転生少女が工房を開いたら、有力者たちのたまり場になった 作:魔術工房
前世の私の人生は、そこまで価値のあるものではなかったと思う。
事故で死んでも家族は悲しんでくれるかもしれないけど、世間は対して私に注目しない。
新聞の片隅にひっそりと載るのがせいぜいだ。
ただ、死ぬならせめて就職してから死にたかったな、と思う。
大学生活は、人生において一人でいることを許される唯一の時間だ。
私にとってあれほど心地よい生活はそうなかった。
もう少し堪能したかったな。
でも、転生先で私は魔術に出会った。
魔術というのは面白い、人一人の力で世界すら変えてみせるのだ。
幸いにも私には人並み外れた魔力があって、魔術に対する適正があった。
故郷は大した面白みもない田舎の宿場町だったから、そんな街から大陸随一の学院に通える人間が出るとなれば周囲も応援してくれる。
人の顔色を伺うのは苦手な私でも、人に褒められることに悪い気はしなかった。
しかし、そうして通った学院でまた私は前世と同じ苦痛を味わうことになる。
周囲との軋轢、嫉妬から来る嫌がらせ。
まったく、どうして魔術の研究ができるのにそんなことにかまけなくてはいけないのか。
私にはさっぱり理解できなかった。
ただ、もっと理解できないのは私にやたらと視線を向けてくる連中だ。
悪意のある視線は無視すればいい。
しかし、善意や好意を向けてくる相手というのはどうもやりにくいのである。
別にこっちは誰かに嫌な気持ちを抱かせたいわけではないのだ。
私は貴方に構わないから、貴方も私に構わないでほしい。
それだけなんだけど、それが生きていく上で難しいから、私はこうして息苦しい思いをしているわけで。
そして何よりも不可解なのは、私のそんな態度を「面白い」と言ってくる連中だ。
前世にも時折そういう人はいたけれど、一体私の何が面白いんだ?
さっぱり理解できない。
どころか、人のことを天才だなんだと言ってやたらと褒めてくるものも多いのである。
確かに客観的に見れば私は才能があるんだろう。
特待生だし、魔力量も多い。
けど、周囲から評価されるような華々しいことは何もしていないのだ。
部屋の隅で、変な研究をして悦に入ってるだけの変人。
それを見て天才と言い出すのは、何かが間違っているとしか思えない。
ただ、そんな生活も学院を卒業すればおしまいだと思っていた。
卒業後は、故郷で魔術工房を開いて暮らすのだ。
魔術工房は、この世界の生活に欠かせない様々な魔道具を修理したり製造したりする店のこと。
魔術の腕には自信があるし、町の人は私に優しくしてくれる。
煩わしい魔術の世界から離れて、日々をのんびり過ごすには最高の場所だ。
そう、思っていたのだが――
どういうわけか、私の工房には連日学生時代の知り合いがやってくるのだ。
学院長になったはずのかつての恩師は、なぜか学院があるはずなのに私の工房へ入り浸り。
かつての同期は入れ代わり立ち代わり私の様子を見に来る。
どうしてそんなに私のことが気になるんだ、こっちは放っておいてほしいのに。
まぁ、そのたびに何かしら買っていってくれるから、助かる部分もなくはないのだけど。
もしただの冷やかしでやってきたら、その時は追い出してやるのに、それができないということでもある。
ときには、複数人がブッキングして井戸端会議が始まることもあるのだ。
ああ本当に、どうして彼らは私の工房をたまり場にするのやら。
彼らの大半は現在、各地で活躍する有力な魔術師であり、その知見はなかなか興味深いのもたちが悪い。
そして、うちにやってくる客は、地元の住人や有力者だけではない。
どういうわけか時折、まるで導かれるかのようにやってくるのだ。
彼、あるいは彼女は、決して有力者ではない。
けれども、なんというか――将来的に大物になりそうな、そんな雰囲気を醸し出す者たちだった。
◯
「し、失礼します!」
その日、覚えのない客が店にやってきた。
幼い少女だ。
身なりは明らかに整っていて、いいところの娘さんであることが容易に想像がつく。
ただ、それ以上にもっと気になることがあるのだけど、まぁそこは置いておこう。
それにしても、こんな田舎の宿場町にどうしてこんな娘がやってくるのだろうか。
