カッツェ平野。
そこには強欲と無欲を装備したアインズと山河社稷図を装備したマーレが居た。
アインズは既に
「あぁ──楽しみだ」
アインズにはこれから大量の人を殺すというのにその罪悪感は一切ない。
ゲーム感覚だとかそういうのではなく、現実感が薄い……という方が近いだろう。
所詮話したことも顔を見たことも無い赤の他人だ。それがどれだけどう死のうがどうでもいいのだ。
「さぁ──
課金アイテムで即座に超位魔法が発動された。
黒い風が広がり──すべてが死んだ。
王国軍七万は死亡したのだ。
死体の海が広がる。
「ふふふ──」
そして──死体から光の粒子が流れてくる。
それはアインズの左手に向かって吸収されていく。
「素晴らしい──」
隣に立つニンブルはそれに恐ろしい物を感じた。
死者から魂を奪い取る。まさしく魔王の所業だ。
実際には魂ではなく経験値なのだが。
ユグドラシルの経験値システムは格上を倒すと多く、格下を倒すと減点されて経験値がはいっていくシステムだ。
そのためレベル百がレベル一を倒した場合は一の経験値しか入らない。
しかしたった一と言ってもそれが七万もあればそれは七万点の経験値になる。
それだけの大量の経験値があれば
「なんという……悍ましい……」
ニンブルがポツリと声を漏らした。
「ははは、そう見えても仕方がないが──まだ魔法は続くぞ」
そうアインズが返した。
空に漆黒の球体が生まれる。
最初は小さかったそれは徐々に大きくなり、地面に落ち、コールタールの様な物を広げていった。
それによって死体全てが飲み込まれた。
そして──異形の怪物たちが湧いてくる。
蕪に似た姿をしている。高さは触手を除いても十メートル程。
上部には無数の黒色の触手があり、下部は鳥肌が立ったような太い肉塊だ。肉塊の複数箇所に亀裂が入るとめくれ全て粘液を垂らした口となっている。肉塊の下は山羊のような足が五本ある。
五本の足で不器用に歩くさまは小さければある種可愛らしく見えるかもしれないだろう。
アインズは仮面を外し、胸を開いた。
「──喝采せよ」
その言葉にそばの帝国軍たちは困惑した表情を浮かべる。
「我が至高なる力に喝采せよ!」
そしてマーレがぱちぱちと拍手をし、遅れて帝国騎士たちも拍手を始める。
「さぁ、可愛らしい仔山羊たち。思うがまま進め──あぁ、五人、生かすように」
黒い仔山羊たちが進軍を開始してから暫くして。一匹の黒い仔山羊がこちらに──アインズに向かってきた。
ただアインズの足となる為向かってきているが、そんなことを知るわけがない帝国軍騎士たちにとってみれば王国軍のように蹂躙しに来たようにしか見えず、喝采を強める。
だがそれでも──帰ってはくれない。
「うわぁぁぁぁ!」
誰か一人が悲鳴と共に走り出し、逃げ出した。
一人が逃げ出せば後は容易い。帝国軍は敵に攻撃された訳でもないのに崩壊し、逃亡を開始した。
「お、お前たち!」
ニンブルが思わず叫ぶが、気持ちは騎士たちと同じ思いで今すぐにでも逃げ出したかった。
黒い仔山羊がアインズの前で止まった。
「予定では私の魔法の後に追撃の一手を入れるという事だったが──まぁ君たちでは出来そうにないので私が代わりにやるとしよう」
「何という事を……あなたは悪魔か!」
「いいや。私はアンデッドだよ……目的の者も見つかったしな」
■
「久しいな。ストロノーフ殿」
アインズは
「あぁ、本当に久しいな、ゴウン殿。まさか戦場で知り合いを見つけたから会いに来た……という訳ではないだろう?」
ガゼフもまたそう相対する。
「あぁ。目的はただ一つ。勧誘だよ」
そうアインズは着地しながら手を差し出す。
「私の手を取れ、ガゼフ・ストロノーフ。そうすれば人類からあらゆる困難は無くなり、永遠の繁栄が約束されるだろう。もし断るならば──」
