吸血姫にTS転生した俺、ダンジョンマスターになる 作:光の道筋
男性たちは5名。全員が焚き火の周りに座り、干し肉のようなものを食べていた。彼らは休憩中のようだが、このあとダンジョンへ侵入してくる可能性もある。そうなれば俺が戦わなくてはならない。
「ぼ、冒険者ですか!? やばいじゃないですか!? どうしましょう!?」
「落ち着け。まだ地下には入ってこないっぽいぞ」
いつの間にかイレーネが背後に立っていた。振り返ると、彼女の目は赤く腫れている。気づかないふりをして、モニターへと視線を戻す。泣き顔は誰だって見られたくないものだ。今は男性たちへの対処を考えよう。
「あいつらは準備を整えてる最中かもな。いつ来てもいいように見張っておこう」
「なら会話を盗み聞きしましょ! そうすれば動向が分かります!」
「盗み聞き? 近づくのは危険だろ」
「いえ、ここから盗み聞きするんです! 聞きたいなー、って思ったら画面から音が聞こえるんですよ!」
「これも思っただけで出来ちゃうのかよ」
もうダンジョンのシステムにも慣れてきた。モニターを見ながら音声が流れるように念じると、男性たちの会話が聞こえた。
『──クソ。冒険者が真面目に働くんじゃねえ。いい迷惑だぜ』
『カッカするなって。しばらく隠れてれば諦めんだろ』
『そうだといいがな。早く街に行って売っぱらいてえ。うめえ飯と女がオレを待ってる』
『捕まったら元も子もねえ。てめえは豚箱に入りてえのかよ』
『んなこと言ってねえだろうが』
話の内容からして、この人たちは冒険者に追われている犯罪者なのだろうか。ダンジョンコアが目的ではないらしい。なら、彼らが立ち去るのを待つだけでよさそうだ。
「冒険者じゃないっぽいな」
「盗賊ですかね。洞窟で休む人はたまーに来るんで、その類いでしょう」
「一応監視だけはしておくか。万が一地下に潜ってきたら大変だしな」
「ですね! 体を鍛えながら監視です!」
イレーネはそう言って、両肘を床につけた。
足を伸ばし、腰を浮かせる。プランクの姿勢だ。彼女の手足がプルプルと震えている。俺も一緒にプランクをしよう。男性たちの会話はラジオ代わりだ。
『ったく。戦争が始まるってのによ。こんなところまでオレたちを追ってんじゃねえよ』
『だけどよ、戦争はチャンスだぜ。どさくさに紛れて金品を盗めば大金持ちだ』
『さっさと帰りてえなぁ。冒険者ども、必死になって追いすぎだろ』
『たんまりと金貰ってんだろうな。ちょっと人を殺したくらいで騒ぎすぎだぜ』
物騒な会話が聞こえてくる。ラジオで流れるにしては、あまりにも落ち着けない内容だった。彼らは窃盗だけでなく、殺人にまで手を染めていたのか。
盗賊たちの愚痴と猥談を聞きながら筋トレをしていく。俺とイレーネはどちらも体力が少なく、鍛えている時間よりも休憩時間の方が多い。
腹が減るたびに、再びパンを創って食べた。
増殖し続けている苔スライムと盗賊たちから魔力を徴収しているおかげで、食糧には困らなそうだ。
盗賊たちを監視するため、イレーネと交代で眠ることにした。まずは俺が眠り、その間はイレーネが起きて男性たちを見張ってくれる。筋肉痛に苦しみながら起床すると、彼女は俺の横で寝そべりながらモニターを眺めていた。
「おはよう。何か問題あった?」
「あ、おはようございます。何もないですね。あいつら、ずっとダラダラしてますよ」
モニターに目を移すと、盗賊たちは1人を除いて就寝していた。1人は見張りのために起きているらしい。
「じゃあ私も寝ますね。おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ。先に寝ちゃって悪いな」
「リリィ様が優先なのは当たり前です。何かあったら起こしてください……」
言い終えると、すぐさまイレーネは寝てしまった。随分と無理をさせてしまったようだ。起きたらパン以外の美味しいものを創ってあげよう。
さて、何をしようか。監視すると言っても、常にモニターを見つめていなくても大丈夫だろう。問題が発生したら音で分かるはずだ。
いったん、魔力がどれくらい蓄積されているのか確認するか。カタログを開くと、そこには716という文字があった。おお、めちゃくちゃ貯まっている。創った苔スライム分の元が取れた。これは嬉しい。
苔スライムの分裂はまだ止まっておらず、その数はさらに増え続けている。ダンジョンコア近辺の死骸はすべて食い荒らされ、今では2階層全体へ広がり、餌となる死骸を探し回っていた。
いずれは1階層まで上がって死骸を食い尽くすだろう。その時は苔スライムの餌をどうしようか。これだけ多いと餌を用意するのも一苦労しそうだ。
