吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる〜最強ダンジョンを作って美少女眷属と引き篭もりたい〜 作:光の道筋
鏡に映っていたのは気が強そうな少女。吊り目の赤い瞳が大きく見開かれていた。鮮血のように赤い髪が無造作に肩まで伸びている。可愛い。これが俺か。無意識に口角が上がってしまう。
「うへ、うへへ」
「ど、どうしたんですか気持ち悪い」
「いや俺が可愛くてな」
「たしかに可愛いですけど……」
イレーネがちょっと引いている。自分を見てニヤつくのは気持ち悪かったか。もう鏡を見るのはやめよう。まだ自分を眺めたい気持ちを抑えつつ、鏡に背を向ける。これからやるべきこと、それはダンジョンの防衛を固めることだ。
再び冒険者がダンジョンに侵入してきた時のために備えなければならない。俺が戦ってもよいが、勝てる保証が無いから不安だ。ならば罠を設置して撃退する方がよいだろう。殺されるリスクはなるべく抑えたい。
「リリィ様、口の端がピクピクしてますよ。そんなにご自身の顔が好きだったのですか」
「ピクピクしてないから! 好きだけど!」
「いえ、してますけど……」
「それよりも防衛だ! 罠を設置するぞ!」
大声で誤魔化し、カタログを開く。定番の罠と言えば落とし穴だろう。現在蓄積している魔力は622。対して落とし穴の必要魔力は100。最大で6個創れる計算になる。
「罠ですか? あまり魔力効率は良くないですよ。初めに創るなら魔物です。」
「え? そうなの?」
「落ちなかったら意味ないですし」
「それはそうだけど」
「ダンジョンは迷路なんで、必ず通る道に落とし穴を設置するのは面白そうですけどね」
「うーん……そうか……」
そういえばこのダンジョンは迷路になっていると言っていたな。俺はダンジョンマスターだが、ダンジョンの全容を知らない。まずは構造を知ることからか。その後に防衛設備を考えよう。
「迷路がどうなってるのか気になるな。ちょっとダンジョン探検するか」
「しましょう! 私のダンジョンを案内してあげますよ!」
「お、ありがとう。ダンジョンマスターなのに自分のダンジョンを知らないのはおかしいしな」
「その通りです! 早速行きましょう!」
興奮気味のイレーネと一緒にマスタールームから出る。出た先はダンジョンコアがある部屋だ。3人の冒険者の死体がまだ転がっている。
「ここが最奥部ですね! マスターコアが置いてあります! 先に進みましょう!」
扉を開けると、古びた煉瓦造りの道が続いていた。高さは3mほど、横幅は4人ほどが並んで歩けるくらいだ。窓は一切なく、空気が澱んでいて閉塞感がある。
道には獣の死骸が何体も放置されていた。強烈な腐臭に顔をしかめてしまう。これは魔力をダンジョンに蓄積させるためにイレーネが殺した死骸か。
「窓が無いな。もしかして地下か?」
「そうです! ここは地下2階ですね!」
「上にも階層があるのか。光源も無いのに明るいのは不思議だな」
「吸血鬼は夜目が利くので!」
なるほど。昼間のようにクッキリと見えるのは吸血鬼だからか。冒険者が松明を持っていた理由にも納得だ。人間の目だとダンジョン内は暗闇なのだろう。
腐臭漂うダンジョンをどんどんと進んでいくと、壁には大体10mほどの間隔で両開きの扉が設置されていた。この扉の中には何かあるのだろうか。
「ちょっと中入ってみるか」
「何にも無いですけどね」
少し錆びついている扉を開ける。中は8畳ほどの正方形の部屋になっていた。部屋に唯一あるのは獣の死骸だけだ。部屋の床は死骸の体液で汚れている。
「また死骸か」
「他の部屋もこんなかんじですよ。魔物が巣にしてたんですけど、全部殺したんで」
「可哀想」
「リリィ様を降臨させる為なので仕方ないです。実は殺したくなかったんですけどね。私は優しいんで」
「本当かよ」
「嘘です。魔物なんてどうでもいいです」
こいつ、しれっと嘘を吐くんだな。全然優しくないじゃん。殺戮の限りを尽くしてるじゃん。怖くなったので部屋を出て、ダンジョン探索を再開する。
迷路だと言っていた通り、分かれ道を何度も通った。間違っている道は行き止まりになっているらしい。今回は正解の道のみを進む。マスタールームを出てから10分ほど経過した頃、ようやく登り階段に到着した。
「ほぼ寄り道しなくても時間かかったな」
「まあまあ広いですからね。地下1階も同じくらいの広さです」
「へー。道覚えるの大変そう」
「すぐに覚えますよ。これからリリィ様が住むわけですし」
「覚えられなかったらさ、道案内の看板を立てちゃおうか」
「冒険者もマスターコアに一直線ですね」
「それは嫌だ」
階段を登り、先へと進む。1階層の風景は2階層とほぼ変わらない。唯一変わったところは、2階層よりも死骸がちょっと小さくなったくらいか。ここの死骸の方が弱そうに見える。なんとなくだけど。
迷路の構造は2階層と異なっていた。イレーネの案内がなければ即座に迷子になっていただろう。鼻に刺さる生臭さに耐えながら進んでいると、再び10分くらいの時間で登り階段を発見した。この上は清潔な空間であってほしい。早く脱出したい。
「ここを登ると地上です」
「よし! 俺は先に行くぞ!」
「ちょ、置いてかないでください!」
地下から逃げ出したい一心で階段を駆け上がる。登りきった先は、煉瓦造りだった地下とは異なり、壁も床も天井も剥き出しの岩肌になっていた。それに新鮮な空気だ。ここは地下ではなく地上なんだ。ああ、嬉しい。やっとあの吐きそうなほど生臭い空間から抜け出せたんだ。涙が出そう。
「リリィ様! いきなり走ってどうしたんですか!?」
イレーネも階段を登ってきた。そんなの決まってるだろ。理由は明白だ。
「ダンジョンがとんでもなく臭いから」
「え……え!? く、臭い!?」
「臭いよ。早く死体片付けないと病気になっちゃうよ」
「そ、そんな……ちょっと臭うな、とは思っていましたが、そこまでとは……」
イレーネは俺の言葉にショックを受けたのか項垂れてしまった。ちょっと臭うどころじゃないだろ、あの臭さは。もしかしてダンジョン内にずっと居たから慣れてしまったのか?
