いつも助かります
ナザリック地下大墳墓。至高の四十一人に各割り当てられた部屋には風呂場もある。
普通の浴槽などより数倍は広い浴場は質素だが金がかかっていると一目でわかる作りだ。
その浴槽に浸かる者が一人。
白磁の体を持ち、美しい骨格をしている。
体をぬるりと覆うのはスライム。それが蠢く事で体の汚れを落としている。
「あぁ~たまらん」
そうアインズは声を漏らした。
(リアルだと風呂も最近高かったからな~)
ウクライナ情勢やらホルムズ海峡の閉鎖やらで燃料代が高くなっているせいで貧乏フリーターであったアインズの中の人は風呂など週一、二回程度の娯楽品だった。
だが今は違う。毎日風呂に入れるし、時間もたっぷりととれる。
しかし困るのは骨の身体だ。
老廃物などはアンデッドというか骨なので出ないが、部屋の埃や外の砂などで汚れが付くので体を洗う必要はどうしてもある。
服ならばマジックアイテムなので自動清浄されるが体はそうはいかない。
しかし体を洗うのは実に面倒だ。
骨の身体なので肋骨一本一本を洗わないといけないし、腰の骨、腸骨などを洗う時は妙な気分になる。
肋骨を一本一本洗う時はめんどくさすぎて流石に「ふぁっきゅー!」と叫んだ程だ。
故原作でもしていたように洗う専用のスライムである三吉君を召喚し体を洗わせているのだ。
(そういや幕間でソリュシャンが三吉君に対し嫉妬する話あったな……今のところその予兆はないけど、気を付けては置くか)
さて、これからが忙しいぞ、とアインズは風呂を出た。
■
ナザリック地下大墳墓第十層玉座の間。
そこには多数の異形が居た。
レベル七十以上の守護者の高レベルのシモベたちに守護者たちが勢ぞろいだ。ヴィクティムはいるがガルガンチュアは流石に入らないので居ない。
「今後のナザリックの方針を決める。デミウルゴス。任せたぞ」
「お任せください、アインズ様」
そうしてデミウルゴスが話していく。
その内容は殆ど原作と変わりない。
八本指はナザリックの支配下に入り、王国の裏社会はナザリックの物となった。
これにより世界征服への足がかりが出来る。
アインズは世界征服を悪い物とは思っていない。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが悪のギルドである以上今後転移してくるプレイヤーの一部は敵対的行動をとってくる可能性がある。
そうでないにしても、この世界の高レベルの住人たちにとってみればプレイヤーというだけで憎悪の対象である。
故何もせず座していては攻撃されるだけだ。
だからこそ先手必勝。此方から動いて敵を殲滅し、支配し、飲み干すのだ。
「それでアインズ様。今後の動きですが……まずは帝国を動かして──」
そこからは原作と同じ、帝国のワーカーを動かすという物だ。
中の人的にはアルシェぐらいは助けてもいいかな、と思っているのでアルシェは助けるつもりだ。
というか普通にアルシェには使い道がある。
元帝国貴族で貴族のマナーについて知っている。というだけで使い道があるし看破の魔眼の
他の者、イミーナやらヘッケランは正直どうでもいいので興味はない。
「流石だデミウルゴス。そのように動くとしようか」
■
数日後。
アインズは自室で書類仕事をしていた。
書類の内容は主に報告書だ。
どこそこに何があったとか、
「ふむ……問題ないな」
アインズはそう呟きながら判子を押し、書類の処理をする。
「これで今日の業務は終わりだな」
「はい。後は……勉強のお時間ですね!」
そこにアルベドがくふーと笑みを浮かべる。
着ているのは教師が着ているようなカジュアルなスーツだ。
アインズは己の知能の低さを露呈している。
故、こうして時間があるときは勉学に励んでいるのだ。
アルベドは優れた知能を持ち、アインズの身体も頭がいい。
本当の凡人は魔法を七百以上覚えてその場に応じた魔法を行使するなんてことは出来ない。
故、肉体に引っ張られているアインズの中の人はアインズ並みの知能を持ち、勉強するだけである程度は知能が上がっている。
今は高校相応の勉強をしているところだ。
