「さて、言い訳を聞こうか?」
アインズは氷結牢獄の中に居るペストーニャとニグレドを前に若干の怒気を含めながら言った。
「アインズ様……赤子たちには罪はありません。どうか慈悲を!」
そうペストーニャが頭を下げ乞う。
そう。原作でもペストーニャとニグレドがヤルダバオトが攫った赤子をかくまったように、この世界線でもそれを行ったのだ。
アインズはそういやそんなことあったな、とうろ覚えだったため対処が出来ていなかった。
「ふむ。確かに赤子には罪はないだろう。だが、それとメリットの有無は別だ」
ヤルダバオトによる王都襲撃では人間も多数攫っている。
デミウルゴス牧場が無い以上幾つかの人間を使った実験が滞っている為、それを対処するためにヤルダバオト作の実験場を聖王国に作らせている。
そこに人間を運び実験をしている。
勿論ナザリックが行ったとは一切思われない為にナザリック内のネームドNPCは一切使っていない。プルチネッラも使っていない。
そして死体はアインズの<アンデッド創造>の材料になる為死体まで有効活用可能だ。
更に赤子であっても死体にすればアンデッド創造で
「私はメリットさえあるのならば虐殺も辞さない。無論メリットを上回るデメリットがあるというのならば虐殺はしないという事だ。そして問おう。赤子を殺さない事によるナザリックの利益はなんだ?」
アインズの問いに対しペストーニャが叫ぶ。
「赤子まで殺していてはナザリックは慈悲無き組織とみられてしまいます……ワン」
「それに、赤ん坊に罪はありません。どうか寛大なる措置を!」
ニグレドもまた叫んだ。
その叫びにアインズの隣に居たアルベドの目が細くなる。
「なるほど。捕虜を取らず全て殺していけば敵兵は全て死兵となるだろうな。だが、今回行った事は表向きナザリックがしたことではない。だからその問題はないだろう」
アインズがそういうと二人は黙りこくってしまう。
(本当はこの二人に罰として匿った赤子を殺せとか言いたいけど……それすると流石に反逆されそうだしなぁ)
数少ない回復魔法が使える神官であるペストーニャと情報系魔法に特化したニグレドの反逆はナザリックにとって大損害となる。
「知っているか? 胎内記憶やゼロ歳から三歳までの記憶を忘れる幼児期健忘というのがあるんだが、それが起こらない赤子も居るという……つまりその赤子たちをただ逃がすだけでも、ナザリックにとって不利益となる訳だ。勿論確率は低いが、ゼロでない以上見逃せぬ事だ」
アインズがさらにそう言う事で二人の表情はどんどん暗くなっていく。
それを見たアインズはまぁ処分しかないよな、と肩を竦める。
実際ナザリックとヤルダバオトの関係を知られれば面倒なことになるのだ。だから殺す以外の判断はない。
アインズの中の人は慈悲無き人間という訳ではない。多少話した程度の相手なら慈悲を持って接することも出来るだろう。
だが、逆にそうでない相手ならば何がどうなろうが知った事ないのだ。
例えば元カノ──いたことはないが──などが死の危機に瀕していてそれを助けれるのが自分だけだとしても「あっそう。そりゃ大変だ」とだけ言って翌日にはけろっと忘れているだろう。
所詮赤の他人などその程度の存在なのだ。だから赤ん坊を殺す事に罪悪感も何もない。更に今のアインズは自分アンデッドだしな、という免罪符もある。
そこにアルベドが口を挟んだ。
アルベドはニグレドの妹だ。
そう設定されたからか、あるいは制作時に何か仕込まれたかは知らないが、ともかく姉妹として強い絆を持っている。
だから守護者統括とアインズの第一妃候補として二人を殺処分すべきだと考える自分と、ニグレドの妹の自分がいる。
だからか、慈悲ある選択肢が浮かんできたのだ。
「アインズ様。であれば、この赤子たちをナザリックの兵士として教育するのはどうでしょうか?」
「……ほう。面白そうな話だ。続けろ」