「ですが! ここは大丈夫ですよね!? 魔物は居ませんから!」
「そうだな。全く臭くない。ここもダンジョンなのか? 壁も岩になってるし」
「一応ダンジョンの範囲内です! 全く整備してませんけど!」
剥き出しの岩肌は地下とは全く異なる。一見ただの洞窟だ。迷宮と化していた地下と同じダンジョンとは思えない。
「この階段はですね、入り口から見えなくなってるんですよ。ほら、そこ曲がってみましょ」
登ってきた階段は洞窟の奥にあり、そこからカーブするようにして道が続いている。イレーネに促されるままに進むと、その先に洞窟の入り口があった。
丸くポッカリと空いた穴から白い光が差し込んでいる。どうやら今は日中だったらしい。地下にいたから時間感覚など失っていた。洞窟の外は森になっている。地面には苔や雑草が生え、細長い木々が立ち並んでいた。
「おお、森がある。というか完全にただの洞窟だな」
「そのおかげで滅多に人が来ないんですよ! 来ても月に4組ほどですね!」
「それは嬉しいな。あ、ちなみに1か月って30日か?」
「そうですよ? どうかしました?」
「いや、確認したかっただけだ。気にしないでくれ」
1か月の日数は地球と変わらないようだ。異世界でも太陽暦が採用されているらしい。
それは置いておくとして、人は来なければ来ないほどいい。来なければ、死ぬリスクがそれだけ減る。人の死体から魔力を得られなくなるが、それは魔物から得られる魔力で補えばいいだろう。率先して人殺しをしたくはないしな。
ん? でもダンジョン内の魔物は全員殺されたのか。それだと魔力が入手出来ないぞ。お湯や服が創れなくなったら大分不便だ。
なら、最初は魔物を創るべきか。もし繁殖可能だったら無限に魔力が増えていく。
「イレーネ、ダンジョンの力で創った魔物は繁殖出来るのか?」
「出来ますよ!」
「それなら、今残ってる魔力で魔物を創るか。繁殖させて殺せば何倍にも魔力が増える」
「そうですそうです! だから罠じゃなくて魔物を創った方がお得なんです! 私言ったじゃないですか!」
「ここまで言ってたか……?」
「多分言ってます!」
多分言ってない。罠の魔力効率は悪いとしか言ってなかった気がする。俺の記憶が曖昧だからって発言を捏造しないでほしい。
「それにですね、ダンジョンの生物を殺さなくても魔力を徴収できるんですよ!」
「あれ? ダンジョン内の生物が死んだら、そいつが持っていた魔力が貰える、って言ってなかったか? それも嘘か?」
「私は嘘を吐いたことなんて無いですよ! どちらも本当です!」
イレーネは誇らしそうに胸を張っている。確かに、ダンジョンのルールについては嘘を吐いていないのかもしれない。
でも、どうしても疑いの目で見てしまう。だって魔物を殺したくなかったって嘘吐いてただろ。それもつい先ほどの出来事だ。この子は虚言癖なのだろうか。
「そ、そんな目で見ないで! 私を信じてください! その、ちょっとだけ見栄を張っちゃうんです!」
「うん、信じてる。信じてるよ。だから殺さなくても魔力を貰える方法を教えてくれ」
「はい! わかりました! ではダンジョンのルールその2を発表します!」
ピースをしたイレーネは、可愛らしくウインクを飛ばした。可愛いけど早くダンジョンのルールを説明してほしい。今にも冒険者が来るかもしれないんだ。魔力は少しでも増やしておきたい。イレーネはどうでもいい雑談でしか冗談を言わない。そう信じている。
次回、ダンジョンのルールその2の発表です。
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