勇者を殺してください。 〜 全ステータス#N/A《エラー》の俺が、レベル999の勇者を殺せる唯一の存在だった理由 〜 作:こうタロス
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
耳を劈くような女性の悲鳴が店内を駆け巡る。
先ほどの贅沢な空間はたちまち、重苦しい事件現場へと様変わりした。
シャンデリアの下敷きになった男性は、ピクリとも動かない。
そこから、流れ出る血は次第に面積を増やしていく。
その血がマオの足まで流れ着いた頃に、現場は動き始めた。
「血が……シャンデリアが落下した……?」
マオは巨大なシャンデリアが吊ってあった天井を見上げる。
「おい、マオ!!大丈夫だったか?」
「う、うん……俺はなんともないけど……」
カフラは地面に落下したシャンデリアを不穏そうに覗き込む。
「こんなデケェのが落ちてきたのか……こんなことってあるのか……?
とりあえず下の人助けねぇーと!」
カフラは持ち上げようとシャンデリアに手をかけたその時、
「みなさん!!そこから一歩も動かないでください!!あと、シャンデリアにも触らないで!!」
店内全体に若い男の声が響き渡る。
声の方向に目をやるとそこには身長の高い青年と小さな少女の姿。
青年はシルクハットにテーラードスーツ、下にはスーリーピースのベストを着用し、ネクタイをしっかりと閉めた金髪。
その隣にいる、身長の割に堂々と仁王立つ少女は丸眼鏡にディアストーカー帽、茶色のチェック柄のインバネスコートを見にまとっている。
少女の身長は、青年の腰ほどの小柄で被っている帽子からは犬の耳のようなものがはみ出している。
な、なんだ?あの耳……
獣人族……てやつか……?
青年は続けて忠告する。
「これは、事故ではなく事件です!!
みなさんは容疑者の1人です!
誰1人ここから出ないでください!」
その言葉を聞き、店内全員の動きがピタッと止まる。
一瞬の静寂を生んだがそれをぶち壊すように男性の荒げた声が店内を響かす。
声の正体はちょび髭の男性。
いかにもお高く止まっている風貌からプライドの高さが窺える。
そのちょび髭の男性の指はマオとカフラに向いている。
「なんで俺たちが容疑者なんだよ!!
こ、こいつらがやったんだろ!
こんな格好の奴らがこの店に来るのはおかしいと思ってたんだ!」
どうやら、容疑者の1人だと言うことが気に障ったようだ。
それにしてもなんなんだ、このおっさん!
確かに、高級店にふさわしくない格好だけど、そんな言い方はないだろ……?
男の無茶苦茶な言い分にカフラは顔を歪めている。
「俺たちはただ、普通に飯を食っていただけだ!!
見た目だけで判断するなよ!」
カフラ……
変なやつだけど正義感は強いな。
それに比べて俺は反論もできないなんて……
すると、仁王立ちしていた獣人族であろう少女が口を開く。
「まぁまぁ、落ち着くのだ……
この"名探偵"シーカ・ホームズがズバリっ!
犯人を当ててやるのだ!!」
少女の名は、シーカ・ホームズ。
見た目から探偵であることは見てとれるが、名探偵というような威厳は感じない。
シーカはポケットからパイプタバコを手に取り、吸引部を咥える。
すると、パイプの先端からは煙ではなく、ポワポワとシャボン玉が宙を舞う。
どうやら、パイプタバコではなく"パイプタバコ型"のバブルスティックであった。
「ジョンソンくん!!"あれ"を!」
「はい、どうぞ!」
ジョンソンは肩からかけていたバックから大きな虫眼鏡を取り出す。
どうやら、ジョンソンという金髪の青年の方が探偵助手らしい。
シーカはジョンソンから手渡された虫眼鏡を手に取り、落下したシャンデリアに近づく。
虫眼鏡を覗き込み、シャンデリアが天井と接続されていた箇所を観察する。
「ふむふむ、ふむふむふむ」
次に、巨大シャンデリアの下敷きになった男性を観察する。
シーカはシャンデリアを一周し、虫眼鏡から目を離す。
「犯人が分かったぞ!!」
「さすがです!先生!!」
自信満々に腕を組むシーカとそれを甘やかすように褒め称えるジョンソン。
あまりにも早い事件解明にマオは思わず、
「え、早くない⁉︎」
「先生は"名探偵"ですから!」
シーカは、虫眼鏡をジョンソンに手渡すとシャボン玉を吹かしゆっくりと歩き出す。
そして、メガネをクイッとあげ堂々と宣言する。
「ズバリ犯人はあなただっ!!リテル・スラフさん!」
シーカは腕を上から振り下ろし、犯人に勢いよく指差した。
その指の先にはピアノを演奏していた女性。
「わ、私!?ありえないわ!!
