神会ことデナトゥス。白亜の巨塔『バベル』三十階の大広間で暇を持て余しているもとい、雑談や真面目な話も交えながら【ランクアップ】を果たした神の眷族の二つ名を与える、更新をする『命名式』も発表する神々が多く集まっている。千年前から君臨している男神と女神も当然のように参席しており、ロキとフレイヤにヘファイストスも交っていた。
「では、最後に命名式を始めるぞぃ」
ゼウスの発表に多くの神々が目の色を変える。卓上に配られるギルド作成の資料を引っ掴み、神々はぱらぱらと素早くめくり始めた。命名式に移行すると次々に神々がオラリオ出身、都市外から来て冒険者になって傷付きながら血と汗を流し、長い時間と多大な苦労を費やしてついに【ランクアップ】を果たした初々しい冒険者に対して―――ゲラゲラと大ふざけで哄笑、イタい二つ名を与えられ阿鼻叫喚な神々の混沌が極まった。
そして最後の頁になると神会は異様な雰囲気になった。
「は? 誰この子供。レベルが9なんてヘラの子供以外いないだろ」
「しかもヘファイストスの眷族~? ヘファイストス~いくらなんでもこれはやりすぎじゃなーい?」
「盛りまくるにも限度があるよな~?」
「おいおい、神会でこんなシラケたことしないでくれよ」
一部の男神と女神以外の神々からヘイトを集めることになったヘファイストスであったが、そんな彼等彼女等の神々にヘラの一喝で静まり返った。
「黙りなっ!!」
「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」
【ヘラ・ファミリア】に逆らえば【ファミリア】自体が焼け野原、時には天界への神の送還までされた【ファミリア】の数は少なくなく、完全に確固たる上下関係が築かれていることから、男神はともかく女神に逆らう神は存在しない。
「ヘファイストスの眷族については間違いなくレベル9の冒険者じゃ。儂とヘラも認知しておる」
「だけど、ゼウスとヘラ様の【ファミリア】から改宗した子供じゃないのか?」
「まだ駆け出しの頃ならともかく、レベル9の子供を手放すと思うのかい。私らを馬鹿にするんじゃないよ。この子供は出生自体が特殊なんだよ」
「というと?」
「本人からと教えてよいと承諾を得ておるから教えるから言うぞ。まずこのイッセイは別の世界から来た異世界人である」
「「「「「「「「「「異世界!?」」」」」」」」」」
「しかも、親は元【ウラノス・ファミリア】の眷族だった。それは千年も前の事になるがな」
「「「「ウラノスの眷族ぅ~!?」」」」
「しかも千年前ってさすがにそれは信じられないって! エルフでもそこまで長生きできないぞ!」
「この世界と異世界の時間の流れが都合よく違っておるなら、千年前から生きている理由の辻褄は合うじゃろ」
「「「た、確かに・・・・・!」」」
「しかもな、一部以外の同性同名の神々が存在しておるようでな。儂等自身しか知らぬことを言い当ておる」
ほぼ全員がマジかって顔を浮かべ、内心は新たな玩具もとい未知の刺激に大変興味を抱きそわそわしだす神も増えた。
「今はヘファイストスの子供に改宗しておるが、イッセイに迷惑だけは掛けることを止めてほしい。イッセイの強さはこの世界の子供達の強さと異なっておる。実際ヘラの【女帝】がイッセイと戦い負けおったからの」
「余計なことを言うんじゃないよ!」
ヘラの激怒は【女帝】の敗北の事実を証明しているようなものでロキとフレイヤも一誠の強さに驚嘆の感情を顔に浮かべた。
「てなわけで、イッセイの二つ名を決めるが、良い名前はないかお主ら」
ゼウスの発言に一誠と交流ある神々が真っ先に発表した。
「【道化の玩具】と呼んでロイザラスや!」
「【美神の伴侶】ヴァナディース・オーズがいいわね」
「イッセイ自身が考えた【正体不明】アンノウンでお願いできる? ゼウスとヘラ」
