パンドラたちモモン一行は外を歩く事で素早くドワーフの現首都、フェオ・ジュラに辿り着いた。
入口である砦にまずはパンドラが先行する。
「こんにちはー。アインズ・ウール・ゴウン魔導国から来た冒険者、モモンだ! 開門を願う!」
パンドラがそう呼びかければ砦が騒がしくなる。
「魔導国とはなんだ! この地に何の用だ!」
「トブの大森林周辺を治める国家だ、ドワーフの王国と貿易をするべく来た。責任者はいるか?」
「……少し待て!」
そうして待っていると重要人物がやってくる。
「初めまして。私はドワーフの国の総司令官です」
「総司令官自ら来るとは──なるほど。クアゴアたちはすぐそこまで来ていると」
「……私が来たことからそこまで読みますか。では、あなた達は……貿易と言っていたが、何を?」
「詳細を話し合う時間はあるのか? すぐそこにクアゴアの脅威があるというのに。私達なら対処出来るが」
「それは、摂政界の判断を仰がないと──」
「よく言うな。会議は踊るされど進まず、と。待つのは構わないが……どうなるかな?」
その台詞に総司令官か覚悟を決めた顔をした。
「わかりました。貴方達に、クアゴアの対処をお願いします!」
■
フェオ・ジュラ、大扉の外。
そこには無数のクアゴアが居た。
扉を攻撃する事はしない。後から来た上位のクアゴアたちや破城槌などでのちに攻撃する。
そうでなくとも時間はクアゴアの味方だ。やりようは幾らでもある。
そして離れていると扉が開き始めた。
「なんだ?」
「降伏か?」
「させるわけがない。皆殺しだ」
そして扉の向こうから巨大な魔獣が姿を現した。
全長五メートル程。形はどこか大福に似ている。
白銀の毛側に覆われており、知性を感じさせる眼をしている。
森の賢王。ハムスケだ。
「えい、でござる」
ハムスケは武技も使わず通常攻撃──爪でクアゴア二体を斬り裂いた。
「ふむ。脆いでござるな」
クアゴアの毛皮は金属鎧並みの硬度を持つ。
だがハムスケにとってみればボロ布と大差ない。鋼鉄すらたやすく斬り裂き、ミスリルすら今となっては簡単に裂けるハムスケにとってクアゴアの毛皮は意味はない。
更に尻尾で範囲攻撃が放たれる。
鞭のようにしなる尻尾がぶんぶん振り回される事でクアゴアたちが吹っ飛ばされ、内臓が抉り出される。
ハムスケがどんどこ進みながら暴れる。
そうなれば当然、クアゴア指揮官、ヨオズが即座に判断する。
ヨオズたち本陣は大裂け目の端の向こう側にいる。
「橋を落とせ!」
そう叫べばれ、ハムスケはそうはさせるかと猪突猛進する。
クアゴアが轢かれ無残な死体となっていく。
そして遠くの相手には尻尾の鞭攻撃で死ぬ。
「クソ!」
ハムスケが橋を渡る──その前にヨオズが橋の紐を攻撃し、橋を落とした。
「なんと!」
ハムスケは驚きつつ尻尾を橋の支柱に絡ませ、体を引っ張る事で落下を回避する。
そのまま地上に戻ったハムスケは頬をかきながら考える。
(
そう考えハムスケはのしのしとパンドラの元へ歩いて行くのだった。
「なんだったんだあれは……魔獣か?」
ヨオズはそう考える。
つり橋で落とせず生存されたのは痛手だ。
クアゴアの群れを意にも介さず虐殺できる存在──対抗できるのは氏族王ペ・リユロだろう。
そう考えヨオズは報告の為撤退していった。
■
「ようこそお越しくださった、魔導国の冒険者モモン殿。さぁ、おかけくだされ」
そう言われモモンは椅子に座った。
今パンドラが居るのは会議室だ。
そこには八人の代表者であるドワーフが居た。
軍事の責任者である総司令官。
信仰形、魔力系
鍛冶管理者の鍛冶工房長。
食料品のみならず、鍛冶以外の生産品は全て管理している食料産業長。
そして酒好きのドワーフらしく酒造長も居る。食料産業長とは別だ。
洞窟の発掘、管理などをしている洞窟鉱山町。
商人会議長という最近では帝国との取引でしか機能していない者もいる。
その他雑務や各長が管理していない物を管理している事務総長の八人だ。
そして全員服はともかく顔が似ている。
ドワーフらしく長い髭を蓄えているので顔の殆どが見えないせいでぱっと見同じ人物にしか見えないのだ。
だがパンドラは優れた頭脳をもってして全員即座に覚えた。
「まずは外のクアゴアに対処していただき感謝を。貴方たちが来なければこの都市を放棄することになっていたでしょう」
そう総司令官が頭を下げた。
「気にしないでください。冒険者として他国の危機を救うのも仕事ですから」
そうパンドラは気さくな声を出した。
「それでモモン殿。貴方達魔導国は我が国と貿易を、と言っていましたが具体的にはどのようなものをお考えで?」
そう商人会議長が問いかけた。
「えぇ。まずは何人かの技術者を。出来れば建築系に詳しい者を数人。そしてルーンに関する技術を持つ者は全員、我が国に誘致させて貰います。後は鉱石などですね。ドワーフの国ならではの鉱石があれば是非とも欲しいです」
そうパンドラは言った。
そのことに対し全員疑問を抱いた。
鍛冶工房長が口を開く。
「何故、ルーン鍛冶師を? わが国でも廃れ行く技術じゃが……」
「私はルーンという技術に対し将来性を見出している。今は燻っているが、適正な環境下であれば化ける、と。だからこれは投資だ」
「であれば、ルーンのマジックアイテムを最優先でお売りする、というのは?」