私はただピアノの演奏をしていただけ!
みんなも見ていたわよね?」
演奏していた女性は嘲笑をこぼし反論する。
「そうだぜ?"名探偵"さん。
あの人はずっとステージでピアノを弾いてたんだぞ?なぁ、マオ?」
「う、うん。シャンデリアは、俺たちのすぐ真後ろにあったから、誰かが落とそうとしたら物音で気づくと思うけど……」
思いもよらない犯人にマオとカフラは、自身が感じたことをありのまま伝える。
その発言を聞き、ジョンソンは待っていましたと言わんばかりに笑みをこぼす。
「まぁまぁ、先生の推理を聞いてみましょう?
ここからが面白いのですから……!」
シーカは、ニヤリと笑いメガネをクイっとあげる。
「【ディテクティブスキル
静かにスキルを詠唱すると、ピアノを演奏していたリテルに質問する。
その表情は何かを見透かしているように。
「リテル・スラルさん、あなたのスキルはなんですか?」
「わ、私のスキルは"演奏家"よ!
ただの楽器を演奏するスキルよ!どうやって殺すって言うのよ!
第一、私は仕事できたのよ!次の仕事もあるし……
こんな茶番に付き合ってられないわ!!」
リテルは、少し焦り気味に言葉を並べる。
それに確信を感じたのか、シーカはリテルに鋭く指を向ける。
まるで、標的に銃口を突きつけるかのように。
「ダウト!!」
そう、シーカが唱えるとリテルの左足に光が集まる。
「な、なにこれ!!重っ……!!」
チャリチャリン……
リテルが左足を動かすたびに、鉄が擦れる甲高い音が鳴り響く。
足首には鉄のリングが巻きついており、そこからチェーンが伸びている。
その先端にはつられて動く黒い球体。
あれは、足枷……?
あの、名探偵のスキルか……?
マオはどこからともなく現れた足枷に理解が追いつかない。
「さすがなのだ……嘘と不完全な真実……
実に巧妙な割合でしたが私は騙せないのだ!」
シーカはゆっくり左右を往復し歩く。
「嘘……?わ、私は嘘なんかついてないわ!!
それより、この足枷どうにかしてよ!
重たくてイライラするの!」
一方女性は、足枷にストレスを感じたのか声を荒げ訴える。
「私のスキル、
"
嘘がバレた相手は足枷を背負う……
つまり、あなたの発言に虚偽があったと言うことのだ!」
「な、何が嘘だっていうのよ!!
私は本当に仕事で——」
「仕事で来たのは本当。
しかし、スキル"演奏家"は嘘。
シャンデリアの破損具合から推測するにあなたのスキルは"
音の周波数を自在に操れるスキルといったところかな?」
「その、音の周波数?てやつを操作できても
どうやってあんなでかいシャンデリアを落とせるんだ?」
「なかなか鋭いな君は!!
名前はなんというのだ?」
「俺はカフラ!カフラ・デミルだ!
よろしくな!」
「ふふん!カフラくんだな!
君なかなかセンスがあるのだ!私の助手にしてやってもいいのだ」
「ジョシュ……?ちょっとわかんねぇーけど!
面白そうだなジョシュ!!」
カフラとシーカの掛け合いに愛想をつかせたのか、リテルがイライラ混じりの声色で話を進める。
「ちょっと勝手に盛り上がらないでよね!
確かに私のスキルは"音波士"……
それは認めるわ!
だけどそれで、私がどうやって巨大なシャンデリアを落とせるって言うのさ!!」
シーカはメガネを上げ、ニヤリと笑う。
「ふふん!そろそろ教えてあげるのだ。
この事件のカラクリを……」