「儂的には【異世界人】か【帝王】がお勧めじゃぞ」
「なに言っているんだい。【女主人の大黒柱】か【皇帝】が良いに決まっている!」
自分の眷族でもないのにあたかも自分に相応しい眷族の二つ名を言い出す四柱にヘファイストスは、心中で一誠に(ごめんなさい)と謝罪した。オラリオで腰を休めてから月日は長いもの、やはり男神と女神のようにヘファイストスより上の【ファミリア】の方が発言力が高く、一誠の希望した二つ名ではない二つ名が決まってしまった。
「【異世界人】か・・・・・それも悪くはない」
「本当? これからずっとあなたのこと【異世界人】って呼ばれるようになるわよ?」
「ロキの玩具みたいな二つ名や、フレイヤの伴侶扱いだけはされたくなかったからまだマシだ」
と、断言するのでヘファイストスも気持ちは分からなくもないと納得する意味で首肯した。
「あなたがそう言うなら何も言わないわ。でも、異世界の事とあなたのことを知った神々がちょっかいをかけてくると思うわよ」
「話し合いなら応じるさ。それ以上のことなら殴るが」
「お手柔らかにしなさいよ」
釘を差しても効果あるかわからないが主神として言っておかなければならない。燃え盛る炉の前で赤熱している鉄に鎚を何度も打ち下ろす度に飛び散る火花と共に不純物が取り除かれる光景を繰り広げる一誠の作業の様子を見守る紅眼紅髪の女神。程なくして一振りの鉄製のナイフが完成したそれは・・・・・。
「あっ」
「なに?」
「武器に【ステイタス】が付与しちゃった」
「・・・・・は?」
鉄製のナイフ【力:I2】
ヘファイストスの耳を疑わせる結果に「あり得ない」の一言に尽きるが、武器を持った状態とそうでない状態で一誠の【ステイタス】を確認すると(力I2)の表示が何度も消失しては増加する【ステイタス】に立ち眩みに似た感覚に襲われた。
「イッセイ、あなたとんでもない武器を作るんじゃないわよっ」
「加減が難しい・・・・・」
「なんだ? またイッセイがおかしな武器を作ったのか主神様よ」
執務室に訪れ隠し工房に顔を出した椿。彼女にも【ステイタス】が付与された武器のことを教えると驚嘆と感嘆の息を吐いた。
「凄いではないか。手前でもそのような武器は作れんぞ。それもまた極致の1つであるぞ。なぁ主神様よ」
「感心してる場合じゃないわよ椿。こんなこと他の冒険者や神々にバレたら、こぞって出来もしないあなた達にまで押し寄せるのよ?」
「では、出来るようになればよい話ではないか。イッセイ、どうやって【ステイタス】を付与できたのだ。コツを教えてくれ」
「【神秘】のアビリティが必要だと思うぞ」
その一言で女神と団長はそれぞれ違う思惑で溜め息を吐く。
「イッセイしか作れないものではないか」
「オラリオに【神秘】と【鍛治】のアビリティを持つ冒険者自体いないもの。【神秘】自体も発現することは滅多にないからなおさらだわ」
「で、この見た目はどこにでもあるナイフは売れる?」
ナイフを見せびらかして本題に戻す一誠の指摘に、悩みに悩んで了承したヘファイストスだった。
「前代未聞の武器だけど、この程度なら・・・・・まぁ、許しましょう。私でさえ確認しないとただのナイフにしか見えないのだから、他の神々だって見抜けるはずがないわ。ただしアビリティが100も超えるような武具を作っても許可なく販売は許さないわよ。限定的な状況以外、誰かに貸すことも譲ることもよ」
つまりそれ以下なら許すと主神の許可を得たことで一誠はその後もさらなる武具を作っては・・・・・。
「ヘファイストスー、武器に魔法まで付与できちゃった。詠唱したら魔法が放てる方の、これがこの世界でいう魔剣?」
「正座しなさい」
「本当にイッセイは規格外な鍛冶師よな。手前も負けていられぬではないか」
鍛冶師界に革命を起こすことをしてしまっては、本来ならば誰にも知れ渡るはずのない一誠の鍛冶師の腕が、ぽろっと外部に漏れてしまった。