ついでに自分自身のステータスも見ておく。<膂力>や<耐久力>のステータスが上がっていないか期待したが、評価はIのままで変化していない。残念。
魔力を消費してステータスを強化するのも1つの手だろう。でも、努力すれば強くなるものに魔力を使うのは勿体無い気がする。
大事な魔力は魔物作成に使いたい。魔力貯蔵量が多い魔物を創れば、徴収する魔力も増える。自身を強化するのはその後でいい。
ステータスとは別に、スキルについても確認しよう。まだどんなスキルを取得可能なのかも分かっていない。
スキルは主に、魔法系と身体強化系の2つに分けられる。俺は魔法系のステータスが高いし、できれば魔法系のスキルを取得したい。組み合わせ次第では、コンボしてさらに強くなれるスキルもありそうだ。
その後、朝食を取り、のんびりと筋トレをしながら過ごした。正確には筋トレくらいしかやることがない。ほぼ暇つぶしのために行なっている。
筋トレを始めてから数時間後、盗賊たちに動きがあった。
『やべえ! 冒険者だ! 逃げろ!』
『逃げるってどこに!』
『とにかく奥だ! 矢が届かない場所まで行くぞ! 急げ!』
4人の盗賊たちは松明を手に、洞窟の奥へと走り出した。しかし、1人だけがその場に取り残されて眠っている。
よく見ると、寝ている男の頭には矢が突き刺さっていた。冒険者が放ったものだろうか。死体は放置され、残った盗賊たちとダンジョンの入り口との距離は刻一刻と縮まっていく。問題発生だ。急いで熟睡しているイレーネを起こそう。
「イレーネ! 起きてくれ! 盗賊が侵入してくる!」
「うえ……どうしたんですか……?」
「だから盗賊が侵入してくるって!」
「なっ! 大変じゃないですか!」
イレーネは慌てて飛び起きた。一方その頃、盗賊たちは鼻を突く臭いに戸惑いながらも、地下へと侵入してきていた。さらに彼らを追うように、10人ほどの冒険者たちが洞窟内へ駆け込んでくる。
『突入するぞ! 絶対逃すな!』
『おう!』
冒険者たちはそれぞれランタンや剣、弓といった武器を手にし、迷うことなく盗賊たちの後を追う。
盗賊たちは1階層の迷路を全力で駆け回っていた。冒険者たちは盗賊の足音を頼りにしているのか、躊躇うことなく彼らと同じ道を選び、追跡を続けていく。
「あの人間たち、迷路で迷ってますよ! 馬鹿ですね!」
「ダンジョンコアまでは来ないか……? あ、盗賊が追いつかれた」
とうとう冒険者たちは盗賊に追いついた。盗賊たちは覚悟を決め、冒険者たちへと襲いかかる。
しかし、戦力差はあまりにも絶望的だった。人数は倍以上、さらに素人目にも分かるほど戦闘技術に長けた冒険者たちの前で、盗賊たちは一方的に蹂躙される。瞬く間に、盗賊は1人残らず冒険者の手にかかって命を落とした。
「死んじゃったな。でもこれで帰ってくれるだろ」
「ですね! もう、いい迷惑ですよ! 人間同士の諍いなら他でやってほしいです!」
全くだ。わざわざダンジョンまで来て殺し合わないでほしい。早く帰ってくれないかな。
『よし! 生き残りがいないか調べるぞ! 不意打ちに気をつけるんだ!』
『えー……もう帰りませんか? ここ臭くて嫌ですよ』
『駄目だ! せっかく盗賊どものアジトを発見したんだぞ! 1人も逃してたまるか!』
『はいはい、分かりましたよ。指示には従います』
リーダーだと思われる男性が指示し、冒険者たちが丁寧にダンジョンを捜索していく。これ、まずくないか。このままだと2階層まで調べられると、ダンジョンコアまで辿り着いてしまう。
「なっ、なんで帰んないんですか! ここが人間のアジトな訳ないでしょ! 早く帰れ!」
「そうだそうだ! 早く帰れ!」
イレーネと2人で喚くが、俺たちの声は冒険者に届かない。無情にもダンジョン捜索が続行される。
俺が撃退するしかないのか? でも、彼らは10人以上いる。3人殺しただけで精一杯だったのに、そんな多人数に勝てるのだろうか。
「ど、どうしましょう! ここまで来ちゃいますよ!」
クソ。俺以外にも戦える人間がいればいいのに。イレーネは魔法も使えず、身体能力も俺と同程度だ。戦闘要員としては期待できない。
やはり俺が何とかするしか……いや、待てよ。魔物を創れるじゃないか。戦闘特化の魔物を創り出せば、俺と共闘してくれるんじゃないか?
「イレーネ! 魔物を創るぞ! 戦闘に特化した凶悪な奴をだ!」
「おお! いいですね! 人間どもをぶち殺す最強の魔物を創りましょう!」
盗賊たちが死んでくれたおかげで、ダンジョンに蓄積されている魔力も増えているはずだ。この魔力をすべて使って、最強の魔物を創り出してしまおうか。
次回、現状創れる限りで最強の魔物を作成します。