勇者を殺してください。 〜 全ステータス#N/A《エラー》の俺が、レベル999の勇者を殺せる唯一の存在だった理由 〜 作:こうタロス
勇者は、突き刺した剣を引き抜くと、ソイルは力無く地面に膝をつく。
苦痛混じりの笑みを浮かべ、歯を食いしばるソイル。
やべぇ!!
父ちゃんが死んじゃう!!
……俺が出るか?
いやいや、父ちゃんのあのパンチでノーダメのやつだぞ?
俺になにができるってんだ?
てか、そもそも足が動かねぇ!
これがリアルの恐怖てやつか……?
「パパァ!パパァ!血!?血が出てる!!
ヒール……!ヒールをしないとっ!!
【て、天より降りる聖光よ、苦痛を祓い傷を癒したまえぇ!!"ヒール】!!」
「はぁ……はぁ……はぁ……グッ!
うあぁぁぁ!」
「なんで……ヒール!ヒィール!!
パパァ!死なないで!パパ!!」
「おいおい、農作いじりで身体が鈍ったか?
"
「はぁ……はぁ……その名前で呼ぶな!!
もう捨てたんだその名前は……」
「お前の"異名"だろ?
そう簡単に捨てるなよぉー。俺たちの思い出だぜ?」
倒れ込むソイルを上から嘲笑う勇者。
涙でぐしゃぐしゃになりながらスイルは、ソイルにヒールを唱え続ける。
……
え、えぇ!?
思い出した!
ソイルって勇者パーティーの1人!!
"デーモンズクエスト"で勇者の相棒キャラクターじゃん!
まじかよ!父ちゃんって
通りで強いわけだ!
ストーリー流してたから忘れてたぜ……
て言うことは、勇者って俺が操作してたあの勇者……
異名はたしか——
「"最強"の勇者ルクス……」
「あぁ!よく知ってるな!少年!
そう、俺こそが"最強"の勇者ルクス!!
ソイル、お前自分の子供に俺の話してたのか!?とんだツンデレ野郎だな!」
「マオ……なんで……その名前を……」
やばい!
流石に俺が転生してきたなんて言えねぇ……
「い、いやぁ……ほ、本で読んだんだ!!」
「俺は有名だからなぁ!!って、いけねぇ!
時間の無駄だ!どうせ、死ぬやつと会話なんてな!
【
勇者ルクスは手を地面に振りかざす。
すると、地面には魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣は赤黒く光る。
その光は集まり徐々に形を成していく。
四足歩行の巨大な足、天まで届きそうな翼。
シルエットだけでも只者ではないことはわかる。
光は徐々に光を失い、召喚された者は姿を現す。
ソイルは目を疑うように凝視する。
「グヤァァァァァオ!!」
召喚された者の咆哮で心臓が揺れ竦む。
手は咄嗟に耳を塞いだ。
本能が鼓膜を守る。
「ドラゴン……!?
俺たちで倒したはずじゃ……?
おい!ルクス、これは……一体……!!」
「まぁ、せいぜい頑張るんだなぁー!
できれば死んでくれぇー!!はっはっはっ!!こいつは貰ってくぞぉ」
勇者ルクスは目にも止まらぬ速さでソイルに泣きつくスイルの腕をつかみ、雑に剥がした。
「おい!スイル!くそっ!
身体が……動かな……い……!!」
ソイルは刺された右脇腹を抑え、何かを堪えるように顔が引き攣る。
「パパァー!パパァー!!助けてぇー!!
パパァ!!」
「……ったく
……ウルセェーガキだな……
誰に似たんだか……」
「おい!スイルを返せ!
てめぇー!ルクスゥゥ!!!」
くそ!動け!
動けよ!俺の足!
マオは動かない足に喝を入れる。
やべぇ、スイルが連れていかれる!
転生して約7年。
血は繋がってないが俺の大切な家族なんだ……!
「おい!いい加減にしろよ!!クソ勇者!!
俺の妹を返せよ!!」
マオは拳を握り締め、勇者目掛けて地面を蹴り飛ばす。
怒りからか異常に体は軽く、今までに体感したことのない力がみなぎる。
急激な身体能力の上昇に、少しの恐怖と勝利への希望を感じた。
マオは地面をひと蹴りでとてつもないスピードで勇者に接近する。
なんだ……?この感覚……
本当に俺の身体か……?