「ファイたん、ホンマに後生や、イッセイの武具を売ってほしいやけど。なんや武具に【ステイタス】や魔法を付与できたらしいんやって?」
「・・・・・イッセイ、あなた」
「いやいや、俺じゃないぞ。ここでしか作ってない上、ヘファイストスに保管してもらってるのに外部に漏れるわけが・・・・・」
「すまん。ガレスに自慢してしまった」
店に訪れてきたロキ達の懇願に元凶が身内だと発覚。主神が深い溜め息を溢し、一誠はハリセンで椿の頭を強く ズバンッ!! と打ち叩いた。
「あの時の話の流れで身内だけの秘密にする感じだったろ!! 察しろこのバカ団長!! 隠し事が言えないようにもう一個の目をくり抜いたろうか!?」
「イッセイの言うとおりよ椿・・・・・まったくもう」
ヘファイストスも内密にするつもりだったが、椿によって露呈してしまった一誠の武具作成にロキ達は再度懇願した。
「ファイた~ん、頼む、この通り!」
「・・・・・ゼウスとヘラと一緒に脅してきた女神に売る武具も貸す武具もないわよ」
「うっ・・・・・」
「そんなに欲しがるなら駆け出しの冒険者用の武具ならバベルの塔内の支店に混ぜて売るつもりだから、あなたの眷族の目で探し当てて買いなさい」
上級冒険者が使うにはお粗末な武具。そのような物を装備させてダンジョンに攻略させるわけにはいかないロキは、しつこく上級冒険者用の武器の作成依頼をヘファイストスに懇願する他所に。
「ちょうど来てくれたな。ほれ、椿から聞いたけどこのぐらいの大きさでいいか?」
「うむ、儂が背負う大きさであっておる。これも魔道具とは見た目で判断すると信じられぬな」
「ならばご覧あれ。ほーら、この通りバックパックより大きい大盾が出てきましたー」
「わかりやすい実証だ。間違いなく椿が持っていたバックパックと同じ魔道具だね」
「感謝するイッセイ。バックパックを出したそのカードも魔道具なのだろうがな」
武具ではないなら販売を許された道具、フィン達にバックパックと代金の一部の受け渡しをしていて、自分達の主神の言い合いにそっちのけだった。
「でも、ガレスが椿から聞いたような武具も欲しいのは事実だよ」
「それに関してはヘファイストスの許可を得ないと駆け出しの冒険者の武具以外、作っても表に出せないんだ」
「むぅ、ロキのミスでこうも融通が利かんことになろうとは・・・・・」
二人の女神の言い合いは未だに続いて、眷族達はどうしたものかと唸ったところで・・・・・一誠の頭の上に閃いたと「!」を浮かべた。
「別の意味で俺が創造した魔剣ならいいよな」
「「「「「・・・・・」」」」」
何が、と言いたげなフィン達に口論をピタリと止めたヘファイストスとロキまで一誠に振り返る。
「イッセイ、それはどういう意味なのかしら?」
「異世界の力で異世界の魔剣を創造るだけだ。この世界の武器じゃなきゃヘファイストスも文句はないだろ?」
「・・・・・どうやって作るのかやって見せなさい」
ヘファイストスも気になった事実として一誠に促すが、場所を変える必要があると言って、一同を北西と西の区画の間だにある廃墟のメインストリートに訪れ。
「魔剣創造!」
剣を地面に突き立てながら発する一誠が、地面から数多の刀剣類の武器が顔を出してヘファイストス達の度肝を抜かしてみせた。
「な、なんやこれぇぇぇぇぇ・・・・・」
「地面から武器が生えた・・・・・」
「こんなことも出来るのか異世界では・・・・・」
「こりゃあ、冒険者も串刺しに出来るわぃ」
「「・・・・・」」
目を見開く一同の目の前で槍と斧を雑草のように地面から抜き取り、フィンとガレスに渡す。
「こんな感じでなら提供できるぞ。武器としての強度は絶対に期待しないでくれ。耐久は脆弱だが特殊な能力が宿っている魔剣の劣化版だと思ってほしい」
「ンー・・・・・今使っている槍よりは(ボッ!)おっと、炎の槍なんだね」
