破滅を宿した寂しがり屋 外伝~魔法少女と神器使い~ 作:紫蒼慧悟
フェニックスを酷い目に合わせてレーティングゲームを終わらせようとしたのに
こっちが…
アレ?また並行しちまった。
よし、こっちはそんなに人気はないはずだからスランプになった時に更新しよう。
「くっそ…残ったのは俺だけかよ…」
ボロボロの衣服を纏った白髪の青年がこれまたボロボロで今にも崩れ落ちそうな通路を歩いている。
青年の手には金色の髪の幼子が自身の身で庇う様に抱かれている。
青年の躰は既にズタボロというような風体でいたるところから血が滲み出している。
通路の先は大きめの広場になっており壁には一切窓がなく、中央には数人の人影がある。
更に広場中央の空間には穴が空いていた。
「来たか…」
青年の来訪に一人が気づき、次第にそれは広場にいる全員に伝播する。
「しつこいようだが最後にもう一度聞くぞ…
本当にいいんだな?」
青年の問いに広場にいる全員が迷いなく頷いた。
それに対し、青年は苦笑するだけに留めた。
「神器は既に…?」
「ああ。既に宿してある。
まあ、俺のだけは無理みたいだがな…」
青年の傍に来て幼子の顔を愛しそうに覗き込む紅髪の女性からの問いに青年は簡潔に答える。
青年の問いに数人の人影が苦笑する。
紅髪の女性が空間に開いた穴を見つめ、青年もソレを見つめる。否、睨みつける。
穴の向こうは見えず不可思議な空間に繋がっている。
「行けるんだな…」
「ええ。お兄様達が既に準備を整えてくれていた御陰で特に問題なく繫ぐことが出来たわ。
けど…一方通行なのよ…」
「それでいい。俺ももう長くはもたん…」
青年の歩いてきた道には赤い足跡が出来ていた。
「………そう…」
紅髪の女性は目を伏せて短く息を吐く。
青年は幼子と共に穴の中へ入る。
最後に聞こえたのは、広場にいた皆の「また会おう」という言葉だった。
穴の先は暗闇の中にある森だった。
風が吹き、青年の肌を冷やす。
「森か…」
空を見上げると月明かりが差込み、今が夜ということがわかる。
「ぐっ!?くっそ、無茶しすぎたか…」
青年はその場に倒れ込みそうになるのを堪え、近くにある巨木を背に座り込む。
「誰かいるのか?」
青年の意識が朦朧とし始めた時、近くから声が聞こえた。
聞きなれた言葉。
ここが自身の生まれた国ということがわかった。
木々を掻き分けるように一人の男と少年が見えた。
青年は動くことが出来ずに、黙ってその方向を見つめていた。
「おい、大丈夫か!?」
男は青年を見るなり血相を変えて青年に近づく。
「……俺はもう無理だ…だが、こいつだけは…」
「おい!諦めるんじゃない!!今すぐ救急車を…「待て…」!?」
男の言葉に青年は血まみれの手で止める。
「こいつを頼む。」
「………」
青年の言葉に男は何も言えずにいた。
「頼む。」
二度目の青年の言葉。
青年の目はとてつもない覚悟を決めた目だった。
「僕は高町士郎。君の名前を教えてくれ。」
「教えたら引き取ってくれるのか?」
「少なくとも名前も知らない人の子を預かるほどお人好しじゃなくてね…」
「ははっ!
夕牙。神下夕牙だ。」
「よろしく、夕牙君」
「後数分でサヨナラだっつーの…」
男、士郎の言葉に笑い声を漏らした青年、夕牙は改めて手の中で幸せそうに眠っている幼子を士郎へと託す。
士郎は幼子を受け取り、夕牙と視線を重ねる。
「この子の名前は?」
「夕夜」
「アレルギーとかは?」
「ない」
「苗字は?」
「お前のほうにしてやってくれ」
「いいのかい?」
「俺はいい父親じゃなかったからな」
「そんなことはないと思うが…」
「それと、そいつは俺と同じで普通じゃないから覚悟しておけ」
「え?それは一体どういう意味だい?」
「時期に分かる…
そろそろお別れだ…」
士郎と夕牙はまるで長年の付き合いのように簡潔に済ませた。
「じゃあな」
その言葉を最後に、神下夕牙の人生は幕を閉じた。
夕牙の躰は淡い光を放ち、数秒もしないうちに塵も残らず掻き消えた。
「………」
「父さん…」
今まで話に入り込んでこなかった士郎の息子の声で士郎は我に帰る。
「夢だったのか…?」
息子の言葉に、士郎は嘘だと言いたかった。
ふと、先程まで数分間の友がいた場所を見る。
「いや、そうでもないみたいだ。
この子がいるのもそうだが…彼のいた場所を見てごらん」
少年がその場所を見ると、彼が背中を預けていた木の幹、座り込んでいた草むら…
それらが真紅よりも赤い色で染まっていた。
月明かりに照らされて幻想的な赤がそこにはあった。
「今日の稽古は中止だな」
「え?」
「家族が増えてしまったからな」
「弟か…」
士郎と少年は赤に振り返ることなくその足を自身の家へと向けて、その場を後にする。
その日…
高町家に家族が一人増える。
高町夕夜。それが、高町家の次男の名だ。
彼の物語は始まったばかり。
その行き先はまだ誰にもわからない…