【ヘファイストス・ファミリア】の眷族となってからも変わらない日常を過ごせているつもりだが、やたらとヘファイストスが俺を側に置いて執務室にある隠し部屋もとい工房で鍛冶をさせる。そうする建前は鍛冶のイロハを教えるということだが、椿からすれば「神ロキ達への細やかな意趣返し、反抗にしては児戯であるな主神様よ」「黙りなさい椿・・・・・」
ということらしい。要するにロキ達の恫喝や脅迫に心底プンプスカなヘファイストス自身は、ロキ達と極力会いたくも俺を会わせたくないからだと言外で指摘する椿に俺も納得した。
「これ、いつまで続く?」
「さぁな。主神様の心次第よ。にしてもお主に魔剣の打ち方を伝授しておるのに、何故どれも妙な魔剣を完成させるのだ」
半日で完成した一振りの魔剣を手にする椿。製作者の俺からして何が妙なのかわからない。間違ってはいないが、何かおかしいらしい。
「お主の魔剣の認識と手前の、この世界の魔剣の認識が食い違っているどころか根本的に異なっているようだ。・・・・・壊れぬ魔剣など呪われる前の『クロッゾの魔剣』と同じではないか」
「『クロッゾの魔剣』?」
「ラキア王国という国におる鍛冶師の一族がおる。その一族がクロッゾでそいつらが産み出す魔剣は大地を穿ち森を灰塵と化し、戦争の度に負け無しで勝ち続けたラキアはエルフが住まう森まで焼き払い、クロッゾとクロッゾの魔剣はエルフに心底忌避と嫌悪感を抱いておる」
「エルフに呪われたってことか?」
「さてな。エルフだけでなく精霊にも恨まれたのであろうさ。故に戦争の最中に当時の魔剣が全て砕けて惨敗したラキアや、それ以降クロッゾの一族は魔剣を打てなくなってから戦争をしなくなったらしいがな。まぁ、クロッゾの魔剣以外の魔剣は手前ら鍛冶師も打っているが、回数制限付きの上に本家の魔剣より威力は低い」
だというのに、と椿は手の中の魔剣に視線を落とす。
「お主の魔剣は壊れぬしクロッゾの魔剣に迫る威力がある。おまけに本来の武器としても振るえる優れものであるぞ。異世界が違うからこのような武器が作れるのか?」
「そんなの、その内クロッゾの人も同じ魔剣を打てると思うぞ」
「そのような者がオラリオに来ると? であれば手前が可愛がってやろう」
底意地の悪い笑みを作る椿を、未来で現れるだろう鍛冶師に同情する・・・・・。
「で、いま何を作っておるのだ?」
複数の俺の分身体と一緒に鎚を鋭く打つ所によって強弱に打ち下ろす俺達が囲っているのは、一見して大盾に見えるだろうが椿はただの盾ではないことを察しているようだ。まさしくその通りなんだがな。
「大盾と斧を一つにした魔剣」
「・・・・・イッセイの発想には脱帽だ」
椿side
イッセイの武器の試し斬りもとい、評価をつけるために完成した盾斧を借りてダンジョンに足を向けた手前だったが、バベルの中で見慣れた三人組に声を掛けられた。
「久しぶりだね椿」
「おう、お主らか。相変わらず仲良く揃ってこれからダンジョンであるか。精が出るな」
「儂等の稼ぎの一部はロキの酒代として消えてしまうがの。最近は今日もイッセイの酒のつまみもとい料理が食えないとボヤいて、いつものことじゃが酒ばかり飲んでおるわぃ」
「そう口にするなガレス。私達の探索とモンスターの戦いの理由がロキの酒代の為ではない。気が滅入るだろうが」
うーむ、主神様の細やかな意趣返しが成功しておるようだな。これで少しぐらい溜飲が下がってくれるとよいのだが。話ながら1階層の続く階段を下りていく。
「椿、武器を持たずにダンジョンでなにをするつもりなんだい」
「持ってきておるぞ。このバックパックの中に仕舞っておる」
「わざわざその中にいれる必要あるのか?」
「イッセイに貸してもらったのだ。しばらくダンジョンの中に籠るならって。これはあやつが作った道具でな、容量も重さも関係なくこのバックパックの見た目より遥かに入れられる優れた道具であるのだ。手前も吃驚したぞ」
あの盾と斧が一つになった魔剣が大蛇の口のごとく獲物が飲み込まれるように入れるところを見せられて何も思わずにはいられぬわ。
「それは事実なのか?」
「手前は嘘を言わぬぞ。何なら見せてやろうか」
1階層に着いた手前らは人気がない通路へ移動し、落ち着ける場所で三人の視線を感じながらバックパックからイッセイの盾斧を取り出した。フィン達は思っていたより大きい魔剣に目を丸くしおったわ。
「その盾が、その中に?」
「凄いであろう。ほれ、このようにまた丸々と入れられるぞ」
「・・・・・魔道具であったか。それならば納得できるが、本当に重さは関係ないのか」
リヴェリアの疑問を解消してやるつもりで盾斧を入れたままバックパックを渡す。華奢な片腕だけで軽々と持ち上げるリヴェリアは、フィンにも持たせ、ガレスにも渡す。
「信じられんわぃ・・・・・あの見た目でも重量感がある盾の重さがちっとも感じない」
「凄いであろう。それだけでなくこのバックパックに入れた食糧は、長時間経っても腐敗せんとありがたい魔法も付与されておる。よって数か月分の食糧と飲み水を入れても腐らんし、それだけ長くダンジョンの中を探索できるうえに魔石やモンスターのドロップアイテムも滅多に溢れない優れ物だと教えてくれたぞ」
