アインズが着地して暫くすると北の入り口から武王が入場する。
アインズがはいって来た時以上の大歓声をもってして迎えられる。
(アウェーなのはこちらだな……この空気で戦うのキッついなぁ)
アインズは内心ため息を吐いた。
相手のステージで戦う上その相手をぶちのめすというのだから心境は重い。
相手のパフォーマンスを全て駄目にするような物だからだ。
そして武王がアインズの前まで来た。
「俺は武王と呼ばれるウォー・トロール。ゴ・ギン」
相手の名乗りに合わせアインズも名乗る。
「私はアインズ・ウール・ゴウン魔導王。種族はアンデッドの最高位種族、
「そうか」
武王はどこか期待した目をしていた。
「ん、私の名を聞いて馬鹿にしないのか? ウォー・トロールは確か長い名を臆病者の名とみなすが……」
「陛下は俺たちの種族について詳しいようだ。だが、どんな種族にも鼻つまみ者はいる。俺がそうだ。名前が幾ら長かろうが気にはしない」
「ほう、あのグよりは良い頭を持っているようだ──それで武王。これはスカウトなんだが、我が魔導国に来ないか? わが国でお前の武力を振るって欲しい。無論望むならば今以上の給金に優れたマジックアイテム、そして戦士としての技能を上げる環境を用意しよう」
どうだ、とアインズは左手を差し出す。
その誘いに武王はくつくつと笑った。
「まるで悪魔の誘いのようだ。魔導王陛下はアンデッドだというのに──しかしそれは勝者が決める事だ。負けたのならば敗者らしく従おう。その代わり、俺も望みがある」
「なんだ? 言ってみろ」
「俺が勝ったら……魔導王陛下。貴方を喰らいたい」
「……ほう」
「これまで勝って喰らうほどの強者と相対した事はなかった。だが魔導王陛下は喰らうだけの価値がある強者──故にこそ喰らわせて欲しい」
「いいだろう。生殺与奪の権は勝者にあり、だ。だから……私が勝っても蘇生を拒むなよ」
そう言ってアインズと武王は悪手をして、一定の距離を取った。
銅鑼の音が響いた。
どこからかジルクニフの「やってしまえ!」という声が響いた気がした。
武王がその巨体に見合わぬ速度で急接近する。
アインズはスタッフを手にローリングで回避する。
武王のクラブが地面をへこませるも、そのまま横凪に振るわれる。
アインズは盾でガードするも大きく吹っ飛ばされる。
(やはり上位物理無効化Ⅲをオフにしていると殴打のダメージはきついな)
そうは思いつつレベル百の膨大なHPの前には蚊に刺されたようなダメージに過ぎない。
アインズは空中で体勢を直し着地すると、そこに武王が追撃の一手を入れる。
アインズは前に進むことでクラブの一撃を回避し、スタッフで殴打した。
殴打に特化したスタッフなだけあって鎧をへこませるほどのダメージを与える。
「ぬぅん!」
ダメージを受けると同時に武王が蹴りを入れる事でアインズが吹っ飛ばされた。
「さて、どうかな。私の攻撃は」
「……骨に響く物がある。だが俺の前には無意味だ」
そう武王は悠然と構えた。
「まぁ、トロールの再生能力の前には殴打ダメージは無意味だろう──だからこれからはこれを使おう」
アインズはスタッフを仕舞うとスティレットの片方、フールーダに
「これはモモンから借り受けた武器の一つだ。さぁ──行くぞ!」
アインズはクレマンティーヌの動きを模倣するように突撃した。
武王がクラブで迎撃しようとするが、それよりも早くアインズが動き体を捻る事で回避する。
そのままアインズは武王の鎧の隙間にスティレットを突き刺し、魔法を起動する。
武王の体の内側から
武王が左手でアインズを掴もうとしたのでアインズは武王の身体を蹴る事で回避し、距離を取る。
「炎は痛いだろう──まだ続けるぞ」
アインズはダッシュする。
炎に身を焼かれながらも武王は迎撃に動く。
アインズは模倣した動き──武技<超回避>のように動く事で迎撃のクラブを避け、武王の体に触れた。
高位のアンデッドの種族
武王がアインズを振り払うように動く。
アインズはそれを避ける。
武王の動きは先ほどとは少し違い、遅かった。
「体の動きが鈍いのが不思議か? これは魔法ではなく種族的な
「ふふ、ふ──」
武王が何か笑うような声を出した。
「教えてくれ、魔導王陛下。俺は弱いのか?」
「……急にどうした。ナイーブになって」
「魔導王陛下。貴方はまるで自分の体を試すかのように戦っている──俺を見ていない。そして、その戦いでも俺を圧倒している……圧倒的な力の差が無ければ出来ぬ事だ。俺は……弱いのか?」
