吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる〜最強ダンジョンを作って美少女眷属と引き篭もりたい〜   作:光の道筋

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吸血鬼の王

 気づけば見知らぬ街を歩いていた。これは……夢か? この場所に見覚えはない。一体何処なんだ。街全体が巨大なドームに覆われているらしく、全体的に薄暗い。通りには煉瓦造りの家が建ち並んでいた。

 

 体が自分のものではないかのように勝手に動く。大通りの真ん中を闊歩し、道を阻む者は誰もいない。道脇には大勢の人間。いや、よく見ると背中に羽が生えている。彼らは吸血鬼なのか。

 皆が「王」という言葉を投げかける。その声は希望に満ちていて明るい。俺は声援に手を挙げて応えた。

 

 歩いていくにつれ、段々と人が少なくなる。1人、また1人と減っていき、最終的には誰もいなくなってしまった。まるで時間が一気に進んでしまったかのように。建物も崩落しており、廃墟と化している。先程までの繁栄が嘘のようだ。

 俺の歩みが遅くなる。俯き、血が滲み出るほど拳を強く握りしめた。風の音だけが耳に残る。嫌な予感が背筋を撫でた。

 顔を上げると、そこには晒し首がずらりと並んでいて────

 

「うわぁ! いてっ!」

「いった!」

 

 勢いよく起き上がると、でこをぶつけてしまった。ぶつかったのはイレーネだ。どうやら俺はイレーネに膝枕されていたらしい。

 息が乱れている。夢の続きがまだ視界に焼きついて離れない。そうだ。冒険者を殺して、そのまま気を失ってしまったんだ。周囲には3人の冒険者の死体が放置されていた。芳醇な血の香りが漂っている。

 

 動こうとすると右腕と腹、それに背中が痛む。右腕は服もズタズタに破れ去り、見るも無惨な姿になっていた。

 

「いたた……リリィ様ご無事ですか? うなされていたようですが」

「大丈夫。何の問題もない」

「でしたら良かったです! 本当、リリィ様が死んでしまわないか心配で心配で……命令されなければ代わりに戦いましたのに!」

 

 イレーネは涙目になっている。命を案じてくれるのは嬉しい。だが、今はそれよりも気になることがあった。それはさっきの悪夢だ。あの鮮明な光景がただの夢だとは到底思えない。

 

 夢の中で俺は人々から「王」と呼ばれていた。イレーネによると、この身体は伝説の王だったという。

 ならば、本物のリリィの記憶なのか? 吸血鬼の滅亡を、俺は夢で見てしまったのかもしれない。イレーネなら吸血鬼について詳しく知っているだろう。思い切って尋ねる。

 

「イレーネ、吸血鬼の国は……滅びたのか?」

「えっ……どうして急に……」

「夢で見たんだ。滅んだ吸血鬼の国を」

「そうでしたか……たしかに滅びました。戦争に負けてしまって。他の吸血鬼が生きてるのかどうかも……私には分かりません」

 

 やはり吸血鬼は滅んでいた。イレーネが最後の生き残りなのか。

 

「イレーネはよく生き延びられたな」

「私は終戦後に生まれました。生き延びたのは母親です」

「母親か。その……母親は今どこに?」

「亡くなりました。吸血鬼について母親から色々教わったんです。吸血鬼の復興が夢だということも」

「そうか……」

 

 イレーネの神妙な表情に何も言えなくなってしまう。胸の奥がひどく痛んだ。彼女がリリィという王族を蘇らせたのは、母の夢を叶えるためだったのか。それなのに中身が俺になってしまった。

 

「こんな暗い話はやめましょう! それよりもお風呂です! リリィ様を綺麗にしましょう!」

 

 イレーネが不自然なほど明るい声を発する。俺に気を遣ってなのか、それとも触れたくない過去だからなのか。どちらにせよ、彼女の話題転換に乗ろう。イレーネの言う通り、これ以上暗い話はしたくない。

 

「……だな! 風呂に入るか! マスタールームにあった風呂だよな!?」

「そうです! ささ、リリィ様、マスタールームに入りましょう! ダンジョンマスターであるリリィ様じゃないと入れません!」

「よし任せろ!」

 

 イレーネのすぐ後ろにはダンジョンコアがある。俺もダンジョンコアに手を伸ばし、2人揃ってマスタールームへと戻った。

 

「リリィ様、服捨てちゃいましょ。創造したものなら自由に消せます。マスタールーム内限定ですけど」

「血まみれでボロボロだしな。お、簡単に消えた」

 

 消えろ、と念じるだけでゴスロリが消滅した。全裸になり、目指すはポツンと置かれた浴槽。浴槽からは湯気が立ち昇っている。大怪我をしている右腕をお湯に触れないようにしながら、慎重に湯船に浸かる。