アインズは本当にアルベドからそんなことが出るとは思わず驚いた。
「はい。今後ナザリックが版図を拡大していくにつれ文官や武官の不足が予想されます。それらの時に対し人材を今の内から確保、教育しておく……というのはどうでしょうか」
「なるほど。洗脳教育でもしておけば逆らう事はないだろう……お前たちが指導すれば失敗することも無いだろうしな。だがそれならば私のアンデッド創造でエルダーリッチや
「確かにその方が裏切る確率はゼロでしょう。ですが創造されたアンデッドでは決められた事しかできません。生者の特権である突飛な発想を行える部下、というのも必要なのではないでしょうか」
「……なるほど。いいだろう。アルベドの案を採用しよう──そしてニグレド、ペストーニャ。お前たちにはある種の謹慎を命ずる。暫くの間、赤ん坊の世話をするのだ。必要な物があればアルベドに言って揃えて貰え。赤ん坊の世話をもって罰とする」
「アインズ様。それでは罰にならないのでは……」
「……いいや。今回の事はニグレドとペストーニャの設定を知っておきながら行動を許可した私にも責がある。だからこれで充分だ」
「畏まりました」
二人が頭を下げる。
「ありがとうございます! アインズ様!」
「うむ……では、早速仕事に入れ」
「はいっ!」
■
数日後。
パンドラとナーベラルが帝国に行き、フールーダを裏切らせた。
そして原作通りワーカーたちがナザリックに侵入してきた。
「ちっ。ついにエントリー開始か」
アインズは玉座に座りながらそれを眺める。
ギルド拠点の機能に内部の監視モニターがある。それに侵入者のワーカーたちが映っている。
アインズとしては栄えあるナザリックにわざわざコソ泥を入れたくはなかった。
だがそれ以上の代案を思いつけない以上、デミウルゴスの策の言うとおりにするしかなかった。
というか自分で招き入れて殺すのはカスの所業だが、まぁ相手も犯罪者崩れのワーカーだしいいか、と考える。
隣に立つアルベドが話しかける。
「それでアインズ様。実験の相手はどれに致しますか?」
「そうだな……この四人組にしようか」
そうアインズはフォーサイトを指定した。
ナザリック地下大墳墓第六階層円形闘技場。
夜の時刻にアインズは武装して来ていた。
「ナザリック地下大墳墓に愚かにも侵入してきた者たち四人に対するは! 我らが支配者、アインズ・ウール・ゴウン様だぁ~! おおっと! セコンドには我らが守護者統括アルベドも居るぞぉ!」
そうアウラの元気な声が響く。
アインズは入場ゲートを通りワーカー四人、フォーサイトの前に立つ。
アインズは原作とは似ているが違う武装をしている。
服装と首に着けている経験値アップの装備こそ同じだが、武器が違う。
装備しているのは殴打に特化したスタッフだ。剣は装備していないがラウンドシールドは左手に括り付けるように装備している。
原作だとモモンとして結構戦っていたがこの世界だと最初以外モモンは全てパンドラズ・アクターがしているので近接戦闘技能は原作より劣る。
と言っても暇なときはクレマンティーヌ相手に模擬戦しているので
今回の目的は戦士として戦う事で戦士職を得られるかどうかと、単純に物理で侵入者をぶちのめしたいからである。
フォーサイトリーダー、ヘッケランが前に出る。
「あー、初めまして。アインズ……えー」
「アインズ・ウール・ゴウン、だ」
「失礼。アインズ・ウール・ゴウン殿。私はフォーサイトのリーダー、ヘッケランと申します。この度は貴方の墳墓に無断で侵入したこと、深くお詫びします。つきましては相応の金銭で謝罪をさせていただきたく思います」
「……お前はあれか? 家に来た強盗を騎士に通報するでもなく優しく解放するような愚者なのか? 相手は犯罪者。見逃せば何をしてくるかわからない異常者だろう? 二度と己の家の敷地を跨がぬよう徹底的に叩き潰すのが普通じゃないか?」
