何時だったか話に聞いたラキア王国とやらにいる魔剣鍛冶師。そいつ等を一目見たく事前にヘウラノスから許可を得るためギルド本部に顔を出した。ウラノスがいる祈祷の間へ繋がるギルド職員のみしか入れない空間に顔パスで入り、肥満の身体を揺らすエルフに見つかってもそのままウラノスのところへ赴き、ラキア王国にいる魔剣鍛冶師のことを話すと。
「何を考えているんだ貴様!? そんな理由でオラリオから離れることなど許されないぞ!」
「何で許されない?」
「今のお前はオラリオから易々と出ていい立場ではないのだぞ!!」
「それこそ何でなんだ? この世界に来てまだ日が浅いのにさ。大体俺の立場ってなんだ。別に重役の職業になっているわけでもないのに」
規格外な武具を作る新米鍛冶師ではあるが、俺が異世界人って以外は大それたことはない。のに、ロイマンは唾を飛ばしながら俺へ指を差しながら怒鳴り散らしてくる。
「貴様が【女帝】と並ぶ最上級冒険者だからだぁー!! そんな冒険者が外に出て他国の観光などよりオラリオに貢献する方が重要であることなのだぞ! そもそも敵国にオラリオの冒険者がいると知られたら無用な面倒が起きるのは必然なのだ! 何故そんなことも分からないのだ!」
あー・・・・・ヘファイストスに聞いた、オラリオに入るのは簡単だが出るのは極端に難しいってこういうことか。オラリオの戦力の流失を阻止するための処置でもあるって面も含めて他国に好き勝手やらせないためね。
「魔剣鍛冶師の技術を学んでオラリオの冒険者の手に渡らす、これもオラリオの貢献に繋がるだろ? あわよくば魔剣鍛冶師達をオラリオに招くことも道理じゃないか?」
ほらほら、そんな顔を赤くして怒った目で睨みつけるなよ。血圧が上がってしまうぞ。
「お爺ちゃんでもダメか?」
「貴様ぁっ!!!」
ロイマンから視線を外し、四炬の松明に囲まれている石造りの高い玉座に巍然とした姿で腰を落としているギルドの真の主に話を振った。
「お前がオラリオに帰ってくるなら構わない。が、いつ出立するか教えてもらおう」
「ウラノス様!?」
「一週間後に行こうかなって。ラキア王国には行ったことがないから案内役としてヘルメスを同伴させたい。確か、ギルドで手続きをすれば正式な依頼として引き受けてくれることもあるんだよな?」
「その通りだ」
てなわけで許可を貰って次はヘファイストスにラキア王国の観光の許可を貰いたかったが。
「ダメよ」
最初こそヘファイストスから三文字の判決を言い渡され反対されたが、思わぬところから援護を受けて最後は認めてもらったもの、納得できないと不服な顔と眼帯があった右目を掻くヘファイストスを、ラキア王国に行く日まで目一杯愛した結果。
「私の目の届かないところで何をしでかすか分からないからついて行くわ」
「ラキア王国に行くのか? ならば手前も付いていくぞ」
ラキア王国観光にヘファイストス、椿までついてくることになってしまった。改めてラキア王国とはどんな国なのか質問したところ。大陸西部に位置する君主制国家。被治者の数は六十万を超すと言われ、王都には巨大な王城と城下町が存在する。緑豊かで肥沃な大地を有するこの国は、いわゆる【軍事国家】という野蛮な側面を持っていた。
『軍神アレス』
事実上の一国の頂点であり、国を統べる男神・・・・・うーん。
「どうしたんだい、そんな小難しそうな顔をして」
「この世界のアレスってどんな感じなのか想像できなくて」
隣から話しかけて来た者、男神ヘルメス。ヘファイストスを説得してみせ代わりに自分も付いていくと言い出した手前、元々案内役として依頼するつもりだったから同行を許可した。ヘルメスまではいい、人数も四人だからラキア王国に諍いの刺激を与えない範囲内だから同行を許可したのに・・・・・。
「イッセイとセットなら、うちらも簡単に都市外に出られるなんてなー」
「そうね、いいことを知ったわ。次はイッセイと二人きりで旅行に行こうかしら」
「アレスと会うのは久しいわぃ」
「あいつはどうでもいいけどね」
・・・・・こいつらまでついてくるなんてさぁ~。俺、教えた覚えはないんだが? しかも、眷族達まで連れてきてるのは何故? 背後を見れば完全に野宿する前提で馬車や荷車、物資や食料まで完備している。俺がラキア王国に行くことを事前に知らないと用意できない量だぞ。
「あのさ、ヘファイストスとヘルメスしかラキア王国の観光に行くことを話していなかった筈なのに、なんでお前らも付いてくるんだよ?」
「単刀直入で言うとな。儂とヘラはイッセイが他国で暴れんよう連れ戻してくれと頼まれたんじゃよ」
「異世界の力を振るわれたら、私等なんて抑止力すらならないことを知らない間抜けなエルフにね」
よーし、帰ったらあの脂肪の塊をシェイクしてやる! てか、ウラノスから許可を貰ったのにギルドの権力で二大派閥まで派遣させていいのかよロイマンさんよ。
「ま、儂等のことは気にせず自由にしてくれ。儂等達もオラリオから出られていい気分転換になるからの」
「リヴァイアサン討伐ができそうなぐらいの戦力が、すぐ後ろにいる状況で気にせずいられるほど能天気じゃないんだが? ただの見張りで過剰すぎるだろ、俺は黒竜じゃないんだが?」
「お前があのエルフに文句を言うべきじゃないか」
ほんとそれな。
「ヘルメス、真正面から入れないよなこれ」
「無理だね。オレ達だけなら変装して検問を越えることができたけど、こんな大所帯な上に美の女神までいるんじゃあ平和的に入れないよ」