「それだと技術の研鑽が出来ないだろう? 国家予算を多く割り当て、損失が数年続いても研究を続ける──そう言ったことが貴国でも出来るかね?」
「それは……難しい話ですな」
「だろう? だからルーンはわが国で研究する。先ほど全員と言ったが、難しいようなら半数以上でも構わない」
どうするか、という空気が会議室に流れる。
相手の欲求は至極真っ当な物で、差し出しても構わないと思える内容だった。
しかし話が旨すぎる。そう考えた者──鍛冶工房長が声を上げた。
「話が旨すぎる! こちらにとって利益になる話ばかりじゃないか! 何か裏があるんじゃないだろうな?」
「そんなのはないさ。そうだな、疑うというのならレートをこちらに有利にしてもらうぐらいはするかもしれないが……それ以上の事は望まないさ」
「むぅ……!」
再度、沈黙が流れる。
(さて。これで御方からご命令は果たせた。ならば欲張るか)
そうパンドラは考えた。
「そして、だ。それらに対する対価として──ドワーフの王都、フェオ・ベルカナを奪還しよう」
その言葉に会議室がざわつく。
「王都の奪還じゃと?!」
「それは無理だ! 王都にはクアゴアに加え
「私はアダマンタイト級冒険者──人類の最高峰。ドラゴンスレイぐらい、出来て当然だろう?」
パンドラはあえて少し威圧感を出した。
圧倒的強者の圧──それを感じ取りドワーフたちは静まった。
すぐ威圧を解除する。
「……すべてお受けいたしましょう」
そう総司令官が言った。
「総司令官。何を?」
「我が国は今、クアゴアたちと全面戦争をしているのです! すぐにでも対処しなければならない! そのために手段を選んでいる余裕はないのです!」
そう総司令官が熱弁するとまたも静まり返ってしまった。
一分ほど沈黙が流れ、商人会議長が口を開いた。
「ワシは総司令官に同意じゃ。このままクアゴアと戦争を続けてもじり貧。乾坤一擲の一撃を加える必要がある!」
その言葉に何人かが頷いた。
「モモン殿。では、王都の奪還を正式に依頼致します」
そう総司令官が言った。
「承った。必ずやその依頼を果たして見せましょう」
■
会議室を出て、外に出る。
外は少し薄暗いが、灯りがぽつぽつとある。
人間には暗いがドワーフにとっては充分な灯りだ。ドワーフは暗視は持たないが夜目が良く効く。
パンドラはゴンドの工房に向かう。
アウラやゼンベル達は待機だ。パンドラ一人の仕事である。
(あれだな)
結構立派な建物だな、と思いつつパンドラが工房内に入る。
そこには多数のドワーフが居た。
パンドラはまず、アイテムボックスから魔導国産の酒を取り出した。
おぉ、と感嘆の声がドワーフたちから漏れる。
「さて、これは友好の証として君たちに渡そう。そして自己紹介だ。私はモモン。魔導国のアダマンタイト級冒険者をしている。今回に限っては使者の様な役目もしているな」
そう自己紹介を簡潔に済ませた。
「今回君たちを集めたのは他でもない。ルーン技術の開発、研究を君たちに任せたいと思ったからだ」
その言葉にドワーフたちがざわつく。
何故、廃れ行く技術を他国の冒険者が望んでいるのか、と。
「何故ルーンを求める? 廃れ行く技術じゃぞ」
素直にドワーフの一人が問いかけた。
「私はそうは思わない。適切な環境と研究費させあれば、ルーンは化けると思っている。例えばだが、ルーンを単純に売りに出すというなら武具だけでなく採掘道具やその他日用品をルーンで作るなど、やりようはあるだろう?」
ルーンはこれまで武具にしか使われてこなかった。
というのも代表的なルーンがルーン工王による六つのルーンが刻まれたハンマーという武器だからだ。
だから誰もがルーン工王を模し、その分野で超えようとする。
固定観念を超えるのは難しい物があるのだ。
「勿論武具にも使えると思っている。ルーンを一人でなく複数で刻んだり、武器をパーツごとに分け、そのパーツごとにルーンを刻むなど……単純な発想の転換だけでも出来そうな事はあるだろう?」
そうパンドラはアピールした。
その言葉にドワーフたちは実際それは出来るのか、と頭の中で考えを巡らせる。
燻っているが、その本質はルーンスミス。自分の技術を使い、認められたいという思いがあるのだ。
(ユグドラシルにもルーンが描かれた武器はあったが──あくまで装飾。ここで見せると不味いな)
そうパンドラは判断し、ルーン文字が刻まれた武器は見せない。
下手に見せて技術者にこれルーン武器としてはおかしいんじゃないか、などと言われれば信用を失うからだ。
勿論そうはならず、むしろ積極的に興味を持たれるかもしれないが、リスクを考えそれは無しにした。
「さぁ、どうだルーン工匠たちよ。我が国に来て、ルーンの研鑽を積む気はないか?」
そうパンドラが勧誘する。
その言葉にドワーフたちは声を上げた。
「やるぞ! 儂はルーンの技術を発展させて見せる!」
一人がそう叫ぶと、次々とルーン工匠たちが叫びだす。
「そうだ! 儂もやるぞ!」
「この歳になって挑戦者か。ワクワクするのぉ!」
「必ずやかのルーン工王のハンマー以上の物を──儂の代で無理でも、次代が、次代が無理でもその次が──必ずや作り上げて見せる!」
やってやる! とルーン工匠たちは魔導国への移住を決意した。