吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる 作:光の道筋
「めっちゃ増えてる」
「苔スライムが分裂したんです! 餌がいっぱいあるから分裂も早いんですかね!?」
「死体は山ほど放置してあるからな。とりあえずダンジョンに行ってみるか」
「そうしましょ!」
早速ダンジョンコアの部屋へと移動する。う、臭い。苔スライムのスキルには〈環境浄化〉というものがあったが、まだこの腐臭は無くなっていないのか。
部屋にあった1匹の魔物と3人の冒険者の死体は、綺麗に骨のみとなっていた。転がっている頭蓋骨を見ると気味が悪い。苔スライムが骨まで食べてくれればよかったのに。
「苔スライムは扉の隙間から外に出ちゃったんでしょうね。探しに行きますか」
「隙間なんてあるか? ぴっちり閉まってるように見えるけど」
「スライムならほんの少しの隙間でも通れちゃうんです。結構凄いですよね」
正面にある両開きの扉には隙間なんて見当たらない。それでも苔スライムなら通れるらしい。扉を開けて廊下に出ると、そこでも骨が散らばっていた。廊下の先では3匹の苔スライムが死体に群がっている。
「お、いたな」
「でも3匹だけですね。近くの部屋も確認してみますか」
苔スライムを探すため、まずはダンジョンコアの近くにある部屋から順に調べていく。最初の部屋には骨しかなく、目的の苔スライムはいなかった。4つ目の部屋でようやく4匹の 苔スライムを発見する。
その後も各部屋を確認して回り、最終的に合計12匹の苔スライムを見つけた。
「分裂って増えるのが早いな。ちょっと寝ただけで12匹か」
「倍に増えていきますからね。苔スライムを食べる魔物もいませんし、あっという間に増えそうです」
おそらく3匹が6匹に、6匹が12匹と分裂したのだろう。倍に増えていくなら、これからさらに増殖していきそうだ。こんなに増えたのなら魔力も大分貯まっているんじゃないか? 早く確認したくなってきた。
「イレーネ、マスタールームに戻らないか? 魔力がどれくらい貯まってるのか確認したい」
「はい! 戻りましょう!」
苔スライムが食事している部屋を後にし、駆け足でダンジョンコアへ向かう。ダンジョンコアに触れてマスタールームへ戻り、すぐにカタログを開いた。
寝る前の蓄積魔力は22だった。現在の魔力は……35だ。13しか貯まっていない。そんな簡単には増えないか。イレーネは1時間に最大魔力の1%が貯まると言っていた。苔スライムの最大魔力は100だから、貯まるには時間がかかる。
「あんま蓄積されてないな」
「創ってから8時間くらいしか経ってませんしね」
「時間わかるのか?」
「大体です。時計なんて創ったことありません」
「時計無いのは不便だな。魔力が貯まったら創ろう」
「いっぱい貯まるのが楽しみですね」
まずは防衛設備を整えるのが先だが、いずれは日用品も揃えていきたい。マスタールームにはベッドと浴槽しかなく、あまりにも殺風景だ。もっと生活感のある部屋にしたい。そのためには魔力を貯めないとな。
しかし、腹が減った。思い返してみれば、この体になってから血液しか口にしていない。腹が減るのも当然だ。ダンジョンの力で食べ物を創ってみるか。
「イレーネ、食べたいものってあるか? 腹減ったから何か創るよ」
「お肉食べたいです! でも、魔力足りないですよね?」
「……足りない。パン2個とコップ1杯分の水しか創れない……」
「今はそれで凌ぐしかないですね……」
パン2個とコップ、それに水を加えて合計魔力が25だ。なけなしの魔力35を使うしかないのか。ひもじい。早く苔スライムが増えてくれないと餓死してしまう。
魔力を惜しむ気持ちはありつつも空腹には勝てない。床に座り、素朴な丸パン2つと水が入った木製のコップを創った。
「これで残り魔力が10だ。水は2人で分け合おう」
「リリィ様が飲んでいいですよ。私はお風呂の残り湯飲みます」
「何言ってんだよ。クッソ汚いだろ。遠慮しないで飲みなって」
「い、いいんですか……?」
「もちろん。これから遠慮は無しでいこう。長い付き合いにあるんだから」
