ある日―――。
「あなた、またとんでもない武器を・・・・・」
魔宝石と魔剣を組み合わせてみた報告をしたらなんか呆れられたが、椿的には新しい魔剣の可能性だと新しい玩具を見つけた俺から奪ってダンジョンで試しに走って行ってしまった。
「常々思っていたんだけど、椿って鍛冶師なのにダンジョンに行って大丈夫なのか?」
「問題ないわよ。鍛冶師だってダンジョンの中を探索ぐらいするわ」
―――鍛冶師だってダンジョンに行く・・・・・だと? 俺は信じられないことを聞き唖然とした。何故? それは・・・・・。
「・・・・・今日初めて、それを聞いたんだけど。てっきり鍛冶師はダンジョンには行かず武器や防具ばかり作っているものだと」
「なに当たり前な事を言って・・・・・いなかったわね」
途中で俺に言うべきことを忘れていたことに気付いて、視線を逸らすヘファイストスにそれはないと小言を言わずにはいられなかったのは仕方がないと思う。
「ほんと、そう言う所だぞヘファイストス! いつもこの工房に鉱石やモンスターのドロップアイテムを用意してくれてるのは、鍛冶師が冒険者に依頼してダンジョンから集めているものだと、鍛冶師はダンジョンに行かないものだと思っていたからダンジョンには行かなかったのに。そうじゃないなら俺がバカだったじゃないか。異世界から来た俺はこの世界の常識なんて何一つ知らないんだからさぁー。気付いていなさそうだったり知らなそうだったりしていたら確認してくれ」
「ごめんなさい、次から気を付けるわ。でもダンジョンに行くなら気を付けなさいよ」
踵を返す俺の背中に言葉を掛けるヘファイストスを無視して今日も鍛冶師として仕事をする。ちょっと八つ当たり気味に熱せられた金属を、これでもかといつもより長く強く叩きこんで完成させた刀もまた【ステイタス】が付与された。ん-、日に日にアビリティ能力が増えていくな・・・・・ん? このスキル・・・・・面白いな。
「さーて、次は・・・・・ん、この想像した武器を作ってみるか」
―――また、とんでもない物を作ろうとしているのかしら。
異世界から来た人型のドラゴンを眷族に向かえて半月が過ぎた。その間、一誠が生み出す武具の全てに【ステイタス】が付与する常識破りであり鍛冶師の新たな可能性、革命を起こすものばかりだ。しかしながらそんな物はヘファイストスからすれば邪道であり、眷族ではない人類の手に渡れば分不相応な万能感を味わわせるだけの毒でしかない。だが、いつしかその武器が使われる未来を考慮して保管庫に眠らせているが、時折ヘファイストスの発想を超える武器を作ることがある。それがすぐ傍でしているからたまに気になり事務の仕事を放り出して隠し工房から聞こえる金属を叩く音の方へ歩み、一誠の作業ぶりを見守る・・・・・。
「・・・・・リヴァイアサンの牙で大剣を作るのね?」
「ただの大剣ではないけどな」
モンスターのドロップアイテムを炉ではなくてドラゴンの炎で熱し、金床の上で形を変え整えていく様子から推測したヘファイストス。だが、己の考えとは異なっていると一誠の言葉に鍛冶を司る神の予想を超える設計が少年の頭の中で描かれていることを言外され、出来上がりが楽しみだと口元を薄く上げた。
熱せられた牙は平たく波打つ海のように伸ばす最中、一誠が自分の腕を切り裂いて流した血を赤熱している意匠が凝った槍の如く鋭い刃に研ぎ澄まされた剣刃へ落とした。蒸発して沈んでいくように消える血を見て、剣刃を炎の中に放り込んだ一誠の行動にヘファイストスは目を張った。
「よし次」
用意したミスリル、オリハルコン、アダマンタイトを熱して飴細工やガラス細工の職人の如く意匠を凝って形を変え、そこに多彩な色の12の最上質の魔宝石を、宝石を嵌めこむ土台のように付けた。最後に一誠は炎から取り出した赤々と熱せられている剣刃に重ね再びドラゴンの炎の中に閉じ込めた―――。
「これは・・・・・」
