目的が達成できたし、ウラノスのお爺ちゃんから色々と工面をしてくれることになって嬉しいことと、太ったエルフが終始驚いたり絶句していたりと忙しかった。
「じゃあ、ウラノスのお爺ちゃん。またなー」
「だからウラノス様にその様な呼び方をするではない!」
「構わんロイマン。私が許す」
「ウ、ウラノス様ァ~・・・・・」
この人、心労が絶えない人生を送るだろうな・・・・・。ロイマンというエルフを老いて先に地上へと戻る俺の足取りは軽く、最初の目的を果たせたことで次の目標を目指す。当然だが元の世界の帰還だ。その為には魔法を習得しないといけないんだが・・・・・。正面から職員の作業空間に入り、窓口があるテーブルから出たところで。
「やぁ」
まだいた三人組の冒険者に話し掛けられた。なんか、是が非でも知りたいってオーラを感じる・・・・・。
「・・・・・暇人なのか?」
「ヘッドハンティングも兼ねて君のことを知りたいんだ。もう改宗できる状態にしてもらったんだろう?」
俺とウラノスの関係は把握しているのは当然だが、派閥の誘いをする魂胆もあるのかい。
「色々と試してみたいことあるんけどな」
「それなら・・・・・」
「―――俺が付き合ってやる」
子供の話の途中を遮る声と一緒に黒い鎧の男まで現れた。
「ザルド・・・・・いま彼と話をしているのは僕達なんだ。割り込まないでくれるかな」
「悪いが勧誘も含まれているならば俺達も黙っちゃいられないのさパルゥムの勇者」
ザルド、と呼ばれた男の背後に隠れるようにいた髭を生やした老人が出てきた。
「この子かザルド。上級冒険者を倒した駆け出しの子供とは」
「ああ、そうだゼウス」
ゼウス・・・・・? Z E U S?
「・・・・・ゼウス?」
「そうじゃぞ。儂が【ゼウス・ファミリア】の主神のゼウスじゃ」
そう名乗る老神を心底信じられない俺は慟哭せずにはいられなかった。
「・・・・・俺の知っているゼウスのお爺ちゃんと全然違うー! 農民の服を着たら年寄りのお爺ちゃんにしか見ないぐらい違う-!」
「なぬ?」
「ふっ・・・・・!」
ザルドが噴いた。でも、そんなことどうでもいいことだ。なんだ、この目の前の老神は!
「ウラノスのお爺ちゃんも違ったけど、あれはあれで貫禄あったからよかったのに、エロいことが好きそうなこのお爺ちゃんがゼウスなんてショックだわ! 俺の中のゼウスお爺ちゃんの象を壊さないでくれ!」
「スケベの何が悪いんじゃ! あとお主の中の儂って何なんじゃ?」
「・・・・・あ、どっちもたくさんの女神や人間の女に性的に手を出すスケベだった。悲しい・・・・・」
「お主、儂と初めて会ったのに、妙に儂のこと知っておらんかの?」
そりゃ、同じゼウスなら似ている部分はあるはずだろうに。この世界ゼウスはザルドにそう訊くとすごく困ると風にゼウスへ言い返す。
「主神の悪評が世界中に広がっている事実ではないのか。いや、それは俺達にとって困ることなんだが。一緒にされたくない理由で」
「なんじゃと! ザルド、親の儂に向かってなんてことを言うんじゃ。儂は泣いちゃうぞ! うおおーん!!」
「ここで騒ぐな。・・・・・場所を移すぞ」
・・・・・なんでこのまま話の続きをする流れになる? 俺、色々としたいことあるのに。
「俺は行かないぞ。寝場所を確保したいから」
長居は無用とギルドから出る俺の襟を掴み、無抵抗の俺を荷物を持つように脇で担ぐザルドに捕まった。
「悪いが逃がさん。大人しくしていろ」
「できるか! ふんっ!」
ドゴォッ!!!
