真紅の龍を模した全身型鎧を纏い、背中にリヴァイアサンの牙で創った大長剣(命名:覇海の王剣)で北西のメインストリートと西のメインストリートに挟まれた区画にあるホームから抜け出し、オラリオを探索する意味も兼ねて街中を歩く。多くの冒険者が足を運ぶ冒険者通り、メインストリートに歩けば様々な種族の冒険者の多くが闊歩して、冒険に必要な物資の調達や冷やかしをする姿が多い。俺もその一人として軒に並ぶ店を下見と物色していたら。
「おおー・・・ファンタジーの王道、武器屋だ!」
刀剣類、防具等の装備が店内に飾られたり棚の中に収まっていたり、販売されてる値段もお高いこと・・・・・誰が創ったもの何だろうか?
「素人の目でも分かるぐらい高い完成度だなー。魔法の武器とかあるかな、あったら興味あるんだが」
「手前的にはお主の方が奇妙奇天烈を通り越して興味が湧いたぞ」
客は俺以外いないので声からして女に話し掛けられたと認識して振り返る。
長い黒髪に褐色の肌。左目に眼帯を付け軽装用にアレンジした風に見える和装で身に包んだ女性が腰に手を当てて立っていた。
「この店の店主?」
「何だお主は何も知らずに入ったのか。ここは【ヘファイストス・ファミリア】の店の一つであるぞ。そして手前はその【ファミリア】の団長の椿・コルブランドだ」
「へぇ、ここが【ヘファイストス・ファミリア】の・・・・・俺は兵藤一誠だ」
「そうか、よろしくな。さて、本題に戻すがその鎧と武器を見させてくれぬか?」
「鎧は魔力で具現化したものだから参考にならないぞ。こっちならいい」
覇海の王剣を椿に手渡す。その瞬間・・・・・。
「―――主神様よっ! これは凄いものだぞ!! 主神様も見てみるがいい!!」
あろうことか、手に取ったら何かを感じ取ったようで右目が見開いて、弾かれるように叫びながら俺の剣を店の奥へと持っていって・・・・・待てぇー!?
書類に筆を走らせる隻眼紅髪の女性の耳に騒がしい声と足音が聞こえだした。何をやっているのだと作業を止めた矢先に先ほど執務室から出て行った筈の団長が、壊れそうな勢いで扉をけ開け放ち大長剣を持って荒々しく入って来て何事だと呆れ小言を吐こうとした彼女の目に真紅が映り込んだ。
「勝手に持っていくんじゃない!」
「ぐへっ!?」
団長になってから付き合いが長い眷族、椿・コルブランドが真後ろから現れた真紅の龍を模した奇妙な全身型鎧を着込んだ者に頭を掴まれて床に叩きつけられた。
「・・・・・」
ポカーンと目と口が開いたまま固まった女性は【ヘファイストス・ファミリア】の主神にして女神ヘファイストス。椿から大長剣を奪取して一息吐いたところで真紅の鎧が、一誠がヘファイストスの存在に気付き―――両者は互いを見つめ合ったまましばらく硬直した。
その後・・・・・。
「・・・・・椿が興奮するのも仕方がないぐらい納得しちゃうわね」
「であろう!」
「だからと言って、了承も得ず私の所に持ち込まないでよ」
曝しで巻いた豊かな双丘を見せびらかすよう自慢げに張る椿の横で一誠は腕を組んで静かに立っていた。結局ヘファイストスに自作の剣を見せることになり、評価を待っていた。
「モンスターの素材は分からないけれど、この金属はオリハルコンとミスリルね。けれど、これは異質な感じがするわ」
「異質?」
「なんて表現すればいいか難しいから言えないのだけれど、これは魔剣であって魔剣じゃないのは確かね」
魔剣?
