ラキア王国から帰ってきて二週間ほど経った。俺達(主にゼウスとヘラ【ファミリア】)がラキア王国を相手に大暴れしたことに対してペナルティを課そうとしてきたが、神々を招集したロイマンに(ヘファイストスについて来た俺)異議を唱えた。
「お前がゼウスとヘラに俺を連れ戻す依頼を出したから余計な諍いが発生したんだぞ。何のために俺はウラノスのお爺ちゃんから直々に外出の許可を貰ったと思っているんだ」
「黙れっ!! とにかくラキア王国からの抗議の文が届いた以上はペナルティを果たすのだ! さもなくば【ヘファイストス・ファミリア】の全財産の没収、神ヘファイストスをオラリオ追放も辞さない!」
それって本気? と問えば当たり前だと返されたので、俺にとっては別に痛くも痒くもないので構わなかった。
「なぁ、神の追放って具体的にどんな感じになるんだ?」
「文字通りオラリオから追い出される。その上、全財産を没収されるなら身に纏っている衣のみの状態で放逐されるわ」
「ギルドの決定は絶対じゃから、儂等もそうなるぞぃ」
「多大な利益と貢献をしているのに使えなくなったら切り捨てるのがギルドのやり方だよ」
うわー、そういう一面もあるのかギルドって。そんな扱い方もするなんて少し失望したぞ。でも、そうなると俺はどうなるんだ?
「主神が追放されると【ファミリア】の団員ってどうなる?」
「当然、他の神の眷族に成れる改宗状態になるんや・・・・・あ、イッセイだけは無理やな」
なんで? と思う俺以外、ゼウス達は何かロキの発言に気付いたようで俺を見るのは何故?
「理由は?」
「改宗は一年経たないとできない決まりを天界で神々がしたからだよイッセイ君。どんな理由であれ神が天界に送還されない限り、一年未満の神の眷族は絶対に改宗ができないのさ」
ヘルメスが俺の疑問に答えてくれた。その例えならば俺はまだ改宗できない期限だからヘファイストスの眷族のままでいられるのか。
「なるほど、そういうことなら俺もヘファイストスとオラリオから離れるとしよう。ヘファイストスから離れる理由はないし」
「はっ? ―――ッッッ!? お、おい待て、待たんかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
呆けるロイマンを背に向けながらヘファイストスの手を取ってギルドを後にすると、俺の背後からロイマンの叫び声が聞こえてたが、そんなこと構わず離れた後のことは知らない。
「ロイマン〜? レベル9の戦力を自分から流出するなんておもろくないことをしてくれるやん。簡単にイッセイを切り捨ててオラリオを弱体化して何企んどるんや自分?」
「企んでなどいない! それよりも早く【異世界人】を連れ戻すのだ!」
「おい、あの子までオラリオから追放するなんていい度胸じゃないかデブエルフ」
「ち、違う! 私はそのような事を一言も言ってない!」
「私もオラリオからの追放のペナルティを受け入れるわ。元々オラリオに来るつもりはなかったのだし」
「か、神フレイヤ! 何を言いだす!?」
「お主、なんて馬鹿なことを言い出すんじゃよ。後でウラノスに怒られるぞい」
「そ、そんな・・・・・!!」
『―――ロイマン、話しがある』
「ハハハ、ゼウスの言う通りになったね」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああ・・・・・っ!?」
ロイマンの悲鳴が聞こえたような気がしたが、それよりもギルドから程なく離れたところでヘファイストスの声に集中して耳を傾けた。
「本当にオラリオから離れるのか?」
「ギルドの決定は絶対だもの。あなたはどうするの?」
「さっきも言ったとおりヘファイストスの傍にいるぞ。する以外離れる理由がないんだからな」
絶対に言うと思っていたヘファイストスの心情に対して当たり前なことを言うと、ヘファイストスはまた訊き返してきた。
「仮にあなたが他派閥に所属している間に私が追放されることになったら?」
「俺の傍に生きてほしい。神としてではなくて一人のヘファイストスという女としてだ」
「ヘラやフレイヤの眷属になっている間でも? 彼女達はそんなこと許さないと思うわよ」
「どこの派閥に入っても俺はあの静かな場所にある家に住むつもりだから他の女神には関係ない」
店舗に戻りながら答え、2階の事務室や隠し工房でそれぞれ作業に戻るつもりだったが、先に部屋に入った俺の背後からガチャリと鍵を施錠する音がしたから、考えるよりも反射的に後ろへ振り返った俺の視界にヘファイストスの顔が飛び込んできた。
―――その日の夜。
ギルドからの正式なペナルティを他の先輩達にまだ告げず、引っ越し前の食事を用意していた時にゼウス達が当たり前のように俺達の家に上がり込んでは開口一番に教えてくれた。
「ヘファイストス、お主のペナルティもないことになったからオラリオから離れんでもよいぞ」
「そうなの?」
「当たり前だ! イッセイがオラリオから離れるなんて、私達の損失は計り知れないんだからね!」
