吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる 作:光の道筋
よし、苔スライムを創ろう。創造するためにはイメージするだけでいいんだよな。カタログに記載されている苔スライムをよく見ながらやってみよう。
起き上がってベッドに腰掛ける。カタログを見ながら創ろうと念じるが……あれ? 苔スライムが現れない。
その代わりに目の前に現れたのは、立体的に投影された円柱を組み合わせた図形だった。しかも、その図形には日本語の文字が書き込まれている。量は実に膨大で、すべてを読み込むには一日かけても終わらなさそうだ。
「な、なんだこれ!?」
「それ無視して創っちゃっていいですよ。もう1回苔スライムをイメージすれば大丈夫です」
「無視できるか! イレーネは知ってるんだろ!? 説明してくれ!」
振り返ると、イレーネはまだうつ伏せになって寝ていた。彼女にとっては当たり前の光景かもしれないが、俺にとっては初見では理解不能な状況だ。説明してもらわないと、これが何を意味しているのか全く分からない。
「これはですね、苔スライムのステータスとスキル、特性が可視化されてるんですよ」
「ステータスとか言われても何のことか……」
「ステータスは身体能力、スキルは技能って言ったら分かりやすいですかね。特性は体質や趣味嗜好です」
「なるほど……それがこんなに沢山あるのか。全部読むのは大変だな」
魔物1匹でこれほどの量とは。図形の真ん中には肉体を表す基本円柱があり、その周囲をスキルや特性を表す多数の円柱で囲っている。
ステータスには注釈が書かれていた。注釈によると、ステータスは〈膂力〉〈耐久力〉〈免疫力〉〈持久力〉〈瞬発力〉〈器用〉〈思考力〉〈記憶力〉〈魔力貯蔵量〉〈瞬間魔力量〉の計10個の項目に分類されている。
各ステータスは相対的な目安として、I、Ⅱ、Ⅲと始まり、高くなるにつれ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹまで上がるようだ。苔スライムのステータスは全て最低ランクのIになっている。最弱と考えていいだろう。
一方で、苔スライムはスキルを持っていないものの、特性は2つ所持していた。
1つ目は〈環境浄化〉。周囲の腐敗物質や瘴気を吸収して分解するらしい。これならダンジョンの空気を浄化してくれるだろう。
2つ目は〈分裂〉。栄養を蓄えると分裂して増えていく特性。これはイレーネが説明していた通りだ。
戦闘向きの魔物ではないため防衛面は不安だが、今は魔力の増加を優先したい。強さについては妥協しよう。
「ちょっと弱いけど……創っちゃおうか」
「追加で魔力を消費すればステータスを強化できますよ。あと、スキルと特性も追加できます」
「うーん……そんな余裕ないな。ただでさえ1匹に200も消費するんだし」
「ですね。そもそも残りの魔力が少なすぎて全く強化できませんし、このまま創りましょう」
蓄積された魔力は622。3匹創ったら、残りは22しかない。苔スライムは強化しないでおこう。
苔スライムをイメージすると、俺の足元にバスケットボールほどの大きさの粘液が現れた。半透明の緑色で、体表のところどころに苔が生えている。カタログの写真とまったく同じだ。さらに2匹追加で創り、合計3匹の苔スライムが戯れ始める。
「お、こいつが苔スライムか。ブヨブヨしてるな」
「可愛いですよね!」
「可愛い。見てて癒される」
「まだ眺めていたいですが、ダンジョンに放流しますか! ダンジョンコアが映った画面を押しつければ移動させられます!」
「押しつけるっつったって、これ……あ、動いた」
てっきり動かないと思っていたモニターが、動かそうとした方向へ自然に移動した。上下左右へと思うままに動かせるようだ。どうやらマスタールーム内では考えただけで大抵のことができるらしい。何とも便利な部屋だ。
モニターを苔スライムにくっつけると、苔スライムが一瞬で消え去った。
「うわっ、消えた」
「ダンジョンに行きましたね。ほら、観てください」
イレーネが指差す先はダンジョンコアが映っているモニター。そこでは1匹の苔スライムがナメクジのように這っていた。
「これ、今消えた奴か」
「ですね。死体に興味津々ですよ」
苔スライムは冒険者の死体に近づいていた。だが、本当に興味津々なのかは分からない。イレーネが勝手にそう言ってるだけの可能性もある。
それはさておき、残りの苔スライムも転移させることにした。モニターを操作し、残りの2匹をダンジョンへと送り込む。そうして、ダンジョンコアの部屋が苔スライムたちの住居となった。
「うん。これでいいな。放っておくだけで増えてくれるだろ」
「はい。何もしなくてもいいですね。魔力が溜まる前に冒険者が来ないことを祈りましょ」
「そうなんだよな。防衛も早く何とかしないと」
そうは言っても、残りの魔力は22だけ。カタログを眺めても防衛の役に立ちそうなものは買えない。あまり深くない落とし穴で魔力100。弓矢が飛ぶトラップで魔力300だ。今買える物は安い服やパン1個くらいなのが悲しい。