ましてや、あんまり人通りに面してない私の店に来店する理由はないはずだ。
そんなことを考えていると、緊張した様子の少女がとことことカウンターまでやってくる。
私は読んでいた本を閉じて隅に置くと、対して浮かべてもいない営業スマイルで少女に声をかけた。
「いらっしゃいませ、今日はどうしたの?」
「あ、え、えと……ア、アルフレッド様にご紹介をいただきました。ミリノアとも、申します!」
「……彼の紹介かぁ」
アルフレッドといえば、学院の同期だ。
友人というほどの間柄ではなかったが、時折話をすることもあった。
貴族の長子であり、私みたいな平民と普通は話をする関係の人ではない。
周囲に見つかるととんでもないやっかみを受けるのが確定みたいな相手なので、学院時代彼と話す時はやたらとハラハラしたものだ。
「ようこそ、ウィトランド工房へ。今日は何をご所望で?」
「え、ええと……母に贈る品を探しているのです」
ふむ、と考えを巡らせながら話を聞く。
曰く、こうだ。
ミリノアの母親は身体が弱く、常に床に臥せっているという。
そんな母親を励ましたいミリノアは、なにかいい品がないか知り合いに聞いて回った。
すると偶然アルフレッドからここを教えてもらった……と。
まぁ話としてはありふれているが、要するにこれはミリノアが貴族のアルフレッドと普通に会話する機会のある立場であるということ。
こんなところに一人で来るのは危ない……ということだ。
「そういうことなら、うちには色々と面白いものはあるし、紹介できそうなものもいくつか思いついたけど……」
「ほ、本当ですか!?」
「ミリノアは、一人でここに来たの?」
「え、あ、は、はい!」
「……そっかぁ」
内心ため息を付く。
店の近くからこちらを観察している者がいる。
ミリノアの護衛ならばそれでいいけど、そうでないなら大問題だ。
こんな何もない街で、ミリノアを狙うような連中を野放しにするのは大変まずい。
まぁこの後なんとかしよう、と心に留めつつ。
私は、この娘がやってきたときからずっと気になっていたことを、ちょっと試してみようと思い立った。
「そうだね、ミリノア。いいものを見せてあげる」
「いいもの……ですか?」
「はいこれ。私が作った魔道具で、私は魔力測定イルミネーションと呼んでるんだけど、知り合いからはネーミングが不評なんだ」
「は、はあ……」
いい名前だと思うんだけどな。
なにせ、この水晶玉がどういう効果の魔道具か一発で理解できる。
具体的には――
「これに魔力を流し込むと、キラキラとこのボールみたいなものが光を放って周囲を照らすんだ。聖者祭のツリーにつけるイルミネーションみたいにね」
「まぁ……それはすごいですね……」
「しかも放たれる魔力の光の強さは、流し込んだ人間の魔力量で決まるの」
「そんな機能もあるんですか!?」
おそらく、ミリノアの魔力量は結構なものだ。
要するにイルミネーションでお母さんを喜ばせることができるし、ミリノアの才能でも喜ばせることができるというわけ。
私みたいな出世欲のない人間が才能を持て余すのでないかぎり、一般的に才能とは歓迎されるもの。
きっと、ミリノアのお母さんを満足させることができるだろう。
私としても、近くで魔力を感じ取るだけで結構な量があると推察できる少女のポテンシャルがどれほどのものか、見てみたいのである。
ウィンウィンというわけ。
しかし、それにしても今回も私のもとにやってきた少女は才能に満ち溢れていた。
どういうわけか、うちの店にはこういう将来有望な若者が定期的にやってくるのだ。
別に誰かが示し合わせたわけではない。
なのに、将来の有力者候補がうちを訪れる。
運命に導かれたかのように。
一体全体、どういうわけなのやら。
まぁそれはそれとして、だ。
「一回使ってみるだけなら、お代はいらないよ。試しに魔力をかざしてみるといい」
「ええと……こう、でしょうか」
私はミリノアを促して、水晶に手をかざさせる。
そして魔力が水晶にそそぎこまれ、直後――――
カッ(部屋を照らす眩しすぎる閃光)。
私は、間近で突き刺さった莫大な量の光に、小一時間悶絶するのだった。