原作だと蛆だとかで例えていたが今のアインズはそこまで人間を下等生物とは思っていないのでこういうたとえになった。
「……実はやむにやまれぬ事情が──」
「それこそこちらには関係ないな。お前たちが何をどう言いつくろうとそれは犯罪者の詭弁に過ぎない……言い訳はまだあるか?」
ごくり、とヘッケランが唾をのんでから話始めた。
「もし、許可があったとしたら?」
それに対しアインズは肩を竦めた。
「完全な
「真実だとしたら?」
負けじとヘッケランは強い瞳で訴えてくる。
アインズはこの先を知っていて続けるよう促した。
「そこまで言うのなら、許可を得たという相手を教えるがいい。その者の名前は? 容姿は?」
「名前はわかりません。ただ、大きくてテカテカしていました」
「テカテカ、ねぇ……それでそいつはなんと?」
「ナザリック地下大墳墓にいる──アインズによろしく、と言っていましたね」
その台詞にアインズは笑った。
「ハハハハ! ──どうやらお前はジョークのセンスもないらしい。私の仲間がそのようなことを言う物かよ。さぁ、お喋りは終わりだ……絶望しろ、人間」
アインズがマントを脱ぎ去り、スタッフを手に歩き始める。
すかさずイミーナが矢を放つ。
矢じりが潰されている殴打属性の矢だ。それを三発同時に放つ。
「無駄だ」
アインズは左手の盾で防ぐ。
その間にヘッケランがアインズの右側に移動し、双剣を抜いて攻撃する。
アインズはスタッフで防御する。
ガードされると同時にヘッケランは後ろに飛ぶ。
「
「
アルシェが攻撃魔法を。ロバーデイクがバフ魔法を唱える。
その隙を突くようにイミーナから再び矢が放たれる。
スタッフで器用に弾くと背後にはヘッケランが居た。
(<能力向上>──)
「<双剣斬撃>!」
アインズは背中にその斬撃を受けてしまった。
「チッ!」
アインズは舌もないのに舌打ちし、スタッフでヘッケランを攻撃。吹き飛ばした。
しかし防御には成功され、体勢を直される。
「やれやれ……数の不利。連携、こういうのが強いとは知っているんだが……やられる側になると面倒だな」
「──アインズ様」
これまで無言だったアルベドが口を開いた。
「なんだ? アルベド」
「実験はもうよろしいのでは? これ以上アインズ様がご不快な思いをする必要はないかと」
「……確かにそうだな」
アインズは盾を消し、スタッフをアイテムボックスに戻した。
「お遊びは終わりにしよう──鏖殺だ」
アインズの威圧感が高まる。
そのことにフォーサイトは戦慄しつつ、アインズを観察する。
(武装を捨てたことによる能力の上昇? それは──)
「まさか……
イミーナの叫びに対しアルシェが否定の声を上げる。
「それはないはず! 少なくとも、魔力系じゃない!」
「ん、情報系の魔法でも使っているのか? ならばこれでどうだね?」
アインズは自身の装備している指輪の一つ、探知阻害の指輪を外した。
そしてアルシェは吐いた。
「オ、オェェエ!」
「アルシェに何をしたの?!」
「……何もしとらんが。人の顔を見て吐くとか失礼だろうが」
「アルシェ! ──
ロバーデイクがすかさずアルシェに精神補助魔法をかける。
「みんな逃げて! そいつは化け物! 敵うはずがない!」
アルシェが絶叫するように叫んだ。
「えぇ……よくわかりますとも。指輪を外した瞬間から感じるこの冷たいプレッシャー……膝が震えてきますよ」
そうロバーデイクが冷や汗を流しながら言った。
アインズは指輪を装備しなおす。
「それじゃあ、行こうか──
「なんの魔法だ! アルシェ!」
「知らない! 聞いたこともない!」
アインズは更に無詠唱化した
時間が止まる。
そのまますたすたと後衛のイミーナの後ろまで歩くと時間停止を解除する。
「ウォォォオォォ!」
それに気づいたヘッケランがイミーナを突き飛ばすように駆け出し、イミーナを吹っ飛ばした。
アインズは知っていても混乱するものなんだな、と判断を迷った。