ヘファイストスは見た瞬間に悟った。これは、剣の形をした杖だと。万物を両断する刃が、その刀身が魔宝石を支えるただの土台であると。何故か柄がない剣刃のみをどうやって扱うのだろうかと疑問を抱くヘファイストスの前で、一誠は歪み出した空間に開いた穴からリヴァイアサンの大長剣が完成したばかりの武器に、まるで鞘のようにガチンと納刀したまま大剣と化したそれを持ち上げた。
「うん、想像通りにできた。ふふふ、楽しいな」
「―――――」
ヘファイストスの権能を行使し作り上げた武器は、神の領域に片足を踏み込んだことを知らない一誠は満足げに不敵の笑みを浮かべ、魔力を込めた証として全ての魔宝石が光を宿した。鍛冶神は息をする事を忘れ目の前で産まれた武器を見つめ、無意識に手を伸ばした。
「・・・・・貸しなさい」
「?」
金床に置かせると、踵を返して執務室の机から針を一本持ってきた。指の腹に指して神の血を一滴だし、まだ名もない剣身をなぞるように血を出した指を滑らせた。
「この武器でいずれ黒竜を倒すならば、主神としてあなたの力にならないとね」
ヘファイストスの血で濡れた剣身に神聖文字、ヒエログリフが刻まれていく。
「こんな武器を作りあげた褒美だけど、これはあまり好きじゃない邪道な効果。あなたと共に武器も成長するように施したわ」
「おお、そうなのか。ありがとうヘファイストス」
いわば正真正銘の神の剣とかした一誠の武器。来年、自分の下から離れてしまうが手放さない一誠の武器には何者にも侵せない神の血が宿っている。それぐらいの反抗を許されていいだろうと意趣返しの気持ちがなかったとは嘘になるが、どちらにしろ一誠の身を守る武器の最後の仕上げをしたくなったのは主神として強い想いがあったこそだ。
「それで、その武器の名は何にする?」
「不冷鍛冶神之剣」
「却下」
自分の名前を武器につけようとするなんて小恥ずかしすぎる! という想いから断固反対したもの、一誠はその却下を却下した。
「ヘファイストスの血も宿った剣なのは事実なんだからいいだろうこの名前で」
「ダメなものはダメよ。いいわね」
「だが断る」
せっせとさっさと片づけを済ませ、異を唱え続けるヘファイストスからすたこらさっさと逃げるようにいなくなった一誠とすれ違うように椿が戻った。後日、自ら完成させた武器を交流ある神々や冒険者に報せ回っては周知にさせたので、ヘファイストスが何を言っても遅く名を変えることはできなくなった。
「よかったではないか主神様よ。イッセイに愛されている証拠だぞ」
「からかわないで椿。それで、魔剣の方はどうだったの」
「うむ、数本分の魔剣の威力が宿っていた上に最後まで壊れることはなかったわ。さすがに他の冒険者に使わすことはできぬが、手前ら鍛冶師が身を守る分には丁度いいだろう」
「そう・・・・・それならイッセイには魔宝石込みの魔剣を量産してもらうことになるわね」
つまりは今後も入団して来るであろう眷族の分も量産されることになった。その知らせを受けて移動や荷物の邪魔にならない短剣や短刀ほどの大きさの魔宝石込みの魔剣を、一心不乱にヘファイストスの傍で作り続ける一誠の姿が見受けられるようになるのは翌日からであった。指定された新しい魔剣を1週間以上も時間を掛けて終えるとホームに戻り底なし沼に嵌ったかのようベッドに沈んでしばらく起きなかった。それまで鍵が開いていることをいい事に勝手に侵入し、家主が寝ている事を知りキッチンを借りて料理を作ったり、異世界の漫画本を借りて読んだり、起動の仕方を覚えてゲームをしたり、家主の横を陣取って少年の寝顔を眺める老若男女がいたことに気付くのはもう少しの後だった。
「・・・・・料理が上手いから不法侵入したことは水に流してやる」
「ならば次からは料理を作ってやるか」
「おい、料理を作り置きするからって今後も不法侵入することを許したわけじゃないんだが?」
「小さいことをグチグチ言うんじゃないよ!」
「ほぉ? それならヘラ達のホームに無断で上がっていいんだな? 小さいことをグチグチ言わないよな?」
「来てもいいけれど、その時は来年になるまで外に出さないからね」