「……そうだな。私の配下の中でもしたから数えた方が早いぐらいにはお前は弱いだろう。だが、努力し研鑽し積み上げたその力は何物にも代えがたい力だ──憧れるよ」
「そうか……」
「そうだ。武王。お前の顔を見せろ」
「……わかった」
唐突な要求に困惑しながらも武王は答えた。
兜を外し、素顔を晒す。そこにはいかつい男の顔があった。
「あぁ──憧れるよ武王、ゴ・ギン。限りある命の輝き。未来だけを見て真っすぐと突き進む男の目だ……私には持ちえぬ輝きだ」
そうアインズは遠い目をした。
コホン、とアインズは空気を変えようとわざとらしい咳をした。
「さて、武王。挑戦者よ。まだ挑むか? 勝敗はわかり切っているが」
「ああ──たとえ敗北で終わるのだとしても。その頂きに足を踏み入れたい……俺は、戦い続ける!」
「そうか──いいぞ、かかってこい、武王」
武王が突撃する。
幾つかの武技を併用した突撃だ。先ほどまでとは比ではない。
アインズは後ろにジャンプする事で回避する。
そのままアインズを勝ちあげるようにクラブを振るい、アインズが空を舞う。
更に武王は全身鎧を着ているという似のそれを感じさせぬ跳躍を見せ、上からアインズを叩き落とした。
アインズが体勢を直そうとするもそれより早く武王が動きアインズを吹っ飛ばした。
「ち。流石に経験値がダンチか」
アインズはそう苦笑しながら体勢を直す。
「では、ここからはお前の望み通り──頂を見せてやろう。上位物理無効化Ⅲ、起動」
オフにしていた
武王がクラブを振るうも、もはや一切のダメージはない。
レベル六十。そして一定上の
そしてそのままアインズはスティレットを武王に差し──即死を起動し、武王を殺した。
「さて……」
アインズはアイテムボックスから拡声器のマジックアイテムを取り出した。
「聞け! 帝国の民よ。私はこれから魔導国に新たなる組織を創り出す! それは冒険者を一新し、新たな物にするものだ! まだ見ぬ未知を知り、空白の地図を埋める……そのような未知なる冒険に出る! そのために冒険者育成機関を作る。まだ見ぬ未知に挑むための修練を積むのだ! そして、生と死を超越した私によって、あらゆる苦難は除去される!」
アインズはアイテムボックスから
完全に死んでいた武王が難なく蘇った──そのことに観客たちは動揺する。
「たとえ死んでも──難度が足りているのならば蘇生し、未知へ挑むためのバックアップは惜しまない! さぁ、我が国に来るといい! 未知を求める者たちよ──!」
そしてアインズは慣れない演説はするものじゃないな、と思いつつ拡声器を仕舞い、飛行魔法でジルクニフの元まで飛ぶ。
「やぁ。エル=ニクス殿。私の試合はどうだったかな? 楽しめてくれたならよかったが」
「あ、あぁ……楽しめたよ、ゴウン殿──それで、我が国を貴国の属国にすることを願いたい!」
アインズは内心でガッツポーズをした。
「なるほど。そう言ったことはまずは書面で提出して欲しい。デミウルゴスにも話を通してくれ。そうしたら貴国を正式に属国としよう」
「わかった──いや。わかりました。ゴウン陛下」
こうして帝国は魔導国の属国になった。
■
数日後。
アインズはエ・ランテルで執務をしていた。
仕事はほぼ午前中に終わる。
疲労無効の種族特性と優秀なアルベドが居ればただ書類に判を押すだけの仕事など午前だけで終わるのだ。
そして一息つく。と言ってもコーヒーなどは飲まない。
人化はデメリットが多い。レベルが下がることでステータスの低下は勿論、
なのでナザリック内限定での人化をしている。外では一切使わないのだ。
そして部屋に来る者がいた。
今日のアインズ当番のシクススが対応する。
「アインズ様。パンドラズ・アクター様が入室の許可を求めています」
「来たか。いれてやれ」
「畏まりました」
そしてアインズとパンドラが向かい合って座る。
「よく来てくれたな。今日はお前に──というよりは漆黒のモモンに対し依頼を出そうと思ってな」
「漆黒に対する依頼ですか。どのような依頼でしょうか?」
「アゼルリシア山脈にあるドワーフの国への訪問……になるのかな? ドワーフの国にあるというルーン技術が欲しくてな。その人材のスカウトだ。それに関しては私と同程度の権限を一時与える為、お前のやり方でドワーフのルーン工房を魔導国に引き入れるんだ」
アインズが直接動く気はない。
冷静に考えてみれば一国の王が交渉するのにわざわざ出向くわけがない。誠意を見せる為と言っても限度がある。
だからアインズは動く気はない。
「なるほど。しかしルーンですか。それほどの価値があるのですか?」
「今のところはわからないが、そうだな。私の計画の一つ──ダンジョン計画について話そうか」