アインズは差し出していない左手で器用に音を鳴らす。
それにより黒い仔山羊たちの動きが止まる。
「……動きを止めてくれたのか。そうか……」
ガゼフは考えるように瞼を閉じた。
アインズ・ウール・ゴウン。人の領域を超えた超越者。
会ったのは二度。カルネ村の戦いと、王都での八本指の娼館襲撃。
気づけば居なくなっていたが、まさかこんなところで会うとは思ってもいなかった。
「ありがたい申し出だが……断らせてもらう」
そうガゼフは強い目で拒絶を示した。
「……お前が断ればこの場に居るただ徴兵されただけの農民たちは死に絶えるぞ。それは確実な事だ。無辜の民を救いたくはないのか?」
「確かにそうなるだろう。だが、王からの信頼を裏切る訳にはいかない」
「……そうか。なら──」
ガゼフが剣を──レイザーエッジをアインズに向けた。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導王殿! 恩義を受けた身でありながら無礼を承知して頼む! 汝に一騎打ちを申し込む!」
その叫びに傍に居たクライムが驚いた表情を浮かべた。
「どうか受けてはいただけないだろうか」
その台詞を前に、アインズは笑いだした。
「ふふふ……ハハハッ! ああそうだ! そうだよな! お前はそういうやつだ! ガゼフ・ストロノーフ! 人界の勇者! ──チッ抑制されたか」
アインズはガゼフを見る。
(憧れるよ、ガゼフ・ストロノーフ。たまたま力を得ただけの俺と違い、真っ当に努力し訓練し、才能を磨き人の限界点に到達した英雄……俺には無い輝きを持つ者)
「いいだろう。受けよう。開始の合図は……そこのクライム君に任せるか」
「ストロノーフ様……わかりました」
クライムが覚悟を決めた表情をした。
「では、こちらに魔法のハンドベルがあります。これを開始の合図とします」
「いいだろう──あぁ、その前に。武器を鑑定させてもらってもいいかね?」
「わかった」
ガゼフは武器という己の手の内を明かすという事をためらいなく許した。
アインズがガゼフに近づき、レイザーエッジを受け取る。
「
効果は原作通り、あらゆる防御系
アインズはレイザーエッジをガゼフに返す。
そしてアイテムボックスから短剣を取り出す。
「私は一定以上の魔力が籠っていない武器からの攻撃を無効化する
そう言って実演するように顔を短剣で攻撃するも、一切の傷はなかった。
「だがその剣……レイザーエッジは魔力量はこの短剣と同程度にも関わらず私の防御を抜ける力を持っている……つまりは、私を殺せる剣という事だ。これなら最低限一騎打ちとなるという物だ」
「なるほど。ならば、問題はないな」
ガゼフもまたそう言った。
アインズはある程度ガゼフと距離を取る。
「距離はこれぐらいでいいだろう。さぁ、クライム君。合図を」
「はい……」
そして、ベルが鳴った。
ガゼフは本気の武技を放つ。
かつてヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファンが開発するも歳のせいで発動できなかった個としては最強の武技。
「
対しアインズは対個人最強の即死魔法を唱えた。
ガゼフがアインズに少し近づいた──その時点でガゼフは死亡した。
「え……」
急にこと切れて動かなくなったガゼフを見て、クライムが声を漏らした。
「なにが……」
「もう死んでいる。即死魔法を放ったからな。遺体はこちらで丁重に弔おう」
「……いえ。王国側で埋葬させてもらいます」
「そうか……彼の遺志に敬意を表し、追撃はやめよう。そして王国の貴族たちに伝えよ。私に従順するならば、慈悲を与えると──」
アインズは