「魔剣ってなに? 魔法の剣?」
「・・・・・本気で言っているの? 魔剣のことを知らないなんておかしいわよ」
「生憎、オラリオに来たのはつい最近でな。冒険者に関わる全てを知っているわけじゃないんだよ」
「嘘でしょ。この武器を何処かの国で作ってからオラリオに来たのならばまだ納得できる理由よ」
「んー、そうは言っても本当なんだが。事情を教えても信じてもらえないしな・・・・・」
困ったように頬を掻く仕草をする一誠。どんな事情があるのか問うても「信じられない話だから言えない」と一度は拒まれるヘファイストスだが。
「言いなさい」
有無を言わせない、ヘファイストスの圧を感じた一誠の口から溜息が吐いた。
「俺の名前は兵藤一誠。別の世界から来た元人間のドラゴンです」
「「は?」」
何言っているんだこいつ? と籠った疑惑の声を漏らす二人に鎧を解除、そしてその場で真紅の龍の姿に変身したことによってヘファイストスと椿が一誠から距離を取った。
「これで信じてくれたか」
「あ、あなたは何者なのよ・・・・・!?」
「言っただろ。別の世界から来た元人間のドラゴンだと」
「ドラゴンが人間に化けているのではないのか?」
「それも正しいな。でも、俺は小さい頃にドラゴンに転生する機会があってからずっと、人型のドラゴンとして生きていたんだが、訳も分からずこの世界に転移していたんだよ」
人の姿に戻りながら説明する一誠の話は信じられないが、人に化けるモンスターは今まで聞いたことも見たこともない二人からすれば未知の塊だ。恐る恐るとヘファイストスが警戒しながらも詳しく聞く。
「別の世界ってどんな世界なの?」
「一部以外、同姓同名の神々がいたり魔法と剣がある世界だよ。知識だけならヘファイストスのことも知っているよ」
「・・・信じられないわね。一体私の何を知っているというの」
「それこそ一部しか知られてないんだが・・・・・アフロディーテと恋愛関係のことを言えばいい?」
それは―――当神達や神々の間でしか知られていないはずの事実。どうしてそれを目の前のモンスターが知っているんだと左眼を細めるヘファイストス。
「俺の世界では神々の歴史が一部だけ書物として残っているんだよ。俺はその書物を見て知っているだけだ。どうやら、この世界のヘファイストスも同じだったみたいだな。でも、違いはあることに驚いたけど」
「お主の世界のヘファイストスと主神様と同違いがあるのだ?」
「性別。俺が知っているヘファイストスは男の神様なんだよ。まさか、こっちの世界のヘファイストスは女神だったのは凄く驚いた」
「「男ぉっ!?」」
「で、俺は男の方のヘファイストスのおじさんに一年間だけ鍛冶を教わったんだけど、久しぶりに打ったんだ。モンスターの素材はリヴァイアサンの牙を使って」
更なるカミングアウトに度肝を抜かされ、彼の海の覇王をある【ファミリア】が討伐したのだと察した。
「リヴァイアサンッ!!? 【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が討伐したのか!?」
「おかしいわね。そういうことならオラリオ中に知れ渡っている筈なのだけど」
「いや、俺が直接剥ぎ取った。まだ倒してないから生きてるぞ」
荒唐無稽、しかし、異世界のドラゴンである証明をされたばかりでもしかしたらという可能性が二人の頭の隅に過った。
「口では何とでも・・・・・」
「ほい(鱗、皮を出す)」
「・・・・・お主、レベルは?」
「9らしいぞ」
「どこの【ファミリア】なの。ゼウスかヘラ・・・・・じゃないわよね」
人間の皮を被ったモンスターを眷族にする神などいるはずが・・・・・と思ったところで快楽主義者の神々のたくさんの顔が過りわかりやすい言動を脳裏に浮かべたところで頭を降り払って考えるのを止めた。
「【ウラノス・ファミリア】だったよ。俺の両親が若い頃にウラノスのお爺ちゃんの眷族だったことがわかってな・・・・・いや本当だから嘘吐いてないって。なんなら背中の恩恵を見てギルドに確かめてもいいから。いま改宗状態だから」
「改宗状態・・・・・」
ウラノスの眷族だったといよいよ胡散臭い、虚言を口にするようになったかと厳しい目で見られることに慌てる一誠の提案の言葉に、何よりの確たる証拠である【神の恩恵】の公開を望む少年の言葉で少し思案してから確認することにした。
「そこまで言うなら確かめさせてもらうわよ」
「や、優しくしてね・・・・・?」
「何を言っているのよ」
「背中を見せるときはそう言えってロキが。違うのか?」
「ロキと交流していたのね・・・・・あなたの正体を知ってるのは?」
