最終編、プロローグ。よろしくお願いします。
月との接触
「……眠れない。」
今日もシャーレの業務を頑張った。ただそれだけの1日だった。普段通りの、忙しくもない1日。なのに何故だろう、変な胸騒ぎがして眠れない。
「少し、夜風に当たりに行こう。」
防寒着を着込み、シャーレの外へ散歩に出た。
真夜中ということもあり辺りは静かで明かりも街頭のものだけ。
「ほんと……何なんだろう、この胸騒ぎは。近いうちに……何かが起こるような……」
近場の公園に入り、ベンチに座る。
何かが訴えてくる感覚。そして……同族の気配。
「そこ、誰ですか。」
木の後ろから感じたその気配の主に声をかける。
「……さすが。」
そう言いながら姿を表した気配の主。真夜中の暗さでも目立つほど異様な黒い髪に、赤い瞳をした女性だった。
「それで、僕に何のようですか?僕たち、はじめましてですよね。」
「……やっぱりか。」
「はい?」
「気にする必要は無いですよ。貴方は……今から死ぬのだから。」
「!?」
その女性はそう言うと赤い槍をもって突進してくる。
「(血の武器っ!?)」
僕は咄嗟に血の盾を作りそれを防いだ。
「ぐっ……なんて威力……」
「一撃で仕留めるつもりでしたが……やはりそのような姿になっても、力は健在……か。」
彼女は猛攻撃を続けながらぶつぶつと喋る。
「何言ってるか、わかんないんです……けどっ!!!」
盾を使って攻撃を弾き、猛攻撃を一時停めることに成功した。
「これも、お父様が理解する必要は無い。」
「!」
耳を疑った。この子、今なんて言ったんだ?僕のことを、”お父様”と言った。ヒガンと同じで、”過去の娘”なのか?
あらゆる思考が僕の頭を駆け回る。……だが、それは今の状況では間違いであった。
「戦闘中に考え事ですか?私の知るお父様は、そんな人ではなかったのですが。」
その言葉が聞こえた瞬間、彼女の持つ槍が、僕を貫いた。
「かはっ……」
激しい痛みが体を走る。槍は螺旋を描くように僕をえぐり、貫いていた。
「ぐっ……っ……」
ビチャビチャとその場に血を吐く。段々と呼吸もままならなくなっていく。
「貴方はこの程度では死なないでしょうから、もっと念入りに。」
暗くなっていく視界の中で、彼女が槍を振り上げるのを見た。
「(死……)」
そう覚悟をした時だった。
「させないっ!!!」
彼女が振り上げていた槍が弾かれた。そして、この声には聞き覚えがある。
なんとかその声がした方向を見ると赤髪の少女、ヒガンが立っていた。
「ヒ……ガン……」
「パパ、喋らないで。血を渡すから、治すのに集中して。」
そう言ってヒガンは僕に血を流した。そして、黒髪の女性へと向き直り……
「久しぶり、ルナお姉ちゃん。」
「……久しぶりね、ヒガン。」
「話したいことは色々あるけど……今は一つ。パパをこんなにして、絶対に許さないから!!」
「また殺してあげるっ!!」
僕の意識は、ここでで途切れた。
……
2人は戦闘を開始した。
ヒガンは上空に飛び上がり、弾幕での牽制。ルナと呼ばれた彼女は槍を投げて応戦している。
「へぇ……ヒガン、強くなったわね。」
「まあ、鍛えてるからねっ!!」
ヒガンは更に攻撃を激化させる。弾一つ一つの鋭さ、速さが大幅に上昇してルナへと襲いかかる。
「でも、まだまだ甘ちゃん。」
だが、その弾の全てをルナは槍を回して防いだ。
「それはどうかな?」
「っ!」
ルナが気づいた頃にはもう遅かった。ヒガンは弾を囮として使い、意識がそちらに向いているうちにルナの背後へと回っていた。これは、ルナの慢心もあるだろうがヒガンの高い隠密能力のおかげだろう。
「これで決める……!」
ヒガンはルナの体めがけて剣を振り抜いた。
「ぐぅっ……」
だが、剣に不慣れだったせいかルナの傷は浅く、戦闘不能までは行かなかった。……が。
「チッ……今日のところは引いといてあげる。貴女のせいでお父様も殺し損ねてしまったけど……次会ったら、確実に殺すから。」
そう言って、ルナは霧となって消えていった。
「……私は、仲直りしたいけどね……ルナお姉ちゃん。」
■
「ユウが襲われた!?!?それでっ、ユウは大丈夫なの!?」
シャーレに戻ったヒガンは先生を叩き起こし、先ほど起こったことをすべて話していた。
「応急処置はしましたし、ありったけの血も与えました。……ですが、傷が相当なものだったので……」
シャーレへと戻る途中にヒガンはユウの傷を塞いでいた。だが、槍に貫かれ空いた穴を塞いだだけ。ユウの呼吸は今だ荒く、死にかけと言っても過言ではなかった。
「……そう。」
できる限りのことはした。だから、後は祈るしかないのだ。
「……明日になったら、ヒナに連絡して自宅に返そう。」
「? 療養だったらここでもできるじゃないですか。」
ヒガンの問いに、先生は静かに答えた。
「……近いうちに、何かが起こるかもしれない。その場合、ここは危険だから。」
「それは……何を根拠に。」
「あるけれど……詳しくは省くよ。でもね、これは杞憂じゃないと思うんだ。確実に、”何か”は近づいてきている。」
いつにも増して神妙な面持ちの先生の言葉に、ヒガンは頷くしかなかった。
「あと、ヒガンもユウについて行って、ヒナと一緒にそばにいてあげて。」
「……はい。でも、先生は一人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。なんとかなるって。」
「なら良いんですけど……」
ヒガンは不安が残りつつも先生の案に承諾した。
次の日
予定通り先生はヒナに連絡を入れる。『すぐ行く。』と端的に返事がされてからものの数分でシャーレにヒナが訪れた。
「ユウっ!!」
「ヒナ。来てくれてありがとう、ユウはこっち。」
先生はユウが眠っている医務室へとヒナを案内した。
「っ……!」
上半身全体に大きく包帯が巻かれたユウの姿にヒナは言葉を失ってしまった。
「……これは……誰の仕業?」
ヒナは怒りを隠しながらそう問いかける。
「私の……姉です。」
ヒガンが申し訳なさそうに答えた。
「あなた、姉はもういないって……」
「ごめんなさい、それは向こうの世界にいた時の話です。けど……お姉ちゃんもこっちに来た、……来てしまった。」
「そう……。……分かった、ユウは必ず守るわ。」
「ありがとう、助かるよ。」
「ヒナさん、私もそばにいても……良いですか?」
「ええ、勿論よ。その襲撃者についても詳しく知りたいし。」
話はまとまり、ヒナはユウを連れて帰っていった。ヒガンも必要な荷物をある程度まとめ、それについて行った。
「……相変わらず、子どもを利用しているのね。お父様。」
ここまで読んで読んでいただきありがとうございます。
ついに最終編が始まりましたが、毎日これを投稿できるかはまだわかりませんしどれくらい長くなるかもわかりません。まあ、頑張って書いていくので読んでくれたらとっても嬉しいです。