「俺だよ馬鹿野郎!」
(<能力向上><痛覚鈍化><限界突破><剛腕剛撃>──)
「<双剣、斬撃!>」
アインズの体に二つの斬撃が命中する。
しかし一切のダメージはない。
「残念だったな」
アインズは左手でヘッケランの首を掴んだ。
ヘッケランを剛力で持ち上げる。
「ぐ、ぅ……! 斬撃に対する完全耐性か……!」
「いいや違う。お前たち程度の攻撃は避けるまでもなく無効化出来る
ヘッケランが麻痺状態になった。
「さて……」
アインズは適当にヘッケランを投げ捨てた。
「この大バカ者!」
イミーナが唐突に叫びだした。
「冷静に考えれば、碌にダメージを通せない後衛の私は見捨てるべきだったのに!」
「……仲間を助けるために向かった者を侮辱するのは気分がよくないな」
アインズは先の台詞を知っていても不快に感じた。
「えぇ。よく知ってるわ。最高の仲間だって……」
すぅ、とイミーナは息を吸ってから口を開いた。
「ヘッケランを解放しなさい。出ないとこの世で最も強い人物がここに来るわ」
「ほう? それは興味深い。アルベド、そんな人物はいたかな?」
その言葉にアルベドは苦笑しながら答えた。
「そのような人物はいません。苦し紛れの嘘かと」
「嘘じゃない! こちらにはアダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンがいる!」
その言葉にアルベドは頭を下げた。
「も、申し訳ありません! 失念していました」
「あぁ、まぁあれの事ならしょうがないだろう……ちなみにあれは、このような格好をしているだろう?
そしてアインズはモモンの装備を纏った。
「え……」
イミーナが声を漏らした。
「と、まぁこのようにモモンはこちら側の存在だ。交渉のカードには成りえないよ」
そして魔法を解除する。
その言葉にさーと残る三人は顔を青くした。
人類最強のアダマンタイト級冒険者がその実アンデッドの配下だった──そのことに絶望したのだ。
「さて、それじゃあ……どうする? まだ無謀にも立ち向かうかね? 諦めるというのなら──」
「アルシェ、ここから逃げなさい。ここは空、空を飛べば逃げれるはずよ」
イミーナがアルシェに向かって言う。
アルシェは「でも!」と抗議の声を上げた。
それに対しロバーデイクが肩を叩きながら金貨の入った袋を渡した。
「大丈夫です。あのアインズとかいう化け物を倒したらすぐ追いつきますから」
「妹たちが居るんでしょう? なら行きなさい!」
アルシェは涙目になりながら了承した。
「理解した……先に行ってる!」
そして飛行魔法を唱え、飛んで行った。
「もっとコソ泥らしく醜く言い合うかと思っていたよ」
「そうかしら。ワーカーにもそれなりの絆ってのがあるのよ」
「なるほどな。社会からのドロップアウト組ならではの絆か……少しは理解できるよ」
「なら、あの子だけは見逃してくれないかしら。貴方の仲間たちも、同じようなことをしたはずよ!」
「ふむ。友、そのために命を投げ出すこと。これより尊いものはない……ヨハネの黙示録だったかな?」
因みに正解はヨハネの福音書だ。
「なら──!」
「ならばこちらも、相応の物を与えよう。ちょうど、あの娘には価値があるからな。アルシェ・イーブ・リイル・フルト。元帝国貴族……使い道は幾らかある。シャルティア!」
アインズが叫ぶと観客席からシャルティアが降りて来た。
「あの娘を捕らえてこい。希望が絶望に変わる落差をもって罰としよう。あぁ、五体満足で捕らえるように。精神は……壊れても治せるからいいが」
「畏まりんした。アインズ様」
ロバーデイクが震えながら問いかけた。
「……捕らえて何をするつもりで?」
「あらゆる情報を聞き出すだけさ。人道的……人間でない者が言うには可笑しいが、人道的な扱いをしよう」
「そうですか。なら──全力で抗わせて貰います!」
「行くわよロバー!」
「えぇ! オオオオオオ!」