「ぐ・・・・・!?」
鎧を砕き、穴を作る威力の俺の拳がザルドの腹に突き刺さった。あれ、いつもより力が増してる? これが神の恩恵の効果か? 呻いたザルドが膝をついた瞬間に今度は頬を殴った拍子に兜が吹っ飛び、ザルドの素顔が見れた。ゼウスと三人組が目を丸くして驚愕の色を顔に浮かべている中、脱した俺をザルドが睨んでくる。
「・・・・・レベル1の力ではないぞこれは。本当にお前は何者なんだ」
「あ、そうなの? 更新してもらったばかりだから加減がわからなくて」
「更新? 【ステイタス】のか。つまり、探していた主神を見つけたということか。どんな神だ」
「言ってもいいのかわからないけど、【ウラノス・ファミリア】だったよ」
「はっ? ウラノスの?」
ゼウスが直ぐ様に反応し、俺を凝視しながら自問自答する、思考の海に飛び込んだらしい。考える仕草をした組んだ腕を解いたゼウスに質問された。
「お主、名前はなんと言う?」
「ウラノスのお爺ちゃんにも言ったけど。俺の名前は兵藤一誠だ。親は兵藤誠、母親は式森一香だよ」
「・・・・・なん、じゃと? お主、あの二人の子供・・・・・あああ!? まさか、あの時の赤子の片割れなのか!!? 確か、赤子の一人がイッセイと名付けたって儂の腕に抱かせてもらった赤子がお主なのか!?」
「「「「は?」」」」
ゼウスの反応に三人組とザルドが耳を疑う反応をする。俺も似たような気持ちだ。
「おいゼウス。こいつを知っていたのか」
「赤子の時に紹介されただけで、その後はちっとも会わんかった。てっきり天界に還ったものだと思っておったのに」
「勝手に殺さないでくれ。両親もピンピンしてるよ」
至極当たり前の事を言っただけなのに、ゼウスは目をあらん限りに見開いて驚きの声音で絶叫した。
「冗談じゃろ、千年も前のことじゃというのにまだ生きておったのか!?」
「「「「千年ッ!?」」」」
うーん、そんな古代まで遡る話なのか。でも、異世界同士の時間の流れが違うからこの世界ではあっという間に千年も経っているとしか思えない。
「お前、エルフの血を流しているのか」
「一応、ヒューマンですが」
「さすがにそれは信じられないよ。ヒューマンは百歳も生きられても千年まで生きられないからね」
「その辺は俺自身に事情があるから説明しなくちゃならないんだけど、それを教えるほど仲がいいわけでもないお前らに言うつもりはない」
「・・・・・だったら、力尽くで喋らせるしかないな」
ザルドから戦意が感じるようになった。
「小僧、【ステイタス】を更新したと言ったが、レベルはどのぐらいだ」
「9らしいぞ」
「・・・・・納得した。いったいどこでそこまで昇華をしたのかも含めて答えてもらう意欲が高まったぞ」
「ここにも戦闘狂がいるなんて困ったもんだ」
天使変化の力を解放し、戦闘態勢に入る俺の懐に飛び込んで殴り掛かるザルドに、翼で斬ろうとした時だった。
「そこまでだ」
俺達に割って入る人物の介入で反射的に距離を置かざるを得なかった。いや、この隙に逃げるか! そうと決まれば俺は光の速さで東の方へ逃げたと思い込ませ、南から西へと回りながら飛んだ。
「邪魔をするなマキシム。逃げられたではないか」
「だとしてもギルドの前で戦闘はご法度だ。俺達が面倒なペナルティを受けてしまう」
「そんなもの、俺達にとってどうでも・・・・・」
「いや、俺も離れたところで話は少しだけ聞いていた。だが、さっきのはいただけないぞザルド。無理矢理情報を吐かせようとすると、反発されるのがわかりきっているだろう。今でなくてもいつか話してくれるまで待ちながら交流するのが最善だ。少なくとも彼は話が通じる人間だったと思うが違うか?」
「・・・・・」
「ゼウス、その方針でいいな?」
「そうじゃな。性急すぎるとヘラのところに行ってしまいかねないからのぉ。そうなったらいよいよ儂らも肩身狭いどころではない」
「尻を敷かれるのは俺も嫌だね。あの女傑と並ぶレベルの人間だ。彼を迎え入れた瞬間、本当の意味で【ヘラ・ファミリア】と対等になれる。この好機を見逃しちゃならないぞザルド」
「ちっ、わかっている」
「ンー、僕達を無視して話を進められるのは仕方が無いとして、黙って見守るほどお人好しでもない」
「改宗状態のレベル9なぞ存在自体が前代未聞だ。この一件が他の神々も知られたら黙っていないぞ」
「争奪戦待ったなしじゃな。この場にオッタルがいないことが幸いか」
「そうとも言えないよガレス。魔法で金色の翼を生やす冒険者がいると報告しているはずだ。当然、一目見ようとあの女神は動く」
寝場所の確保に適当で降り立った場所が廃墟の教会前。方角からして北西だと思うが、隠れ家にするには丁度いいか。大通りから離れ、誰からにも忘れ去られたような廃墟の区画。正面玄関の真上、全身をぼろぼろにして顔半分も失っている女神の石像が、微笑みながら俺を見下ろしている。扉の無い玄関口をくぐって教会の中に入った。屋内は外見に負けず劣らずの半壊模様。割れた床のタイルからは雑草が繁茂し、頭上の天井は大部分が崩れ落ちてごっそりと無くなっている。屋根に開いたその大穴から降りそそぐ暖かな日差しが、かろうじて原型を留めている祭壇を照らしていた。
「昼寝でもするか」
翼を陽光に当てるおあつらえ向きの空間もあることだしな。そう決めると祭壇を動かして俺が日差しを受ける位置に腰を下ろし、祭壇を背にして腰を落とすと金色の翼を床にも広げたまま目を閉じて意識を落とした。
・・・・・そして次に目が覚める頃には、灰色と白の長い髪を伸ばす姉妹らしき二人の少女が人の翼の上で寄り添って寝ている姿に視界に入った。俺が寝ている間に教会の場所を知っていた二人が訪れ、寝ている俺の翼に興味を持ってそのまま寝たか・・・・・。このまま寝かせるか起こすか迷ったが、空が朱色に染まっていたことに気付く。
「おい、起きろ。もう夕方だぞ」
肩を揺らして起こしにかかる。眉根がピクリと動くのを見ると灰色と緑色のオッドアイの双眸が開きこっちに振り向く。
「・・・・・」
「・・・・・」
数秒間見つめ合う俺達。でも、少女が腰を上げてまだ夢の中に居る少女をお姫様抱っこして何も言わず教会から出て行ってしまった。・・・・・何だったんだ?