「この斧、振ったら斬撃が飛ぶぞ。なんという異世界の魔剣なんじゃ。他にもどんな魔剣があるのか見てもよいか?」
構わないと選び始めるガレスに便乗して椿も魔剣に触れ出す。大変興味津々で、鍛冶師が作ったわけでもないのにどうやってと目が好奇心の光で煌めいている。
「イッセイ、あなたの力って一体何なの?」
「異世界の神が産み出した神器って摩訶不思議な能力だ。それは人間か人間の血を流す異種族のみしか宿らなくて多種多様にあるんだ神器は。魔剣創造はその一つだ。複製したものだがな」
「それって恩恵なの?」
「あながち間違ってないぞ。でも、その恩恵が時に神器を保有する人間を苦しめてしまうんだ。特殊な力が目覚めたら人々から化け物扱いされるか、恐怖の対象として忌避されて悲惨な人生を送ることだって珍しくはないんだよ」
意外な事実の話をする一誠に耳を傾けるヘファイストス達は、一誠もそうだったのかと思わず聞いてしまった。
「イッセイ、自分もその口やったんか?」
「いや? まだ人間だった頃に実力主義の一族の生まれで育ってこの中で一番弱小だった俺に、実の兄まで弱いもの虐めしたてきたり、死ぬ一歩手前の仮死状態になるほど殺されかけたぐらいだから悲惨な人生は送ってないぞ」
「さらっととんでもないことを言わないくれへん!? 凄く聞いて悪い人生を過ごしているやん自分も!」
素っ頓狂に驚くロキにフィン達も圧倒された。嘘か誠か分からないが、事実なら本当に聞いていい話の内容ではない。虐めを受けていたように見えないために耳を疑ってしまう。
「・・・・・大変と片付けていいことではないが、よく今のお前がいるな」
「少しだけお主と言う男を知れた気がしたわぃ」
「ンー、異世界でもそういうことがあるんだね・・・・・」
同乗は禁じ得ないが、三人は同情をしない。人間からモンスターに転生した理由がそこにあるのかもしれないしそうでもないかもしれないもの、今の一誠は昔の虐めの件をまったく気にした様子が微塵も感じさせないほどあっけらかんと言っているから。
「イッセイ、その右目も虐めが原因で?」
「これは別件だ。世に放ったら異世界のドラゴンを全て滅ぼす神の恨みと呪いを一身に受けたサマエルって奴の血の毒を食らったんだ。で、その後に移植したんだ。ドラゴンの目をな」
右目の眼帯を外し、濡れ羽色の瞳を解放して一誠の左眼の金眼と違うオッドアイが晒される。
「ドラゴンのあなたがドラゴンの目を移植する理由あるの?」
「移植と言っているが、実質は俺が意識を失っている間に押し込められたんだよ。抜き取った自分の目をぽっかり空いた俺の右目の眼窩にさ。そんでそのドラゴンの目とこの目が視覚・視界を共有しちゃう困ったことになったから、普段は眼帯で閉ざして隠す生活をしていたんだ」
「ふむ? 今もその謎のドラゴンと視覚を共有できているのか?」
首を横に振って椿の問いを否定する。それは、この世界に来てすぐに試してあっさり一誠を無情に叩きつけた結果である。
「できていないが、それでも眼帯を付けるのが当たり前になっちゃってな。まぁ、それはもうどうでもいい事なんだが。ヘファイストス、こういう武器なら提供してもいいだろ?」
本題に戻す一誠の言葉にヘファイストスへ視線が集まる。
「・・・・・」
しばらくの沈黙、逡巡を経て仕方ないと言わんばかりの息が女神の口から零れた。
「異世界の武器なら、まぁいいわ。見た感じ私が想像していたのより『マシ』だから」
「了解。ということで試しに使ってみてくれ。ダメだったらそれ以上使わなくていい」
「わかった」
一回の買い物で【ファミリア】が借金返済の日々を送ることになったフィン達。それでも長い目で見れば購入する価値がある魔道具のバックアップ。話は済んだ【ロキ・ファミリア】はヘファイストス達と別れるも眷族はこれからダンジョンへ足を運ぶだろう。