「ゼウスとヘラ、ロキとフレイヤ。四柱の一部の眷族及び幹部の冒険者。受け入れてくれている。ウラノスのお爺ちゃんは知らない。言いそびれたから」
意外でもない面々の名が出てこの少年を受け入れている状況なら、自分がとやかく言い、騒ぐ必要はないだろうと椿と共に一誠の背中に刻まれた【ステイタス】を見て・・・・・再び硬直したのは言うまでもない。
「本当にレベル9・・・・・それになによこのスキルとアビリティは」
「【魔導】に【神秘】、一時的にだが【鍛冶】のアビリティを発現できるスキルを持っているとは!? 羨ましいぞお主!」
何が羨ましいのか理解できない一誠と騒ぐ椿を視界に入れる紅眼紅髪の女神は思案顔で一誠の【ステイタス】の事実を受け入れながらも凝視し続けた。
「イッセイ」
「うん?」
「【ファミリア】に入るつもりはあるの。今のあなたならどこにだって入れるわよ」
「ハッ、モンスターが眷族になれるのかよ」
皮肉の言葉にヘファイストスは一誠の背中に手を触れる。
「確かに信じられない前代未聞のことでしょうけれど。こうして恩恵が刻まれているのだからあなたは数多の人類の一人として扱われていい筈よ」
「それぐらいならともかく、モンスターであることを承知の上で好意を抱く女はいないだろよ」
「あら、誰かと付き合いたいのかしら?」
「元の世界は一夫多妻制だからな。モンスターである俺を好きになってくれている女性は大勢いるが、この世界にはいないから寂しいだけだよ。元の世界に帰れる保証も手段もないからな。ハハハ、口にすると落ち込むぜこれは・・・・・はぁ」
わかりやすい落ち込みようにヘファイストスと椿は顔を見合わせ・・・・・。前から一誠が胡坐を掻いた足の上に臀部を乗せては両手両足を使ってしがみつく椿と、執務机の引き出しから取り出した携帯用の針で刺して人差し指から血を出すヘファイストス。
「え、なんでしがみついて・・・・・ん? ヘファイストス、背中に何してるんだ?」
「異世界から来たあなたは本当に何も知らないのね。私の眷族にするための改宗をしているのよ」
「は? はっ? はぁっ!? ナンデ!? 頼んでないけどっ!」
「勝手にしているのだから気にしないでいいわよ。もう終わったわ」
吃驚仰天の間抜けな顔を晒す一誠は開いた口が塞がらない。
「・・・・・ゑ? もう、ヘファイストスの眷族に?」
「そうよ。これからは私の眷族として生きなさい。人型のドラゴンだろうが、元人間のモンスターだろうが、あなたは私の子供として生きてもらうわよ。いいわね」
「・・・・・ゼウス達が騒ぐなぁこれ」
「早い者勝ちよ。ふふ、たまには誰かを出し抜くのもいいわね」
してやったりと微笑むヘファイストスに呆れ顔の一誠。その日の夜はいつものように食事を集りに来たゼウス達は、ヘファイストスがいることに不思議に思いながら挨拶を交わして共に夕餉の時間を過ごす雰囲気になった。が、衝撃の一言を告げられるとは思いもしなかったはずだ。
「この子を私の眷族にしたから手を出さないでちょうだいね」
「「はぁっ!?」」
「ファイたん流石にそれはズルいで! ウチが虎視眈々と狙っておったのにぃー!!」
「・・・・・」
案の定の反応をする神々の中、美女神がヘファイストスに怖い微笑みを向けていた。これから波乱の予感しか感じさせないでいる主神達から離れた眷族達も。
「そうか・・・お前がゼウスの眷族になってくれたら心強かったのだがな」
「いや、俺の意思がない改宗だったから・・・・・」
「つまり半ば強引の改宗をされたのか。だとしても残念なのは変わらないな」
「そうだね。僕達の【ファミリア】に入ってくれたならありがたかったけどね」
「・・・・・」
料理を作っている最中の一誠の状態を知り、各【ファミリア】の眷族達から残念がられて決まってしまったのであればしょうがないという雰囲気を醸し出している間に、神々の間でひと悶着が発生していた。
「後生や! 次の改宗までの一年後にイッセイを元に戻してぇな! というかうちがイッセイが欲しいぃっ!」
「そうね。こんな形で彼を奪われるのは認められないわ」
「儂もロキとフレイヤの意見に同じじゃ」
「あの子供が武具なんか作るのに費やす時間が勿体ないわっ!」
「ヘラ、今の言葉は絶対に忘れない意味も兼ねて【ヘラ・ファミリア】を出禁にするわ。とにかく、あの子供は・・・・・」
互い一歩も譲らない言い合いをしている主神達を余所に、夕食の支度をしてる一誠とザルド。二人を手伝うフィン達。
「今度はどんな飯を作るつもりだ」
「極東があるらしいから、極東にもあるかもしれない蕎麦だ」
「ぬっ? イッセイは蕎麦を作れるのか。故郷の料理を食べられるとは嬉しい!」
