転生少女が工房を開いたら、有力者たちのたまり場になった 作:魔術工房
むかしから人付き合いが面倒だった。
人っていうのは、自分より目立つ存在を常に目の敵にする生き物だ。
だから人から距離を取って目立たないよう生きようとすると、今度は輪の中に加わらない異物として排除しようとする。
あるいは、いくらでも殴っていいサンドバッグと勘違いして襲いかかってくるのだ。
だから前世の頃は、どれだけ面倒でも輪の中に加わって、輪の中で極力目立たない存在であろうと努めた。
あまりにも苦痛で、それでいて徒労極まりない行動だったと思う。
そしてそれは、異世界に転生してもそこまで違うものではない。
魔術の才能があったために通うことになった魔術学院では、それを強く実感させられた。
平民だった私は、貴族から常に小馬鹿にされていたし、同じ平民組からも才能があるからということでやっかみをうけたのだ。
こんなことなら、いっそ才能がない方が私にとっては生きやすかったかもしれない。
ただ、魔術を学ぶこと自体は嫌いではなかった。
もともと、一人でいる時は何かしら勉強やゲームに熱中していることの多かった身だ。
自分の力で深淵を解き明かし、力を手に入れていく過程はそれこそゲームのようで。
色々とそのことでもまたトラブルがあったけれど、人間関係のトラブルと比べたらそこまで面倒ということはない。
どうせ卒業したら故郷に工房を開いて引きこもり、研究に没頭する傍ら、適当に街の住人の悩みを解決して生きていくつもりだったのだ。
しかし、どういうことだろう。
念願かなって構えた私の工房には、故郷の人々だけでなく、やたらと有力者がいりびたるようになったのは、一体何が原因だったのか。
正直私には、さっぱりその理屈がわかってはいなかった。
◯
「よしできた。これで水湧石はまた作動するはずだよ、おばあちゃん」
「ありがとねぇアリエルちゃん。いっつも助かってるよぉ」
「いえいえ、それじゃあお気をつけて」
その日、私は街の住人である顔見知りのおばあちゃんが持ち込んだ水湧石を修復していた。
名前のとおり、魔力を通すと水が湧いてくるという石で、どうやら今回は魔力を通すための管みたいなものが長年の使用で劣化してしまったことが原因らしい。
管を新しいものに変えて、これでしばらくはこの水湧石が故障することはないだろう。
それからおばあちゃんを見送ると、今度は工房の店舗部分の掃除を始めることにした。
ウィトランド工房。
この私、アリエル・ウィトランドの名字を取って名付けられた工房は、今年開業したばかりのピカピカな工房だ。
とはいえ、その主である私はこの街出身の魔術師。
しかも大陸随一の魔術学院に特待生として入学した、街の自慢の魔術師である。
住人からの覚えはめでたく、仕事に困ることはなかった。
「うーん、回復薬が少なくなってるなぁ、午後は補充も兼ねて新しい調合をためしてみよっかな」
工房の内部は、お客を出迎えるための店舗エリアと、私の個人的な研究を行う研究エリアに分かれている。
店舗エリアには私が作成した様々な魔道具が売られており、中でも回復薬は他の工房や商店より質がいいと、冒険者の間でも結構人気な代物だ。
といっても、正直店舗エリアの商品スペースは、店舗エリアの”空白”を埋めるためのものに過ぎない。
私の収入源は街の住人から持ち込まれた魔道具の修繕だ。
置いておかないとなんだこいつ、と思われる定番品以外は、私が趣味で開発した魔道具しか店先には置いていないのである。
そして街の住人も、馴染みの冒険者も私の趣味魔道具は見ないので、これで何ら問題はないのであった。
ただし――
「――アリエルちゃ〜ん、来たわよぉ〜〜」
こういう魔道具に興味を持つ連中は除く。
「…………」
「いらっしゃいすら言ってくれない! さっすがアリエルちゃん! 塩対応極まってるわね!」
「……さーせー」
「全く聞こえないわ! すごい!」
いや何がだ。
――現れたのは、なんとも朗らかな雰囲気の女性だった。
年の頃は二十代に見えるが、私が初めてあった十年くらい前からずっとこの姿なので、実年齢は定かではない。
黒い魔女帽子に黒いローブに黒い髪、魔女という言葉はこの女性のためにあるかのようだ。
「……前回来たの、三日前なんだけど。どんだけひましてるんですか、レラ
「だってぇ、アリエルちゃんに会いたくなっちゃったんだもぉん」
この人の名前はレラ・アップフィールド。
私が去年まで通っていた魔術学院の学院長――つまり一番偉い人だ。
正確に言うと、私が通っていた頃はまだレラ学院長は一介の教師で、私の卒業と同時に学院長に就任したのだけど。