「最悪だぁ・・・・・」
何故か酒場のように大勢で料理を食べることとなり、ある筈のない酒の臭いに一誠の眉根を寄せるロキが酒瓶をラッパ飲みしていた。
「そもそも来年になったらどうやって次の派閥に俺を入団させるのか決めてるのか?」
四柱はそれぞれ言い返した。
「勿論、運勝負。じゃんけんじゃよ」
「最後まで負けた神は4年後に待つことになるわね」
「ぐふふ、イッセイがウチの【ファミリア】に入団してくれたらヘファイストス仕込みの武器や防具を作ったり修理してもろうたり、回復薬をたんまり作ってフィン達の助けになってもらうでー」
「楽しみにしているわ。たくさん可愛がるからね」
また各神の眷族達からは―――。
「ヘラの眷族になったら気をしっかり保つことが長生きの秘訣だぞ」
「それはどういう意味で言っているのか教えてもらおうじゃないか。コイツは簡単に死ぬタマじゃないだろう」
「ロキのわがままに付き合うことになるだろうけど【ファミリア】に来たらよろしくね」
「・・・・・必ず超えてやる」
既に必ず来る前提で話しかけるので、ザルドが作ったパエリアを咀嚼していた一誠は微妙な顔を浮かべていた。でも美味いので何度もお代わりをした。
「イッセイ、訊きたいことがあるがよいか?」
「なんだ」
「マコトとイチカはお主が過ごしていた世界ではどのぐらい強いんじゃ?」
「んー・・・・・人類のみと純粋な力と魔法使いとしての実力なら世界最強、5位以内かな。でも、神器使いまで加わると神器の能力次第で負けるから世界で100位以内か数百位、神々やドラゴンと言った存在まで加わるともっと強さの順位が下がるな」
「あの2人がそこまで強くも弱いとは・・・・・では、一番強い者は? やはり神か?」
「ドラゴンだ。しかも俺を人型ドラゴンとして復活させてくれた一人と一匹のな」
興味深い、と雰囲気が場に漂い食事の手を止めて一誠の話に耳を傾ける一同。
「神でも倒せないドラゴンとは、異世界は無事なのか?」
「どっちも俗世に関心がないから無害なんだ。でも古代にはこの世界の様に人類の天敵のモンスターがいたり勇者や英雄もいた。神の試練を乗り越えたり力を貸して貰ったり、時には精霊と関わってもいる」
「ほー、イッセイんとこの世界の神も下界に降りるんや?」
「人類を導いたり滅ぼそうとしたりな」
「滅ぼすって、実際に滅んでいたりするのかい」
「古代人はな。現代は一部の国以外、神への信仰はないし、しないんだ。ゼウス達が俺の世界に来たとしても違和感なく生活できるだろうな」
一誠の中でもう絶対だと確定していた。だって人間臭すぎるもん。
「あなたの世界の神々は人類を眷族にしないの?」
「しないな。同郷の神々か自分達の子供で十分だ」
「従属神、というわけか」
肯定も否定もしない一誠にザルドが話に加わった。
「お前の世界のドラゴンは黒竜のようなドラゴンはいるのか」
オラリオの三大クエスト、下界の滅亡の象徴、と必ず倒さなければならないドラゴンはいるのかと。ザルドの問いにこう言い返した。
「黒い龍、だけならたくさんいるけど普通のドラゴンより残虐で残忍、暴力で何より強い邪悪な龍はいるぞ」
「直接ベヒモスとリヴァイアサンと戦ったお前の直感で、その邪悪な龍と比べるとすればどちらが強いと感じた」
「甲乙つけがたいな。ベヒモスは山のように比喩なく大きかった、リヴァイアサンは世界を覆うほどの巨大な蛇だった。あそこまで大きいモンスターは俺の世界にはいないからな、黒竜もそうならば凄いけど・・・・・うん、それでも贔屓目に言わせてもらうなら二つ名持ちのとある邪龍の筆頭格だな」
その理由はなんだ。ザルドの気持ちはこの場にいる冒険者の気持ちを代弁にしているようなものだった。レベル9まで強くなれる異世界から来た一誠がそう言うならそうなのだろうと思うも、ベヒモスやリヴァイアサンを越える強さの邪龍とやらは如何ほどなのか気にならないはずがない。言い返された一誠は・・・・・不敵に笑んだ。
「―――会ってみるか?」