風味が強い三番粉を使った蕎麦を作る。だが、訂正させてもらう。
「普通の蕎麦じゃないからな。蕎麦を焼くんだ」
「蕎麦を・・・焼く?」
汁に浸した状態、また付けて食べるのが蕎麦だと思っているその想像を破壊するつもりで、そして絶対にお代わりを要求するだろうからたくさん作らないといけない・・・・・。
「軽く十人前は作っておくか」
「そうだな」
「遠慮なんて配慮、手加減も知らないやつがいるからなー」
魔法で一誠自身を分裂させて分身体を増やして調理を開始する。摩訶不思議な光景を見せつけられフィン達は幽霊でも見たような目をした。
「イッセイ・・・・・それも異世界の魔法なのかい?」
「魔法? あー、そうか見せるのはこれで始めてか。そうだぞ、人手が欲しいときはこうして俺自身を増やしているんだ」
「戦うこともできるぞ」
「単独で行動して探索することもできるぞ」
分身体達がそれぞれ独自に語るのでフィンは神妙な顔で何とも言えない気分にさせられている。異世界の魔法はこんなこともできるのかと。
「・・・・・イッセイに兄弟がいるような錯覚を覚えるな。そいつらの強さはどのぐらいなのだ?」
「神器が使えないだけの俺だから、レベル9の強さだと思ってくれ」
「レベル9の分身体じゃと・・・・・」
「おいおい・・・・・確かめてそれが事実でいくらでも増やせるなら世界最強じゃないか」
「ンー、ますます君を手に入れられなかった残念感が湧いてきた。これはロキに頑張ってもらうしかなさそうだね」
未だに言い合いをしている様子で「お前の【ファミリア】―――」「ふざけないでっ」「認めなさい―――」「諦め―――」「下界、人類のため―――」と聞こえてくる何やら物騒な会話が飛び交っていた。
「あそこまで言い合いに発展するほどのことか? 一緒に冒険や攻略、モンスターの討伐はするつもりあるんだけど」
「他派閥に借りを作るのは避けたいのさ。何を要求されるか分かったものでは無いからな」
「強い冒険者が【ファミリア】にいると、それだけで【ファミリア】の格も上がるんじゃ」
「【ファミリア】の格?」
「その【ファミリア】の総人数と実力を評価する等級のことだ。ギルドの基準で勝手に決められるが、俺達にとってはどうでもいい肩書だがな」
因みに当然ながらゼウスとヘラの【ファミリア】は『Sランク』。【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は『Bランク』。【ヘファイストス・ファミリア】は【Dランク】。
「イッセイの世界には等級がある戦闘や探索系の何かはないのか」
「あるにはあるけど、関りすらないと無縁な試合があるな」
「それはどのような試合なのだ?」
「それはだな―――」
悪魔のレーティングゲームの詳細を教えながら蕎麦を創り上げていく。完成した頃には大いに不満と怒り、恨みが入り混じった顔のヘファイストスが大股で一誠の家から出て行ってしまった。
「おい、俺一人なんかのためにあんな風に怒るまでヘファイストスを追い詰めるなよ」
「だってぇ~・・・・・ううう、ファイたんにうちらの【ファミリア】への武具の販売・提供を全面的に拒絶されてもうたぁ~」
「「「何やっているんだ」」」
フレイヤは気にしていない様子だが、他三柱の主神に眷族が総ツッコミを入れる大変さを引き換えに話が付いたらしい。
「イッセイ、一年後になったら次は儂等の誰かの【ファミリア】に改宗する事になったわぃ。そしてまた一年後、別の【ファミリア】に改宗することもな」
「・・・・・毎年一年ごとに俺は盥回しされる形で他の【ファミリア】入らないといけないのか? クソメンドクセー。完全に俺の意思がないのもヒデー扱いだわ。モンスターだから【ファミリア】の主神と眷族達に散々扱き使わされて一年ごとにゴミの如くポイ捨てされる可哀想な俺・・・・・!」
「言い方ァッ!!」
「儂等はそんなことしないが・・・・・」
「お前達がそうでなくても結果がそうなるんだよ! だったらゼウスとヘラの【ファミリア】から冒険者を派遣したらどうなんだ」
「「それは反対する」」
「「こっちも断る」」
主神達が揃って否と首を横に振ると、眷族達も神妙な反応を示した。
「俺達がロキかフレイヤの【ファミリア】にか。血を流すに堪えない日々を送るだろうな。主に猪達側が、だ」
「生娘のババアと毎日顔合わせる時間が億劫だな」
「ハハハ・・・・・」
「・・・・・」
眷族も眷族で諍いが起きる高い可能性を秘めていて、一誠の考えを誰も賛同しなかった。ザルドが言うように血を流すに堪えない日々を送ることが頭で想像するより既に現実で起きている故にだ。