「……ダンジョン計画、ですか。それはどのようなものでしょうか?」
「うむ。まだアルベドやデミウルゴスにも話していないんだが……そうだな。我々だけがこの世界に転移したとは考えにくく──それはユグドラシルの存在以外がこの世界に来る可能性を秘めているという事だ」
「それらに対し迎撃する術を得る、という事ですか?」
「まぁ端的に言えばそうであり……ある種の受け皿を作ろうと思っていてな。この世界に転移した者は身元不確かな人間であり、真っ当に生きていくには困難を極めるだろう。魔導国が世界を統一した暁にはまさしく浮浪者となる。そうなった者がやけっぱち──自暴自棄になって暴れないように、そう言った者向けの職業であり、そういった暴れる者に対するカウンターとして用意したい組織だ」
「……なるほど。ダンジョンを人工的に造り用意することで冒険者などの戦闘能力の高い者を量産。敵対的な転移者に対する先兵として用意する。そして敵対的でない者に対してはセーフティーネットとして機能させる、と。そしてダンジョンを作れば経済面にも干渉が可能……素晴らしい計画かと思います!」
「うむ」
(まぁ、昔読んだ小説の計画そのままなんだがな)
アインズは内心そう苦笑した。
「ダンジョンを作るにあたって財宝というのも一定以上必要でな。ルーンを使えば安価に武具を量産できるかもしれない。何せユグドラシルには無かった技術だからな。そのために確保、研究がしたいのだ」
「なるほど。そう言う事でしたらわたくしにお任せください!」
「任せるぞ。今回の件については人事についても一任する。期限は……まぁ出来るだけ早くで頼む。任せるぞ、パンドラズ・アクター」
「はっ! このパンドラズ・アクターにお任せください!」
■
二日後。
トブの大森林、
そこにはモモン扮するパンドラとナーベラル。森の賢王ハムスケとアウラが居た。
そしてアウラ配下の騎乗用モンスターであるフェルも居る。
対応するは
「連レテ来タゾ」
そう言ってコキュートスがパンドラの前にゼンベルを差し出す。
ゼンベルは困惑しつつ「どうも」と頭を下げた。
「初めまして。ゼンベル・ググー。私はモモン。魔導国に属する冒険者だ。今回はドワーフの王国まで行くにあたって道案内を頼みたい」
モモンの正体をゼンベル達
秘密というのは知る相手が増える程バレるリスクが上がる。
装備や種族特性で耐性を得ているナザリックの者なら兎も角そうでない現地民は精神操作の魔法で操られる可能性もあるのでうかつにはばらせないのだ。
「なるほど。冒険者ってことは依頼ですかい? どんな内容で?」
ゼンベルがそう問いかけた。
「あぁ。ドワーフの国にいるルーンの技術者を魔導国に招く。それが依頼内容だ。相手方次第ではもっと深く交易もするだろう」
「なるほど。侵略の足利りにするって訳じゃないならいいぜ」
その言葉使いにコキュートスが冷気を発した。
「ゼンベル。言葉使イニハ気ヲツケロ」
「あぁ、気にしないでくれコキュートス。私は気にしないとも」
「……ナラバヨイガ」
「それじゃあゼンベル。君に幾つかマジックアイテムを渡そう。
山登りの基本装備をゼンベルに渡すとゼンベルは素直に全て装備した。
「それじゃあ、早速出発しようか」
そして準備を終えた一行は出発するのだった。
ゼンベルとアウラを乗せたフェルを先頭に一行はトブの大森林を進む。
フェルは森渡りの
そうしてトブの大森林を抜け、アゼルリシア山脈を少し登ったところで一行は止まった。
「今日はここで一泊しよう」
パンドラがそう提案する。
四人とも獣から降り、パンドラがアイテムボックスを開く。
中から小さな手のひらサイズのコテージを取り出し、地面に設置する事でグリーンシークレットハウスとなった。
「すげぇ!」
ゼンベルが見たことないアイテムに興奮する。
「それじゃ今日はここで一泊だ。食事は私が用意しよう」
そう言ってグリーンシークレットハウス内に入っていく。
グリーンシークレットハウスには固有のインベントリ──収納がある。そこには冷蔵庫もあり、そこにパンドラが現地の珍しい食料品をためている。
モモンの姿──アインズの姿だと飲食出来ないが本来の姿に戻れば食事は出来るので普段は本来の姿で食事をしている。
パンドラがキッチンに行き適当に料理する間。アウラがゼンベルからドワーフについて聞き出しメモを取っていた。
そしてパンドラが地鶏のスープを用意して持ってくると一行食事が始まる。
パンドラは適当にその辺に居た人間の外装に変える事で装備を変え、食事を始めた。
一夜過ごした。