自分のことのように自慢する。手前が作ったわけではないが、このバックパックのような物は全ての冒険者に限らず無所属の者達にとって垂涎の的だ。
「イッセイの異世界の道具は、便利な物が当たり前のように使える世界なのか」
「ンー、あまりの魔道具の便利さに欲しくなった。椿、それと同じバックパックを作って貰えないかイッセイに依頼できないかい? 大きさはそれと同じもので」
「伝えるが【ロキ・ファミリア】が借金する額になるかもしれんぞ?」
「その倍の額を一度の遠征で賄える可能性が秘めている魔道具だ。ロキにも協力してもらって酒代を減らしてもらうさ」
「ああ、それがいい」
「顔を青褪めて悲鳴を上げそうじゃがな」
バックパックの証明した話の流れで手前はフィン達と下層まで行くことになった。その道中、牛の怪物ミノタウロスと遭遇してイッセイの武器を試す相手に丁度良いと判断し、一戦交えさせてもらう。
「さっきも見たけど、随分と大きい盾だね」
「うむ、イッセイの突拍子な発想から生まれた盾であり斧であるぞ。しかも魔剣でもある」
「・・・・・斧? しかも斧の魔剣ならともかく、盾の役割も担っている魔剣だと?」
「随分とデカい大盾じゃな。それが魔剣とは、デカければ魔法の威力が増すわけではなかろうに」
ところがどっこい。イッセイの魔剣は全て壊れぬ耐久力まで備わっておるのだ。それを知らぬこやつらが知ったら、是が非でも欲しがるだろうな。主神様によって【ロキ・ファミリア】には販売と提供か禁じられておるが、改宗したらその規制も解除されるであろう。
「椿、その魔剣の威力を見せてもらうよ」
「構わんぞ。手前もこれを試しにダンジョンでやろうとしておったからな」
『ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
ダンジョンから得られる天然武器庫から拝借しただろう石斧を振りかざすミノタウロスに大盾を突き出す構えを取る。ミノタウロスは盾などお構いなしに石斧を全力で打ち下ろした瞬間―――盾から雷が迸り怪物の全身を襲った。聞かされるはずの悲鳴と激痛が混濁した獣の絶叫は雷鳴によって掻き消され、黒焦げになって動きが鈍ったミノタウロスに情けを掛けるつもりはなく、掴んでいた柄を回転させると飛び出したもう一本の太い柄を両手でつかみ盾から斧として持ち上げた状態から勢いよく打ち落とした。
「せいっ!!」
雷轟―――! その名が頭の中で過るほどこの武器は強力過ぎた。雷鳴と稲光がミノタウロスだけでなくダンジョンの岩壁や地面を激しく震わせ照らしつつ、一匹のモンスターを完全消滅させる雷の龍を彷彿させる雷の魔力が爆ぜたのだ。無論、ダンジョンに多大な破壊力も齎しておった。
「「「・・・・・」」」
「イッセイめ、とんでもない武器を作りおって・・・・・っ」
天井や壁が瓦礫と化して崩壊、ミノタウロスがいた場も含めて至る所でバチチッと雷の残滓という名残が置き土産として発している。作った本人も試し斬りとして借りた手前も。これほどまで凄まじい威力を誇る認識はしていなかった。これは、階層主にも通ずる威力であるぞイッセイ。
「【ヘファイストス・ファミリア】製の武具の販売と提供の禁止・・・・・解消できないかな。イッセイに槍を作ってもらいたくなった」
「今は無理だろう。次の改宗で【ヘファイストス・ファミリア】から脱退した後ならば可能の筈だ」
「【ファミリア】の財政、借金苦になるが儂も一振り欲しい」
手前は帰ったらイッセイに愚痴らねばならぬな! 一歩間違えれば使い手にも巻き込む魔剣を作るな! と。だがしかし、この盾斧の活躍が止まらなぬ事は確かであろうよ。実際、下層で最速の燕のモンスター『イグアス』相手に猛威を振るったほどだ。振るえば槍のように飛翔する稲妻となって全てのイグアスを貫き雷の餌食となって一掃し、盾として使えば持ち前の防御力と迸る雷がイグアスを圧倒する。
「はっはっは・・・・・この魔剣だけで手前の階層到達数を更新してしまったわ」
「通常の魔剣ならとっくに壊れているはずだ。どうなっているその魔剣」
「わからん。魔剣の製法を伝授しても手前らと妙に違う魔剣を作ってしまうのだ。恐らくイッセイのスキルにも関わっておるのやもしれん」
「あの小僧は何でもかんでも規格外ということか」
「ロキが神ヘファイストスとの友情に罅を入れてしまうほど、手に入れたかったレベル9の冒険者の相応の力を秘めているのは確かだってことだね」
おまけに人間ではなくドラゴンであることもフィン達は知っておるかな? 轟々と膨大な水量が滝として流れ落ちる様を見届けながら、水の迷都に現れるとある巨大モンスターと戦う場になる足場に寄ってみた。
「さてさて、『アンフィス・バエナ』が出て来てくれるとこの魔剣の威力を十全に確かめられるが・・・・・」
「僕達だけでアタックするのは命を捨てる無謀な行為だから勘弁してくれ」
フィンが苦笑いし、ガレスやリヴェリアを見ればも手前の考えに賛同できないと首を横に振った。むぅ、イッセイと二人であったらやらせてくれそうなのに残念だ。仕方ない。近い内にイッセイを誘ってもう一度ここに来るとするか。