ん? カタログに「強化」という欄がある。これは何だろう。試しに「強化」の文字を押してみると、先ほど見た立体的な図形が現れた。これは魔物のステータスだろうか。ここでステータスの強化が出来るのか。
「お、リリィ様、ご自身の強化をするんですね」
「ご自身? これって苔スライムのステータスだろ?」
「これは違いますね。魔物の強化は制作時に
しか不可能です。ダンジョンマスターの強化はいつでも可能なんですよ」
イレーネはうつ伏せのまま、にっこりと微笑んでいた。彼女から説明されるダンジョンに関する情報は多岐にわたる。徴収する魔力の仕組みや創造できる魔物の種類、さらには俺自身の強化まで。もう覚えるのが大変だ。
「……で、どうやったら強化できるんだ?」
「強化したいなー、って思ったら魔力が消費されて強化されます」
「何でも思っただけで出来るな」
「そうです! ダンジョンは便利なので!」
確かに便利だ。だけど間違えて強化してしまわないか不安でもある。イレーネは体を起こし、ベッドに腰掛けている俺の隣へと並んで座った。
「まずはリリィ様のステータスとスキルを見てみませんか!? 気になるので!」
「そうだな。俺ってどれくらい強いんだろう」
「吸血鬼の王なので最強に決まってます!」
どれどれ……ステータスの評価はローマ数字でされており、〈思考力〉〈記憶力〉〈魔力貯蔵量〉〈瞬間魔力量〉がⅤだ。
〈膂力〉〈耐久力〉〈免疫力〉〈持久力〉〈瞬発力〉〈器用〉がⅠとなっている。最大評価がⅩだから、半分以上の項目が最低評価となっている。結構弱そうだ。
「このステータスって低いのか?」
「…………産まれたばかりですので」
イレーネは目を合わせてくれない。ということは、やはりステータスが低いということなのだろう。特に気になるのは、〈魔力貯蔵量〉と〈瞬間魔力量〉の二つだ。
図形に記された詳細を読んでみると、〈魔力貯蔵量〉はどれだけの魔力を保持できるかを示し、〈瞬間魔力量〉は一度に使用できる魔力量を表しているという。
この体には魔法を使う才能があるってことかな。
「そ、それよりもスキル! スキルですよ! こっちも見てみましょう!」
イレーネに促され、スキルを見てみる。そこには既に取得していたスキルがあった。
1つ目は〈血液操作〉。文字通り血液を操作可能になる。
2つ目は〈血液再生〉。他者の血液を摂取すると細胞が再生する。
3つ目は〈眷属創造〉。こちらも文字通り、眷属を創れるようになる。
どれも吸血鬼に関係するスキルだ。既に実際に体験しているため、今さら驚きはない。吸血鬼としての力も、スキルとして扱われているということなのだろう。
「血を操ったり、眷属を創るのもスキルなんだな」
「3つもスキルがあるなんて流石です! 王の名は伊達じゃないですね!」
「ちなみに、弱体化前のイレーネは何個くらい持ってたんだ?」
「え、ええと……1万以上ですかね……詳しい数は覚えてませんが……」
俺とは比べ物にならないほど多い。本当に1万もスキルを持っていたのだろうか。また見栄を張っているだけかもしれない。
いや、切り替えよう。昔のイレーネと比べても意味は無い。大事なのは今だ。ダンジョンマスターとしては赤ちゃんの俺だが、これから徐々に成長していこう。
「ま、これから強くなっていけばいいな。魔力さえあれば強化できるんだろ?」
「そ、その通りです! これから強くなりましょう! リリィ様なら私より強いダンジョンマスターになれます!」
自分の命を守るためにも強くなろう。強ければ殺されることもない。安寧に過ごせる。冒険者に殺されるなんて、まっぴらごめんだ。
「だな。今日はもう休もう。色々あって疲れた」
「一緒に寝ましょ! 疲れたときは寝るのが一番です!」
イレーネと共にベッドへ寝転がる。ふかふかのベッドだ。すぐに俺の意識は闇へと沈んでいく……。
「……様! リリィ様!」
「ん…………もうちょっとだけ寝させてくれ……」
「起きてください! 苔スライムが大変で!」
「大変……?」
「寝ぼけてないで! 早く!」
思いっきりイレーネに揺すられる。まだ眠たい。もっと寝させてほしい。ついには俺のほっぺをつねり始めた。痛い。こいつは俺の母親か。
「早く! 早く!」
「わかったよ……起きるから離して……」
「ダンジョンの様子を見てください! 早く早く!」
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。ええと、ダンジョンの様子だな。ダンジョンコアが映っているモニターを目の前まで動かす。寝る前と変わらず、汚い煉瓦造りの部屋だ。
しかし、苔スライムの姿が見えない。この部屋に放流した筈だ。どこに行ったのだろう。それに魔物と冒険者の死体が骨のみとなっている。肉や内臓は苔スライムが食ってしまったのか。
「苔スライムはどこだ?」
「この部屋にはいません! ほら立って! こっち来てください!」
イレーネに手を引かれ、ベッドから降りる。ダンジョン内を映すモニター群の前まで行くと、そのうちの1つに苔スライムの姿が映っていた。
よかった。死んだわけじゃないんだな。ちゃんと1匹、2匹、3匹……あれ? 4匹以上いる。ざっと見ただけでも10匹は超えていそうだ。どうして一夜でこんなに増えているんだ。
次回、苔スライムの様子を見に行きます