まぁややこしいからレラ学院長でいいだろう。
そんな人がなんでうちの工房に? といわれると、まぁ色々複雑な事情があるのだが――ともかく。
私から言えることは一つだけだ。
「帰ってください」
「ええー、やだぁ」
「ヤダじゃないですよ、子どもじゃないんだから……まったく」
学院長は店舗のカウンターに体を預けて、脚をバタバタとさせている。
いい年した大人のやることではない。
「うちに来ていいのはお客さんだけです。邪魔者は帰ってください」
「えぇー、私だってちゃんとお仕事もってくるじゃない」
「さっきからえぇ、としか言わないなこの人……貴方の持ってくるのは仕事じゃなくて厄介事です」
言葉だけで厄介な学院長の相手をしながら、手は止めずに掃除を続ける。
まぁ掃除をしている間は、面倒だけど相手をしてやってもいい。
くらいの気持ちで話をしている。
少しでも気を許すと、露骨に声の調子が高くなるのだ。
すると学院長はカウンターから離れて、商品がおいてある棚の方へとやってきた。
「それで、最近はどんな面白い魔道具を開発してるのかなぁ?」
「大したものはないと思いますよ、今ネタ切れしてるんで」
「じゃあ相当煮詰まった変なものが置いてあるかもしれないってことじゃん! 見せてみせてぇ」
「人様に見せられないものは置いてません」
私は魔術の研究で、高尚な信念を持って望んでいるわけではない。
面白そうだなと思ったものを、適当に作っては放り出しているだけの雑な魔術師だ。
中にはそれを才能の持ち腐れだなんていうやつもいるけど、知ったことか。
私は、ただ私が生きやすいと思う生き方をするのが信念なのだ。
「これは?」
「魔力を流すと、常に一定のリズムで揺れ続ける振り子です。音楽の練習につかったり、子どもの玩具にいいのではないかと」
「これは?」
「振ると魔力が風を起こす剣です、小型化して夏場に使う魔道具の試作品として作っただけで、流れる風はそよ風程度です」
「完成したら買い取るからね? で、これは?」
「へれへれ毒の治療薬です。この世で一番珍しい毒という話を聞いて、興味をもったので治療薬の方を作ってみました」
「――――――アリエルちゃんって、やっぱ何か変なものが見えてない?」
……ん?
棚に並んだ商品の位置を整えていた手が止まる。
学院長の言葉がマジトーンになったからだ。
こういう時、大抵は厄介事が降ってくるパターンであり、私としても警戒を高めないと行けない。
「今日私がここに来たのは、先日王宮で王族がへれへれ毒で毒殺されかけて今も昏睡状態だから、その治療薬をアリエルちゃんが作れないか聞きに来たからなんだけど」
「マジすか」
「まじまじ」
へれへれ毒というのは、一言で言うとめちゃくちゃ特殊な毒で、普通の魔術や魔道具ではほぼ解除が不可能な毒だ。
私が先日たまたま作った治療薬以外の方法では、決して治療できない。
「…………今から王宮に飛べばギリギリ間に合う!」
「……お代は後でもいいですよ」
「ありがとうアリエルちゃん! 愛してる!」
「もう来ないでくださいねー」
そうして、学院長は超特急で帰っていった。
やれやれ、本当に忙しい人だった。
しかし王族が毒殺かぁ、しかもめちゃくちゃ厄介な方法で。
よっぽど面倒な人なのか、はたまた複雑な事情があるのか。
そんなことを考えながら、私は店の掃除を再開するのだった。
◯
アリエル・ウィトランド。
去年まで大陸随一の魔術学院に在籍していた”変わり者”の少女。
本人は目立たないように生きたいと切に願う不真面目な少女であったが、その願いに反して一部の人間からは高い評価を受けていた。
というのも、彼女の研究は絶対に他の人間がやらないようなことばかりだから。
そもそも学院にやってくるような魔術師は高い志をもって学院にやってきており、その根底には信念と使命がある。
そんな中、アリエルは魔術に一切の信念を持ち込まず、しかし高い知的好奇心で魔術に対しては真摯だった。
その姿が、人にはどこか羨ましく映るのだ。
何より、アリエルの作る魔道具は、時折思わぬところで人の命を救うことがあった。
本人的にはただ趣味で作っただけのものであり、そこまで特別な思い入れがあるわけではない。
だからこそ、必要であれば無償で提供することもある。
それがまた周囲の注目を集めるのだが、アリエルはてんでそのことに頓着していなかった。
結果、普通の魔術師からはアリエルは変わり者と呼ばれ、嘲笑と嫉妬の対象になっていたのだ。
しかし、彼女のことをわかっている一部の人間からは、彼女こそが
これはそんなアリエルが、日常の様々な事件を解決しつつ、ゆるく自分の生き方を貫くお話。