「はい! わかりました! では飲みますね!」
納得したのか、イレーネはコップの水を飲み始めた。2人で分け合うため、すぐに口を離す。残り湯を飲むなんてありえない。俺の血で赤く染まっているんだぞ。いや、血が混ざっていなかったとしても駄目だ。あまりに不衛生すぎる。
少々固いパンを食べ、俺も水を飲む。すぐに完食してしまった。腹は全く膨れていない。
「もう食べ終わっちゃったな……」
「しばらくはこの食事ですね……」
苔スライムが増えるまで我慢しなくてはならない。腹いっぱい食べられるようになるまで、一体どれほどの時間がかかるのだろうか。今の俺にできることはない。ただ、時が過ぎるのを待つのみだ。
真っ白な床に寝っ転がる。天井も白く、距離感覚がおかしくなりそう。
……暇だな。完全に手持ち無沙汰だ。スマホか本が欲しい。娯楽が足りない。
「なーんにもやることがない。二度寝するか」
「リリィ様! そんな時こそやるべきことがあります!」
すると、イレーネが顔を覗き込んできた。鼻先がくっつきそうなほど近い。無気力な俺とは対照的に、イレーネの表情は元気溌溂としていた。
「やるべきことって?」
「筋トレです! 鍛えて強くなりましょう! リリィ様の身を守るためにも必要です!」
「筋トレか。いいな。体力は多ければ多いほどいい。その、ちょっと離れて」
「あ、ごめんなさい!」
イレーネの顔が離れる。至近距離での会話は迫力がありすぎた。それはいいとして、俺はダンジョンの入り口からダンジョンコアまで走っただけで息が上がってしまう。
それでは冒険者から逃げることも難しいだろう。いざという時のために体力をつけておくべきだ。
「その通りです! さ、腕立てしましょ! 体力をつけたら魔法の練習です!」
「魔法? あ、そういえば俺のステータスって魔法に向いてたよな。今から魔法の練習をするのは?」
「先に筋トレです! 複数人相手の戦闘には魔法が有効ですが、それでも基礎体力の向上は必須ですよ!」
確かに、魔法を使う使わないは関係ない。体力の向上は、日常生活を送るうえでも有効だ。それは前世で病弱だった俺が身をもって理解している。
「そうだな。まずは体力か」
「はい! 私も一緒に鍛えますよ! 以前の力を取り戻すんです!」
「よし。頑張ろう。目指すはムキムキの体だ」
「はい! ムキムキになりましょう!」
そうと決まれば、筋トレを始めよう。イレーネと並んで腕立ての体勢に入った。まずは1回。もう腕が痙攣している。最低でも10回はこなしたい。
「ふんっ!」
続いて2回目。肘を曲げ、そこから腕に力を込める。体を押し上げようとするが……無理だ。そのままぺチャッと潰れてしまった。隣ではイレーネもうつ伏せに倒れている。彼女も1回で終わってしまった。筋力は俺と同程度らしい。
「はぁ……はぁ……1回しかできないか……ちゃんと鍛えないとな……」
「……」
「イレーネ?」
「ふぐっ……ひぐっ……うぅ……」
「ど、どうしたんだ!?」
イレーネは顔を伏せている。その表情は隠されていて見れない。それでも泣いていることは容易に推測できた。
「わ、私、こんなに弱くなっちゃったんだなって……ひぐっ……悲しくて……」
「そ、そうか……ベッドで寝るか? 温かいぞ?」
「いえ……このままで大丈夫です……」
「そうか……」
かける言葉が見つからない。俺を復活させた代償でイレーネが弱体化したのだと思うと、素直に声をかけられなかった。少し離れて腕立てをしようか。時間が経てばイレーネの気持ちも落ち着くだろう。
立ち上がり、イレーネから距離を取る。ふと、ダンジョンを映し出しているモニターが目に入った。そこには30代ほどの男性が複数人映っている。彼らは地上にある洞窟の中で、焚き火を囲んで座っていた。
「人!? 冒険者か!?」
「え!? 冒険者!?」
思わず声を上げると、イレーネも反応した。冒険者が侵入してくるのはまずい。苔スライムの生成に魔力を消費したから、防衛設備は全く整っていない。
でも、男性たちはのんびりと休んでいる。ダンジョン内に侵入する気配はない。ダンジョンコアを壊しに来たんじゃないのか? あの人たちは何者なんだ?
次回、男性たちが死にます。