覚醒しました。もう人間は辞めたみたいです。
次回、王の夢を見ます。
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