「おもろかったであの後。ウラノスに呼び出されてロイマンの奴、ずーと無言で見られてただけなのにドラゴンに睨まれたゴブリンのように震えて太った身体が萎んでいったんや」
「今後ロイマンは、あなたの言動を黙認をすることになったわ。ウラノスに直接外出の許可をもらったのに、ロイマンがウラノスに内密でゼウスとヘラを動かしたことが仇となったからね」
さほどロイマンは罰を受けた感じに聞こえないが、【ファミリア】の解散されずに済んでよかった。ヘファイストスはもちろん、他の先輩鍛冶師達に迷惑をかけるところだった。
「ラキア王国の対処は?」
「求められた賠償はロイマンが払うことになったが、他国で暴れた儂とヘラも少なからずとも賠償の一部を払う羽目になった。ちゃっかりオラリオの魔剣を大量に要求してきおったが、それは呑めないから莫大な金で黙らせるしかないのぅ」
「まったく、あのデブエルフのせいではた迷惑だよ!」
なんか、ごめんなー。と心中で謝罪する俺は手を止めず魚にタレをつけて焼き続けた。その匂いにつられてか、ザルドが凄く興味深げに視線を送ってくる。
「いい匂いがするな。何を焼いている」
「鰻って魚だ」
「鰻!? 手前の故郷でしか食べられない魚を食べられるとは!」
椿が顔を輝かしてこっちに来た。換気扇の下で鰻を豪快に炭火で焼く間に鰻に付けたタレの匂いを手で掬い取るように扇いで嗅ぐ椿を見て好物なんだなーと察する。
「椿の故郷ってどこなんだ?」
「極東であるぞ。鰻以外にも極東でしか食べられぬ魚や野菜などあって、何より日緋色金を精製して産み出した国でもあるぞ」
「極東、それに・・・・・」
日緋色金か。この世界で有名な金属の名前を聞けるとは思いもしなかった。んー、是が非でも拝んでみたいな。
「ヘファイストス。次は極東に行きたい。極東でしか手に入らない物を欲しい」
「その中に日緋色金が入っているのは気付いているわよ」
「手前も里帰りしても構わんぞ主神様」
「椿、あなたまで・・・・・」
行こう、行こう、とヘファイストスを説得する俺達に呆れながらも最後は受け入れてくれた。
「極東かー、どんなところやろうな」
「ふふ、楽しみね」
「儂等はオラリオに留まるぞヘラ」
「言われずともわかっているよ! ほらイッセイ、さっさと私等のメシを用意するんだよ!」
ヘラに催促されるのも慣れた。メシをたかりに来た神々とその眷族達の料理をさらに作らされる俺が食べれた頃は用意しておいた鰻が全部食べられた頃であった。俺だって食べたかったのに! と思いから拗ねて俺だけタコ焼きを作って出来上がったタイミングで・・・・・。
「そいつも美味そうだな。味見させろ」
「なんや、ええ匂いやで~」
鰻を喰ったってのにまた人の料理を食べようと近づいてきた連中に【停止世界の邪眼】で時を止めて妨害した。
「イッセイ、いまザルドに何をした?」
「俺の料理を食べる輩を停めただけだ」
倒しても手を伸ばした状態の姿勢を崩さず床に転がるロキとザルドの状態に、小休止していた連中は興味深々のようで見つめていた。
「ロキは死んでいないんだね?」
「死んじゃいない。停めている時を解除したら、この二人は瞬きした瞬間に何かされた違和感を覚えるだけだ」
「解除しない間、何をしても気付かないってことなら殴っても痛みとか感じないのか?」
「感じないぞ」
【女帝】の質問に答えると、ザルドの顔面を何度か殴り始める彼女にドン引きする。しかも全力で殴ってるっぽくて殴打の音がゴッ! ドンッ! ゴンッ! って聞こえてくる。
「その能力は異世界の神器の能力じゃな? その能力は儂好みで羨ましいのぉ~」
「おいイッセイ、この爺のために相手の時を停める能力を使うんじゃないよ」
ヘラがすぐさま釘を差すほどなのかゼウス・・・・・・。
「・・・・・」
最後の2つの熱々のタコ焼きをロキとザルドの口の中に捩じり込んでから【女帝】を制止の声を掛けた。二人に掛けた邪眼の力を解除してやれば・・・・・。
「うわあっちゃああああああああああああああああああああああ!?」
口の中のタコ焼きの熱でロキの舌が火傷したかもしれないほど悲鳴を上げて勝手に騒ぎ出す反面、口の中にある違和感に覚えながらも咀嚼をするザルドの反応につまらなかった。
「ザルド、一応聞くが殴られた痛みは?」
「殴られた? 誰にだ? イッセイにか?」
「彼女だ」
マキシムが【女帝】を差して言うが、彼女ほどの冒険者に襲われるならすぐに察知できるザルドなのに。当の本人は殴られたことに気付いていないどころか痛みすら感じていない様子に一同は把握した。
「何度も顔面を粉砕するほど全力で殴ったのに。本当に何も感じないんだねぇ~」
「本当に殴られたのか・・・・・?」
あっけらかんに言う【女帝】に訝しむザルドの隣で騒いでいたロキが落ち着けさを取り戻し・・・・・。
「これ、美味いやん!!? イッセイ、もっと食べたい! 作ってぇなー!!」
改めてタコ焼きの味を占めたようで催促してきた。拒否しても騒ぎながら催促して来るからもう一度【停止世界の邪眼】の能力を掛けて黙らせ、そしてザルドの感じる違和感の正体を丁寧に教えると。
「・・・・・二度と俺に使わないでくれ」
気付かれない恐ろしさを覚えたようだった。