身体が軽すぎる、握り締めた拳が鉄のように硬くなるこの感覚も初めてだ。
……今ならなんでもできそう
そう、錯覚するほどの力。
俺にこんな力が……
瞬きひとつで遠くにいた勇者ルクスが目の前に迫る。
いや、俺が近づいたのか……
「なっ……このガキ……!!
【|触れんとする刃、すでに空を斬る《オートドッジ】!!」
勇者ルクスは予想外のスピードのマオに一瞬顔を歪めたが、瞬時にスキルを発動し攻撃を躱す。
攻撃を躱されたマオは空中で回転し、身体を勇者に向ける。
次の攻撃に備えるためだ。
地面に手を擦りながらエネルギーを殺し、なんとか着地する。
くっそぉー!さすが勇者。
直前でスキルを使いやがった。
多分、完全回避のスキルだよな……
くそっ、俺が"デーモンズクエスト"をクリアした時より確実にスキルが増えてる。
クリア後の世界だからか……?
「はっはっはっ!!」
勇者ルクスの甲高い笑い声が響き渡る。
「久しぶりに面白そうなやつがきたなぁ!!
そうそう!こんなやつと俺は戦いたかったんだ!!
おい!やれ!ドラゴン!!」
「グヤァァァァァオ!!」
マオは急激に暗くなった空を見上げる。
原因はドラゴン。
視界いっぱいに埋め尽くされたドラゴンの足がマオめがけて落下する。
「マオォォォ!!」
「はっはっはっ!!潰れやがったぜ!
スピードだけかよ!
まるでゴキブリじゃねぇーか!」
ソイルの叫び声と勇者ルクスの笑い声の不協和音が響き渡る。
すると、ドラゴンの足が人1人分上昇した。
そこには、ドラゴンの足と地面に挟まれるマオ。
潰されまいと踏ん張り、両手で支えている。
「くっ……ぐぅ……」
やばい!やばい!
このドラゴン、クソ重たい……!
少しでも力を抜くと潰されそうだ。
「はっはっはっ!まじかよ!
ソイル、さすがお前の息子だぜ!
だが、俺のレベリングにお前はまだ力不足だ……
もっと、強くなってからまた会おうぜ!」
勇者は、スイルの腕を強引に引っ張り距離を取る。
「やめて!離して!!
パパ!お兄ちゃん!助けて!!」
「スイルゥゥ!!
おい!ルクス、その手を離せ!!」
「……ったく、親子揃ってウルセェーんだよ!!
まぁ、昔のよしみだ……
最後にお前がなんで動けねぇーのか特別に教えてやるよ」
「余計なお世話だ……」
「お前の弱点……なんだっけ?」
「…………"石化"。
でも、俺のスキルで状態異常は効かな……お前まさかっ!?……」
スイルは自身の服をたくし上げ、右脇腹を確認する。
刺された箇所を中心に確実に皮膚とは思えないほど黒く変形していた。
それは、誰がどう見ても間違いなく石化であった。
「お前……その剣……」
「そうそう!魔王の剣!!
魔王のやつが大事に持ってた剣だ!
スキル効果完全無効!!
勇者の剣より遥かに性能がいいんだぜ、これが!!」
「勇者の剣は……どこに……」
「あぁ、あのポンコツならとっくの前にどっかに捨てちった。
あんなのパワー補正が高いだけの脳筋アイテムだぜ?」
「こいつ……ここまで腐っているとはな……」
勇者は踏み潰されまいと耐えるマオを指差す。
「おい!ソイルの息子、お前は絶対強くなる!
もっと成長したらバトってやるよ!
そんじゃあ、またなぁ!!
【ドミネーション・ワープ】!!」
勇者を中心にして、地面に魔法陣が浮かび上がる。
「パパァー!!お兄ちゃ——」
「スイルゥゥゥ!!」
ソイルは勇者に連れ去られるスイルを見て身体をなんとか動かす。
しかし、せいぜい手を差し伸ばすことしかできなかった。
———
【あとがき】
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