アルベドは装備で疲労無効。アインズは種族特性で疲労無効なので休むことなく勉学し二時間が経った。
「今日はここまでにしましょう」
アルベドがそう名残惜しそうに言いながら片づけを始めた。
「いつも感謝する。アルベド」
「勿体なき御言葉……! これからも忠義に励みます!」
「うむ」
そこにノックが入る。
今日のアインズ当番であるシクススが対応する。
「アインズ様。ルプスレギナ様が入室の許可を求めています」
「そうか。入れてやれ」
「畏まりました」
そうしてルプスレギナが入ってくる。
アインズの執務机の前までくると一礼してから話し始める。
「アインズ様。カルネ村にホブゴブリンが来訪しました。そのホブゴブリンの名はアーグと言い、アーグは東の巨人の手から逃げて来たという事です。此方が詳細を書いた書類になります」
「ふむ。拝見しよう」
アルベドが受け取ってからアインズに渡される。
アインズは書類を読んでいく。
(ちゃんとルプスレギナにも言っておいて正解だったな)
原作だと命令があいまいだったため失望されたルプスレギナだが、その実命令さえしておけば職務には忠実だ。
故最初の命令の段階でカルネ村をある程度守り、ンフィーレアとリイジーを最優先で守らせている。
そして当然報連相についても伝えてある。
「なるほど、西の魔蛇と東の巨人か……アウラからの報告にもあったな。ふむ……」
ルプスレギナがきちんと働いている以上、原作のように東の巨人を使ってテストをする必要性は無い。
勿論村の結束力を高めたりするためにやってもいいかもしれないが、それほどのメリットはないだろう。
寧ろ東の巨人──グを支配下に置いてもいいだろう。
「よし。アウラに伝えろ。明日、東の巨人の支配地に行く、と」
■
翌日。
アインズはアウラと共にフェンに乗ってトブの大森林を移動していた。
フェン──アウラ配下の魔獣に乗っての移動だ。
フェンは森渡の
(……ふむ)
アインズはアウラの腰を見た。
細い腰だ。と言っても少女という年齢を見れば歳相応ともいえる。
原作のアインズはここで無遠慮に腰を掴んでいたがそんなセクハラをするわけにはいかないのでこのアインズはしなかった。
そして開けた場所に出る。
「なるほど、ここが東の巨人の地……完全な馬鹿という訳ではないようだ」
そうアインズは判断する。
そこには木を使って作ろうとしたのだろう家の残骸があった。
原作ではグは完全な愚者とされていが、アインズはそうは思わない。
家を再現しようとしているという事は、それの有能性を理解したからだ。
だから実際に作ろうとしたが、グ以外の者たちは──あるいはグその者も──知性と技術が足りず作れなかったのだろう。
アインズはだからこそ警戒に値すると判断する。
未知の物に対しそれの有能性を理解し、自力での再現をしてみようとする意欲性と知性に。
と言ってもグ、というかウォー・トロールの文明が野蛮人なので原作だとアインズ・ウール・ゴウンを馬鹿にした結果ぶち殺されてしまったが。
長い名前は愚者の証というのはどういう文明なのか。アインズは首をひねる。
アインズとアウラはフェンから降りた。
「それじゃあ。中に入るとするか」
そう言って洞窟に入っていく。
二人とも暗視能力はある為灯りが無い洞窟でも問題なく見えている。
「……臭いな。ガス溜まりトラップ……いや。糞尿を碌に処理していないが故か」
「いやですねぇ、こういうの」
アウラは露骨に顔をしかめながら先に進んで行く。
そうして進んで行くと三体のオーガに遭遇した。
オーガたちは何かを貪っていたが、アインズとアウラに気づくと立ち上がり棍棒を手に向かってくる。
「スケルトン! 侵入者! 死ね!」
そう叫びオーガがこん棒を振るう。
「邪魔だな──
十の光弾がオーガを襲い、ミンチに変えた。
「た、ただのスケルトンじゃない?!」
「私は東の巨人に会いに来た客人だよ。お前たちの主人に会わせてもらおうか」
その言葉に二人のオーガは怯え、奥へと走って行った。
死体はもったいないので
そうしていると奥からウォー・トロール、グと配下のトロールが数人……そして不可視化している西の魔蛇がやって来た。
