転生少女が工房を開いたら、有力者たちのたまり場になった 作:魔術工房
アリエル・ウィトランドの才能は、ただ魔術がすごいというだけではない。
彼女の才能は、その図太さだ。
ただ才能があるだけなら、それは別に何ら珍しいことではないのだから。
アリエルはマギステリア魔術学院という、大陸各地から魔術師の原石が集まる学院にて優秀な魔術師として周囲から認知されていた。
しかし、誰の派閥にも属さず、かといって自分で派閥を作るわけでもないその姿勢は奇異の目に映って当然だ。
故にやっかみも、彼女に対する注目も大きかった。
それを、対して気にもとめずに我が道を行き、最後には特に大きな組織に仕えること無く故郷に帰っていったのである。
おい待てェ、特待生という学院随一の才能を保証された人間が組織に所属せず故郷に帰るんじゃねェ……と誰もが思う。
しかし本当に彼女はどの派閥にも属していないので、止められる人間はいなかった。
ようするに、それだけ図太い変人であるということだ。
加えて言えば、彼女は運にも恵まれていると言えるだろう。
そもそもこの図太さを維持できたのは、彼女が比較的穏やかな土地の宿場町に生まれ育ったからだ。
魔物の大きな脅威もなく、魔術は魔道具を生み出す技術の源泉くらいの認識しかない田舎である。
周囲から「アリエルちゃんはすごいねぇ」程度の認識で育ったアリエルに、生来の図太さを歪める要因は一切無かった。
これが例えば、もっと有力な貴族の生まれだったり、逆に劣悪な環境の孤児であれば話は違っただろう。
眼の前に解決しなければ問題が、多く降り注ぐからだ。
しかしそうはならなかった。
前世の感覚をそう変えることなく成長できる環境で、すくすくと魔術師としての才能を開花させたのである。
結果として、マギステリア始まって以来の”変わり者”としてアリエル・ウィトランドは評価されることとなった。
これは、結果としてアリエルにとってもプラスの結果をもたらしただろう。
最初のうち、アリエルは特待生の平民という最も嫉妬を集めやすい立場故に注目を集めていた。
しかし、アリエルはそんな嫉妬をまったく相手にしなかったのである。
嫌味を言われても無反応、嫌がらせを受けても無反応。
アリエルにとってそれは”起きて当然のこと”でしかなかったから、反応する理由もなかった。
そしてこのあまりにも塩すぎる対応が、やがて周囲からアリエルへの興味を奪っていったのだ。
何せ、嫉妬する相手は無数にいる。
アリエルみたいなつまらない相手に意識を向ける理由はない。
すると今度は、有力な学生や教師がアリエルに興味を持ち始めた。
そもそもアリエルもまた有力な学生の一人であるのだから、意識されないわけがない。
最初にアリエルへ声をかけたのは、有力派閥の魔術師達である。
自分の派閥に入れと、半ば強制的に持ちかけたのだ。
――が、アリエルはこの要請を華麗にスルー。
そもそも、自分が派閥に入れと要請されていることすら気づいていなかったようである。
結果としてアリエルは各派閥を敵に回してしまうが、アリエルにさして大きな影響はなかった。
まず派閥を敵に回した際のデメリットは家に迷惑をかけることと、就職先がなくなること。
しかしこれはアリエルが平民であり、そもそも就職先は故郷と決めていたので何一つデメリットにならなかった。
細かい嫌がらせも受けたが、アリエルはそれが嫉妬によるものとの区別がついていなかったし、最終的にある教師の元に通い詰めになった結果、少しずつなくなっていった。
その教師こそ、レラ・アップフィールドだ。
レラ・アップフィールドはかつて学院最優と呼ばれた魔術師である。
その圧倒的な才能と魔術による探究心から、多くの事件と伝説を作ってきたヤバいヤツ。
一人で学院の勢力図を書き換えるほどの存在だ。
そんな人物と懇意にしていたら、手が出せなくなるのも当然。
そもそもレラに気に入られることなんて、普通はありえない。
よっぽど才能があるか、レラの前で面白いことをしてみせたのか、あるいは――両方か。
何にしても、アリエルは少しずつ学院内で”変わり者”の評価を固めていった。
それからも、少しずつ学院の有力者がアリエルに注目を集めていった。
それはたとえば、アリエルが入学した当初の生徒会長であったり。
それはたとえば、アリエルの後輩として入学してきたレラに比肩しうると言われる天才だったり。
それはたとえば、公爵家の三男アルフレッドであったりした。
こうやって有力者から注目を集めれば、やはりそれは嫉妬の対象になる。
しかしその頃にはアリエルはもはや完全に有力者側の存在として認知されており、やっかみを直接口にするものはいなかった。
であればどうしてアリエルはそこまで周囲を惹きつけるのか。
まぁ、原因はやはりその図太さだろう。
どれほど注目を集めても、どれほど関心を惹かれても絶対にブレない在り方。
自分の興味あることしか彼女はしない。
彼女は別に、怠惰だったり完全に人との付き合いを拒絶するわけではないのだ。
助けを求められれば相応に応えるし、興味のあることなら自分から関わりにいったりもする。
ただ、本当にそこに他者という価値基準を持たないだけで。
助けるときも、見捨てると自分が嫌だからという理由で助けるのだ。
決してそれは善意ではない。
本人なりの価値基準で、助けるに値すると判断しただけである。
そんなアリエルが最後までブレないまま学園を卒業し、工房を開いた。
多くのものが、アリエルの工房へ興味を持ち店を訪れる。
すると、彼らはあることに気付くのだ。
アリエルの作り出した魔道具は――どれも一癖も二癖もあるが、凄まじい効果を持っている。
先日、からくも王族の命を救ったへれへれ毒の治療薬などがその典型だろう。
一体どうしてこんなものを作ろうと思ったのか、という疑問がまず湧いてくるが、実際に作れることもまた驚嘆に値する。
なにせへれへれ毒はマイナーであるが故に貴重。
だから現物を手に入れることは難しく、その状況で治療薬を作れるのははっきり言って異常といっていい。
それもこれも、興味あることにしか興味のないアリエルが、製作に没頭したからこそだろう。
そしてこれは効果の保証がないということでもあるが、アリエルを知るものならそれを疑うことはしないのだ。
少なくとも本人は魔術に関してだけは貪欲で、そして何よりプライドがある。
自分の魔術の成果を偽ったりはしない。
それもまた周囲を惹きつけるわけだが、少なくとも本人にその自覚はなかった。
アリエルとは本当に捉え所のない人間だ。
何年も付き合いのあるレラでさえその本質は捉えられていない。
いや、アリエルが面倒と人付き合いを嫌う変人であるということは、きちんとわかっているのだが、
少なくとも、今のところ誰もアリエルが伝説の賢者の生まれ変わりではないことを証明できていない。
だからこそ、どうしようもなく有力な人間はアリエルに惹かれてしまうのだろう。
彼らは特別な存在だ。
そして特別であるが故に、多くのしがらみに縛られている。
レラ・アップフィールドがあれほど嫌がっていた学院長に就任しなければならなかったように。
公爵貴族アルフレッドが、遠回しな方法でしかミリノアとその母親の仲をとりもてなかったように。
しかしアリエルは違う。
彼女はこの世界に生まれてから――否、前世においてもただただ自由だったのだ。
誰にも邪魔されることなく、人とは違う生き方をする。
そんなアリエルの生き方が、時には誰かに眩しく映ってしまうわけだが、アリエルはいまだに一切そのことへの自覚がないのであった。
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