過去との別れ。よろしくお願いします。
「……ありがとう。」
ユウの攻撃が命中し、ルナは倒れた。
死んだわけではない。ただ意識を失っているだけ。でもそのルナの表情は、どこか安心しきっている、安らかなものだった。
「ふぅ……。おつかれ、ルナ。……っは。」
戦闘を終えたユウに一気に疲れが襲い、倒れそうになる。……が、そういうわけにも行かないのだ。
「みんな急いで!!順番に送るから!!」
オペレーター達の尽力により、アトラ・ハシースの箱舟の自爆シーケンスを起動させることに成功しているのだ。
つまり、この場所はもうじき墜ちる。
そしてリオが用意していた脱出シーケンスで生徒たちを順番に地上へと送っているのだ。
「……よし。」
「ユウたちも!こっち!」
先生に言われ、ユウはルナを抱きかかえて先生のもとへ駆け寄る。
残っているのはユウ達だけ。他の生徒は既に地上へと送られ、……黒いシロコも、同様に送られていた。
「終わったんだね。」
先に寄っていたヒガンが優しくそう言った。
「うん。ルナは、これでちゃんと進める。」
「そっか。」
「……ユウ――」
「さっ。ヒガン、先に送ってもらって。」
先生の言葉を遮り、そう促す。
「分かった。……待ってるね。」
「ルナもすぐに送ってもらうから、よろしくね。」
先生は端末を操作し、ヒガンに脱出シーケンスを使った。
足元に光が現れ、ヒガンを包んでいく。
「転送、開始!」
そして、ヒガンは転送され目の前から、消えた。
「よし。後はユウだけど……」
先生はユウに抱きかかえられたルナを見た。
「……その子を、送りたいんだよね?」
「はい。でも、脱出シーケンスはあと一つしかない……違いますか?」
「バレてたか。」
そう。脱出シーケンスは残り1つ。何故ならば、リオが用意したのは仲間の分のみ。敵であった黒いシロコ、ルナの分は用意されていないのだ。
そして、先生は1つをすでに黒いシロコに使っている。
「僕はこの子に未来を見せてあげたい。創らせてあげたいんです。」
「そう言われちゃ、断れないよね。」
先生は優しく微笑み、端末を操作してルナに脱出シーケンスを使った。
同じく、ルナは光に包まれ……
「転送、開始!」
2人の前から、消えた。
「……これで、終わりかぁ。」
残された2人は、床に座った。
75,000mも上空から落下して生き残れる可能性は、ない。
この箱舟が崩壊するのをただ待つだけ。
……と、思われたが。
「先生は、生きたいですか?」
「え?そりゃもちろんそうだけど……」
「僕もです。……じゃ、いきますよ。」
「え?行くって、どこに。」
「もちろん、地上です。」
■
「じゃ先生、血を吸わせてください。」
「えっ、今!?」
「早くしてください。死にたいんですか?」
「うっ……わかった、分かったよぅ……」
先生は首元をあらわにする。
ユウは素早く噛みつき、血を吸い始めた。
「んぅっ!そんな勢いよく……」
わずか5秒ほど。短い吸血であったものの、先生は少しのだるさを感じていた。
「ふぅ。ごちそうさまです。」
ユウがそう言うのと同時に、体が大きくなった。
「失礼しますね。」
そしてユウは先生を抱きかかえた。
「えっ、ちょっ、何!?」
「先生!”シッテムの箱”のなんとかバリアでも守ってもらってくださいね!」
「まって!ほんとになにするつもり!!?まって、まってぇぇぇぇ!!!」
ユウは、先生を抱え箱舟から飛び降りた。
「あんまり喋んないほうが良いですよ!舌噛んじゃいますからね!」
ユウは周りにバリアを纏って高速で降下していく。
「うわぁぁぁぁぁあああぁ!!?」
先生は悲鳴を上げ、大事に抱えたシッテムの箱からも元気な声が2つ聞こえてくる。
「ははっ。……綺麗だ。」
ユウはこの状況と景色をかなり楽しんでいるように見えた。先生はそれどころではないけど。
「これが僕たちが掴み取った、未来。そして……奇跡。」
「! ……うん。」
彗星のように落ちていく2人の目には、青く、綺麗に輝く空が映っていた。
「最高の景色ですね。」
「でっ、でもっ!それどころじゃないってぇぇぇぇぇ!!!!」
■
「そんな……嘘……」
「………先生。」
地上では、脱出シーケンスによって送られた生徒たちが暗い顔をしていた。
ヒガンとルナが地上へと送られたあと、脱出シーケンスが残っていないこと、先生とユウが残っていることが判明したためである。
「パパがいなくて、どうやって未来を創れっていうの……?」
あの遥か上空からの生存が絶望的なのは全員が理解している。だからこそ辛いのだ。自分たちには何もできない。待つことしかできない、信じて。
そんな雰囲気の中、ヒマリが声を上げた。
「あれは……?……っ!」
空を見上げていたヒマリは、赤い、流れ星のような何かを見つけた。そして、すぐに観測を開始した。
「ヒマリ先輩……?」
「っ!あれは……」
「先生とユウさんですっ!!」
『!!?』
全員の心に光が灯った。そして、予測された落下地点へと全員で向かう。
「うわああぁぁぁぁぁあああ!!!」
声が段々と近づいてくる。
「ああああぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「ちょっ、本当に大丈夫なの!?」
「ああああぁぁぁあああ――」
「到着っ!!」
ドスンと着地する音が聞こえ
元気な声と、土煙が上がった。
「よしっ。無事ですね!」
「ぶじ……うん……”体”は無事だね……」
「服のことですか?しょうがないです。そこまでは守りきれません。」
そういつも通りに楽な会話をしている先生とユウを見て、その場にいる全員は空いた口が塞がらなかった。
でも……
『先生!!』
「パパぁぁっ!!」
全員が、2人の帰還を優しく出迎えた。
ここまで読んで読んでいただきありがとうございます。
このラストは最初から決めてた。書けて嬉しい。
ラストと言いつつ、もうちょっとだけ続きます。よろしくお願いします。
がんばりまちゅ。