「ヘラ、聞きたいことがある。金色の翼を生やす種族、冒険者を知っているか」
「はぁ? モンスターのことならお前の方が詳しいだろ。寝ぼけたこと言っているんじゃないよ」
「アルフィア、その人間と会ったのかい? どこにいた?」
「お前も信じるってのかい」
「信じるもなにも、そいつレベル1らしいのに襲い掛かってきた生意気な金髪猫を返り討ちしたって話がもう広まっているよ。それも癒しの魔法を使った様子も目撃されてる。アルフィア、そいつと戦ったか?」
「していない。いつもの教会に向かったらその人間が翼をだしたまま日差しを受けながら寝ていた。メーテリアの好奇心に巻き込まれて翼の上に座ったら、その間だけこの身を蝕む病の痛みが和らいで眠ってしまった」
「・・・・・そいつは、本当なんだろうね」
「嘘だと思うなら勝手に決めろ」
「ふん、可愛げのない子供だね。ザルドが知っているならゼウスの阿呆も知っているね・・・・・問い質しに行くよついてきな」
その日の夜。どこからか男の悲鳴と女の怒声が聞こえた。それは同時にオラリオ都民からすればいつものことだと気にされないが、当人達はそうではない。【ゼウス・ファミリア】の本拠点に我が物顔で乗り込み、呼び出した老神を件の只人の詳細を問い質した。
「千年前にいたウラノスの眷族の子供にレベルが9~? 何寝ぼけたこと言っているんだ、嘘を言うならもっとマシな嘘を言いなクソボケジジイ!」
「本当なんじゃ信じてくれヘラ~!!?」
嘘だと決めつけられ、虚言を述べた老神に女神からお仕置きと称する体罰を与えられるその傍らでは、レベル9の力の証拠として冒険者同士がザルドの砕けた鎧と兜を証拠に話し合っていた。
「脇に抱えていたからといって、鎧に穴を空ける拳打でお前の顔を殴ることを許した冒険者は【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】、メレンにいる【ポセイドン・ファミリア】ぐらいしかできないだろ」
「お前に殴られた時のことを思い出すぐらいだぞ」
「ふぅん、面白い奴がオラリオに来たもんだね。で、そいつを【ファミリア】に加える魂胆だろがそいつはダメだ。私らが手に入れる。邪魔するなよ」
「【女帝】のお前がそこまでやる気を見せるとは、彼となにかあったのか?」
「そいつの癒しの魔法はアルフィア達の病を緩和するらしい。実際に魔法の効果だろう翼の上で寝たアルフィア自身がそう言っているんだ。なら、野放しにする理由もないだろ」
「あの翼にそんな効果もあるとはな・・・・・だが、いくら【ヘラ・ファミリア】でもお前達に指図されるつもりはない。早いもの勝ちといこう。当然、パルゥムの勇者と猪のガキ、生意気なガキの【ファミリア】も加わると思えよ」
「警戒する必要もない【ファミリア】が束になろうと【ヘラ・ファミリア】が獲る。明日の朝からスタートでいいな」
「ああ、構わないぞ。彼にしつこく迫って嫌われても泣くなよ」
「はっ、言ってろ!!」
ゾクリ・・・・・。
「うーん? 嫌な悪寒が・・・・・念のために寝場所を変えるか」