 

 あったけえ……。身体の芯まで染みる温かさだ。疲労が溶けて消えていく。気持ちいい。

 

「リリィ様リリィ様、湯加減はどうですか?」

「ちょうどいいよ。すごく気持ちいい」

「それは良かったです! ダンジョンマスターならいつでもお湯を創造できますからね!」

「いいね。ダンジョンマスターってのは便利だ」

 

 このお湯はイレーネがダンジョンマスターだった頃に創造したものか。俺も風呂に入りたくなったらお湯を創ろう。

 

「あとコレ! 私の血、飲んでください!」

「……なんで?」

「血を飲めば怪我が治るからです!」

「本当かよ。とりあえず飲んでみるか」

 

 イレーネが俺の口の前に腕を差し出した。すぐさま白磁のような肌にかぶりつく。あぁ、美味しい。血をチューチュー吸ってる時間が最も幸せかもしれん。俺はもう人間ではないらしい。これからは吸血鬼として生きていこう。

 

 血を味わっていると、右腕が痒くなってきた。ふと右腕に目を向けると、まるで逆再生するかのように切り傷が再生している。肉がグチュグチュと蠢めいており、少しだけ気持ち悪い。

 これが吸血鬼の力か。美味しいものを飲んで傷まで治るとは、なんとお得。

 

「すげえ。本当だ。傷跡も残ってない」

「えへへ、吸血鬼は凄いんです。か弱い人間とは違うんですよ」

 

 イレーネは得意げな顔をしていた。吸血鬼を褒められて嬉しそうだ。元人間としてはちょっとだけ悔しい。だけど身体のスペックで吸血鬼に勝てる気がしない。

 治った右腕もそっと湯船に沈める。顔についた血や埃を落とそうと、ゆっくりと湯の中へ潜った。浮上すると、血が薄まって湯船がほんのりと赤くなっている。これ以上は風呂に浸からなくていいか。血を洗いたいのに血で汚れてしまう。

 

 風呂から上がり、バスタオルを探す。しかし、そんなものは見当たらない。マスタールームにあるのはベッドと浴槽だけだ。

 

「イレーネ、バスタオルは?」

「ありません。自然乾燥です」

「えっ。それは嫌だな。バスタオル創るか」

「拭く意味あります?」

「めちゃくちゃあるだろ。生乾きだと臭くなりそうだし」

「く、臭い!? そ、そんなことないですけどね。吸血鬼ですし」

 

 匂いに種族は関係ないだろ。自分の匂いを確認しているイレーネを無視してカタログを開く。ん? 3しか残っていなかった魔力が767まで増えている。こんなすぐに増えるものなのか? それにどんな条件で増えているんだ?

 

「イレーネイレーネ、魔力がめっちゃ増えてる」

「お、いいですね! あの人間たち、なかなか魔力を持ってたようです!」

「どういうことだ?」

「ダンジョンのルールその1! ダンジョン内で生物が死ぬと、そいつが保持していた魔力を貰えます!」

 

 なるほど。ようするに冒険者たちをぶっ殺したから魔力が増えたのか。おかげでバスタオルだけでなく色々と創れる。冒険者、死んでくれてありがとう。

 

「ダンジョン内の魔物が死んでいるのもコレが理由です。リリィ様降臨のため、魔力へと変換させてもらいました」

「そうだったのか。ちなみに、俺の降臨にはどれくらいの魔力を使ったんだ?」

「大体1億です。それでも足りなかったので私が弱体化しちゃいましたね」

「そ、そんなに……」

 

 1億でも足りないとは。実在の人物を創ると、必要魔力が多くなってしまうのだろうか。

 

「リリィ様の血肉になれたと考えれば喜ばしいです! さ、気を取り直してバスタオル創りますか!」

「バスタオルに必要な魔力は20だな。創っちゃお」

 

 バスタオルを創り、蓄積された魔力は747になった。魔力量にはまだまだ余裕がある。再びゴスロリを創るとして、あとは何が必要だろう。あ、そうだ。全身鏡が欲しい。ゴスロリを着たリリィ様を見てみたい。

 

「鏡も創ってみよう。自分の顔を確認したいし」

「すっごく可愛いですよ! さすが伝説の王です!」

「ふふ、期待が高まっちゃうな」

 

 イレーネは俺を信奉しているようだから信用できない。適当にお世辞を言っている可能性もある。自分で確認しなければ。

 

 全身鏡の最安値は50。何の装飾もない簡素なものだが、今はコレでいい。ゴスロリの75と全身鏡の50を引いて、残り魔力は622になる。これくらいなら使っても大丈夫だろう。

 体を拭き、ゴスロリを着る。全身鏡を創り出し、リリィ様の姿がそれに映った。

 




次回、ダンジョン探検します。
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