「一応聞くけど、ラキア王国って軍事力はどのぐらい強い?」
「ダンジョンほど子供達が強くなれる環境はこの下界において他にはないんだ。ゼウスかヘラ、どっちか一柱の眷族が総出で攻めれば焼け野原になるのも一日も掛からないよ。ラキアに非戦闘員の子供も含めて数十万人は居てもね」
つまりはそこまで強くないということか。・・・・・それじゃあしょうがないか。
「ヘファイストス、もう悟っているし察してもいるし達観しているだろうけどさ」
「みなまで言わなくてもいいわ、わかってる。もうなるようになるしかないわ」
ここまで大事になろうとは思いもしなかっただろうよ。彼女の口から胸中に抱いたモノを深い息とともに吐いたヘファイストスに、俺もこれから穏便で観光ができない未来を思うも釣られて溜息混じりにロイマンへのお仕置きをどうしてくれようかと考えた。
ラキア王国―――王都バルア。
「ほ、報告ぅっ!? て、敵が襲撃をしてきましたぁっ!!」
王城の最上階、玉座の間の中で。一柱の男神や中年の男性の元に宣戦布告無しのどこぞの馬の骨も分からぬ相手からの襲撃の一報が届いた。獅子を彷彿させる光り輝く金髪に真っ赤な鎧。精悍かつ逞しいその容貌は『美の女神』に迫るものがあり、まさに美丈夫と言うに相応しい。
「は? 我が国が? どこの国に攻められておるのだ? 軍の規模は? どこの【ファミリア】なのだ?」
胡乱気な顔で襲撃の報せをもたらす兵の言葉に信用しなかった。ラキア王国の周辺諸国、各国、他都市から侵攻されたことは一度とてなく『クロッゾの魔剣』の恩恵による不敗神話前後、現在でもないのに今攻めてくる理由がわからなさすぎる。主神の問いに兵は動揺に困惑、しかし確とこの目で見た事実に自分も信じられない疑う光景を打ち明けた。
「て、敵は雷と二又の矛の徽章の旗と頭に花を飾りと杖を持つ横顔の女の徽章の旗を掲げたオラリオ最強の、二大派閥の【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】です!!! 兵士達が住まう居住区の検問の外壁門を正面から文字通り破壊して侵入しております!!!」
ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
「あ・・・・・貴族街の外壁門が突破されたようですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
硬く閉ざして招かざる客である俺達を阻む外壁門をたったの一発で破壊してみせた【女帝】に俺とヘファイストスはスンと神妙な顔で見ているしかなかった。
「・・・・・ヘファイストス、ラキア王国からギルドに何らかの請求をされる?」
「すると思うけれど、できないかもしれない」
何でだ? と内心首を傾げている間にも背後から戦闘音と悲鳴の阿鼻叫喚が聞こえてくる。非戦闘員で一般市民から聞いた情報通り、ラキア王国を守る兵士・軍人達が住まう居住区を素通りする際に戦闘が発展してしまったが、今では弱肉強食の構図になってしまっている。ラキア王国に侵入・侵攻する俺達を捕える、あるいは殺そうと群がってきているがゼウスとヘラの眷族達が降りかかる火の粉を払うが如く一蹴しても、王族と貴族を守ろうと軍人としての義務を勤める精神で格上の冒険者であろうと攻撃の手を緩めなかったので。
「ったく、レベル1ばっかで数だけは多すぎだ。雑草取りをしている気分で面倒だぜ」
「同感だ」
「さっさと片付けるぞ」
ギアを上げ出す【ゼウス・ファミリア】によってラキア兵達が千切っては投げられて、味方同士がぶつかって凪倒れていく。完全に手加減をしているだろうがこの世界って命が軽く扱われているなーおい。
「おい、いつまで突っ立ているんだい。とっととアレスのところに行くよ」
ヘラからの催促の言葉を掛けられ、口を開けて(物理的破壊)いる外壁門へ振り返り潜った先にも、当然のように王城を守る鎧や甲冑に身を包んだ兵士や騎士がいて【ヘラ・ファミリア】の団員達が相手していた。そして当たり前のようにヘラの眷族達に敵わず地面に叩きつけられ、殴打や蹴りで吹っ飛び貴族の家と思しき堀や壁とぶつかって壊しながら消えていく。
「手応えも歯応えもない奴らばっかりだね。下半身にぶら下げているタマないのかい。触って確かめてみるか?」
「それは仕方がないです。ここにはダンジョンがないのですから。あと下品ですよあなた」
「テルスキュラのアマゾネスは身内同士で殺し合ってレベルを高め合っているそうじゃない。あいつらのようにそのぐらいの気概を持っていない男共は弱くて当然よ」
なんかとんでもないことを言っているし聞こえるけれども、相手のテリトリーの中にいるから一向に数が減らないな。二大派閥に恐れて戦意喪失しない辺り、冒険者の強さを知らないのか?
「―――貴様等ぁっ! 俺の国の中で暴れるとはどういうつもりだァー!!」
なんか聞えてきた声にラキア兵がピタリと動きを停止、次にバッと後方へ振り返った。俺達も声がした方へ視線を送ると、赤い鎧を着た獅子のような金髪の男が「お止めください! お戻りになられてください! 主神様が自ら前線に出られては危険です!」と兵に説得をされてる。
「・・・・・もしかして、あの男がアレス?」
「ええ、そうよ」
ほほう・・・・・この国の主神がこの場に現れるとは。ニヤリと邪な笑みを浮かべ、ヘファイストスから一瞬で離れて軍神アレスの懐に飛び込んだ。
「んなっ!?」
ラキアの主神ゲットだぜ!!!