破滅を宿した寂しがり屋 外伝~魔法少女と神器使い~ 作:紫蒼慧悟
春。それは出会いと別れの季節だとテレビで聞いたが、ぶっちゃけ馬鹿が増える季節だと思うんだ。
冬の次に来る季節が春。
つまり、気温が上がり暖かくなる。そのせいか人の心もおおらかになり、行き過ぎればパアになる。
要するに、『コイツの頭涌いてんじゃね?』ってことだ。
まあ、この季節は仕方ない。
熊も冬眠から目を覚ますからな。だから、仕方ないんだ。
そう……
例え、義妹の友人の誘拐騒ぎに巻き込まれて一緒に誘拐されても仕方ないんだ。
誘拐されたのは俺、高町 夕夜と、義妹の友人であるアリサ・バニングスと月村すずかの計3名。
等間隔に離れて置かれている椅子に縄で縛られている。あ、念のために言っておくが亀甲縛りではない。
アリサとすずかもだ。ここは残念。
そして、裸でもない。ここ重要。
椅子から立ち上がれないように、そして、立ち上がれたとしても歩けないように椅子の足に俺たちの足を縛り、手を後ろに回して縛られている。
「ごめんね、夕夜君。私たちのせいで…」
「巻き込んでホントゴメン…」
両隣のアリサとすずかから小声で謝罪される。
まぁ、謝られても仕方ないわな…
二人が俺に謝罪することによって、この状況を脱することが出来るのならまだしも、変わらないのが確定している今は謝るだけ無駄だ。
つまり仕方ない事なんだ。
「仕方ねえよ…春だもんな。誘拐犯だってゴッキーのように湧いてくるさ。春だもん…」
そう、つまりは春が悪い。
誘拐犯だって頭がパアになるさ…。可哀想に…
「アンタは春にどんなイメージを持ってんのよ…」
「ア、アハハ…」
アリサは呆れ、すずかは苦笑いを返す。
にしても、交渉が難航しているのか、誘拐犯たちの主犯格は部屋の外で怒鳴っている。
窓には格子がついており、そこから逃げることは出来ず、唯一の出入り口は中と外の両方に見張りがいる。
そして、誘拐犯の全員が何かしらの銃器を所持していること。
厄介だ。実に厄介だ。
俺が使える"チカラ"にも出来ることと出来ないことがあるのだから、其処らへんの空気読んで誘拐してくれないと困る。
それにこの力も義父と義兄と義姉にしか教えてないんだ。
さりげに義母も知っていそうだが今は置いておこう。
つまり、二人には知られたくないんだ。
ほら、俺って爽やかな美少年で通ってるからね!
「あ、そうだ。念の為に言っておくけど余計なことすんじゃないわよ、いいわね?」
「すずか、余計なことすんなってさ」
「アンタに言ってんのよ!!!」
俺がそんなことをするわけないだろうに、これが巷で噂のツンデレというやつか…
俺は正直者だからな、アリサの言葉に従っておくことにしよう。
アリサの怒鳴り声に反応したのか、主犯格のおっさんが部屋に入ってきた。
真ん丸と太った体を赤いスーツで包み込んだ、ヤのつく自由業みたいな人間だ。
その顔にはいやらしい笑みを浮かべ、こっちに向かってくる。
「やべぇ、豚が服着て二足歩行してるわー」
「だから、余計なことすんなっつたでしょうが!!!」
目の前の豚は顔を真っ赤にして震えており、アリサには怒られすずかは困った顔をしていた。
扉の前にいる見張りは笑いをこらえるように背中を向けている。
「いやほら、俺って正直者だから…」
「正直のベクトルが違うのよ、アンタは!!」
ベクトルが違うって…俺はどこの第一位だよ、ベクトル操作なんてした覚えはないぞ?