「なんだ! スケルトン! 骨をバリバリ食ってやろうか!」
そうグが叫んだ。
「初めまして、東の巨人殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。北の地に建物を作っている者だ……そちらに隠れているのが、西の魔蛇かな?」
その言葉にグは怒りに顔を染めた。
そして不可視化していたリュラリュースが姿を現す。
「そ、その通りじゃ、ゴウン殿。ワシはリュラリュース・スぺニア・アイ・インダルン。西の魔蛇じゃ。そして──」
リュラリュースの言葉を遮るようにグが叫んだ。
「そうか! お前があの嫌な物の主か! そして俺のグのように勇気ある名ではない! お前の様な物、捻りつぶしてやる!」
「勇気ある名ではない?」
アインズの問いにリュラリュースが答えた。
「こやつらの間では長い名は臆病者の名で、短い名こそが最も強い名と言うのじゃ。あぁ、ワシは違うぞ。ワシも普通に長い名であるしな」
「そうか……それで、勇気ある名を持つグ殿? 私の配下になれ。さすれば永遠なる繁栄を約束しようではないか」
アインズの言葉にグは笑った。配下のトロールたちも笑いだす。
「ハハハ! 俺のグのように勇気ある名でない者がそんなことを言うのか! 面白い!」
そうグは笑う。
その笑いにアウラがムッとした表情をする。
アインズはやれやれ、と肩を竦めた。
「ならそうだな……私の力を見せつけてやろうじゃないか」
そう言ってアインズはアイテムボックスから殴打に特化した杖を取り出した。
「さぁ、一騎打ちと行こうじゃないか。グ殿。まさか自分より弱いと侮る相手からの挑戦を避けるとは言うまい」
「いいだろう! お前を叩き潰してやる!」
そう叫びグは手に持っている大剣──マジックアイテムの剣でアインズを斬り付けた。
だが、一切のダメージはない。
グのレベルは三十程度。アインズの上位物理無効化Ⅲの前には無意味なダメージだ。
二度、三度と斬り付けてもアインズに一切のダメージはない。
そのことに疑問を抱いたグはおもむろに配下のトロールを斬り付けた。
今度はちゃんとダメージが通った。
トロールは倒れるも徐々に傷が再生していく。
(やっぱり完全な馬鹿じゃないよなぁ)
自分の攻撃が通じないと見るや自分自身に何かあったのかと疑問を抱いてそれの実験をする。
ただの馬鹿ならわけもわからず攻撃を続けていただろう。だからグは本物の馬鹿とは言いにくい。
「どうした? 急に部下を斬ったりして。ご自慢の武器が通じなくて困ったのかな?」
「何とでも言え! 骨!」
そう叫びもう一度剣で攻撃するもダメージはない。
ならばと拳で殴るもやはりダメージはない。
「な、なんだお前は」
グが少し怯えた声を出した。
「私は全ての生者に死を齎す存在。
「畏まりました!」
アウラが逃げようとしているリュラリュースの首根っこを掴んだ。
「お前の様な臆病者に従う訳がないだろう!」
だがことここに至ってもグはそう叫ぶばかりだ。
(……ただの馬鹿ではないと思っていたが、別のブレインが居たのか?)
「ならば……アウラ。その蛇を連れて離れて居ろ」
「畏まりましたー」
アウラが離れたのを確認してからアインズは
「では──絶望のオーラレベルⅤ」
アインズは処分を決めた。
即死のオーラによってグとトロールたちは生命活動を停止……死んだのだ。
「さて、あー,西の魔蛇。お前はどうする? ……アウラ。離してやれ」
アインズはリュラリュースを見ながら問いかけた。
アウラが手を離すとリュラリュースは降伏の姿勢を取った。
「貴方様に絶対の忠誠を捧げます。死の支配者よ……!」
「そうか。ならばお前はアウラの配下となり、このトブの大森林の管理者と成れ。まぁ、中間管理職の様な物だな……裏切るなよ」
「裏切るなどとんでもない! 裏切るなんて者は貴方のそのすべてを見下す冷たい目を理解していない愚か者だけですじゃ……!」
「そうかならばいい。アウラ。ナザリックに帰還するぞ」
「畏まりました! アインズ様!」
グ支配したかったな、と残念に思いながらアインズは帰還するのだった。