まぁ、この豚が来たってことはバニングス家と月村家に身代金要求でもしてきたんだろう。
ということは、もうすぐ義兄が来るな…
時間稼ぎぐらいはしておくか…
"チカラ"を使わずに乗り切れればいいんだが…
「で、交渉は終わったのか?」
俺の質問に豚は先程までの余裕を取り戻し、笑い出す。
「小僧、貴様は運のない奴だな。こんなバケモノにかかわらなければ無事で入れたものを…」
「バケモノ?というか、アリサは運があるのか?」
豚の言葉ですずかが尋常じゃないほどに震えている。マナーモードみたい。
とりあえず、時間稼ぎがてらブヒブヒと喋らせておく。
殴るのはあとでもできる。
「金持ちの家に生まれるってのはそういう事なんだよ、小僧。わかるか?」
「あー、そういうことな。わからんけど。」
「まあいい。バケモノってのは簡単だ、そこの嬢ちゃんが人間じゃないからだ。」
「………」
すずかは言い返さなかった。
つまりは事実なのだろうが、ぶっちゃけ俺も大概だからかける言葉が見つからん。
「は?どこから見てもすずかは人間じゃない!!」
流石はアリサだ。伊達にツンデレやってないな。
「確かに、それを言ったらお前なんて豚だしな!!」
「このっ…!!」
頬が熱い。殴られたか…
どおりで椅子が倒れているわけだ。
椅子も固定しておけよ。見張りの人が元通りに戻すのをめんどくさそうにしてるじゃねえか!!」
見張りは俺の椅子を戻してまた扉の前に戻る。
「ふん!!余り生意気なことを言ってると殺すぞ、クソガキが!!」
豚風情が偉そうに…って言うと本当に撃ってきそうだし、アリサ達が泣きそうだから言わないでおこう。
「だ、大丈夫?」
すずかが泣きそうなそれでいて申し訳なさそうな顔で聞いてくる。
「兄貴の修行に比べればそよ風程度だな」
あの馬鹿兄貴め…早く来いよ。
「で、クライアントは誰だよ?」
「ほう、只のクソガキじゃなさそうだな…」
「いいから言えよ。冥土の土産に」
「ふん!まぁいいだろう。どのみち貴様は殺す予定だしな…」
やっぱりか…
アリサとすずかは俺が殺されると知って更に動揺する。
本当に優しい奴らだ。俺には勿体無い…
「氷村遊という男だ。理由は必要なかったんで聞いとらん。こっちは仕事をこなして金を貰うだけだからな」
「そんな…」
すずかの顔が恐怖と絶望に染まる。
そして、俺は殺されると…
だが、そう簡単に殺されるつもりはない。
「さて、余計な事も喋っちまったしさっさと始末するか…」
豚は懐から拳銃を取り出し重厚を俺の額へと向ける。
「待って!!待ってください!!この人を殺さないで!!」
「は?お嬢ちゃん、お前がそれをいうのか?吸血鬼のお前が?今まで何人の人間の血を飲んできたんだ?」
「吸血鬼…?」
すずかは今までに見たことがないくらいに声を張り上げて俺を助けようとしてくれた。
だが、この豚野郎はその顔を嫌な感じの笑顔ですずかの願いを蹴り飛ばした。
そして、豚が吐いた"吸血鬼"という単語にアリサが反応し、すずかは絶望し項垂れた。
「どういうこと…?」
アリサは信じたくないという顔ですずかを見るがすずかから答えは帰ってこなかった。
答えたのは豚だった。
「言葉通りの意味だ。月村家は吸血鬼の家系なんだよ」
「嘘よ…」
アリサは信じられないモノを見たような反応を示していたが、いつものキツイ視線で豚を睨み返す。
「吸血鬼か…」
「なんだクソガキ、吸血鬼に憧れでもあるのか?」
豚がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら俺の方を見る。
答えてもいいが、どうするか…
答えようか思案していると、携帯の着信音が鳴り響いた。
音の発信源は扉の見張りをしている男の携帯だった。
「ボス、侵入者です!!」
「さっさと殺せ!!そんぐらいわからんのか!?」
見張りに怒鳴り散らす豚を見て、理解した。
こいつらは高町のことを知らないようだ。
親父も引退してだいぶ経つし、伝説は廃れていったのだろう。
思わず、笑みが漏れる。
「クソガキ、てめえ何か知っていやがるな!!」
「だったらどうした?」
笑顔で返すと、今度は拳ではなく手に持った拳銃で殴ってくる。
流石に痛い。確実に血が出てる。
というか口の中を切ったのか、額から流れている血が口に入ったのかわからない。
すずかとアリサの悲鳴が聞こえる。
こんなんじゃダメだな…
あいつらの泣き顔は見たくないし、聞きたくもない。
「ぶっ殺してやる…」
殴り疲れたのか、豚は再び銃口を俺に向ける。
薄らと目を開けると、視界が赤に染まった。
額から流れる血が目に入ったからだ。俺は思わず目を瞑った。
もう少し時間稼ぎしておけば良かった。というより、ベッドの下に隠したエロ本を処分しておけば良かった。
だが、いつまでたっても銃声はしない。
目を開けると、兄貴が豚を気絶させていた。
「遅えよ…」
「すまん。大丈夫か?」
「なんとかな…」
口の中が血の味しかしないけどな…
ヒロインはすずかとフェイトかな?